宇宙世紀100年、その節目の日に人びとは何を思うのか。


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U.C.0099 12月31日

≪U.C.0099 12月31日≫

 

「CLUB EDEN」

薄汚れたバーのカウンターで二人の男が静かに酒を交わしている。

無口なバーテンダーがグラスを磨いているほか、二人を邪魔する者はなかった。

遠くの方で、抑えられた音量のジャズが流れている。

宇宙世紀100年の節目の狂乱の中、この場所だけは静かだった。

今日は常連客も、彼らを除いていない。

 

旧公国の制服を着た中年の男は自分のグラスを見つめていた。

「なんのための戦争だったんだろうな」

俯いたままで向いたままでつぶやく。

隣には、コートを羽織った白髪の男が座っている。

彼は何も答えずに、おもむろにポケットから煙草の箱を取り出した。

そして、火をつけて気持ちよさそうに吸い始める。

バーテンダーはそれを見て、ガラスの灰皿を無言で差し出した。

 

制服姿の男は、しばし音楽に耳を傾けることにした。

「これ、親父が好きだったなア...」

 

"What A Wonderful World (Louis Armstrong)"

 

「古い曲だな」

白髪の男が口を開いた。

「この曲を作った奴は、戦争を皮肉るためにこの歌詞を書いたらしい」

「そうか、いい曲だ」

制服姿の男は笑った。

 

二人はしばらく黙ったままだった。

バーテンダーは時計を気にしている。

白髪の男が二本目のタバコに手を伸ばした時だった。

「テレビをつけてもよろしいでしょうか?」

バーテンダーが言った。

「構わん」

白髪の男はそう答えて、隣に目をやる。

制服姿の男もうなずいた。

 

画面には、紺のスーツに赤いネクタイの男が映る。

『移民問題評議会議長のロ―ナン・マーセナスであります...

丁度百年前、初代首相リカルド・マーセナスが...

...その悲劇の始まりからはや一世紀が経とうとしているのです。

この百年は争いと悲しみの百年でした...

次の百年は、どうか調和の百年であるよう、祈りましょう...』

 

それから、地球やコロニー各地の街の様子が映し出される。

『さあ、新しい時代の始まりを皆さんで祝いましょう...

10、9、8...』

 

「くだらないな」

制服姿の男が呟く。

白髪の男は返事代わりに煙を吐き出した。

 

『3、2、1...おめでとうございます!!!』

テレビは人びとが喜んで抱き合う姿を流し続けている。

バーの中にも街の花火の音が聞こえてきた。

 

普段は静かなバーテンダーも興奮した様子でグラスを掲げた。

「新しい時代に乾杯しましょう!」

二人もそれに応じる。

「乾杯」

「ジーク・ジオン」

三人はグラスの酒をぐっと飲みほした。

 

 

「じゃあ、そろそろ俺らも帰ろうか」

白髪の男はタバコをぐりぐりと灰皿に押し付け、火を消した。

二人の男は立ち上がって、それぞれに代金を机に置いた。

 

その時、突然店のドアベルが鳴り響く。

そして、ぼさぼさの紫髪の青年がふらふらと入っ来た。

「まだやってるか?」

と言って前髪を掻き上げた。

 

二人の男とバーテンダーは驚いた顔で青年を見つめる。

青年の顔はとても悲しげだった。

「ジオンのために、乾杯させてくれ」

小さな声で言った。

 

「おれから奢らしてもらおう。いいだろ、マスター?」

制服姿の男は言った。

バーテンダーはうなずいて、すぐにグラスと酒を用意した。

 

≪U.C.0100 1月1日≫

サイド3ムンゾ、ジオン共和国は自治権を放棄した。

地球連邦政府は、コロニーと地球間の戦乱の消滅を宣言する。

コロニー独立のために燃えた命は、無残に散っていった。

その怨念だけを残してジオンは消えてしまった。


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