将棋初心者による幼女から始める転生生活   作:よしどら

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この小説の前半は主人公の衣、後半は他の誰かの視点でお送りしております。


プロローグ

「……4六歩」

「はい。二歩」

「…?2二歩ですか?」

「いや反則で二歩だって話なんだけど」

「あ」

「衣ちゃんよわーい!」

「いや皆が強すぎるだけなんですけど」

 

最近小学校で将棋が流行っている。

どうやら最近新しい竜王が決まったらしい。…某RPGみたいに世界の全てを支配したのだろうか?

そんな訳で、私も流行りに乗っかって将棋をやってみているのだが…如何せん地頭が悪かった。

唯の馬鹿の私が転生した結果、天才幼女になって大会蹂躙!なんて事は出来ず、小学生の平均より下ぐらいの頭しかない。

 

「しょうがないなー!私が教えてやるよー!」

「いや、別に興味ないですし…」

「えー!あんなに賢いのに!」

「…流石に掛け算出来て賢いは無いと思うんですけど…」

 

小さくため息を吐きながら、私は近くの少女に手を振る。

…それを見て頬を赤らめて私の方に寄ってくるのを見ながら、私はもう一度ため息を吐いた。

 

「あんな風に毎日来るのは諦めてくれないですかねー」

「…いや、衣が手を振ってるから来るんじゃないの?」

「な訳ないでしょう。小学生から色恋に耽ってたら将来大変ですよ?」

 

そう言いながら私は少女の頭を優しく撫で、紙に書いてある内容を勉強する。

……えっと、んー…。

 

「……私もその一人なんだけどなぁ…」

「?今何か言いました?次の授業漢字テストだから私覚えないといけなくて…」

「うえぇぇ!?次漢字テストなの?!範囲何処から?」

 

私のノートに何故か落書きしているクラスメイトが悲鳴を上げる。

それに苦笑しつつ、私は後ろの黒板に書かれた昨日の連絡帳のメモを指差し…

 

「漢字スキルノート7と8だった気がしますよ」

 

私がそう言うのと同時にチャイムが鳴り、終わったという声が聞こえ…私は更に苦笑した。

…それと同時に先生が入ってきたのを見て、私はゆっくりと手を振る。

私の方をちらっと見た後に先生が頬を染め、優しく手を振り返してから教卓の方に移動した。

 

「っ…かわ……ぁ…コホン。授業開始するから席ついてねー!」

「…つくづく思うんですが、この学校の先生ロリコン多くありません?」

 

私が思わず呟いた一言を聞いて隣の少女が首を傾げるが、私は気にせずに漢字スキルを取り出した。

…そして漢字を指でなぞってため息一つ…

 

「…この辺り、転生特典とかがあれば楽だったんでしょうけどね…」

 

今度は隣の少女にも聞こえない様に最大限の注意を払ってから呟きつつ、私は広げたノートを見て思わず口を緩ませた。

…其処には先程の少女達が自分の夢を勝手に書いていて、やれ竜王だのやれ女流棋士だの将棋に偏った夢が多かった。

その中に一つ、全員が微笑みながら可愛い可愛いお願いをしていたのを見て私は次のページを開き…

 

-目指せ衣ちゃんあまえんぼう作せん。

-衣ちゃんをにーとにさせてどろどろにあまえさせたい。

-竜王になって衣ちゃんを買う。

 

思わずノートを閉じて私は周囲の少女達を眺める。

…あれ?私が可笑しいのか?と言うか私は販売物でもないし甘えん坊でもないんだけど?

…と言うかニートにさせてってなんだ。私は不慮の事故でニートになるのか?

 

「ひっ」

-まず初めに私が竜王である八一さんに弟子になりにって、その座を変わります。(此処が大変かも)

その後衣ちゃんを私の妻として紹介して、旅館にご招待します。(これは絶対だよ)

 

もっとやばい奴居たんだけど、私の書ける漢字の方が少ないしこれ本当に小学三年生(私の友達)が書いたのか?

絶対私と同じ様に転生してる奴だってこれ!と言うか旅館こんな字なんだ知らなかった。

今日のテストお蔭で何とかなりそうだよありがとうね!

 

「…こ、これくらいの考えを持ってる人よりは、ニート一本道〆の方が良いですね…うん」

「それじゃあテスト開始しまーす!皆覚える為に開いたノート仕舞ってねー!」

『はーい!』

「……あ」

 

私が将来の夢を見ている間にどうやら漢字の勉強が終わったらしい。

…昔の記憶を頼りに解くしかないと諦めてペンを持ちつつ、私はテストを書き始めた。

……結果は90点。普通だった。

 

---------------香苗side----------------

 

天才とは何だろう?

