ある日のこと、ボクが家でのんびりしていると、イヤーなにおいを感じた。
ボクの大っ嫌いなあいつのにおいだ――…。
……あの日、ゴシュジン(ニンゲンのオス)がいつものように「散歩に行こう」って言った。
ボクはこれがいつもの楽しみで、その言葉を聞いた瞬間に、いつもつけている輪っかと、たまに体に付けられる、なんか窮屈な赤と緑のやつ。が置いてある所まで走った。
…――それを付けてもらった後、ゴシュジンに抱えられて外へ。
首にひも(たまに引っ張られて苦しいやつ)を付けられてから、下に降ろされると、あとは走ったり歩くだけ! ゴシュジンはかってについてきてくれる!
いつも歩いている方に行こうとしたら――。
――ぐいぃぃぃいいいッッ――。
ぐえぇ! 思いっきりひもを引っ張られてしまった。うぅ……。これをやられるときは、何かダメなことをしそうな時や、しちゃった時だ。……何しちゃったんだろ……。
怒られるのを覚悟していると、
「ほら、こっちだよヤチマル(ボクのことをゴシュジンがそう呼ぶ)……」
――…あれれ、どうやら行く方向を間違えちゃってたみたい。
慌ててゴシュジンが引っ張る方に走っていく。
――だけど途中で、いつも見てる景色と違うことに気づいた。どうやら今日は普段歩いている所とは違うようだ。……えぇ、ボクあっちに行きたいよ!
――…何故ならあっちに行けばいつも会うにおいをかぎあったナカマと、そのゴシュジン(ニンゲンのメス)がいるから!
不思議に思ってゴシュジンの顔を見上げて見ると、
「わふぅッ!?」
思わず鳴いてしまうほどに、ゴシュジンの顔が普段見ないがっかりした、今にも消えてしまいそうな顔をしていた。
「はぁ……あれは絶対に断られるよ……。諦めよう……」
……そういえば、一体何があったのかは分からないけどナカマのゴシュジンと話してた気がする。確かあの時、ゴシュジンは笑ってたけど、家に帰ってから様子がおかしかったような……。
と、考えを巡らせていたそんな時。ふいに白っぽい何かがひらりと落ちてきて、ボクの鼻の上に辿り着いた。
樹からは、白いやつが次々と落ちて飛んでくる。いい匂い! これは食べずにはいられな~いッ♪
口を開けて飛び込んでくるのを待っていると、血相を変えたゴシュジンに口を無理矢理閉じさせられた。え、っ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ……‼ ゴシュジン! そりゃないでしょ!?
「バカ! サクラは食べちゃダメなんだよ!」
「ぐ、グルルルルッッ‼」
怒られているみたいだけど、どうしても食べたい! だって、あんなに美味しそうな匂いがするんだから、食べられないはずないよ! ン!? 緑のやつに隠れてて気づかなかったけど、よく見たら下にもいっぱいあるじゃん! ハッ!
……なるほどね、わかったよゴシュジン。
ボクが体から力を抜くと、ゴシュジンもボクが理解したのを分かってくれたみたいで離してくれた。
「わかってくれたみたいだな……ンンンッ!?」
ボクは飛んでくるやつらを食べるのは止めて、下に落ちてた白いやつらを食べることにした。
「ちょ、だからやめろって!」
――…今度はグイっとひもを体が浮くほど引っ張られたので、“今回は”あきらめることにした。
怒った顔をしたゴシュジンに持ち上げられたその時――
何やら嗅いだことのあるにおいがボクの鼻に飛び込んできた。スン、スンスン、スンスンスンッ! あっ、この匂いは——
「わぅんわぅん!(よう!)」
「わふふん!(ナカマだッ!)」
「こんにちは……!」
「あっ! こ、こここんにちは!?」
そう、ナカマとそのゴシュジンに会ったのだ! するとゴシュジンは、ボクをまた下におろし、さっきの顔はどこへやら、あはは……と笑いながらナカマのゴシュジンの方へ行き話し始めた。じゃあ、ボクはナカマのにおいを嗅ぎに行かなければ……!
「この間の件ですけど……その、――こちらこそ、よろしくお願いします!」
「ですよね……って、ええ! 良いんですか!? ありがとうございます!! こちらこそよろしくお願いします!」
ゴシュジンは笑顔で喜びだしたかと思えば、今度は泣き出す。
忙しい人だなぁ。でも、ゴシュジンが笑顔になってよかった! 好き! ハッ、そうだっ!!
「わふわふわふ!(ナカマ! この白いやつ絶対美味しいよ!)」
「わぅんわ? わぅうう……(マジで? 食べてみるわ……)」
――次の日、ナカマも一緒にオイシャサンに連れていかれ、もう白いやつは絶対に食べないようにしよう……。そう誓ったのだった。
「わふーーん!!(あーもう! 白いやつはこりごりだよぉ!!)」
――……――
「わふわふ~ん(でも食べちゃうんだよねぺロペロペロ)」
「お前今年もか! 馬鹿!」
(終)