【完結】 劇場版 鬼滅の刃 千駄ヶ谷将棋所編   作:rairaibou(風)

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第1話 千駄ヶ谷にいけ

 蝶屋敷、治療所。

 鬼に対抗する私立組織、鬼殺隊の治療所であるそこで、鬼殺隊員である竈門炭治郎(かまどたんじろう)は治療と訓練に専念していた。

 鬼の襲来によりたった一人の妹以外を失っている彼には帰る家がない。故に彼は鬼を討伐する任務を終えると一旦蝶屋敷に戻り次の任務に備えると言う生活を送っている。

 蝶屋敷にとってもそれは迷惑なだけの話ではなかった、場所は隠されているとはいえ、鬼の使う妖術『血鬼術』への治療が行える胡蝶(こちょう)しのぶが代表を責任者であるそこは、考えようによっては鬼との対決における最前線であるとも言える。柱に劣る実力であったとしても、戦闘力のある鬼殺隊がそこを拠点とする事は間違いではないだろう。

 

「そろそろ、次の任務が来る頃だと思うんだけど……」

 

 ベッドの上で両の拳を握ったり開いたりしながら、炭治郎は呟いた。すでに体の痛みは僅かなものになっており、握力も戻ってきている。

 体一つで超人的な身体能力を持つ鬼と戦う鬼殺隊員にとって、怪我や負傷は特別なことではない、むしろ、治療することで完治する怪我であれば、治療して再び鬼を討伐することができる。死ななければ御の字、死ななければ安いという発想ができなければ鬼殺隊員は務まらない。

 

 その時、炭治郎は部屋の外から緊張を感じた。

 耳をすませば、誰かと誰かが言い争っているような声が聞こえる。

 炭治郎は生まれつき鋭い嗅覚を持ち、鬼を判別することができるが、だんだんと近づいてくるその声にはそのような臭いは感じない。少なくとも鬼ではないのだろう。

 そして、段々とそれらの言い争いの内容が理解でき始める。

 

「いやだいやだいやだいやだいやだ!!!! 絶対に嫌だ!!! あんた達について行ってろくなことがあるわけないんだ!!!」

「おい山口!!! 一体どういうつもりだ!? 喧嘩してえなら相手になってやるから一旦離しやがれ!!!」

 

 共によく知った声であった。甲高いのと、野太いのと。

 だが、それらの声は決して言い争いのようには聞こえなかった。その二人がよく言い争いをしているのは知っているが、いつもはもっと噛み合った話をしている。

 誰かもうひとりがいるのか、と、炭治郎は考えた。

 

 やがてそれらの喧騒が部屋の前に来たかと思うと、今度はそのドアが大きな音を立てて蹴破られる。

 

「炭治郎、いるか?」

 

 なんてことのないように部屋に入ってきたのは、鬼殺隊最高戦力、柱の一人、冨岡義勇(とみおかぎゆう)であった。

 

「義勇さん?」と、炭治郎は首をひねった、ある事情により彼らはすでに顔なじみであったが、柱である彼がこの治療所に顔を出すのは珍しい。

 

「あ”ー!!! 扉蹴破った!!! しのぶさんに怒られるんだぞ!!!」

「岡山! 窓や扉を蹴破るとしのぶがすんげえ怒るんだぞ!! 終わった! 終わったよお前!!!」

「お前らを両手に抱えているから扉が開けなかったんだ。悪いのはお前らだろう」

 

 義勇の言う通り、彼は片方の腕に一人抱え、もう片方の腕と肩でもう一人を抱えている。

 声の通り、よく知った顔であった。

 妙な髪色ですでに半泣きであるのが我妻善逸(あがつまぜんいつ)、イノシシの妙な被り物で常に半裸のほうが嘴平伊之助(はしびらいのすけ)である。共に炭治郎にとっては同僚であり友人と言っていい関係であった。

 義勇はそのままポイと炭治郎のベッドの傍に二人を投げ捨てる。

 

「お前らに話がある」

「やだやだやだ! 伊之助逃げよう! 逃げればまだ大丈夫!」

 

 見ての通り、善逸というのはどうして鬼殺隊として成立しているのか不思議なくらいの臆病な男であった。

 

「いいや俺は逃げないね!」

 

 これもまた見ての通り、伊之助はかなり血気盛んで直線的な男だった。

 

「じゃあ炭治郎でも良い!」

「善逸、まずは義勇さんの話を聞いてからじゃないと。あと、義勇さんはしのぶさんに怒られると思います」

 

 義勇は炭治郎の言葉に「なぜだ?」と首をひねったが、すぐさまに気持ちを切り替えて言う。

 

「お前ら、千駄ヶ谷にいけ」

「相変わらずこんな感じだよも~、言葉が足りないんだよいつもいつもいつも!!!」

「言葉は足りている、これ以上でも以下でもない」

 

 はい、と、一旦挙手をしてから炭治郎が言う。

 

「なんで千駄ヶ谷に行く必要があるんですか?」

「鬼がいる可能性があるからだ」

「そういう事を言ってくれないとわからないでしょうが!!!」

「千駄ヶ谷にいる鬼をぶっ潰せば良いんだな? じゃあなんで潜入なんかする必要があるんだ?」

 

