暗キ海ノ底ヨリ   作:鈴木颯手

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皆さんお久しぶりです。やっとできました


第十二話「北条和也・拾」

「この議題に正解はない。というか正解を決める事はできない。要は“自分が艦娘に対してどのような思いを持っていて、提督になったらどのように付き合って行くか”を発表すると思ってくれ。では、早速初めてくれ」

「はいはーい! なら俺が司会をやるよ! こういうの得意だから!」

 

 試験官が言い終わると同時に声を上げたのは陽気な感じの男だった。性格も明るそうで普段からこういった事で音頭を取っているのだろう。動きがスムーズだ。陽気な男の言葉に特に反対意見も無いようで視界が速攻で決まった。そして、この男を中心にグループセッションは進み始める。

 

「んじゃ早速俺から言うよ。俺は艦娘と提督はパートナーだと思っている。提督も艦娘も、どちらも欠けては実力を十分に発揮する事はできないからね!」

「確かにそうだがそれだと数が多い艦娘との関係性としては合っているとは思えないが」

「いや、ケッコンカッコカリって言う制度もあるらしいし中にはガチの結婚をした人もいるってニュースでやっていたよ」

 

 陽気な男の言葉から話は広がっていく。皆色々な意見があったが全員『艦娘と提督は仲良くし、良き信頼関係を築くべき』と考えているようだ。俺としてもその意見には賛同できるしきっと彼らが提督となれば良き提督となっていくだろうことは想像できた。……だが、艦娘という存在が一体何であるかを皆は分かっていないようだ。

 

「……俺は、艦娘と提督に必要なのは別のものだと思っている」

 

 俺がそう話し始めた為、全員の視線がこちらに向く。若干の緊張を伴いながら俺は続ける。

 

「確かに仲を深める事は重要だ。だけど、俺達は一体何になろうとしているのか? それは、提督という()()だ。そう、俺達はいま入隊希望者なんだよ。軍隊に置いても信頼関係は重要だ。だが、仲良しこよしを求められているわけではない。そして、艦娘は人の形をした()()だ。提督と艦娘とは軍人とそれに使われる兵器の関係性でしかない」

「そんなこと……」

「無いと思っているのか?」

「っ!」

 

 反論しようとした人の言葉を先に言う。俺の返答に詰まったのか俺の方を睨みつけるように見てくる。だが、俺はそれに怯むことなく言う。

 

「軍人に求められるのは上の指示に従う統制力と有事の際に臨機応変に動く事の出来る覚悟だ。そして、兵器に求められるのは安全性、信頼性、そして水準以上の性能だ。だが、艦娘は()()()()()()()()()()()()。これが話をややこしくしている。そうでなければこのような議題が出来上がる事もなかった」

 

 場が暗くなるのが分かるし俺への反感が生まれているのも分かる。だが、俺は止まらない。最初こそ幼馴染から逃げる為という理由だったが本当に入隊を希望する以上覚悟と決意は作って来たつもりだ。

 

「俺が思う提督と艦娘の関係性とは“使用者、所有者と道具”だ。だが、ただの道具ではない。お互いに意志があるからこそ出来る()()()()()()()()()()()かけがえのない道具と言える」

「……成程、ね。つまり君は艦娘を人としては見ないって事だね?」

「そうだ。そもそも、艦娘は人ではない。妖精という存在が生み出した未知の存在だ。艦娘を人間として見るのは人が描かれた等身大抱き枕を人間として見ていると言っている様なものだ」

「……だけど、彼女達には意志があるよ?」

 

 俺の言葉に反論する様な事を言ってきたのは真奈美だ。だが、その表情は何時ものような笑みではなく少し悲し気な、だがどこか決意を持った表情だった。

 

「私はかず君の言葉は排他的な思想だと思うよ。人間じゃないから道具として扱う? そんな事は無いよ。かず君も触れ合ったでしょ? アイドルと言っている那珂ちゃんに今時の女子みたいな鈴谷さん、とても緊張していた吹雪ちゃん。彼女達は笑って、泣いて、人間と同じように喜怒哀楽の感情を持っている」

「だが、だからと言って彼女達の中身が人間であるわけではない」

「……あんまり言いたくないけどならなんで艦娘は子供を作れるの?」

「は?」

 

 俺はその言葉を聞いて驚いた。艦娘が子供を? そんな話聞いた事なんて……。

 

「ニュースにはなっていないけど本当に結婚した艦娘の中には妊娠した人もいるって鈴谷さんが言っていたよ。国内だけで、百人はいるって……」

「艦娘との間に子供!?」

「そんな事が出来るなんて……!」

 

 他の人も知らなかったようで真奈美の言葉に驚いているが試験官が「よく知っているな」という表情をしているのが見えて事実なんだと理解した。理解、()()()()()()()……。

 

「犬との間に子供はできない。牛との間にも子供はできない。猿も、チンパンジーも、ゴリラとも子供はできない。なのに、艦娘とは子供が出来る。……まだ、私の考えを言っていなかったね。私は艦娘を“少し違った人間”と思っている。だからこそ、提督と艦娘の“関係性”は()()だと思う

皆で仲良く行動して、時には喧嘩しても最後には仲直りをして、死んでしまった時には泣いて悲しんで、家族が増えた時には笑顔で喜ぶ。私は艦娘とこういう関係を築きたいと思っている」

「……」

「私だって、かず君と一緒の場所で働きたいと思っている。だけど、だからと言ってそれ以外を疎かにするつもりはないよ」

 

 ……ああ、そうだ。真奈美はこういう奴だったな。俺が間違っていると思っている時や譲れないものがあるときは絶対に譲らない覚悟の強さがあった。

 だからこそ、だからこそ俺は、こいつが嫌いなんだ。

 




きちんと書けているか心配
作者としては和也と真奈美の意見の両方を否定はできないかな、と思っていたりします
本当は生理に関する話とか入れようと思ったけど男性もいる前で艦娘のそう言う話をするのはどうかと思ったしRに引っ掛かりそうな気がしたから止めました

和也の最初の艦娘は?(なお、対象は作者お気に入りの駆逐艦のみです)

  • 江風
  • 睦月
  • 不知火

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