轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
休暇だ。ぶっちゃけ検査やらなにやら色々あってまだ出撃は駄目だということになった療養休暇である。何分記録上も記憶上も轟沈ということになっていたのだ。ここの明石さんの複数回の診察受けて、その結果及び報告書もどきから作られた顛末書を本土に送ったら、本土の専門部書の工作艦及び医務官による診察が必要と無期限出撃停止命令が返ってきたのである。まあ自分から潜水・沈没をやった馬鹿だから仕方ないか。検査日程自体は未定である。
栗色の髪を梳る。櫛の通りがとても良くて、意味があるのかこれ?と思うが入渠の効果らしい。買った意味がなかったか、とシーツの上に転がるヘアミストを見る。これも櫛も、確認出来る軍歴分は支給された給料が出所だ。もちろん、無香料という触れ込みの製品を選んだ。
電がモゾモゾと身じろぎするので、櫛もベッドに放り出すと、抱え込むようにして彼女がお気に入りの枕を堪能させてやる。戦艦とか正規空母(?)勢と比べれば「最近のお気に入り」程度のサイズだろうが、わたしの我が儘に付き合ってもらっているのだしこれくらいの甘やかしもいいだろう。
鼻息の強い電の右腕をとると、上腕から肘辺りまでを何度も撫でた。引っかかりもなく手のひらは滑る。無造作に右肩越しに覗き込むと、彼女のおなかを抱えた左腕をずらして、右脇腹を確認する。やはり見た目はもう傷一つなく、指先で確認しても引っかかりやくぼみもない。
「大井さんは気にしすぎなのです」
逆にあんたは無頓着すぎる、といいたくもなるが、綺麗さっぱり消えているのは事実なので如何ともし難い。長期的に残る傷というのもあるそうだが、艦娘であるならどうにかなってしまう。
腕の中で彼女が身をひねると、上体をベッドの上に倒された。電の頭が視界に寄ってくると、スポーツブラの繊維の感触とともに体の重みで胸をつぶされる。彼女的には「肉枕」を楽しむ時間は終わりのようで、わたしの首元や耳元に顔を寄せるので忙しいようだ。
―ショーツ一丁で相手をしてやるのはいささかやり過ぎだったか
これまでを考えれば今更、とも思うし、引き篭もるわたしに付き合わせているのは事実なので好きにさせている。匂いへの執着の悪化を手伝っているようなものだが、わたしにだけ執着している訳ではないのもあるし。天龍に正面からぶつかったのは絶対わざとだろう。抱え込んだ方が多分、まわりの被害は少ない。
「やたらと嗅ぎにいくの、やめなさいよ」
するりと電の手が耳元に滑り込むと、こっちを向いて電の頭がわたしと並ぶ。右腕が彼女の左手で叩かれたので、腕を曲げて互いの手のひらを絡ませてやる。日の高い内にするような「お肌の触れ合い」ではないが、わたしたちの間では普通になってしまった。こっから先には進まないし。
「天龍さんは煙かったです」
やっぱり嗅いでやがったかこのガキ。ゲンコをくれようにも両手の自由が効かないところで、追い打ちを喰らった。
「浮気者は放置でいいと思うのです」
「浮気ってあんたねえ」
引き篭もっている理由は、今のわたしのまま北上さんに会いたくないためだ。昨日は、言い訳までして自分を抑えたが、あの人がわたしのー唇を奪った当人だと言うことは半々とはいえ直感的にわかっている。
「忘れてくれていた方がいい、ではなかったのですか」
「当の本人に会えるなんて想定外よ」
生き残った当人が、別の「わたし」を違う自分とシェアしてるっぽいのも、混乱に拍車をかけている。そこまではじける要因になったかも、と思うと、どんな顔をして会ったものやら。
「やっぱりわるいひとです」
ん、と電を見る。
「帰る気はなかった、ってひどいことを言ってるのですよ」
