轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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10.合流

 ごきゅ、ごきゅと豪快に音をさせて水を飲む金剛。瞬く間にペットボトルを空にするとプハーと少々親父くさく息を吐いた。

 

「生き返るネー」

 

「君たちは飲まないのかい?」

 

響の問いかけに答える。

 

「わたしたちは少し前に飲んだから」

 

状況的に一人500ml一本ずつは大盤振る舞いだが、戦闘後の仲間に対するせめてもの気遣いだ。台湾に寄港するにしても、補給が可能かは不明なので、締めるところは締めるが。灯火管制は解除、停船しての休息だ。甲板上での複数の艤装の確認作業で照明は必要だし、ボートの最深部の居住スペース(窓はない)についても照明を我慢する必要はない。と、少尉が肩に乗ってきて耳打ちする。

 

「燃料補給は終わったようね」

 

これから修理可能かのチェックになる。なお、再始動の怪しい時雨の機関は燃料補給自体されていない。

 

「今聞いたネ」

 

「助かる」

 

「僕の艤装は駄目そうだけどね」

 

それぞれ所属する妖精が伝えたのだろう、こちらが口にしていないことも伝わっている。

 

「無事ナ砲ニモ先二補給シタイ。ツイテハ弾薬ノ消費許可ヲ要請スル」

 

「必要なら全部使って。資材も足りなきゃ銃自体も流用していいわ」

 

「イイノカ」

 

ガンマニアっぽいところを見られていたところからの再確認だろう。

 

「本土に戻れたら、米軍正規品の払い下げでも探すわ」

 

了解シタ、と返事をして少尉が消える。

 

「聞いての通り、足りるかはわからないけど弾薬もすぐ補給されるわ。修理もまあ資材的に限度はあるけど、これからね」

 

「至れり尽くせりネ」

 

「クッション付のベンチに、柔らかいベッドもあるし」

 

「出所を聞きたいね」

 

「全部放棄されたリゾートのやつよ」

 

持ち出した船に、資材はまあDIY材料である。

 

「ただし燃料が台湾までがいいとこなのです」

 

「なるほどね」

 

本質的に火事場泥棒の暴露だが、時雨はそれで納得した。

 

「ワタシたちモ似たようなモノデスネ」

 

日本行き、半避難民の武装化輸送船団に参加していたそうだ。鎮守府が壊滅したはぐれ艦娘も多数合流しているとか。

 

「僕らはまあ、順番が回ってきたってところだね」

 

当然とばかりに艦娘たちは護衛を引き受けた。

 

「船はバラバラ、足並みは揃えようもない」

 

この多国籍輸送船団は何度か行われているそうだが、遅れたりはぐれたりした船への対処は、艦娘がやっている。つまりは、

 

『私が行こう。運が良ければまた会えるさ』

 

集合と離散を繰り返して、人と船と艦娘を運び続ける船団である。

 

「船は逃がしたよ。元々軍用の魚雷艇だったみたいだし、機関不調が何とかなれば逃げ切れる筈だね」

 

「足止めでドツボにハマりましたネー」

 

荒野ならぬ荒海の用心棒軍団、怒りのシーレーンて感じか。人も家財道具も積めるだけ積んで、戦火を逃れて東へ西へ。

 

「それで、提案があるのだけど」

 

 

 このボートで行くには燃料が足りない。電だけだと緊急時の戦力が足りないところだった。そこへきて、ある程度の修理に留まるが電含めて海上戦力が3人に増えた。

 

「交代でボートを曳航、わたしと時雨がボート上で余った砲で見張りって感じで」

 

「15ノット前後に速度が落ちても、補給なしでも日本まで行ける、か」

 

補給タンク兼休憩スペースを曳航して移動する形だ。ボートの燃料次第では回避行動くらい取れるし。

 

「日本近海までなのです」

 

「あ、やっぱり?」

 

釘を刺すように電が注釈を挟む。

 

「軍に戻るのでしたら、わたしと大井さんは途中でお別れなのです」

 

「航行記録データも考えたら、船も渡した方がいいわね」

 

「…脱走かい」

 

響の指摘に、電は何も臆さなかった。

 

