「ごめんなさい、少し待たせたかしら?」
そう声をかけられて僕はアルファの方へと振り向いた。
そこにはいたのは、いつも着ているシャドウガーデンの服とは違い、白いワンピース姿のアルファだった。
モブらしく、なるべく目立たないような服装とは言っていたんだけど、これじゃあアルファの容姿も相まってかなり目立つだろう……ま、別にいいか。
そもそも、アルファの容姿で目立たない服装という僕の指定が悪かった。
どこをどう見ても綺麗という言葉が相応しいし、何を着ても目立つのは当たり前だろう。
それにしてもよく似合ってるな……。
なぜか、鏡の前でこれでもないと服を取っかえ引っ変えしている姿が目に浮かんでくる。
どうやら随分気合いが入っているみたいだ。
「いや、僕もついさっき来たところだよ」
そんなアルファにデートのテンプレみたいな返しをする。
待ち合わせの時間までにはまだ20分以上もあり、アルファも僕も早く来すぎた形になる。
お互いに集合時間の20分前に来るって中々ないんじゃないだろうか?
「その服、よく似合ってるね」
「あなたの指定にはそぐわないかもしれないけど」
「ごめん、僕が悪かった。
確かにアルファみたいに綺麗なら何を着ても目立ちそうだ」
「そ、それで、どの馬車に乗って行くの?」
僕がアルファの容姿に触れると、唐突に話題を変えられた。
モブらしくない自分の容姿が嫌いなのだろうか?
うーん?
でも、アルファってこういう事には結構自信を持っている方だし。
それにアルファのその綺麗な容姿は、陰の実力者の第一の配下として相応しいものだし、どこも恥じる必要は無い。
なら、単純に僕の指示に応えられなかった事が嫌なのだろう。
うん、反省しておこう。
次からは何気ない事でも、よく考えてから指示を出すべきだな。
「珍しい事にロアまで直行するのがあるけどこっちの馬車は遅そうだから、カノフサまでの乗合馬車が早いかな?」
「それだと10時の馬車にはギリギリ乗る事にならないかしら?
馬車が遅れる可能性もあるし、ロアまでの直行に乗りましょう」
「分かった、それで行こうか」
アルファと共に料金を払って、僕達は馬車に乗った。
まだ出発までには時間があるので僕達以外に客はいない。
それにしても、馬車か……。
技術的には汽車、ファンタジーだという事を考慮すると転移魔術くらいはあってもいいとは思うんだけど、そういった話は中々聞かないな。
転移魔術は禁術だから無いのは仕方がないのかもしれないけど、こういう時には不便だと感じる。
確か、『転移魔術は主要都市や要人の隠れ家への奇襲を可能とするため』という理由で第二次人魔大戦時に禁術として指定された筈だ。
資料も破棄されて殆ど残っていないし、僕も手を付けてないからまだ再現できてないんだよね。
一部の迷宮には転移の罠という転移魔術を使ったトラップがあるらしいので、それを発見するまでこの研究は進まなさそうだ。
最終的には移動だけじゃなくて、転移を戦闘に組み込む事も考えているのでそのうち無詠唱で再現するつもりだ。
相手の後ろに一瞬で回って『どこを見ている?』とか『ふっ、残像だ』とか言ってみたい。
今の僕にも闘気を駆使すれば人間に見えない速度で相手の背後に回る事ができるんだけど、アルファとかデルタ並に目のいい人なら普通に見えるんだよね。
この世界の強い人は拳銃の弾丸くらいのスピードなら見てから余裕で避けれる。
僕も余裕で弾丸を摘めるしね。
それに、闘気を集めて防御すれば当たっても無傷で済む。
それにこの世界の剣はそんな銃弾よりも速く、極めれば亜光速に達する。
だからいくら僕が超音速で動いたとしても、そこそこの剣士ならば余裕で斬り捨てる事ができるだろう。
僕の考えている陰の実力者は、そんなそこそこ程度の相手では視認すらできない速度で移動するのだ。
だから、転移の習得は必須と言えるだろう。
「もう客も来ねぇようですし、そろそろ行きまっせ!」
「お? ようやく出発か」
「結局、私達以外には誰も来なかったわね」
「そりゃあまあ、こんな田舎ですからね。