んーと生返事もどきをしながら、左腕で電の頭を抱える。
「理解できないかもしれないけど、わたしは二度目だからね」
だからあんたは、一度目の今を楽しみなさい、と煙に巻く。
「言われなくても、そうするのです」
情事というほど溺れるでもなく、ガールズトークにしては生々しい。この子ともえらくおかしな関係になってしまったものだ。抱えた腕の中で電の頭がもぞもぞ動くと、左頬に柔らかい感触が当たる。
「そっから先はとっときなさい」
と注意した直後の動きは斜め上だが。濡れた感触が頬に当たる。
「おい」
頬にキスまでは分かるが、舐めるまでするか。
「いい匂いがするなら、おいしいかと思ったのです」
「あんたがわたしに何を求めてるか分からなくなったわ」
どこまで許すかというところでノックの音が響く。逃げようとする電を抱え込むとどうぞ、と返事をした。
「失礼します、てお取込み中!?」
電よりは年齢的に上に見える駆逐艦の子が目を丸くしている。電は電でジタバタしているが、どうもこの子がわたしにひっつくのを見せつけるのと、逆にそれに羞恥心を覚える状況の違いが分からん。
「ふて寝に付き合ってもらってる程度のことだから、気にしないで」
通じるとも思えないが適当な弁明を述べて置く。相手はというとそれで納得するかのように目元がもとに―もとに戻ったのか?というぐらいに睨んでいるかのような目付きになる。
「えーと、電の検査をまたやりたいってことなんで、とりあえず離してあげてください」
「明石さんのところよね?」
はい、と駆逐艦―確か吹雪とかその辺のタイプの子は返事をする。電はと言うと、こっちが手も腕も解いたのに、どうもわたしから離れない。
「電、準備していきなさい」
もう一回わたしの頬に唇を押し付けると、電は放ったらかしだった制服をいそいそと着て出ていく。
「ああ、またわからなくなったわこれ」
体を起こして見送りながら、つい言葉にしたところに吹雪が口を挟んだ。
「多分独占欲じゃないかな。僕に見せ付けてもあまり意味はないんだけど」
目付きは妙に悪いままだが声は平静だ。
「吹雪、で合ってる?」
「ああ、うん。他の吹雪とは大分違うけどね」
記憶というか、大井の認識にある吹雪とはずれが大きい。
「天龍さんに同類だから会っとけ、って言われてさ」
同類、ということは他の艦娘を抱え込めるわけか。ということは。
「あの子、あんたを指揮官かただの艦娘か判断に迷った感じかしらね」
もしかすると、上位者か第三者相手では羞恥心が先に、同格相手には独占欲が前面に出る具合か?
「そうかもね」
口にした推測に、たいして興味もないという感じに返事をする吹雪。
「ところでさ、そろそろ食堂とかにも顔出しといた方がいいと思うよ」
そう言われるとぐうの音も出ない。
「修羅場になるとしても早い方が、傷も浅くなるし」
「修羅場前提なわけ?!」
「だって大井さんだし」
「いくらなんでも風評被害もいいとこよ」
「二人の北上さんを大井さんで一人占めしちゃってる形だし」
実態は囲われちゃってる感じだけど、という言葉より先ににぐぎぎ、と歯ぎしりが漏れる。確かに突っかかっていきそうな衝動が出てきてやばい。
「それじゃ、僕はこれで」
あんまり長居すると如月に嫉妬されそうだしね、と愚痴なのか釘差しなのかよくわからない言葉と共に吹雪は出て行く。
「少し、歩くか」
気持ちの整理はついていないが、このまま電が戻るのを待つのも深みにはまるだけっぽいし。性癖はともかく全肯定幼女とか、多分中毒性高い。そもそもこの間までの吊り橋効果分含めても、さっきまで好きにさせてた時点でわたしも頭沸いてるわ。
結局することもなく、敷地内のベンチで海や周りの島を眺めている。ぼーっとしていると下らない事―大井にとっては最重要課題が頭の中をぐるぐるして結構駄目だわ。