「鎮守府はなくなりました。二人とも陸に流されただけで、結局沈んだのです」

 

「実のところ鎮守府の方は記憶が曖昧だけど、沈んだのは確かだから」

 

くつくつと時雨が笑う。

 

「死せる艦娘、生ける死者深海棲艦を沈める、か」

 

「死んでるんじゃショーガないネー」

 

「いっそ仲間に入った方が楽かもね。もう死にそうにないし」

 

「いいですネ」

 

「まあその辺は追々。そこが残ってるかわたしも知らないし」

 

 

 

 翌朝、皆で朝食を摂る。塩辛いアジの干物、適当なサイズに刻んだチョコレートバー、水。そこに響がポケットから取り出した飴。

 

「いつの間に」

 

「船団で休んでたときに、龍驤とおばちゃんたちがくれてね」

 

大阪出身の人達か?

 

「紅茶があればネー」

 

「紅茶は置いてきたのよね。お湯を沸かす余裕なさそうだったし」

 

皆で塩辛いアジに文句を言う。なまじいい旨みが出ているので部分が多いので、その塩辛さ一点だけが勿体無いと言う意見で一致した。続いてのチョコレートバーについても注意するのだが。

 

「確かにこれは甘いけど」

 

「キビシイですネー」

 

「塩辛いからだだ甘くて脂っぽいとか味のジェットコースターか何かかい?」

 

響、金剛、時雨とまあ大体似たような感想でこちらも一致。その上わたしと時雨の前には金属容器に入った燃料が置かれた。

 

「給油ダ」

 

「ああ、艤装がないと直飲みになるのか」

 

妖精たちの言葉に時雨が納得したようなことを言うが、直後にそれを口にしてやはり微妙な顔をしていた。水が残っているうちに持って来てくれたのでマシではあるが。そして残る飴だが、

 

「やはりこうなりますネ」

 

皆ポケットに放り込んだ。見張りの間だったり、長距離を航行中だったり、余りにも退屈な待機中―そんな時に口にするのがいい。銃の整備中に食べるチョコレートバーとかもそんな感じだし。

 

 

 先発は金剛、中破と呼ばれる状態からほとんどの資材をつぎ込んで小破近くまで修復されているそうだ。一部破損していた戦艦砲及び砲塔周りも、M16の金属部を丸ごとぶち込んだとかで急造にしてはすこぶる調子がいい(動作精度が高い)との本人談。やはり砲に銃だった金属など、オカルト的に近い物が有効という事だろう。何故か弾薬は45ACPの方が補給効率が良かったのは、「ハンド・キャノン」と言われたM1911の弾薬だからだろうし。彼女がボート曳航し始めるとそろそろと加速感が皆に伝わる。外から見ればなんともシュールな光景だろうが、「戦艦がボートを引いている」と書くと明らかにオーバースペックになる。

 

 破損気味だった連装砲などもガバメントを大体丸々使ったところで修理できた。今見ればそこだけ物が良さそうに見える木製グリップが手元に戻って来る。コピーなのにグリップだけ本場ものなのかな?操縦席近辺で、響も大体修復できた艤装の調子を確かめている。彼女の武装は連装砲と三連の魚雷発射管だけだ。それを眺めていると、少尉が寄ってきた。

 

「資材モモウナイノデ、防弾盾モ艤装ノ修理ニ使ッタ」

 

わざわざわたしに言ってくるのはどういうことだ?

 

「次ノ出撃ハ許可出来ン」

 

帰るまで海に立つなとのお達しの上、時雨が修理の完了した連装砲を手に甲板に出ていく。響も海を見ていたいという事で、艤装を下ろした後も操縦席の窓に貼りついている。最初は1時間程度で交代しながら様子を見るので、2番手の響も半分待機なのだが、船に乗って移動するというのは艦娘はあまりやらないことではある。ただ休んでいるのはつまらないそうだ。ということで、居住区に電が残っている筈なのだが、

 

「カマエ」

 

少尉殿に促されて居住スペースに降り、ベッドで猫の様に丸まっていた電にひざまくらをする。昨日のことを褒めろ(口に出さなくてもいい)との要請でした。だから電の順番を最後にまわしたのかあんたら。

