轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
那覇港。
離脱するチャンスはいくらでもあったと思う。合流した避難民船―正確には難民を乗客として乗せた海運業者の高速魚雷艇も数珠つなぎに曳航して、航海を続けた。最後尾に魚雷艇を接続したのは次の番の担当か、見張りを乗せた上で、「切り離すと艦娘を好きな戦域に投入できる高速艇」または「艦娘の攻撃力(連装砲)を持った高速艇」という代物に化けるためだ。ただまあ、これがいけなかった。乗客は老夫婦。海外協力隊とかを経験したことがあったせいか、海外で農業指導をしながら自前の農園を営んで暮らしていたそうだ。行き来できていた当時は子や孫の顔も見れた。そこでこの戦争である。10年以上、会うこともかなわず、生死さえ分からず。そこへ艦娘を放り込んでみたまえ君。
「茶ぁ、飲むかい」
貴重な水―汲んできたばかりとはいえあと数日、迷えばもっと要る状況で、どうにか積んできたお茶に燃料まで使って茶を勧められる。
「あの、お構いなく」
と遠慮すればまあそう言わずにとさらに勧められるし、
「ワシはもう使わんので、おめえさんにやるわ」
と古いとはいえ明らかに宝飾品の類を押し付けられそうになる。
「いえ、わたしでは似合いませんし、あちらの方の方が」
と運送業者の紅一点(どっかで見た気がする)に反らそうとすれば、
「あーあたしももう貰っちまってるし、他にもプレゼントされちまうと流石にボスに睨まれちまうしなぁ」
と同様に「頂いてしまったブレスレット」を見せてくる始末。
「その、業務中ですので、立場的にこういう物を頂くのはまずいんです」
と、後程ぶっちぎる予定の立場を盾に逃げようとするが、悲しそうな顔をされて結局もっとおとなしめのネックレスで妥協する。電や響などはもうお姫様かと言うようなティアラを被せられて戻って来る程である。流石に子供にやたら高価な物を押し付けるのは気が引けたらしく、ハンドクラフト系の比較的安い物らしいが、近場で入手したという安かったルビーを入れているとか言われて、やっぱり胃に悪い。なお最初の押し付けられそうになった派手なネックレスは、今金剛の首元に納まっている。
「グランマに頂いたデス。仕事中につけるのはこわいデスネー」
皆宝飾品を押し付けられて待機→曳航または見張りではなく、待機→ボートに保管→曳航または見張りと魚雷艇での待機時に余計な手間が発生してしまった。ついでに魚雷艇側で見張りだと頻繁にお茶や飴、ちょっと煮てみた野菜とか勧められて集中できないのも厄介だ。そういう時は業者のスタッフも歩哨に立ってくれたりとフォローはされているが、
「こっちとしちゃ乗客の相手をしてもらってるのが有難いねえ」
と社長の黒人男性に言われる始末。この状況で、「近くまで来たしわたしら脱走するんで、さいなら」…出来るわけねー!
結局半軍港と化した那覇港に到着してしまったのである。艦娘、運送業者との別れを惜しみつつ、老夫婦は記録にあった名前その他から速やかに特定されて一時滞在施設に去って行ったが。
「それでこのネックレス、どうしたらいいネー」
「一応貴重品だと思うけど」
腕輪を渡された時雨も対応が分からずに途方に暮れている。どちらかというとおもちゃに近いティアラをもらったちびっ子達は我関せずに近かったが。
「そのティアラ、鉱山で出た石も入ってるって聞いたから、業者に持ち込むと胃が痛くなるかもよ」
と一応釘を刺して置く。んで運送業者の方を見る。
「ぱっと見悪くない石に見えるからねえ。運ぶのも大変な今だと、いい値段になっちゃいそうだね」
と電子機器担当の白人男性がわたしの思惑通り追い打ちをかけてくれて、ちびっ子達も青くなる。
「ま、もらっちまったもんは仕方ないでしょ。チャンスがあったらお礼でもしに行けばいいさ」
事務員がそういうと、
「お嬢さん方からの要請なら、適正な取り扱いがされるのが前提で、顧客情報の開示くらいはするぜ」
