転生して義賊じみたことをしている男が、プラマニクスもといエンヤをなんとかして救い出そうと頑張るお話。
なお初期好感度はマイナスとする。
この地を治める巫女になることが決まってから、私の生活は“為すべきこと”で一杯になりました。団の雑務、面会に来る政治家の対応、様々な会議と祭典への出席……それら全てが、この私にしか出来ないことであり、カランドという国を治め動かすのに必須だからです。
ですがその所為で、私に許された1人の時間という物はほとんどなくなったも同然でした。ただでさえ、巫女という立場上様々な人から注目されてしまうというのに……。
この決断を下したお兄様には……いえ、敢えて考えるまでもありませんが、とにかく私の生き方というのは、ひどく制限されてしまうものになってしまいました。言うなれば、籠の中で羽ばたくことを強要されている鳥、と言ったところ____あまり、仕事はしたくもないのに。
仕事の重圧、肉親との不和……私の心など、とうに居場所を失っていたも同然です。
____だからこそ、でしょうか。そんな時に、あの男が現れたのは。
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『____こんにちは、かわいいフェリーンのお嬢さん』
『___ッ!?誰ですか……!誰か、怪しい者が!』
『おっと、落ち着いてください。俺は別に怪しいものなどではありませんよ』
『ふざけたことを言わないでください。身共の部屋へと突然現れたということは、少なくとも素人ではないはずです』
『ご明察。俺はこれしか能のない人間ですから……おや、そちらにあるのは』
『……っ、貴方には関係のないものです!』
『どうどう、別に貴方をどうこうするつもりは毛ほどもありませんよ……まあ、この地にはいろいろな意味で興味を惹かれていますが____おっと、そろそろ使用人さんたちが着きそうだ、本日はここまでに致しましょう。それでは、またお伺いします』
『待ちなさい!……くっ、逃げられましたか』
『____プラマニクス様!如何為されましたか!』
『……この建物の見張りを強化しなさい。盗人と思われる男が入ってきました。幸い、何もされませんでしたが』
『なっ……それは一大事ですね……了解しました』
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………今思えば、本当に第一印象は最悪でした。
突然目の前に現れた見知らぬ男。特徴がないために種族すら判明せず、ただ覚えているのは夜のような黒い髪と血を連想させる赤い目だけ。音もなく私の住まう聖堂へと侵入したと分かったときは、どんな手を使ってでも拿捕してやると憤慨したものです。
ですがその努力も空しく、あの男は度々現れました。
ある時は朝っぱらから、ある時は夜も更けたころに。どのような手を使っているのか、毎度のように見張りをかいくぐっては目の前に顕現するのです。
最初のころは回を追うごとに見張りの数を増やし、罠も仕掛けていきましたが、それと比例して聖堂も居心地が悪くなっていきました。元々限られた人しか入れない聖堂では増やす人数もそれほど多くは出来ませんでしたが、人が1人聖堂へと足を踏み入れるたびに、私の心が圧迫されるようで……ついには、あの男がこちらに何もしてこないことと私の心を天秤にかけ、私は見張りの数を元に戻すことにしたのです。
そして、現在。
「どうしたんですか、“エンヤ”さん」
「……その名前はとうに捨てました。身共の名はプラマニクスです」
「知っています。ですが敢えて貴方の真名で呼んでいるのです。巫女の仕事は、疲れるでしょうから」
「……そもそも、どうして貴方がそれを知っているのですか」
「この前、夜にお伺いしたときに、歴代巫女の名が記された書物を少し拝見しまして」
「……はあ。もう何も言っても貴方には街の喧噪程度にしか受け止められないのでしょうね」
「まさか。貴方のその玉響のような美声なら、俺はいつでもこの耳に入れましょう」
「………はあ」
ああ言えばこう言う、とはこのことでしょうか。
今まさに目の前で無駄に優雅な所作で紅茶を飲んでいる男は、今日も飄々としながらここに来ていたのです。
「……そう言えば、貴方はどうして身共の部屋へと来るのですか。いい加減帰っていただきたいのですが」
「あれ、前にお話ししませんでしたか。偶然貴方を見つけたときから、一目惚れをしてしまったからだと」
「……もういいです、仕事の邪魔をしないで今すぐ雪原へと足を戻しなさい。カランドの威圧が貴方を飲み込んでしまう前に」
「おや、もしかしてご心配くださっているんですか?俺には少々、刺激が強すぎますが」
「還りなさい」
「……イントネーションが少し怪しいですが、確かにこれ以上いると貴方を怒らせてしまいそうだ。今宵はこれにて失礼いたします。では」
………それだけ残すと、男は来た時と同じように突然姿を消しました。全く、日に日に追い返すまでの時間が伸びてしまっています。
