轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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1.漂着

 潮騒の音で意識を取り戻す。

 

 眩しい日差しに目を細めつつ、どうやら死に損ねたらしいことは理解した。少なくとも「轟沈」とされるレベルのダメージを負った筈だが、運良く流れ着いたらしい。

 痛みに耐えつつ、身を起こす。呆れるほど晴天だったが、目前の海は荒れたままだった。だからこそ流されて助かったようだ。

 

 「武器は当然として、機関部も脱落かー」

 

 つい独りごちる。意識とともに手放した単装砲はともかく魚雷発射管は投棄の見切りが早過ぎる、と文句を言われる事が多々あった。とはいえ日頃から戦闘で重しをすぐ捨てるのも今回生き残ったー死に損なった要因だろう。辛うじて残った艤装は半壊気味の、外見はほぼ靴な水上走行靴くらいだ。

 

 「多分このままだと海に出るのは駄目ね」

 

あの時確かに沈みかけていたはずだ。であれば靴どころか靴無しであっても「水上に立つ」という能力自体が停止状態だろう。認識の問題もあり個人差はあるが、艦娘は素の状態で水の上を歩けるものだ。ノロノロと靴を脱ぎ、布切れと化した靴下は投げ捨てて立ち上がる。アシストの切れた状態で履き続けるには少々重い。直撃を喰らったのか胸も丸出しで、スカートも前側だけ生地面積が極端に減っているのは悪意しか感じられない。とはいえほとんど艤装部分で止まったとも言える。

 

 「物理的な傷が少ないのは助かるわ」

 

漂着した浜を歩く。やや遠くに半壊した桟橋や小屋―本来はもっと綺麗な白い建物だったらしきものが複数見える。この無人島とおぼしき地に造られたリゾート施設だろう。そう気付いたあたりで取って返し靴を回収する。無事な建物は無理そうだが、完全な野晒しよりはマシだ。見た目よりもずっしりした靴の重みに耐えつつ、辿り着いた先はほぼ廃墟だったが。居住施設のバンガローは戦火と放置で壊滅、陸側にあった宿舎らしきものも焼夷弾か何かで焼け落ちたようで、骨組みと一部の壁、屋根がある程度だ。点在する倉庫の類がしばしの滞在場所になりそうである。ヨット、ボート類も焼けた物や入江・桟橋付近に沈んだままのものばかりであった。

 

 出来るだけ海から離れた資材・機材倉庫に潜り込む。空きが目立つ棚から使える物は出来るだけ持ち出した様子は窺えるが、幾らか残ってはいる。発電機はともかく燃料が残っているのは助かる。作業用らしき計量カップに燃料を注ぐと口にする。放置による劣化のせいかやや雑味を覚えるが、人のように吐き出す事もなく飲み込めたので、どうやらわたしはまだ艦娘らしい。

 

 艦娘―大井が現在のわたしである。

 

 とりあえず倉庫を漁るとLEDライト、多分旧式のラジオ、何故置いていったのか分からないショットガンと弾薬に鋼材の代わりになりそうな金属材が見つかった。棚に5.56mmもあったのでライフルだけ持ち出したようだ。

 

「缶詰の一つも見つからなきゃ、いつもの味気ない食事か」

 

建造からわずか1年だが、人間様の食事にお目にかかった事がない。燃料・弾薬・鋼材と少量ながらも「補給」が揃ってしまったことにうんざりする。見つけたLEDライトの点灯を確認し、物資と靴を取りあえず脇に寄せる。裸足のままはどうかとは思うがライトにショットガンを持ち歩くので重量物は減らしたいところだ。金属材の中から取り出した、未加工らしいステンレスのステーを齧りながら、サンダルでもないかと入江側に見えた倉庫を目指した。

 

