轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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13.後日談1 事後処理

 避難所。

 

ガチの脱走兵の溜まり場だったのだが、ある時始まった「綱紀粛正」により、鎮守府として運用されるようになったとか。ただし、艦娘しかいない。正直記憶にもないレベルなのだが、以前の基地、もとい鎮守府も「提督」がいたはずだが、ここにはそれがいない。その代りに、目の前の艦娘―天龍が「提督代行」をやっているとのこと。「提督代行」だと殊更に強調された。

 

 少々日が高くなったぐらいに起こされ、浴場への案内を兼ねたシャワーを終えると、別棟の執務室にて作り置きのおにぎりでの食事。それが済んでからの報告のお時間である。もっともその前にひと悶着あったが。

 

「おい、大丈夫か」

 

「?」

 

天龍に声を掛けられるまで、わたしは自分が泣いていることに気付かなかった。銀シャリの威力は絶大で、前世とか艦娘とか以前に日本人であることを再確認できた。

 

 

 

「書式だのなんだの難しく考えなくていい、まあ書けるだけ書いてみてくれ」

 

執務室に置かれてはいるが、応接用と思われるやや高めっぽいソファと同仕様のテーブルでの作業である。先程までの軽食セットは脇に追いやられ、適当な事務用マットにレポート用紙と、どうにもソファ・テーブルが用途外っぽい。どっちにせよやらないとどうしようもないので、顛末を可能な限り詳しく記述していく。曖昧になってる前の鎮守府のことは―金剛はいたし北上さんを含む何人かは逃がせたから、それくらいでいいかと、漂着後をメインに書いていく。流石に物資の数量などは覚えていないが、経緯はかなり覚えていた。隣に座った電も書いているし、内容を突き合せれば大分正確になるんじゃないかとは思う。ただし、内容の確認は向こうがやるから、口裏を合わせるみたいなことはするなとも言われたが。ほぼ脱走の件は聞いてみるが、

 

「いや、オレ逃がしてた側だし、そういう経緯でここ出来たからな」

 

細かいことは上がやるそうだ。適当に休憩を挟みつつ2時間ほどで書き終わる。ちらりと天龍の方を見れば、積まれた書類を確認中で、管理者というのは本当のようだ。自分の報告書もどきを彼女に渡すと、天龍は途中だった書類を脇へ置いてそちらから読み始めた。ただしいきなり最後の方から。

 

「対外的には問題になりそうだからな」

 

そういうと斜め読みに近いレベルで用紙をめくり、手元のPCでおそらく書類の作成を行う。さらにはいずこかに通信を始めた。

 

「13艦隊の天龍だ。大将、今いいか?」

 

野太い感じの男性の声が返ってくる。

 

『こちらは問題ないが、どうした?』

 

「事後報告で悪いが、所属先の消えちまったのを、二人こっちで引き取ったんで。一人は前にもここにいたんで、戦死報告の取り消しと、あと那覇で騒ぎになってそうなんで特務経由でその処理を頼みたいんだ」

 

『那覇港の軍管区で艦娘が脱走したというあれか』

 

「舞鶴にいるのに話が早いな」

 

『鎮守府運営の監視はさほど緩んではいないのでな。しかしいきなり脱走は穏やかではないな』

 

「戦死扱いだった電が帰ってくれてよ。ただ鎮守府設立前の情報のまま動いてたから、ここは極秘拠点ってわけだ」

 

『確かにそれでは騒ぎにもなるか』

 

「正式なのは後日ってことで、概略のデータを…今送った」

 

少し、間が開く。

 

『今、確認した。特務には俺から上げるが、先に那覇を片付けるのでな、詳報は後でも構わん』

 

「直接かよ」

 

『こういうのは意味深な所属に、一応は正式な書面で殴りつけんと治まらんものだ』

 

その後は世間話もどきの遣り取りと提督をよこせなどの愚痴やらで通信は終わった。電も報告書もどきを書き終えたのか、すかさず天龍にそれを渡す。

 

「んじゃちょいと待っててくれ」

 

あとで差し障りのない内容にまとめるとのことだが、詳しく聞くこともあるかもしれないので、と待機を指示される。途中ボートのことも聞かれたり実質非武装で海上に立ったことも再確認されたので、そこまでひどく読み飛ばしている訳でもないのはわかるが、それでも見落とされたらしいことに気付いて声をかける。

 

「それより前の部分に書いておいたけど、電の治療、お願いします」

 

ん?と彼女が用紙を戻す。

 

「ん、ああ。あとで明石のところにも行くから、そん時にだな」

 

