轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
「それで、いったいどういうことなのかね?」
数日後の取調室、という程ではないが事情聴取である。通常ばらばらに聞くべきであるのだが、業務に圧迫されてか、会議室にまとめて集められていた。担当の兵士、憲兵に金剛たちは答える。
「どうもこうも、いなかった艦娘がまたいなくなった、ということデスネー」
「タウイタウイ第3の電、第4の大井でしょ?沈んだって僕は聞いたよ」
「ではあのボートはなんだ?」
「妖精が運んできたとかだと思うよ、私は」
「こういう状況で埒が明かんのだ。君らは何か知っているかね?」
憲兵の一人が、一緒に事情聴取されている運送業者に聞く。
「それがうちも何が何やらという状況でして」
黒人の大男がしどろもどろとは言わずとも、事態が分からないという顔をしている。
「そもそも戦地から帰還した艦娘が、高価そうな宝飾品を所持しているのも問題があるところだと言うのに」
兵士―というより事務官らしい男の愚痴に、事務員が返事をする。
「あ、それうちの顧客からの謝礼です。ご年配の夫婦の方でして。お孫さんのようなお嬢さん方に、お礼だって渡してましてね」
電子機器担当の白人が続ける。
「我が社としましても、顧客のフォローを手伝って頂きましたもので、証言が必要ならいたしますよ」
そこで護衛の女がとんとん、と経営者の肩を叩く。
「なんだ?」
「あいつらなら昨夜のうちに出発したぜ」
「どういうことだ」
「帰還先が別にある、これ以外は今は言えないってよ。まったく片方装備なしでもそのまま海を行けってやべえ任務じゃね?」
「なんか特殊部隊のやばい部署か?」
「そういうのじゃね?話聞いてりゃ激戦区で船を調達して、ろくな装備もないのに交戦中の味方を支援するわ、あたしらの船もついでに連れ帰るわとか、見た目の割にやることプロじゃね?」
女の言葉に経営者はくるりと事務官に向き直る。
「あー、そういう。すみません、どうも民間業者としましては、踏み込むのも怖い案件に聞こえるのですが」
「うーむ。せめて本来の所属部署くらい分かれば」
タウイタウイ第3、第4の壊滅は情報を確認したので、そうなるとここで扱うには手に余るのは明らかだ。
「そういえばあの時、大井って機関なしで探照灯だけで突っ込んできたよね」
時雨の指摘に金剛が頷く。
「探照灯だけでこちらの砲撃を誘導シタネー」
「そうやって気を自分と私達に引いておいて、後ろから電がズドン、だね」
響の指摘に、まじでやばい部署かも、という勘違いが広がった。そこへいきなりドアがノックされる。
「特務の藤井だ」
白い士官服―提督の制服を着た男が入ってきたうえで、何らかの書類を提示する。
「先日は特務麾下の艦娘が世話になった。無効になった命令だったが、任務の関係上当人達に伝達出来ていなくてな、彼女たちも話せずに現場で混乱しているだろうと考え、正式な指示書と言う形で持ってきたところだ」
まじで特殊部隊だったかとの勘違いが広まった瞬間である。そんな空気も、あの晩の彼女たちには、あまり関係ないことだったが。
電に引かれていくのは三度目だ。一度はあの島での装備回収。二度目はあの夜の戦闘。
「あ、探照灯を忘れたわ」
連装砲を持ったら、あとは電に引いてもらう手しか残らない、だから気が回らなかった。
「知っているのです」
「もう囮なんてさせませんから、いらないのです」
うんうん、と言った感じに艤装の上で妖精が頷いている。
「気付いていて言わないとか、電もやるようになったわねえ」
「大井さんは意地悪ですから、電も少しくらい意地悪を覚えました」
「いいんじゃない?他の子にしなければいいわ」
「そうですか」
沖縄本島はずっと後ろ。月はあっても闇夜はさびしい。