 ショットガンは薬室への装填はしない。両手が一応塞がっているので扉を開けるだけでも隙が生じるのだ。何かがいたとしても「奪われた武器」の使用にワンアクション強要する方がいい。それに対人用では、艤装無しでも艦娘の殺害はほぼ不可能だ。まあ艤装無しだと拷問には使える程度に痛みは来るので動きは止まるが。ガリガリとステーを噛み砕くと飲み込む。開けた倉庫は機材倉庫より小さい上に灯り取りの窓もない。ライトとショットガンを構えて一歩踏み込む。特に何もいないが目的の物はあった。サンダルやライフジャケット、帆布などである。少し奥を探せばロープやウェットスーツなどもあるが、酸素ボンベなどはこちらには見当たらないため、錆びそうな物はこちらには置かない様にしてはいたようだ。あとは数本の発煙筒か。予備と信号銃は機材倉庫に、との注意書きもあるのであとでまた漁るか。

 

 足の裏の砂を払って良さそうなサンダルをつっかける。適当なライフジャケットを羽織って丸出しを回避。水着の一つもあれば純然たる合成繊維の肌触りを味わう事もなかったが、そこは我慢だ。帆布にウェットスーツの幾つかを細めのロープで束ね、大き目の輪をロープで作ると肩にかける。発煙筒を一つ布の隙間に突っ込むと、複数の荷物を手に資材・機材倉庫に一度戻った。

 

 そこらに荷物を置いて機材類を再度漁る。入江の倉庫の注意書き通り、発煙筒の在庫と信号銃・信号弾も見つかった。まとめて置いていたのか45口径のオートマチックも見つかる。スライドにメーカーもタイプ名もない代物だから、多分東南アジア製のコピーだろう。ホルスターもあるので、信頼性はともかくこの後の探索はこちらの方が楽そうだ。とはいえショットガンも置いて行くのも物騒なので、ストック側にロープでも括りつけて持って行く方がいいか。ベルトを身に着けるとホルスターを取り付ける。ホックボタン式に重量のあるガバメントは少し不安はあるが、装弾7発のシングルカラムなのでまあ大丈夫か。マガジンは一つしかなく空のままだったのでそばにあった箱から弾を装填していく。スプリングの状態はまともなようなのでマガジンによる給弾不良は心配しなくて良さそうだ。銃にセットして何もない壁に向けてスライドを引く。ハンマーはきちんと起きて固定されている。この辺も問題はなさそうである。マガジンを一度抜いて再度スライドを引き、薬室を空にする。軍属でも「実銃」と言えるものはろくに扱っていないし、対人想定なら事故防止優先の方がいい。要救助者なのか実質野盗なのかを判断する前に暴発しても困るし、ホルスターから抜くときに誤って足を撃つよりマシだ。小指に当たればタンスの角を超える激痛にのたうち回るだろうし。

 

「STIのカスタムタイプなんて置いてないか」

 

孤独になると独り言が増えるもので、生前持っていたトイガンをふと思い起こした。頭を振って気持ちを切り替えるともう少し棚を漁る。偏見だが、銃整備のツール類のそばに、想定通り適当な箱に放り込まれた数本のチョコレートバー発見する。とりあえず一本だけ取り出すと日付を確認するが、予想通り期限切れで2年の超過だ。しかしながら今生初のデザートであるのは確かであり、パッケージの破損も見られないので己の耐久性のテストと決め込む。ライフジャケットのポケットにその一本を入れると、戻ってショットガンのストックに荷物運びに使ったロープを括りつけて銃を肩に下げた。銃口が地面ぎりぎりになるので注意が必要だが、ライト以外はフリーになるので少しマシになるだろう。

 

 外に出るとやや日が傾き始めているので、また一本咥えてきた金属材を齧りながら急いで探索をする。沈みかけのボート、ヨットにも、バンガローにも先客はおらず、船舶からは水に浸かった無線機も見つかった。当てにはならないだろう。防水袋に入ったサバイバルキットも複数見つかった。一つ開けるとビスケットバーと書かれた小さなパッケージもあったので、とりあえず大丈夫そうなものを回収していく。倉庫と探索場所の往復で大分時間が潰れた結果、とりあえず海側は大体終了した。回収した戦果は以上の通りだ。

 

 ・サバイバルキット×3(含む非常食)