「ごめん」
誰に言うでもなく、謝った。いや、謝った相手は自分―「大井」だ。結局「帰りたい」の根源は「北上さんに会いたい」だったのに。帰ってきた「わたし」は、大井を止めてしまった。
「帰るの、遅すぎたかな」
彼女にとってもう死んだ女だ。今更生きてましたなんて、無理があるか。
「あー疲れた。ただいまー」
思考の沼にはまったところで不意打ちを喰らった。遠征か、別種の任務にしても帰還時間は大体決まっているものだ。時間感覚が狂ったままで認識できていなかった。そういえば時計も買ってない。
「お、おかえりなさい、北上さん」
動揺したままだったが、どうにか返事はできた。
「ごめーん、ひざ借りるねー」
潮の香りが強いままの北上さんが、左からわたしの上で横になる。本当に久しぶりの感触だ。
「あー、くつろげるー」
前はそんな言葉を吐く余裕もなかったよね。
「あれ?」
目を閉じていた北上さんがすぐに目を開く。
「大井っち?」
なんですぐ気付いちゃうかなぁ。
「はい」
「大井っち、なんだよね」
「ええ、どうしました、北上さん」
「だって、大井っちは」
青い顔で起き上がろうとするのを、押さえてまた膝の上で寝かせる。
「ここに、いますよ」
北上さんのひたいに手をやると、ゆっくりと前髪をすく。
「あたし、置いてったんだよ」
「わたしが置いて行かせたんですよ」
「でも、手を伸ばせたんだ」
「それだと二人で、ううん、みんな沈んでました」
「だけど!」
もう、北上さんってば、うっざい。なおも身を起こそうとしてきたので、
「北上さん、うるさい」
ちょうどいい高さだったから、口、ふさいじゃった。こう、上体を起こす北上さんの左脇に右腕を入れて右手で頭を、北上さんの右上腕を引きあげるように左手で押さえちゃって。「大井」も大分我慢させちゃったし、「わたし」にはあとで謝ることにして、膝とか背中を貸してきた役得ってことでいいでしょ。続きは我慢するから。柔らかい感触を少しだけ堪能すると、名残惜しいが唇を離す。かはっと互いに息を吐くと、大人しくなった北上さんをまたゆっくりと膝に押しつける。
「それじゃ、今のでちゃらということで」
両肩を押さえながら寝かしつけたので、こちらに伸びようとする手も押さえられる。
「大井…ち」
ただのキスだったつもりなんだけど、なんでだらしなく口を開けてるんだか、この人は。
「帰って、きたんだか「だめです」」
ちょうど時間切れだし。
「北上さん!?」
「わたし」なんだからそりゃ探しにくる。手招きすると有無を言わせず「交代!」と宣言、右隣に座らせた「わたし」の膝の上に北上さんの上体を載せると、下半身側を強引に持ち上げてベンチから脱け出す。
「それじゃごゆっくり」
崩れた敬礼と一緒にそれだけ告げると、その場を逃げ出した。宿舎に戻る途中で「もう一人の北上さん」に会うのは罠もいいところだ。
「おかえりー。わたしは見つかった?」
「二人とも砂浜そばのベンチにいますよ」
言外に初対面と人違いの意図も込めて伝えたが、相手が悪かった。
「んんん?」
通りすぎる前に距離を詰められる。北上さんは大体距離が近い。
「通達、なかったけど新人かー」
微妙に宿舎の外壁に追い込まれている感じで、ぬけるタイミングが掴めない。
「やっぱりまともな大井っち相手だと気楽でいいね」
「どれだけイカれたわたしに会われたか分かりませんけど、やたら寄られるとそれはそれで辛いんですが」
北上さんは大井特効とか補正入ってる気がする、さっき我慢して戻って来たにしても、動悸の加速がマジパナい。
「あー、わたしが特異個体ってやつもあるか」
そういうとぽん、と眼前の彼女は履いているショートパンツ叩く。スカートじゃない?