 

 ごろごろする電を撫でたり、一昼夜過ぎてそろそろ電好みになってきたわたしへのいたずらに制裁を加えたりとしていると、「交代ダー」と違うテンションの妖精さんが降りてくる。多分暇になった時雨付きの妖精さんか。電をベッドに下ろして床に立つと連装砲を手にする。さて、お仕事と言ったところで背に貼りつかれたが、そのまま上に上がる。操縦席に上がって来ると人影がなく、左舷側から外に頭を出したところで少し速度が乱れたのでちょうど曳航も交代したところか。首だけで周りを見ると、速度を落とした金剛が左舷後方に貼りつこうとしているところだった。クルージングボート、プレジャーボートの部類なので後部は多少は海面からでも乗り降りしやすく低くなっているが、それでもやりにくそうである。誤って船体を損傷させない(艤装使用中はFRP等の外装は紙同然)様に慎重に上がって来るのを見て、その辺の補助も必要かと思い当たる。

 

 ところで交代のために出てきたので、当然他の二人にも見られているのだが、電がなかなか離れない。

 

「時雨、交代よ」

 

「ああ、わかった」

 

途中から金剛の補助に回っていた時雨がこちら見て目を丸くする。金剛はほほえましいものを見たとほほえましい表情だ。

 

「重くないデスカー?」

 

ふと思いついた言葉を返した。

 

「艤装なしだと背中がね。重さとしてはちょうどくらいね」

 

「それもそうデスネー」

 

 

 

 

居住スペースにて。

 

「あー、快適デスネー」

 

ベッドに飛び込んだ金剛がそんな感想を吐く。

 

「こんなのに慣れると後が大変だね」

 

「そうデスネー。次の所属でいっそ進言するのも悪くはないデスガ」

 

「船の護衛分を考えると無理だね」

 

「うーん、ザンネン」

 

「ところでちょっと気付いたんだけどさ」

 

「ハイ?」

 

「電、大分小さくない?」

 

 

 

 交代して歩哨に立つと、背中側の電については風切り音や水上走行音で実はよく聞こえない。両腕をわたしの首回りにまわしてがっちり貼りついているからいつも通りだろう、昨晩構ってやれなかったのは確かだし。後部甲板の備え付けの梯子でボートの最上部に上がる。座席はないが手すり等はあり、一応は座り込む程度で滞在スペースとして使える奴だ。停泊状態なら折り畳みベッドでも広げて日光浴をするとかそんなやつだろう。適当に全体を見回すが、特に異常はなく―敵と言う意味で異常はない。ただ、

 

「こちら大井。陸地が見えてきたけど」

 

『私からも見えるよ。台湾か、蘭嶼(らんしょ)島かな』

 

響からも視認できたようだが、さらにその手前の小蘭嶼島の可能性もあるそうだ。

 

「方向が合っていたらね」

 

『補給に寄るかい?』

 

時雨の問いにあいまいな保留を返す。

 

「地理が分からないからなんとも」

 

『マア、様子を見てからデイイデショー』

 

金剛は保留に同意してくれるようだ。考えてみれば3人ともこちらと似たような地域から出てきたわけだから、現在の地理や勢力図は分からないのは当然か。

 

「少し速度を落としながら周囲を探してみましょう。上陸するにしても港がどうなってるか分からないし」

 

曳航が基本なら燃料はあるし。不意の遭遇が怖いだけだ。

 

 

 

 

 それから一応記録上の港を目指そうと、複数回の交代を挟んで台湾自体も見えてきたところで、またわたしと響の組み合わせになった時だ。

 

『味方だ』

 

響が急に通信を入れてきた。

 

『こち・・・ン号、無事・・・嬢ちゃんたち!』

 

ああ、味方というか護衛対象かな。扁平に見えるが規模的にはこちらと同程度の船―高速艇っぽいのがこちらに合流するように近づいてきていた。そろそろ腹をくくるべきかもしれない。




 次話と合わせて遊びのクロスオーバーをする。なお書いていないが船団の方も設定的には(参加輸送業者とかで)大分遊ぶつもり。電のネタをまず一回入れてみた。
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