【完結】 劇場版 鬼滅の刃 千駄ヶ谷将棋所編   作:rairaibou(風)

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第8話 九九神(くくのかみ)

 土井を担ぎながら、炭治郎は大広間を渡ろうとしていた。

 だが、それは一筋縄ではいかない。その鬼がくり出した駒鬼は彼らを狙う。

 村田ら、鬼殺隊と協力しながら、炭治郎はなんとかそれらの鬼を討伐し、ようやくその中心に向かえるようになったが、村田ら鬼殺隊は、その屋敷から飛び出した鬼を討伐するために、その大広間を後にしていた。

 

「炭治郎くん」

 

 自らを担いで大広間を渡る炭治郎に、土井がつぶやく。

 

「私はいまだに信じられない」

「何がです?」

「扉にあった詰将棋、あれは素晴らしいものだった。本当に素晴らしいものだった。あれは将棋の中に流れる理を解していなければ作り出せないものだ。邪心のあるものが作れるとは思えない。殺しをするような人間が作れるとは思えない」

 

 悲痛な声だったが、炭治郎はそれを否定する。

 

「それが鬼です。俺は心ある鬼を何人か知っていますが、その数人以外は、鬼は人を殺すことに躊躇がありません」

 

 土井は押し黙った。反論しようにも、今まで見てきたもの、今見えているものは、炭治郎の言葉を真実とするのに申し分無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 土井を担いで大広間中央にたどり着いた炭治郎が見たのは「参りました」と鬼に頭を下げる義勇の姿であった。

 見れば、その盤面では惨劇が繰り広げられている。半ば素人同然の炭治郎ですら思わず目を背けたくなるような戦況であった。

 

「すまない」と、義勇は炭治郎らに言った。

 

 負けたことを悔いているわけではない、負けること自体は特に問題がない。

 だが、ただ負けるだけ負けたというところが問題であった。

 義勇は将棋の対局の中で、その鬼の弱点を探ろうとした。

 だが、それを見つけることは出来なかった。将棋の中にもその鬼にスキはなく、首を切るタイミングが存在しなかった。

 わからない。

 その鬼をどうやって殺せば良いのかわからない。

 

「良くないなあ」と、その鬼は扇子で肩を叩きながら続ける。

 

「序盤、中盤共に実力不足だ……対局の経験が不足しているし、少し駒に優しすぎるところがある。終盤の詰めろ逃れは見事だったがね」

 

 鬼は扇子を振るう。義勇は盤の前からはじき出される。

 しかし、受け身を取りながら着地した義勇は、そのまま刀を抜いて鬼の首を狙う。

 だが、それは再び鬼の首に食い込むだけで、一滴の血も吹き出させることが出来ない。

 

「懲りんなあ」と、鬼はあくびをしながら言い、瓢箪の割れ目を探る。

 

「将棋の弱い男が俺の前に座る資格はないぞ。俺は『高飛車』でな」

 

 探り当てた大きめの駒を放り投げる。その駒『飛車』は肉を得て鬼となる。

 

「なっ……!!!」

 

 その鬼の巨大さに、義勇は思わず声を上げてしまった。

 その鬼は三メートルほどはあるだろうか、そして、その体格にふさわしい巨大さの大槌を手にしている。

 

「悪いが、少し遊んでやってくれ」

 

 その鬼が大槌を振るう。

 それが畳を叩くと、そこを中心に十字型に広がる衝撃波が起こる。そう、ちょうど飛車の動くことのできる範囲と同じであった。

 

「お前ら気をつけろ!」

 

 なんとかその攻撃範囲から逃れながら、義勇は大きく叫んだ。

 

「なんだあ!!!」

「いやあああああああ!!!!! 死ぬうううううう!!!!」

 

 伊之助と善逸は広範囲を攻撃することのできる新たな鬼に驚いていた。

 ただでさえ強い鬼を相手しているというのに、どうして他のことにも気を配らなければならないのか。

 

「はっはっは、死なない程度にな」

 

 そして彼は、今度は炭治郎を見上げて言う。

 

「どれ小僧、そこは危険だぞ。私の前に座るといい。この『御城将棋』では将棋こそが最も神聖、こここそが一番安全だ」

 

 やはりコロコロと笑うその鬼に、炭治郎はどのような感情を持てば良いのかわからなかった。

 否、憎むべき、憎むべきなのだ。だが、その鬼にはあまりにも『殺意』がない。

 この状況もそうだ。あれだけある駒を一度に使えば、おそらく鬼殺隊は壊滅に近いダメージを受けるかもしれない。

 それなのにそれをしない、それをしない鬼の感情が読めない。

 

 だが、彼の肩に担がれている男は、そんな事を気にしない。

 ただただ彼を突き動かすのは『将棋』であった。

 

「炭治郎くん、下ろしてくれ」

「土井さん、大丈夫ですか?」

 

 その言葉には様々な思いがあった。

 足のこと、出血している腕のこと、周りのこと、そして、鬼と向き合うこと。

 だが、その全ては彼を止めるだけの危険ではなかった。

 