「よそだとねー、変な夢見てたと思ったら上に乗られてたとかまであったからねー」
夜這いまでやるか、大井は。
「それは災難で…?」
なんとなくその可能性に思い当たり、つい口にした。
「すみません、離れてください」
「おお?」
「せっかく「わたし」の顔を立てて昔馴染みの北上さんから逃げて来たところなんですよ」
「ここで北上さんに転んじゃったら、ただの馬鹿じゃないですか」
「あー「わたし」の知ってる大井っちかー。馬鹿やると「わたし」と殺し合いまで行くかなー」
「3人で仲良くやってるんじゃないですか?」
「うん、ヤってるよ?その分話すことは全部ぶちまけてるからねえ。知ってて「先に」大井っち食べちゃったら流石に切り落とされると思う」
やっぱりついてるんか。あと北上さんの言動が兵隊的に軽いのは前々からだが、意味合いが明らかにそっちで口にされるのもちょっと精神的にきつい。
「それでは、北上さんが魚雷でオカマを掘られないうちに退散しますね」
「ちょっとそれどっちの意味でもきついんだけど」
「いえ、会話に夢中でお気付きでないようですが、うちの駆逐艦が真後ろですので」
わたしの指摘にひえっと声をあげて北上さんが飛び退く。ハイライト消して誰かの後ろに立つのは怖いから止めてよね、電ってばさ。ほら、班長も処ス?とか焚き付けない。
「それでは失礼しますね」
「ああ、うん」
北上さんを威嚇する電を引きずって宿舎に入る。
「駆逐艦の護衛付きかー。ちょっと手強いかなー」
頼むから聞こえるように言わないでくださいよ、北上さん。で、夕食までまた部屋で暇つぶしと言う名のご機嫌取りの膝枕に終始したわけなんだけど。
「他の女(ひと)のにおいがするのです」
ハイライトなしで嗅がれ続けるのって拷問じゃない?艦種格下げされた上でNice Boatされそうな状況なんですがねえ、これ。オメエモ罪作リナ女ダナって班長の発言がつらいです。あとその、多分北上さんにあれやこれやした時のと、詰められた時のがその、色々あって、出来ればすこーし、ほんのすこーしだけ着替えたいと言うか履き替えたいとかあったけど、それも出来なさそうなのがつらい。大井って不便だなマジで!
さて、夕食なのだが。離島ではあるが食材の供給はなかなか潤沢らしく、また食材が無駄になることはまずないので(艦娘の大食い勢はガチで食い尽くす)、そこそこにメニューが多い。各種そばに複数の定食、カレーにデザートと、引きこもっていたのは間違いだったかと今更後悔する。おまけに自動販売機まであり、各種清涼飲料水が並んでいる。なお、今日のデザートはオーソドックスなプリンだ。
「デザートは一人一個までですよ?」
スイーツパーティーをしたけりゃ娑婆で給料全額ぶちこめ、と言外に込められたような気がして(被害妄想)、がっくりと肩を落とす。(記憶違いでなければ)鳳翔さんからB定食の肉の入ったチンジャオロースーをご飯大盛りで受取り、席に着く。何故か後ろでパインサラダとかないか聞いている電は戻って来るまで無視する。もちろんわたしも電もデザートのプリンは確保済みだ。時間限定の購買エリアに菓子類も置いてあるが、基本一種一個までの立て札が実情を知らせてくる、恐らく導入当初の殺到などで作られたルールだろう。ぱっと見注文用紙のような物も置いてあるので、量が欲しけりゃ箱で注文しろということだ。
「ここ、いいかな」
箸をつける前に正面に人が来る、基本断る理由はない。
「どうぞ、北上さん」
真正面に北上さん、右隣に「わたし」、さらにその隣に多分宿舎そばで会った方の北上さんだ。トラブルの種かもしれないが断る理由もないし、わたしの右隣の電の正面が「わたし」になったのでいくらかマシになるか?修羅場は避けたいけど大丈夫かなー。ところで電が前とこっちをきょろきょろと見比べている。それと「わたし」からの圧も強いか?なお北上さん'sのメニューは豚生姜炒め(キャベツ山盛り)定食でご飯マシマシの+αって感じで、やっぱり実働部隊か、という感想が出る。大井のはと言うとそこまで量はないが、こっちよりもご飯が少ないのはなんか変な見栄を張っているのかと勘ぐってしまう。電はわたしと同じでチンジャオロースーでやっぱりご飯マシマシだ。誰ともなくいただきますと言い始めて箸をつける。
