【完結】 劇場版 鬼滅の刃 千駄ヶ谷将棋所編   作:rairaibou(風)

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※原作ありの劇場版のように、敵陣営+味方側に数人のゲストキャラクターという布陣で話が展開していきます。


プロローグ 不死の鬼

 畳が天井にあり、ならば天井は床にあるのかと言われれば、床にも畳がある。

 城のように幾つもの部屋が見える。だが、それらには意味がない、それらに繋がる階段はなく、ふすまは空を飛ぶことが出来なければ開くことが出来ない。幾つも階段があるように見えるが、やはりそれらに意味はなく、どこにつながっているのかもわからない。

 その空間は、一言で言い表すのならば無秩序であった。

 しかし一箇所、唯一秩序が保たれているように見える舞台に、女の鬼がいた。

 他の鬼から琵琶女と呼ばれているその女は、この無秩序の城、無限城の管理者であった。

 黒く長い髪で顔を隠すその女は、誰に向けているのか琵琶を構え、それを奏でる。

 べん、とその空間に琵琶の音が響き渡ると、また一つ、秩序を保たれた大広間が現れ、更に琵琶が奏でられると、今度はそこに一人の鬼が現れる。

 不意なことであったろうに、その鬼はそれに驚く様子もなく首をかしげるのみ。

 

「はて、ここに呼ばれるのは久しぶりだな」

 

 その鬼は、鬼と言うにはあまりにも平凡すぎるように見えた。

 年の頃は少年にしか見えず、和装を着こなしている。よくある鬼のように奇怪な姿をしているわけでもない、鬼らしく牙もあるのだろうが、それも閉じられた口から確認することは出来ず、唯一充血したように真っ赤な目のみが、彼と人を判別するもののように見える。

 その鬼は一瞬だけぐるりと無限城を眺めた後に、すぐに興味を失って目の前の盤面に目を落とす。

 彼の前には脚付きの将棋盤があった。本榧の一枚板を使用しているのだろう、つややかで、木目を失っていない。見る人間が見れば、ひと目で極上の品だと理解ができる。それは盤にて戦況を形作る駒も同じであった。

 彼がしばらく盤面に目を向けていると、琵琶女がもう一度琵琶を奏でる。もっとも、彼はその音に気づかなかったようだが。

 大広間に、もう一人の鬼が現れた。洋装に身を包んだ青白い肌を持つその鬼は、名を鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)と言う。すべての鬼の根源にして、すべての鬼の頂点であった。

 

「久しぶりだな、無惨殿」

 

 だが、そのような状況にありながら、その鬼は無惨と目を合わせることすらせずに、盤面に目を向けたままにそう言った。鬼側の最高戦力である十二鬼月(じゅうにきづき)ですら、彼を「無惨様」と呼ぶのに。

 当然、無惨にとってそれは面白いことではない、彼は怒りを押し殺しながらその鬼に言う。

 

「上弦の席に空きができた」

「へえ、そりゃ大変だ」

「私はお前に上弦の()を与えようと考えている」

 

 鬼側の最高戦力である十二鬼月の中でも上位である上弦(じょうげん)と呼ばれる存在がある。彼らは強力な存在であり、ここ数百年、顔ぶれが変わることはなかった。 

 だが、ここ数年の間に、上弦の()()(ろく)が連続して鬼殺隊という鬼の対抗勢力に討伐されていた。

 無惨はそれに焦りを感じている。鬼殺隊にやられる程度の実力しか無かったとはいえ、強力な鬼は多ければ多いほどいい、ここまで戦局がひっくり返ることなど考えもしなかった時に下弦の鬼を粛清したことを今になって後悔していた。

 

 その鬼は盤面に手を伸ばして一手指した。そして少しばかり考える。

 鬼の頂点である無惨を目の前にしてのその行為が、琵琶女には信じられなかった。

 普通、上弦というのは鬼として生きているうえでの目標であり、より高みへと近づける手段でもある。今その鬼が置かれている状況は、何百といる鬼が心の底から望んでいる状況のはずだ。

 だが、その鬼はさらに考えられないことを口にする。

 

「断る」

 

 琵琶女は、その返答に無残の目が釣り上がり額に血管を浮き上がらせるほどに激昂していることを容易に想像し、そして、その想像は現実であった。

 無惨は声を震わせる。

 

「貴様にはこれまで何度もこの任命を反故にされてきた……今日こそは従ってもらうぞ」

 

 その鬼は駒台に乗っている駒を整えてそれに答える。

 

「これまで何度も拒否してきたのだ、今日も拒否するのみ。俺は出世に興味はない、元よりここから動けぬ身だ。それに、今更俺を任命して何になる? これまでそんな役職に付かずとも無惨殿の希望通り(はしら)は何人か殺しただろう? 何人殺したかは忘れたが」

 

 柱、というのは鬼の敵対勢力である鬼殺隊の最高戦力である。それを何人か削っているというのだから、その鬼も実力がないわけではないのだろう。

 

