初投稿です。
原作の最終巻を呼んで、感動冷めやらぬうちに書きました。
拙いところが多々あると思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。


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願いの道、口づけとともに

すっかり眠ってしまった彼女をベッドに運び、毛布をかけたところで、彼はベッドの下に何かが置かれているのに気づいた。

取り出してみると、時計やカレンダーだった。どれも日付や時間を示すもの。きっと、自分がいなくなってから何日経過したか知りたくなかったのだろう。

どれだけ悲愴な思いで待ち続けていたことか。そう考えて、少年の胸が痛む。

 

 

再会の後倒れた少女を運び込んだ医務室で、戦友である大剣使いの千年獅やその巫女が、自分が帰って来るまでの彼女の様子を聞かせてくれた。二週間も部屋から出ず、ずっと机に伏せたまま。同僚たちや皇姫でさえも、まともに話ができる状態ではなかったという。

 

 

それでも、自分の帰りを待ち続けてくれたことが嬉しかった。

それでも、3年前のように苦しませてしまったことが悲しかった。

 

 

ふとうめき声が聞こえて、彼はあわててベッドの上に視線を移す。体調を崩したのか、それとも倒れた時にどこか怪我したのか。倒れた時は何とか抱きとめたし、医師も安静にしていれば問題ないと言っていたのだが――否、やはり体の問題ではないようだ。

 

 

毛布の中の少女の閉じられた目に、かすかに涙がにじむ。わずかに開いた唇から、自分の名前がかすれた声となって漏れた。

うなされていると一目でわかる、苦痛に染まった表情。

今自分に何ができるのか、何をすべきなのか。痛みと疲労で鈍った頭を精一杯回転させ、少年は必死に考える。

 

 

”もうとっくにわたしの千年獅なんだから!”

”巫女の修行の苦痛と努力を理解して、それをやわらげることの大切さを知った人間じゃないと、千年獅はつとまらない”

 

 

目元に浮かぶ涙をそっとぬぐい、淡い金髪(オフゴールド)の髪を静かに梳いた。やわらかな両手を握ると、やっと彼女の表情が少し和らぐ。

ただ触れるという行為。ついこの前までできなかったことが、ようやくできるようになった。初めて少女を支えることができたという事実が、少年の心に熱い感情を満たしてゆく。

月の明かりに照らされながら、彼は自分の両手で自分だけの巫女の両手を包み込んだ。

 

 

――もう二度と、離さない。

――ずっと、一緒に歩き続けよう。

 

 

やわらかな光に満ちた部屋で、千年獅はそう決意した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

目が覚めると、すでに夜の帳が下りていた。

自分に掛けられた毛布。それ以上にやわらかく温かい感触が、自分の両手を包み込んでいる。

見上げると、彼女だけの千年獅がそこにいた。椅子の背もたれに頭を預けて、静かに寝息をたてている。少女はそっと彼の両手を握り返し、胸元に引き寄せた。

 

 

もしかすると、それでバランスが崩れたのかもしれない。少年の体が、少女の上に倒れこんできた。

 

 

とっさに悲鳴を押し殺すことができたのは、奇跡と言っていいだろう。少女の胸の中であっというまに心臓が暴れだし、熱き血潮が濁流となって総身を駆け巡る。

毛布越しとはいえ密着した体の感触。至近距離ゆえに感じられる想い人のにおい。何よりこの状況そのもの。少年の存在すべてが少女の頭をあふれんばかりに満たし――そこで彼女は、彼が眠ったままだということに気付いた。

 

 

熱情に支配されていた頭が、急速に冷えてゆく。

無理もない。あの戦いから二週間。その間、彼は必死に自分のもとに歩み続けていたのだ。それがどれほど厳しい道のりだったことか。今度は万感の想いが、静かに彼女の胸に沁みわたる。

 

 

それでも、自分のもとに帰ってきてくれたのがうれしかった。

それでも、彼を支えてあげられなかったのが悔しかった。

 

 

空白の名を冠したもう一人の自分なら、彼を支えることができたのではないのか。詮無きことと分かってはいても、そう思わずにはいられなかった。

改めて、少年を見やる。すすけた鳶色の髪に、あちこちほつれたぼろぼろの旧式儀礼衣。髪に隠れて表情は分からないが、疲労の色が濃いことは強く感じられる。それでもあきらめずに歩み続けた理由を、かつて誓ってくれた決意を、少女は思い出した。

 

 

”必ず行くよ。今度こそ、塔の一番高い所まで”

”もし覚えてるなら、それだけは忘れないで。必ず、今度こそ守るから”

 

 

羞恥心を何とか抑えつけ、彼女はわずかな体力を総動員した。彼をベッドに寝かせ、毛布をかぶせる。訓練でつけた筋肉のためか、見かけによらず彼の体は重たかった。

すぐ隣の、少年の顔を覗き込む。先ほど見た通りの、色濃い疲労。それでもどこか、安心したような表情だった。

互いに触れ合うほどの距離。こうなったのはいつ以来だろうか。ふと少女は考え、既に久しいことに気づく。ずっと、ずっと離れたままだった。世界の理は、互いに触れ合うことさえ許さなかった。

 

 

互いに触れ合えること。そんなあたりまえの事実が幸せとなって、少年の両手のように少女の心を包み込む。

 

 

――もう二度と、離れませんように。

――ずっと、二人で歩き続けられますように。

 

 

月の優しい色に染まった部屋の中で、巫女は祈った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

この後、朝になって目を覚ました2人が、自分たちの現状に気付いて顔を真っ赤に染めたり。

部屋に入ってきた先輩の元巫女が、その光景を見て真っ白に固まったり。

その他親しい人々も入ってきて収拾のつかない事態になってゆくのだが――――

 

 

それはきっと、別のお話。

 




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