なにこれ、おいしい。
そう認識したあと、箸が止まらない。どこぞの賞金稼ぎのことが頭に浮かんでチンジャオロースーにしてしまったが、心配していた油っぽさもそこまで感じない。時折話しかけられているのを認識はしているが、相槌がいいところで返事の余裕なく箸を動かしている。味噌汁の豆腐とわかめもいつぶりだろうとただただ口に含み続ける。気付けばご飯が残った状態で皿もお椀もほぼ空になってしまった、しまった、ペース配分を間違えた。そのご飯も片付けると言う意識はない。実際、空になったところで「終わってしまった」という気持ちにしかならなかった。実のところ腹いっぱいなのだが、目の前に出されたらそのまま食べ続ける自信はあった。多分吐くまで食べてると思う。電も食べ終わったのか膨らんだお腹をさすっているのだが、汚れた心で見てしまうと違う物が思い起こされてよろしくない。
「それでさぁ」
先程から声をかけてくる北上さんに適当に返事をしていたが、そろそろ限界である。視界に入る「わたし」の圧などとっくになくなってて、消え入りそうな真っ白な無表情だ。空とはいえ食器類を倒さないよう、そっとトレーを横にずらすと、
「北上さん」
「なにぃっ!?」
一気に身を乗り出して両手で頭を掴み、真横に向かせる。
「声をかける先が違うでしょうが!」
「いくら北上さんと言えど、「わたし」を無視してわたしに声をかけ続ける所業は許せません!」
青白い顔のわたしをやっと認識したのか、
「あ、れ、大井っち?今わたし大井っちと、あれ?」
まさか舞い上がっててわたしの区別がついてなかったとか言わないよな。
「北上さん…わたし、いらないですか?」
やっべ、フォロー一歩遅かった!?北上さんが慌てて虚無ってるわたしを抱き締める。
「二人目より一人目の方がいいですか?」
「違うよ大井っち、わたしは大井っちが帰って来てくれて嬉しかっただけで!あれ?」
「いやー、助かったよー。なし崩しで割り込んだ「二人目の北上」だとフォローし切れなくってさあ」
視界の端でそれは見えたので、あれだけ夢中になっていながら実のところご飯に集中は出来ていない。集中してたら昨日のおにぎりと同様にまた泣いてるだろう
「現在進行形で北上さんがまた地雷踏み抜いてるんですけど」
「ここに、来るまで、北上さんに会ったことはありませんよ」
「待って、大井っちは、えと。確か、戦艦の砲撃で」
あれ、わたし魚雷でやられた筈?
「あ、違う、中破したまま出撃して、帰ってこなくて」
やばいと思って席を立ち反対側にまわる。
「いや、逃げてって沈みかけてて、それでわたしが」
「ここにいます!」
声をかけながら「わたし」と視線を合わせると、意図を理解した「わたし」と一緒に両側から北上さんを抱き締める。
「思ってた修羅場より大惨事になってない?」
「北上の方が重症とか想定外だったわ」
「収拾つくのか、これ」
騒ぎに吹雪と天龍'sが寄ってくる。
「とりあえず北上はしばらく療養休暇にして」
「いや、それよりこの状況何とかしてほしいんだけど」
悠長に出撃ローテの話をしだす天龍'sにともかくこの晒し者を状態をどうにかしろと訴えるが、
「とりあえずお前ら二人で慰めてどうにかなんね?」
「いやです!」
向かいの「わたし」は、ガチで自分の立場が無くなるのを危惧して即座に拒否する。
「せっかく身を引いたのに相手してやれとか勘弁してよ!なし崩しでいけるって欲が出ちゃうでしょうが!」