「貴様のその態度にはもう我慢ができん、これまで柱を殺してきたから見逃してきたものの、これ以上私を愚弄するならば命はないと思え」

「はっはっは、それはムリだろうな。無惨殿、あなたは俺を殺せないだろう?」

 

 その言葉に、無惨は押し黙った。その鬼の言う通り、無惨は彼を殺せぬ理由がある。

 

「どうしても従わせたいというのならば、俺と一勝負どうかね?」

「……将棋など、所詮は子供だましの下らない遊戯だ。私の時間を使うようなものではない」

「はっはっはそうかそうか、無惨殿は平安の生まれだから囲碁のほうがお好きかな? 俺は囲碁でも構わんよ、盤と石さえ用意してくれればな」

「下らぬ、遊戯ならば童磨(どうま)とすればいい」

「ああ、童磨か」

 

 その鬼は首をひねってその名を繰り返した。童磨とは上弦の()の実力であるが、まだ鬼になって日の浅い男だった。

 やがて彼は首を振る。

 

「いやあ、童磨は駄目だ。あれとの将棋はつまらん。負けてもヘラヘラしてるだけで悔しさや向上心を感じられんからな。ペチャペチャうるさい男だが、本質的に感情がないのだろう」

 

 その分析に無惨はやはり苛つきながらもわずかに感心した。童磨と言う鬼に対する感覚というものはお互いに一致している。

 

「いい機会だ、無惨殿も将棋を始めればいい。あなたは頭がいいから、百年もすれば角落ち程度でさせるようになるかもしれん。そうだ、そうだ、それがいい」

 

 無邪気にそう言ってどこからか取り出した扇子で頭をパシパシと叩くその鬼に、無惨は怒りを遥かに通り越して呆れのような感情を持ち始めていた。

 更に鬼は続ける。

 

「それに、将棋を覚えれば不死になれるかもしれないぞ」

 

 それに、無惨はピタリと動きを止めた。

 

「俺の不死は、将棋を指しているから、将棋を指し続けているからだ。『指すことは生きることなり』ということだな」

 

 それは、無惨がその鬼を殺せない理由の一つだった。

 否、無惨がその気になればその鬼を殺すこと自体はできるかもしれない、試したことがないからわからないが。

 ただ、無惨がその鬼を殺せぬのは、その鬼が限りなく『不死』に近い存在であったからだ。

 首を狙われること数百、体を切断されること数千、それだけの傷を追ってもケロリとしている彼は、すでに鬼の中でも上位の再生能力を持っていると言っていいだろう。あるいは、その鬼はすでに鬼の最大の弱点である日光を克服する段階に来ているのかもしれない。

 不死が望みである無惨にとって、その鬼の存在は自身の願いを叶えることができるかもしれない部品の一部であったのだ。

 故に無惨はその鬼を殺せない。すでに『ある鬼』が日光を克服したことを理解してはいるが、それでも希望は一つでも多く残したい。

 その鬼は無惨のそのような境遇を理解していた。

 

「これ以上ふざけたことを言うのなら本当に殺すぞ?」

「ふざけてなど……俺は本当にそれが良いと思ったのだがなあ」

 

 無惨はその鬼を説得することを諦めた。だが別にいい、その鬼の言う通りその鬼には柱を殺すだけの実力はあるし、根本的な部分で無惨に反抗するわけではない。

 使いづらいが、使う価値はある駒だ。

 

「覚えておけ、お前に私に従うつもりがなくとも、私はお前に使命を果たさせる」

 

 その鬼は盤面に手を伸ばして答える。

 

「今更言わずとも、これまでもそうしてきただろう? 無惨殿が黒刀の剣士や柱を俺に向かうように仕向けたことは知っている。そのたびに俺は結果を出してきたはずだ」

 

 無惨はそれ以上何も言わなかった。代わりに琵琶の音が響き渡ると、すでに無惨の姿は大広間にない。

 パチン、と、高い駒音を大広間に響き渡らせ、その鬼は舞台の琵琶女に言った。

 

「今日はゆっくりと優しく元の場所に戻してくれ、先日は雑に戻されたから盤面がぐちゃぐちゃになってしまったのだ」

 

 更にその鬼は手を進めて続ける。

 

「煙詰が終盤だ。盤面を崩されてはこの美しい棋譜が汚れる……まだ死にたくはないだろう?」

 

 琵琶の音、その鬼も大広間から消え、無限城は再び無秩序のみが支配する場となった。




将棋コソコソ噂話

煙詰(けむりづめ)
 煙詰とは、初期状態で全ての駒を盤上に配置し必要最低限の枚数で詰め上がる詰将棋の総称のことですが、この作品内における煙詰は初代伊藤看寿が考案したものの名称として使用しています。
 最後には主要な駒三枚だけが残るこの素晴らしい詰将棋の総手数は117手!!!果たして何のヒントもなく解くことのできる人間などいるのでしょうか。


【挿絵表示】



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特に鬼滅の刃二次は初めて書くので評価やアドバイスもよろしくおねがいします!
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