 質問の連続に、義勇はようやく自分の言葉が足りなかったことを多少自覚しながら答える。

 

「鬼かどうかはまだわからない、ただ、千駄ヶ谷付近で真剣師が数人行方不明になっていることは確かだ」

「真剣師?」

 

 聞き慣れぬ言葉に首をひねる炭治郎に善逸が答える。

 

「真剣師ってのはさ、要は賭け事で食ってる連中のことだよ」

「それは賭博じゃないか、賭博はご法度のはずだよ」

「そりゃそうだよ、でもいちいち捕まえるときりがないから組織でやらない限りは警察も見逃してるわけ」

 

 ふうん、と、炭治郎と伊之助は首をひねった、共に境遇は違えど山で育った男である。そもそも賭け事という存在そのものにピンときていない。

 でも、と善逸が続ける。

 

「真剣師がいなくなったからといって、それが鬼とは限らないんじゃないですか? もとより根無し草でしょ?」

 

 善逸の指摘はもっともであった。

 真剣師とはいわば賭け事で飯を食おうとするものである。良く言えば無頼、悪くいえば食い詰めのチンピラ。そのような人間が消えたくらいで鬼を疑えばそれこそきりがない。

 だが、義勇の次の一言に彼らも緊張感を持つ。

 

「俺たちもそう思っていた。だが、念の為と巡回を行っていた隊員も行方不明になっている」

 

 隊員、とは鬼殺隊の事だろう。

 

「なるほど、それなら鬼かもしれません」

「俺抜ける」

「鬼をぶっつぶせるなら俺はどこにでも行くぜ!!!」

「とにかく、まだ断言はできないが千駄ヶ谷に鬼が潜んでいる可能性があるんだ。お前ら三人は今すぐ千駄ヶ谷に向かい潜入しろ」

 

 はい、と炭治郎。

 

「潜入場所と内容はどうするんですか?」

「千駄ヶ谷には藤の花の家紋の一族がいる。そこの奉公人と言う立場を取りながら、将棋道場に顔を出せ。藤の花の家にはすでに話をつけてある」

「だからそういうの全部言ってくれないとわからないでしょうが!」

「十分伝えたはずだ」

「いやありえないでしょうよ!!! あなた最初に言ったの『千駄ヶ谷にいけ』だけですよ!」

「まあこまけえことは良いじゃねえか。とにかく鬼をぶっ飛ばすぜ!」

「まずは潜入して鬼について探らないとね」

「やだー!!!」

 

 ひとしきり善逸の泣き言を聞いた後に、炭治郎がもう一つ質問する。

 

「あの、ところでなんでこの三人なんですか?」

「なんとなくだ」

「なんとなくなら今すぐ俺を外してください!!! なんとなく外しましょう!!! 嫌だ! 禰豆子ちゃんと離れたくない!!! あ、そうだ! 禰豆子ちゃんも連れて行こう!」

 

 禰豆子とは炭治郎の妹であり、鬼化していながら人間を襲わないただ唯一の鬼、そして、女好きの善逸が惚れている相手でもある。

 

「駄目だよ、禰豆子は蝶屋敷でもう少し面倒を見てもらうんだ」

 

 ある一件以来、禰豆子は鬼でありながら日光を克服し、更には僅かではあるが言葉も話せるようになっている。蝶屋敷の女の子たちとのふれあいの中でその語彙が増えているとあれば、兄としてはできる限り蝶屋敷にいてほしかったし、何より柱である胡蝶しのぶとその継子である栗花落(つゆり)カナヲがいる事は心強かった。

 

「胡蝶しのぶには俺が説明しておく、早速千駄ヶ谷にむかえ」

 

 冨岡義勇と説明、その二つの言葉が持つ強烈な相反性を感じながら、それでも三人はこの引き継ぎに問題は起こらないだろうと確信していた。

 なぜなら。

 

「あの、しのぶさんなんですけど」

 

 炭治郎は恐る恐るそう切り出す。

 彼ら三人には、義勇の背後で笑いながらも額に青筋を立てている胡蝶しのぶの姿が見えているのである。

 

「扉が壊れていたのですが、誰か理由を知りませんか?」

 

 明らかに何かを抑えながら発せられたその言葉に、義勇は振り向きながら答える。

 

「こいつら二人を抱えていたからな、足で開けるしか無かった」

 

 本人はそれを『説明』だと思っているのだろうが、世間はそれを『白状』という。

 

「三人は今すぐに千駄ヶ谷に向かいなさい。私は彼と話すことがあります」

 

 まだ優しくそう言われた三人は、すぐさまに身支度を整え始めた。




将棋コソコソ噂話

現在の将棋界と真剣師は実はきってはきれない関係にあり、かつては元真剣師のプロがおり、その弟子筋からはタイトルホルダーも輩出しているらしいですよ。
ちなみにそのお弟子さん達は非常に礼儀正しく正統派の将棋を指すらしいです。



感想、評価、批評、お気軽にどうぞ、質問等も出来る限り答えようと思っています。
特に鬼滅の刃二次は初めて書くので評価やアドバイスもよろしくおねがいします!
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