こっちもそこまで執着していなかったのは前からだ。それにかわいいお嬢さんの相手だけならともかく、覚悟も決まってないのに腹の中にぶち込まれるのも自動的についてくる関係に混ざれとか勘弁してほしいし。あと電のハイライトがまた消えてるからそっちも何とかしてくれ。
「んー、寂しい時は抱いてくれる奴が居りゃ何とかなるってくらいしかオレも分かんねーしな。カウンセラーは要請しとくから、」
「わたしは仲間外れかー」
「流石にお前の相手までしろとか言ったらオレただの外道じゃん」
「ちょっと天龍、混ざったら結局そっちの北上さんの相手までする羽目になるってわかってる?」
さんづけだったのを取っ払って声を掛けたら、ああ、と今更気づいたように頷く天龍。
「すまん、オレも頭回ってなかったわ」
「だからお前色ボケしすぎだろ!」
天龍が天龍に突っ込まれてる。わたしと電の事もあるし、結局医務官とカウンセラーの派遣要請をする結論となって、元のグループで分かれて部屋に戻された。
靴を放り出すとだあー、と意味不明の声を上げてベッドにうつ伏せになる。行儀もへったくれもないがいっぱいいっぱいだ。少しだけシーツの中で暗闇を堪能した後、ごろりと仰向けになったのだが、柔らかい感触とともにまた暗くなる。右肩やら胸やらに電の上体が斜めに乗っかってるのは分かるのだが。柔らかさと荷重が離れると同時にはあ、とため息を吐く。
「あなたねえ、こんな相手にせっかくの唇を使うなっての」
「わたしのです」
即座に宣言される。ミスったかな、昼間のキスを見られていたかも。
「仕方ネエダロ、オ嬢ニハアンタシカイネエンダカラ」
いつの間にか机の上にいた班長に枕を投げる。いくら電付きの連中とはいえデバカメは不許可だ。投げた枕は班長はおろか、置きっぱなしだった宝飾品の袋にも当たらず、その向こうの壁に当たって床に落ちる。いたはずの班長の姿はどこにもない。あいつら物理的な方法以外でも移動するのか?
「ああ、もう」
どうせ見られてるんなら開き直ってもいいか、とばかりに電を抱き寄せるが、妖精がそばにいると認識したのかさっきの勢いはどこへやら、真っ赤な顔で縮こまっている。
「少尉!いる?!しばらく誰も近づけないで!」
虚空に声が響くだけで、意味があったか分からない。班長が逃げ帰ったなら、周りの連中も多分気付いてそれなりの配慮もあるだろう。
「ほら、邪魔者はいなくなったみたいだし、甘えたいなら付き合うから」
半端に起こした体を電ごとまたベッドへと横たえる。電は腕の中で視線を左右にさまよわせると、わたしの唇にそのかわいい口を重ねた。泥沼にはまっているのは承知だが、電から逃げても北上さんたちに捕まるだけっぽいし。ふと、一つだけ本音っぽいのが見つかったので、また唇が離れた間に言葉にした。
「ねえ、わたしさ、もう一人で沈むのはいや」
電は少しだけためらって、わたしの望みとはちょっとだけ違うことを口にする。
「…電が最後までお供します」
自分で沈んだ経験から吐いた言葉だが、「死にたくない」よりはもっと本心に近いことだと思う。それをこんな子に言う時点でどうかしてるが、大人だって強がるんなら、それくらい受け入れてほしい。三度目の柔らかな感触を楽しみながら、逃げに逃げまくった思考で電に身を任せた。ただまあ、そっから先にはいかないんで身悶えるのは自業自得だけど。
勝手に曇って勝手に持ち直す奴。夕食の描写は遊んだとは言わんが肉の入ったチンジャオロースーはわざわざ記述した。なのに今度は北上が勝手に曇った。経歴考えてく(捏造とも言う)と北上も曇って当然なんだけど、ちょっと収拾がつかない曇り方になったとも思う。舞い上がった北上が帰ってきた大井にかまけるまではあると思うんだけど、そっから先は「こうならね?」とは思ってもここまでなるとは考えてない。ちょっとした痴話げんかで済むと思ってたんだが。
最後の最後でまた沈み込んで自棄起こしてるよな、これ。そろそろR18にも投稿しといた方がいい感じだし。