「炭治郎くん」と、土井が続ける。

 

「私の左側に座っていてくれないか? 左腕に力が入らない、倒れてしまうかもしれない」

 

 その要求に、炭治郎は義勇を見る。

 鬼の大槌を受けながら、義勇は炭治郎の目を見て再び鬼に目線を戻す『助けろ』とも『周りを補佐しろ』とも言わない。

 更に彼は伊之助や善逸を見る。

 

「豚次郎! 大橋! 気をつけろよ! そいつ訳のわからん術を使う!!!」

「何でも良いから早くそいつに勝ってこいつらを消してくれえええええええええ!!!!!!」

 

 彼らも『助けろ』とも『援護しろ』とも言わない。

 

「わかりました」と、炭治郎は土井の目を見て言った。

 

 土井はそれに頷いて盤面の前に正座する。炭治郎は回り込んでその左側についた。

 

 彼は一つ大きく息を吸ってから「教えてほしい」と、目の前の鬼に向かって問う。

 

「扉の詰将棋は、あなたが考えたのか?」

「ん~あれか? いかにも、あれは俺が考えた。まあまあの出来だろう?」

「千駄ヶ谷の人々を苦しめていた詰将棋もあなたが?」

「ああそうだな。大分乱雑に作った作品もあり恥ずかしいが、まあ、そうだ」

 

 鬼の返答に、土井は「そうか……そうか」と頷き、少し時間をおいてから更に問う。

 

「なぜ、将棋を人殺しに使うのです?」

「はて? 人殺しとは……?」

「とぼけるな、千駄ヶ谷の人々を襲っていた鬼は、将棋の弱い人間は死んでもいいと言っていた」

「ああ、狩人のことか」

 

 鬼は迷惑そうな表情で扇子で額を叩いて続ける。

 

「あれは出来の悪い弟子でなあ……将棋の出来で人の生死を決めるように言う割には、肝心の本人が将棋の弱い男で、詰将棋もまともに作れやしない。挙げ句暴れだすような男と俺とを一緒にされてはかなわんなあ」

 

 それは違うだろうと炭治郎は思った。自らの弟子が失態を犯したのなら、その師が腹を切るべきだ。そのような覚悟を持って自らに接した男を、炭治郎は二人知っている。

 同じようなことを思っているのだろう、それに何も返さない土井に鬼が声をかける。

 

「なあ小僧、お前は考え違いをしているぞ。お前は俺達が将棋を利用して人殺しをしていると言うが、それはそうではないのだ、将棋という遊戯そのものが人を殺すのよ」

「!!! 馬鹿なことを!!!」

「馬鹿なことではない、俺はそれをよく知っている。それとも何か? 小僧は俺よりも将棋を知っているのか?」

「知っている!!!」

 

 土井は大きく息を吸い込んで続ける。

 

「私は大野三平太十二世名人門下、将来必ず名人になる男! この私が将棋は人を殺さぬというのだ!!!」

 

 炭治郎は驚いた、土井がこれほど声を荒げることにも驚いていたし、何より、あの時「名人などとてもとても」と謙遜していた青年が、そんな事を言うものだから。

 

「ほう、名人の弟子とな」と、鬼は興味ありげに身を乗り出して笑う。

 

「扉の詰将棋を解いたのは小僧か?」

「そうだ」

「ほう、どのくらい時間をかけた?」

「一分ほど考えた」

「ほーう」

 

 パチン、鬼は扇子を鳴らす。

 

「小僧、お前、何段だ?」

「将棋連合会六段」

「ふむ、将棋連合会とやらは知らぬが六段か……なかなかの腕だな」

 

 鬼は両手で自陣の駒をまとめると、土井に言う。

 

「小僧、角落ちで指してみようか」

「私は平手を所望する」

「はっはっは、威勢がいいな、威勢がいいのは好きだが。ものには段階というものがある。小僧が角落ちで俺に勝てたら平手で相手してやろう」

 

 鬼は崩した自身の駒から王を選び、最初の位置に叩きつける。

 小さいが、周りの喧騒にも負けぬ力強い駒音だった。

 強い、と、土井は生唾を飲み込む。

 

「小僧、名は?」

 

 土井も同じく自陣の駒を崩し、玉を手にとってそれに返す。

 

「土井知太郎」

「そうか、知らない名だな」

 

 鬼は金を手に取りながら続ける。

 

「俺の名は九九神(くくのかみ)、この下らぬ遊戯の、神だ」




将棋コソコソ噂話

『駒落ち』

 現代ではプロ同士の対局では基本的に平手であり、さらにアマチュア同士の対局でも平手で行われていますが、江戸時代から戦前までは基本的に段位によって駒落ちで指すことが推奨されており、駒落ちの定跡もかなりすすんでいたらしいですよ。





感想、評価、批評、お気軽にどうぞ、質問等も出来る限り答えようと思っています。
特に鬼滅の刃二次は初めて書くので評価やアドバイスもよろしくおねがいします!
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