一人の少女を見つめながら、私は少しだけそう思う。

約束された美貌、約束された将来、約束された力…そして、私達に慈悲を与えてくれる心の広さ。

本物の天才とはこうあるべきだ。

そんな期待を思わず彼女に背負わせてしまうほど、私達は非凡すぎる。

 

「はーい。衣ちゃんは90点でしたねー!漢字の止め撥ね払いはちゃんと書かないと駄目ですよー?」

「ごめんなさいお母さ……ケホ。ごめんなさい先生!」

「…ぁー、私この学年の先生で良かった…」

「忘れてくださいお願いします!この年でお母さん呼び間違えとか絶望しちゃいます!本当に駄目ですから!いざとなったら腹斬りますからね!切腹ですよ!」

 

こんな風に、私達の知らない単語をどんどん喋りだす。

それなら将棋を指せば日本一になれるのでは?と思って挑戦させたのだが…

 

「…ふふ。楽しいですね」

「……そう、だね」

 

あの子は、私達に花を持たせ続けた。

最初は全力で勝とうとした。…勝った、当たり前だ。

次は手加減して負けようとした。…勝った、少しだけ違和感が残った。

最後は全力で負けようとした。…勝った。そして私は漸く理解したのだ。

あの子は私達の“お遊び”に付き合っているだけなのだと。

先程の二歩もそうだ。四六歩じゃなくて六四歩に置けば其処から逆転の一手が始まるのに。

 

「…暗に分かってるって、そう言ってるのかな」

「はい。香苗ちゃんは75点だよー。ちゃんと覚えてね」

「……はい」

 

私には将棋があるから。

…最初にそんな事を考えていた私を殴りたかった。

将棋があった所で凡才は凡才、天才は天才なのだ。

だから、昨日始めた筈なのにもう将棋のいろはを知っているあいにいらいらしたこともある。

 

「何で私は!」

 

そうすると決まりが悪くなって、皆から離れて叫ぶのだ。

私が天才になりたかった。そうすればあの子を引っ張っていけるのにと。

 

「…あ、香苗ちゃん。此処に居ましたか」

「っ!?」

「お昼ご飯の時間ですよー!今日はココ揚げパンですって!」

 

そう言いながら純粋無垢な笑顔でこちらにやってきたあの子を見て、私は胸を締め付けられた。

…どうして、すぐに怒ってるとかは察する事が出来るのに…こんな風に悲しんでる時は小学生のままなのだろうか。

此処に何時もいる理由位、分かっている筈なのに。

 

「香苗ちゃん」

「……なに」

「ぎゅーして下さい。いっぱいハグです」

 

あの子の言葉を聞いて、私の身体が勝手に動き出す。

それと同時に私の両手は衣ちゃんを掴み、そのまま胸に顔を押し付けた。

 

「…小学三年生から大変ですね。もう天才と凡才について考えるなんて…香苗ちゃんは賢いです」

「……衣ちゃんの方が賢いよ」

「何言ってるんですか。今日二歩で負けた凡才少女ですよ?」

 

そんな風にふざけた様な喋りをして、衣ちゃんは微笑んだ。

…そしてそのまま私の手を優しく剥がした後にお姫様だっこをしてくれて、私の耳元に唇を近づけた。

 

「…今日も将棋を教えてくれるんですよね?」

「あいちゃんから教えて貰うんでしょう…天才なんだからいいじゃない」

 

ああ、なんて事を言うんだろう。

折角の機会なのに、私は感情のまま断って…

 

「香苗から教わりたいんです。私に初めてを教えてくれたのは、香苗ですよ?」

「っ!?っ~!」

「あれ急に顔が…熱出ちゃったから保健室行く途中で迷ってたんですか?」

 

果たして今の一言は態とか素か。恐らくは態とであり素であろう。

こんな反応を楽しみたい事は知っているが、それでも私達に悪戯を出来ない優しい女の子なのだ。

 

「…因みにココ揚げパンは来週だよ。今日はコールスロー」

「一緒に保健室で休みませんか?私味蕾が復活しちゃって…」

「じゃあ保健室であーんしてあげる」

「……一口だけなら」

 

天才少女の弱弱しい一言を聞きながら、私はゆっくりと後ろで見つめている一人の少女を見つめる。

…じゃあねもう一人の天才。

幾ら将棋の盤面が天才的で強かったとしてもさ。

 

「…恋の戦争に、盤外はないんだから」

「あれ?私二歩のついでに新しく駒作ってました?」

 

衣ちゃんの一言を聞いて私は思わず笑いだし、それを見た衣ちゃんが頬を膨らました。

…後ろからの視線が更に強くなったが関係ない。

(衣ちゃん)の前には常に香車()が立っているのだ。

もし後ろの玉を射止めたいなら、私を打ち破ってからにしなさい。

まぁ最も…

 

「…やっぱり香車を無理矢理相手に指すのは…香苗の漢字もあって嫌なんですよねー」

「穴熊とかどう?」

「もう片方が可哀想で…でも香車をうまく使うには一度相手の香車(香苗)ちゃんを…ウゴゴゴ…」

 

私に優しい衣ちゃんの前で、私が易々と倒れるとは思わない事だよ。雛鶴。

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