「……やっぱりな、カランドは伝統的な宗教一強の地だ。それに血縁も使命もガバガバ。このテラの国はどいつもこいつも腐海で満たされてるってもんだ……それにしても彼女、全身から“やりたくない”オーラが出てたねえ」
エン………プラマニクスちゃんに言われて部屋から
カランド改め、イェラグという国はこの世界では珍しい移動しない国だ。元々地理的に天災の被害を受けづらいこの地では、ずっと昔から独自のお国柄を保ち続けていたらしい。いわゆる鎖国というやつか。しかし最近、企業誘致だかなんだかで積極的に海外企業が居座るようになったそうだ。イェラグのイカレカルト野郎共からしてみればいい迷惑だろう。
それを引き起こしたのは、カランド貿易と呼ばれる新鋭の企業。エンシオディス・シルバーアッシュという若きCEOが半ば強引に決行したらしい。
「……まあ、十中八九エンヤちゃんのお兄さんだろうな。苗字一緒だし」
ちらっと見せてもらった歴代巫女記帳には、「第35代巫女 エンヤ・シルバーアッシュ」という名前が記されてあった。そこで家計図のようなものが途切れていたので、恐らく当代の名前なんだろうという推測に至るのは簡単。
「兄が名家の当主にしてイェラグ急進派の代表企業のトップ、妹はそれよりも権力が強い宗教派兼保守派のトップ、か……はーやだやだ、複雑すぎて何の関係もないのに胃が痛い……」
こういう時は美味しいものを食べるに限る。とは言えイェラグは土地の関係上あまり豊富な料理は食べられないらしい。
でもまあ、その土地の郷土料理が食べられるだけでも来た甲斐があるってもんだ。
「……次はいつエンヤちゃんに会いに行こうかねえ」
手に持っていた地図を見ながら、
にしてもやっぱりエンヤちゃんばちくそ可愛いしえっちだな。おっと、こういう考えはいけないいけない。悪い癖だ。
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数十年前から、テラの至る所である噂が流れていた。曰く、「囚われの人々を救い出す義賊がいる」。曰く、「権力のある腐った奴らから宝や財産を奪い、貧しい人々に分け与えている奴がいる」。
それに会ったものは、口をそろえてこう言うのだ。「“ウェントゥス”が現れた」と。
ウェントゥス、ラテン語で“風”を意味するこの名前を最初に知ったのは、俺が5歳になったころだった。
突然この世界で目覚めた俺は、「おっアークナイツの世界じゃんやったね」と最初は喜んだものだ。けれどその喜びは次第になくなっていったよ。
この世界の無情さを知った。この世界の無常さを知った。この世界の残酷さを知った。人の醜い部分を何度も目の当たりにし、その度に奪って、潰して、弱体化させていった。
それでも悪意はなくならない。腐ったゾンビみたいな人外の思考を持ったやつが、よりによって権力を持つような不条理な世界。
だから断言しよう、「この世界はクソみたいなことばっかりだ」って。
「……同じ連綿と続いている地位を受け継ぐ立場だから、エンヤちゃんのことはついつい心配しちゃうんだよな」
俺の名前はレンス・セーデルス。セーデルス家の長男にして、5代目ウェントゥスを受け継ぐもの。
俺の使命は、この世の不条理を裏からブッ叩いて一人でも笑わせることだ。
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「こんにちは、エンヤさん。また遊びに来ましたよ」
「……また貴方ですか」
まあこうしてプラマニちゃんには嫌われちゃってるわけだけれど。
最初は別にプラマニに会うつもりはなかったんだ。「イェラグの最近の動向が怪しいからなんか調査してきて(意訳)」って親父に言われたから、イロイロと書物あさったりしよっかな……と思ってイェラグに転移したはいいものの、転移場所をミスってしまった。
結果プラマニもといエンヤの仕事場兼生活空間にダイナミック突撃しちゃっただけで。俺は悪くねえ!このアーツが悪いんでい!
結局自業自得だけどさ。
「貴方の持つ銀に輝く絹糸のような髪を拝みに来ました。紅茶もついでに淹れに」
「……勝手にしてください」
ただ悪かったのは、何故かエンヤちゃんと対面すると、芝居がかった口調で本心が駄々洩れになってしまうことだろうか。
ドウシテ……ドウシテ……。
ちなみに一目惚れ云々も当然本当だ。前世でリリース開始から始めたとき、交換券に並んでいるのを見て「この子だ!」ってなった。まああまり進められずにいつの間にかこうなっちゃったから、あんまり彼女のこと知らないけど。
俺はこの世界ではドクターではない。だから俺に出来ることは少ないかもしれない。けれど____
「ほうら、貴方の好みの味になりましたよ。どうぞ」
「……その手腕だけは、本当にお見事ですこと」
____俺は俺のやり方で、“プラマニクス”を救いたいと思っていた。
それにしても、いつになったら好感度がプラスになるんですか?(自棚上)
ロドスでの設定
ウェントゥス
本名:レンス・セーデルス
19歳 男
種族:不明
専門:不明
自らを「ウェントゥス」と名乗る経歴不明のオペレーター。独特なアーツによる強襲作戦を得意とし、現在はケルシーが直接指揮するチームに加入している。