だから、殺そうとするんだろうか。
なら、俺たちもお前らが嫌いだ。
お前らを殺すしかない。
ヒトが勝つために。
なぜこんなに気持ちの悪い気持ちなんだろう。
気持ち悪いんじゃないんだ。
今の気持ちが、何ともなく、気持ち悪い。
-海岸の街 バクスティーン-
潮風にさらされた中でも劣化しにくいレンガ造りの家々が建ち並んでいる。海岸の街というだけあり、海産物が名産だ。飲食店も心なしか他の街より多く、そのほとんどがシーフード料理を扱っている。
「「いただきます。」」
僕らは街の東側にある、シーコスという店で昼食を摂ることにした。
「うまいな。」
「うん、おいしい。」
心地よい潮風も相まって、ここ最近の戦いで荒んだ心が澄んでいくようだ。
「はー、お腹満腹。」
「ぷっ!なにそれ!」
「言ってみたかっただけ。じゃ、行こうぜ。」
「うん!」
町外れ、少し小高い場所にある展望台。
僕らはそこから夕日を見ていた。
「雲ひとつないな。」
「うん。綺麗。」
空を赤く染める煌々とした光は、心を凪いだ水面のように落ち着かせた。
考えてもわからない。
考えても無駄。
わかっている。
だけど、
「最近、考えずにはいられないんだ。」
「何を?」
「僕は…いや、みんな、人もモンスターも、現実が見えていないんじゃないかって。」
「哲学かよ。」
「僕には難しいことはわからないよ。でも、多分誰も何も知らないんだ。それは多分、誰も知らせてくれないからなんだ。」
「何言ってんだよ。ほら、もう暗くなる。行くぞ。」
気づけば、赤かった空は暗い青と白い点だけになりかけていた。
「うん。もう、眠い。」
宿に着いた。
レンガ…は他の建物よりは多用されておらず、粘土壁が主だった。
「なぁ。」
今日は、彼が話しかけてきた。
「なに?」
「お前が最近言うことは、難しくてわからんけどさ。」
「うん。」
「お前の考えてることは、相当スケールの大きいことなんだろうな。」
「そう…かも…」
「お前は、魔物を…」
ここからは、覚えていない。
寝てしまったようだ。
翌朝。
晴天だった。
しかし、街のみんなは騒然としていた。
海から魔物が這い上がってきたのだという。
そいつは、街から少し離れた洞窟に入っていったそうだ。
街の人も、長も、
「怖いから、討伐してくれ。」
そう言った。
僕は、みんなの生活を脅かすそいつを、やっつけてやろうと心に決めた。
「いこう。」
「あぁ。必ず倒す。」
僕らは洞窟へ向かった。
「海から上がってきたってのはお前か。」
彼がそいつに話しかける。
意思の疎通が可能か計っているのだ。
高度な知能を持つ魔物ほど厄介なものはいないからだ。
「ウ…ソウ、ダ」
「話せるな。なぜ、海から上がってきた?」
「オマエラ、ウミ、ヨゴス。スメナイ。
オマエラノセイダ。」
お前らのせいだ。
僕らのせいだ。
「そう…そうだったんだね。」
僕はそいつに歩み寄ろうとした。
「ギッ!オマエラ、オ、マエラ、マタ、コロソウ、ト、シテル。クルナ」
「あ…」
そうだ。
僕は、殺そうと決めたんだ。
殺そうと。
みんなの命を、脅かすこいつを。
いつ?
いつ、こいつがみんなの命を脅かしたのか。
こいつを殺すところだったのは、自分たちの方なのに。
「グガァァ!」
そいつは、口を目一杯開き、こちらを食おうとしてきた。
僕も彼も、容易に避けることができたが、僕は攻撃に転じることをしなかった。
「お前なんで戦わないんだ…よっ!!」
彼は剣を振り下ろし、そいつの右後ろ足を切り落とした。
「ガァァァァァァァァァ!マタ!コロス!オマエラ!コロス!」
「やめよう。」
「はぁ!?」
「こいつは、悪いことをしてない。」
「絶対これからする!こいつは街の人を殺すつもりだ!」
「そう、だね。」
「なんで!とっ!それがっ!わかっててぇっ!戦わないんだよっ!!!」
そいつが爪を振りかざすのを彼は剣で受け、生まれた隙を逃さずに着実にそいつの体力を削っていた。
「じゃあなんで、そいつは人を殺そうとするの?」
「そりゃ、ふっ!こいつが死にそうになったからだろっ!ひとのせいでぇっ!」
そいつの目に攻撃が命中した。そして、
「ググゴァ…」
と小さく断末魔をあげたそいつは地に伏し、やがて消えた。
「わかってるんじゃん。」
「は?何をだよ。」
「人の、せいだ。」
「だからってこいつを許そうとは思わないよ。俺は。」
「そっか。」
「そういうもんだよ。みんな。」
「そっ…か…」
洞窟を出て、街の長に討伐完了の報告をすると、街はすぐにお祭りのような空気感で包まれた。
僕らの心中とは裏腹に。
捉え方の違い。