該当部を確認したようだが、妙に軽い反応に少しイラつく。

 

「カリカリすんなって。吹っ飛んだってきれいさっぱり「直っちまう」から、気にするだけ無駄だぜ」

 

そういうと彼女は右手でくるくるとペンを回して見せた。2本目だぜ、という言葉を理解するのに時間が―えらく時間がかかってから唖然とする。

 

「非武装で突っ込んでく割にはまっとうな感覚で助かるな。あと、電」

 

ペンを置いてひょいひょいと手招きをする。電はというと、すぐには動かず隣に座る私の方に首を傾げた。それに少しおかしなものを覚えるが、背をぽんと叩くとそそくさと執務机の方へと立ち歩く。

 

「こいつを返しておく」

 

天龍が出してきたのはジップロックに封入されたドッグタグだった。そういえば電を剥いた時にチェーンの切れ端が落ちたが、これのチェーンか。大した反応もせずにただそれを受け取ると、レポートを書いていた時よりもわたしの方に寄って電は座った。またしばらく報告書を読んでいる天龍だが、途中で何度か同じ部分を確認し始め、急にわたし達の方を見る。

 

「何?」

 

少しすると何も、と返事をするとともに、報告書もどきをひとまとめにして「処理中」の箱に入れた。

 

「それじゃ、工廠に行くとするか」

 

別に置いてあった書類ケースを手に持つとそう天龍は宣言する。軽食セットはあとで片付けるからそのままでいいとのことだ。

 

 

 

 真新しい艤装―改ではあるが大井の場合は重雷装艦という別艦種になるらしいーそのどこが違うのかよく分からない艤装を背負う。責任者の天龍からの又聞きの知識によれば、艦種が変わるにしても改装をすることで、耐久性・装備可能数及び各ステータスが向上するので死にたくないならやるべきだそうだ。言ってることがまるでゲームのそれだが。

 

「つーかお前は絶対やっとかねえとまずいしな。いくらオレでも機関なしの丸腰なんてやらねーぞ」

 

彼女の聞き及んでいる話では、素の状態でも多少はマシになると。

 

「あれは状況が」

 

「囮のつもりなのはわかるが、提督適性で機関なしってことは最優先殺害対象の「人間」に認識されただけだぞ」

 

「提督適性?」

 

「艦娘自体建造と志願兵で構成されてるがな、提督としての適性が高い奴がどっちにも混じるんだってよ」

 

「指揮とか作戦立案能力とかが高いってこと?」

 

「艦娘と妖精がどれだけ言うこと聞いてくれるかってことらしい」

 

そういうと、天龍は小声で囁く。

 

「具体的な例を挙げるとだな、お前とつるんでる電、多分お前が命令したらそれを優先する」

 

「自分だけの戦力を抱えうる適性、でいい?」

 

執務室でのあれはわたしの許可を待ったのか。ただ執着か依存対象になっているだけかと思っていた。

 

「そんな感じだな。艦娘も相手を選ぶしな」

 

軍の指揮系統も無視する可能性が高く、可能な限り現状の命令系統の把握と調整をするのが、最近の大本営の主業務だとか。

 

「ところでこれ、主兵装が魚雷しかないけど、撃ち尽くしたら投棄していい?」

 

「ミサイルポッドみたいな扱いはやめてくれ。懐に響く」

 

「ちょっと他の武器も見たいんだけど」

 

「ああ、明石」

 

彼女が声をかけると、電の診察―作業服で診察も何もないと思うが―をしているピンクの髪の艦娘が、こちらを向く。工作艦の明石であるから艦を診れるということなのだが、違和感を拭えない。

 

「そうですねえ。整備済みなのはこの辺ですけど、大井さんだと変更出来るのは脚に装備している二つだけだと思いますよ」

 

「それって?」

 

「その単装砲と左腕の魚雷は、置いていくことも出来ますが、それと入れ替えて違う装備をもっても上手く機能しないことが多いんです。艦によって違いますけど固定装備らしくて」

 

「あとその単装砲な、収納してみな」

 

何のことだ?という顔をすると天龍は空手のまま、刀を鞘から抜くような動作を行う。柄から現れたそれは、妙にサバイバルナイフチックな意匠だったりしたものの、刀剣の類だった。

 

「こんな風にな、少しくらいは隠し持てるわけだ」

 

言われて単装砲を収納しようとするが、全く反応しない。思考―ダメ。右腰のホルスターに収める様に―ダメ。マウントラッチでもあるかのように腰の後ろに―艤装に当たるだけ。

 

「魚雷か―」

 