「ねえ」
「なんですか」
電の温かい手を、もっと握っていたかった。
「連装砲、捨てちゃっていいかな」
首にかけた、宝飾品の袋が充分重かった。少しの後、
「そうですね」
電の返事で、右手の力が抜けた。水音は、ずっと後ろに聞こえたと思う。
「大井さんに連装砲は、いらないと思います」
空いた手でも、電の右手を掴む。
「大井さんはもう、戦わなくていいと思うのです」
それでは足りなくて、ゆっくりと電の腕にしがみつこうとした。電が速度を落とすと、わたしは出来るだけ電の右側に身を寄せる。
「わたし、ずるいよね」
「いいんじゃないでしょうか」
ふと、振り返る。白い航跡が、徐々に消えていく。沖縄は、もう見えない。
「この先に行けば、そうしていいと思うのです」
―だってみんな疲れてしまったから―
さみしい海を進んでいった先は、静かな無人島―でなかったのが誤算だったけど。
「なんでなのです?」
電にもちょっと分からないらしい。無人島の筈の場所に、設備らしいものと明かりも見える。彼女の記憶通りの航路を行き島と島の間を抜けて目的の島の浜につくが、港湾設備や宿舎らしい建物、複数の別棟が並んでいる。浜にさらに近づくと、深夜というか午前様にも関わらず二人の艦娘が酒盛りなのか、酒瓶と杯を手に座っていた。
「なにも、なかったはずなのです」
立ち止まっていたわたしたちに気が付いたのか、こっちに来いとばかりに手を振っている。
「まあ、行ってみようか」
近づくと、二人とも同じ艦娘―眼帯をした、天龍というタイプだったか。
「よう、おかえり」
片方がそう口を開いた。
「あの、ここ」
「皆の、避難所で」
電が途切れ途切れに聞くと、もう一人が言葉を返す。
「ああ、オレもそう聞いてるぜ」
「だから「おかえり」だ」
二人とも杯や酒瓶を抱えて立ち上がる。
「結構な長旅だったみたいだな」
「空きはまだあるからよ、ゆっくり休めよ」
二人して宿舎まで案内してくれる。艤装と武器は、玄関で下ろした。
「ねえ、ここって潜水艦の子、いる」
「いるけど、どうした?」
「連装砲、近くに捨ててきちゃったから」
そういうと、両手で握った電の手を示す。
「そっか」
わかった、と彼女が返す。
案内された空き部屋は、すぐに使える様になっていた。
「まあ、色々あるんだろうけど、今夜は名前だけにしとくよ。オレらはここ第13独立艦隊の、天龍だ」
「タウイタウイ第4の、大井です」
「タウイタウイ第3の、電なのです」
電が名乗ると、天龍の片方が電を見つめた。
「そっか、良く帰ってきたな、電。お疲れ」
―ちゃんと帰る場所だったじゃない。
明日適当に起こしに来る、そう言って二人の天龍は行ってしまった。
「電、もう寝ましょう?」
「はい」
宝飾品の袋は近くの机に放りだして、着たきり雀だった制服も全部脱いだ。たたみもせずに放ったらかしてベッドに座る。遅れて電も全部脱いで、前みたいに、向かい合って横になった。
「良さそうなところじゃない」
「ごめんなさい」
「なんで謝るの」
ここはいい所だろう。いなくなった電のことを覚えていてくれたから。それでも、電は泣いて謝り続けた。抱きしめてあげるくらいしか出来ないのが残念なところだ。
「大丈夫、明日からきっと楽しい日になるから」
彼女が泣き止むまで起きていたことは覚えている。その後は、随分と安心して眠れたはずだ。
ちょっと舞台装置として別SSのキャラ使い過ぎですが、元々電と帰還先を別SSから持ってきてますので、物語を一度閉じるにしても必要なキャラを使うってとこです。後日談とその晩の話、とひっくり返してあるので分かりにくい構成になっていますが、その方がいいと個人的に思ってそうしてます。電の「ごめんなさい」については、書かなくていいよね?
電の未回収のネタについては、また後日談あたりで。