この村に来る時も客は殆どいなかった程で」
ま、見るからに荷物を運ぶ仕事のついでって感じだったし、より速く移動するなら少し大きな町で乗り継ぎしていった方が短い時間で目的地に着ける。
間違いなくダメで元々のつもりで臨時乗合馬車の貼り紙を出したのだろう。
「じゃ、行きまっせ」という御者の声と共に、馬車はロアに向かって進み出した。
自転車と同じくらいの非常にゆったりとしたペースで、やっぱり走って行った方が良かったような気がしなくもない。
「たまにはこうして、のんびりとどこかに向かうのも悪くないわね」
「周りの景色を見るくらいしかやる事はないけどね」
「ははは、そりゃあどこの馬車でも一緒でっせ。
それにしても、子供が二人でロアまでなんて珍しいことで。
もしかしてデートとかで?」
「まあ、似たようなものだね。
ちょっと二人で遊びにね」
「そりゃ仲睦まじい事で、羨ましいですな」
「奥さんとは何か?」
「いやいや、ここ最近は尻に敷かれっぱなしってだけでっせ」
確かになんかそういう雰囲気がある。
いや、よく見るとこの馬車のオヤジ、完璧なまでのモブだ。
この世界ならどこにでも居そうな茶髪の特徴のない顔付き、イケメンでもなければ不細工という程でもない。
一応剣は持っているものの、その実力は多少剣が使える程度の至って普通の一般人と言ったところ。
僕の目指しているモブに相応しい存在。
まさに
いや、そうじゃない。
僕のめざしているのはあくまでも陰の実力者。
モブというのはその表面上の話だ。
「……ふむ、意外といい景色だな」
「そう?
よくある見慣れた光景だと思うのだけど」
馬車から外の景色を見ると、そこには一面中見渡す限りの草原が広がっているし、空を見上げれば雲一つない綺麗に澄み渡った青空が広がっており、城が一つ浮かんでいる。
こんな光景は日本には一つもなかったからな。
文明の海に飲まれたおかげで、日本にはもうすっかり平原なんてものはなくなっている。
こうして地平線が見れるのも、北海道くらいのもので僕もこうしてこの世界に転生するまではこんな光景は目にした事はなか…………。
「ん?」
「どうかしたの?」
いや、待て。
何かおかしい事がなかったか?
そう思ってもう一度辺りを見回す。
広大な草原、雲一つない青空、浮かんだ城。
うん、アルファも気が付いてないみたいだし、どこもおかしい所はない…………
……う、浮かんだ城!?
なんだその如何にもなカッコいい城は!?
ちょ、ちょっと欲しいんだけどあれ。
えーと、思い出せ。
どこかで聞いた事が……、
ああ、そうだ。
「何気に実物は初めてみるな、あれがペルギウスの城か」
「そう言えばこの辺りに来たことはなかったわね」
うん、間違いないらしい。
という事はあれが噂に聞く古の空中城塞『ケィオスブレイカー』か。
てっきりただのおとぎ話か何かだと思っていた。
なら、本物のペルギウスもあそこに住んでいるんだろうか?
ペルギウスというのは現在使われている年号『甲龍暦』の元になった人物。
だいたい今から500年ほど前に起きた最も新しい人族と魔族の戦争、ラプラス戦役で活躍した人物で、今も尚英雄と呼ばれている人だ。
きっと物凄く強いし、そのうち行ってみるのもいいかもしれない。
ちなみに現在は甲龍暦416年と、ペルギウスが最後に活躍してから400年以上経っている。
さすがに死にはしてないと思うけど、もう衰えてるんじゃないかな?
それでも色々と詳しそうだし、暇があればデルタでも連れて乗り込むか。
どうなるかは分からないけど、きっと面白い事になるだろう。
「うん、いつかは行ってみたいな」
「ええ、そうね(……彼には聞かなければ行けない事が沢山あるもの)」
「あっしも昔はそうやって冒険する事を夢見てたんですけどね、膝に矢を受けちまいまして。
あっしから言う事なんて、こうならないように頑張りなって事くらいですがね」
三人でそんな事を駄べりながら、僕達はロアへと向かった。
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