左腕の四連装酸素魚雷発射管しか反応しませんでした。出現させる時のイメージは袖口の小型オートをギミックで手元に出す感じなので、腕の外側に出てきてちぐはぐ。

 

「いちいち動作がハンドガンっぽいな」

 

「別にいいでしょ!」

 

なお銃器類は私物で持てるとのこと。

 

「それじゃまあ、微調整やらもまたあるだろうから装備は全部置いて行ってくれ」

 

「魚雷も?」

 

「頼む。酒の席で持ち出されるとか考えたくもねえ」

 

そういう事態を想定して、食堂の一部の壁は装甲入りだとかで、それならと懸案事項を減らすのに協力する。電の診察はまだかかるとのことで、しばらくその辺をぶらつくことにした。

 

 

 

 

 大井が工廠の外へと歩いて行くと、天龍は明石と電の方へと向き直る。

 

「それで、どうだ」

 

「どうもこうも、電は大丈夫なのです」

 

「そうですねー。表面上は入渠で「直る」と思いますが」

 

「やっぱり一度沈んでるのが響いてるか?」

 

「何度か受けた研修での事例と同様なんでそれもあるんですが、なんか妙な感じなんですよね」

 

本土で精密検査、受けた方がいい、と明石は結論を出す。

 

「そういうことなら大井も受けさせた方がいいな」

 

「大井さんもですか」

 

あいつも沈んでるからなー、との発言に良く生きてますねと実も蓋もない返事をする明石。

 

「もう、行っていいのですね」

 

電の確認に、天龍は少しだけ彼女を引き留めた。

 

「ああ、それとだ」

 

「はい?」

 

「あそこまで詳しく書かなくていいからな。正式な報告書じゃ削っておくぞ」

 

そう伝えてから天龍は、電の耳元で囁く―少なくともオレは取ったりしねえから、安心しな、と。それだけ言うと、もう行けとばかりに電の肩を叩いた。電はと言うと、一気に関心を失くしたかのように背を向けて出て行ってしまった。

 

「仕事を割り振れそうな相手は見つかったにせよ、命令系統ぐちゃぐちゃじゃねーか」

 

「何を書いたんです?あの子」

 

「情事にもならねえおままごとをな。大井は自分のだって言いたいんだろう」

 

「「提督はわたしのだ」って言った方が伝わりやすい気がしますけど」

 

「まあ、そういう意味だな」

 

 

 

 

 

 時計はあまり注視していなかったが、今は午後だろうし太陽からして2時か3時か?適当に周りを歩いてみたものの、海側に降りていくと見るとしたら狭い砂浜があるくらい。コンクリート製の桟橋やら港湾設備はあとで飽きる程見ることになるだろうし、他の―食堂などもあとでまた案内してくれるだろう。海から先の視界に入る島々には、今は行く気にならない。艤装なしで歩くのはもうやめたいし。工廠か宿舎に戻ろうかというところで、複数の艦娘が目に入った。遠征か、戦闘か、運よく誰も負傷はしていないようだ。

 

「鎮守府として運用されてれば当然よね…」

 

それだけ呟いておしまいのはずだった。宿舎から走ってきたらしい艦娘に気付いたせいで、また桟橋の方に向いてしまったから。そのせいで、あの人を見つけてしまった。手は自然にそちらの方へ。その姿を見た時にもう口は開いて、

 

「北か・・・」

 

でも、そこで声が止まってしまった。言いたかったこととか、伝えたかったこととか、聞かせたかったことが、きっと「大井」にはきっとあっただろうに。宿舎から走ってきてまで迎えに出た「わたし」がそこにいたから。北上さんだって、わたしの北上さんじゃないかもしれないし。楽しそうに何かを言い合う二人―いや、どこからか出てきたもう一人が加わって三人になって―三人を見て、そんな言い訳を心の中に浮かべていた。両側から詰め寄られて真っ赤になっている「わたし」。きっといつものように連れ立って、宿舎の方へ歩いて行ってしまう三人に、伸ばした手を、下ろしてしまう。服越しに温かい感触が背に当たる。

 

「電が、いるのです」

 

握り込んだ拳。

 

噛みしめた唇。

 

涙は、流さなかったと思う。きっと大井は、電を無視した。「わたし」は、電に、声を返せなかった。




 大まかな部分はキャラが勝手に動く感じなのは有難いけど、勝手に曇ってくの何とかならんもんか。あと電の執着レベル上がった気がする。思いついた設定もどきとか、整合性がしっちゃかめっちゃかになりそうなのがネック。
 だけど細部には手間と時間がかかるし、かかった。
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