「まあ、そんなところですよね」
社長―大体ボスと呼ばれてる彼の言葉に同意する。
「んじゃあよ、ちょいと気に入らねーけどあんまりうろつくなって話だし、船に戻るか」
細かい話は明日以降のようだし、と紅一点の―何故かその人が護衛のメインだという女性がその場を締めた。
深夜。
ボートの操縦席でまた一緒に眠っていた電とわたしは、示し合わせたように起きる。電は艤装を稼働させずに背負い、わたしは連装砲だけ持つ。他の荷物はなくなったか、もういらない。ゆっくりと甲板に出て、ボートから埠頭に飛び移る。
「電は、皆とはもういい?」
「はい、大井さんは、大丈夫ですか?」
「わたしはそもそも根無し草みたいなものよ」
「電もです」
「電はこれから「帰る」だけでしょ」
全てひそひそと小声で話す。
「そうですね。そうでした」
高速魚雷艇のそばまで行くと、袋に入れたネックレスとティアラを、メモを入れて甲板の艤装の一部に括りつける。もらうには多分高価すぎるし、脱走兵が持っていたら、どんな迷惑がかかるか分からない。
「じゃ、いこっか」
「はい」
埠頭の先まで行こうとしたとき、
「おいおい、そいつは冷たいんじゃないか?」
「まったくだね」
護衛の女性と時雨がコンビで魚雷艇の上に現れた。
「なんで」
「わりいけどよ、これから逃げようって奴はまあ、分かるんだ」
「僕はまあ、話を聞いてたからね。チャンスは今日あたりしかないし、そのままにしようか迷ったんだけど」
「悪い、あたしがちょいと問い詰めてな」
視線が逃げる、そう言われて何となく思い当たった。金剛も響も時雨も、多分アクセサリを貰う時は照れていたのだろう。わたしと電は、多分視線が下に落ちていた。こんなものをもらうのはって感じに。護衛と言うだけのことはある。括りつけた袋を、また投げ返される。
「持ってけよ。悪いが「あんたらの護衛を代金がわり」に、なんて運送依頼は受けられねえし」
「そこまで読まれますか」
メモにはそう書いておいた。
「そいつは嬢ちゃんたちが護衛してくれたことへの、うちの客からの謝礼だ。よその奴の報酬を突っ返す仕事なんて、受けるわけねえだろ」
命の遣り取りをやってたんならそれくらい理解しろ、とも怒られた。かなわないなぁ、プロって奴には。
「あたしからはそれだけだ。じゃあ行きな」
あれ?
「見逃してくれるのです?」
「あたしが問い詰めたって言ったろ。事情がわかってりゃ、「あいつらならもう出発した」って伝えといてやる」
「僕からもね」
ほんとかなわない。
「また会えたら、お酒でも奢りますね」
確約はまあ無理だけど、ありきたりだがさよならは違うって奴。
「期待しないで待ってるぜ」
「楽しみにしておくよ」
電もぺこりを頭を下げる。
そうしてわたしたちは埠頭の端へ
もう振り返ることはなく
暗い海へ
ただ足を踏み出した
「なあ、時雨つったか」
「うん、言ったね」
残った二人はと言うと
「付き合えよ。あれが駄目とは言わねえけどよ、素面じゃどうにもやり切れねえ」
貴重そうなバーボンを取り出して甲板に座る彼女に
「ああ、そうだね。ご相伴にあずかるよ」
時雨も頷くと、同じく座ってガラスの杯を受け取る。
半分に欠けた月が、それを照らしていた。
あとはエピローグで本編は終了の予定。後日談を複数書きたいんで完結タグは多分つけない。キャラ設定とか詰めずに書いていたらレヴィが偉く動いた、視線が逃げるの部類は新谷かおるの「砂の薔薇」で逃亡者は目が逃げるとか書かれているのとか、実際のお巡りさんの不審者は場合によってだが目が逃げるみたいな通説とかで。なお、追跡者は目が追う感じとはやはり「砂の薔薇」より―護衛対象と付近の対象は目で追うレヴィという仕上がりに。あと時雨って立ち回りの渋い役を引き受けそうなイメージがついちゃってる。
サブタイトルの帰還は「日本への帰還」て感じで、電はまだ帰れてないって転生大井の思考がガチで動いたわ。俺そこまで考えてないから。行き当たりばったりなのになんか納まってくの結構怖い。