 ・水没した無線機

 ・缶ビール(期限切れ)×1ダース

 ・未開封のワイン×4本

 ・未開封のミネラルウォーター(期限切れ)×5本

 ・ウェットスーツ×2着

 ・ヨット用の帆布

 ・5.56mmNATO弾×2ダースちょっと

 ・ショットシェル、中型狩猟用とおぼしき弾薬×1ダースちょっと(12番ゲージ?)。空箱もあったので補充がなかったのだろう。

 ・45ACP×2ダースちょっと

 ・ショットガン、多分レミントンの

 ・コピーガバメント

 ・Tシャツにショーツと男物のパンツ、それにガウンとタオル類が複数

 ・チョコレートバー×5本

 ・よくわからない清涼飲料水(期限切れ、炭酸?)×3本

 ・ソーダ水(期限切れ)×4本

 ・適当に回収した食器

 ・シーツ×複数

 ・LEDライト、電球タイプのライト及び予備電池が複数種

 ・ラジオ

 

損壊状況的に絶望的だったバンガローに意外に物が残っていた。密閉状態が維持された冷蔵庫と、クローゼット自体はアウトにしてもパッケージングされていた布製品が好状態だったのでついてた。酒のつまみ類の袋はいずれも開封済みか食い荒らされた感じがあったので、何度か野生動物が来たようだが、一カ所だけほぼ全壊のバンガローにバラバラになった犬と思しき骨があったので、砲撃を喰ったあと野生動物さえ近づかなくなったと思われる。

 

 大分日も傾いてきたので早々に機材倉庫に引き篭もることにする。陸地側も探索したかったが、鬱蒼と茂った木々と焼け落ちた建築物で暗くなるまで探索すると徒労になりそうだし、実際に負傷までいかなくとも転んだりひねったりすると痛い。奥に倉庫類があればいいが、一応野生動物がうろついていたことを考えるとそっちも望み薄だ。やや静まった海を尻目にLEDライトを点け、扉を閉める。床にシーツを敷いて休む準備を始める。一旦全部脱いでからTシャツとショーツを着て、破損状態の艤装の制服を身に付け、水上走行靴を履く。適当な金属材を齧りながらソーダ水を呷る。封はそのままだったがやはり炭酸は大分弱くなっているようだ。ふと思い出し立って、計量カップに燃料を注ぐとタンクにしっかり蓋をして一気に飲む。艦娘は飲料物的に燃料に味を感じるが、それでも後味の油感は残るので、まともな水があるうちに飲んでおいた方が人間的だろう。空にしたカップに気抜けのソーダ水を灌ぐと少し底で水を回してから飲む。油混じりの水はなんとも言えない味だった。カップ自体は明日洗うとして、井戸の一つも見つかればいいが。

 

 暫し、適当に金属材を齧る。ぱっと見損傷が減ったように見える水上走行靴を見て、一旦区切りを付けることにする。やはり履きっぱなしではくつろげないし、金属材で多少なりとも修復が進むなら少し時間をかけてもいい。500mlのソーダ水も残り1/3程度であるので、お待ちかねのチョコレートバーといこう。

 

「うげえ」

 

絶句。ダダ甘なのはまだいい。だがこの脂っぽさはなんだ。1年ぶりの甘みがこれというのは厳しい。しかも期限切れのせいか脂っぽさに酸味が混じる。楽しみだった分失望も大きく、モソモソと残りを食べる。一時の甘みのために油脂と酸味を我慢する状況である。それでも気が付くと完食出来ていたのは貴重な甘みであるとの認識の為か。ただ、この後味を残りのソーダ水だけで流せるとも思えない。止むを得ず計量カップを取って来ると、缶ビールを一本取り出し手酌でやる。正直ビールは好きではないし劣化している上に常温でまずいことこの上ないが、脂っぽさを流し切れたのは確かなので最後にソーダ水を飲み終えて食事を終わりとする。

 

「明日はもう少しマシだといいけど」

 

サバイバルキットから取り出した保温アルミシートを被って横になる。光が漏れ続けて爆撃や砲撃を受けるのも嫌だし電池ももったいないのでライトも消した。ラジオだけ一度つけてみるが、ノイズとわずかに聞こえた戦闘音しか入らず、対処も出来ないので止めて潮騒だけをBGMに床に就いた。

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