轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
先日の「検査」から数日。何だか露骨に予定を減らされている。提督代行とかで責任者やってる天龍さんに、その事を聞きに執務室に行ってみると、その日は二人いる内の片方の赤城さんが執務を行っていた。
「天龍か、今は少し休憩中だな。おそらくは食堂裏だろう」
喫煙スペースは複数あるが、天龍さんは気晴らしを兼ねて、外にあるそちらに行くことが多いとか。もう一ヶ所はここを出て廊下の突き当たり、窓から工廠の搬入口が見えるところに、金属円筒状の灰皿が置いてあった。
それはそうと、赤城さんに違和感を覚えた。「大井」が違うと訴えている。以前、「同類」と天龍さんがわたしを指して言っていたが、
「ああ、赤城さんも同類ですか」
とつい口にしてしまってから、あ、まずったかも、と思った。意外そうな顔をして赤城さんがわたしを見ると、何かを納得するように頷く。
「実のところ君たちについて、何らかの案件が進行していてな。目処がたつまでは、私にも詳細は伝えられないことになっている」
急にそんなことを言われたのと、多分同類であることも肯定されて面食らった。つまり、こっちの赤城さんは、おそらく中身は男性か。
「了解です、天龍さんに聞きに行きます」
赤城さんはひらひらと手を振って答えた。
で、食堂裏に行ってみると、情報通りにベンチに座って煙草を吸う天龍さんがいた。こちらを見ると少し戸惑った後、何かに気付いたように声をかけてくる。
「お前か。いつもはちっこいのが付いてるから、どっちか迷ったぜ」
「先任の子もよく会いに来るの?」
「以前はな。今は早々来てもらうようじゃ困るが」
あー、色目を遣ってる件ね。厄介な人間関係には踏み込めないので、それには触れないと言って、急に減った予定のことを聞く。
「半分はこの間の検査の詫びみたいなもんだ。お前にとっちゃほぼ羞恥プレイだからな」
「お願いだから思い出させないで、ってまさか!」
「オレは見てなかったぞ」
「それならよ…じゃ誰が見たのよ」
立ち会ったのは明石さんと電、にも関わらず、今言外に変な含みがあった。ということはデータが、ただの診察データ以外がある?動画?!かあっと全身が熱くなる。
「まあ気付くか。その分だと電の奴はお前に伝えていないようだしな」
「だれ?だれがみたの?」
ダメだ、恥ずか死ぬ。とうつむいたところで、いきなり柔らかいものに包まれた。ぽんぽんと背中を軽く叩かれる。
「もう半分だけどな、お前ら二人の安全のためだ」
安全?と思ったところで彼女の匂いというか、煙草の匂いに少しやられる。嫌いとはいかないが、わざわざ嗅ごうとするような匂いじゃない。
「ああ、わりい。お前はちっこいの同様、苦手っぽいな」
煙草を金属筒の灰皿に放り込むと、まあ座れとベンチを勧めてくる。二人して座ると、少しだけ周囲を見回してから、彼女は話を始めた。
「一番やばそうな事から言うとだ、二人ともハニートラップか接待要員として魅力的過ぎるから、阿呆に目を付けられやすい」
「な゛」
ひどい声が出た。
「感度3000倍とか、聞いたことね?」
畳み掛けのひどい用語に、今わたしの眼が死んだと思う。
「心当たりと、事態に対する理解が早くて嬉しいぜ。業務が捗る」
ひどい言い様である。
「能天気に二人でほっつき歩いたら、ハイエースされてピッチリスーツで腰を振るってわけ?」
「おいおい、無理すんなよ。慰めてやりたくなるだろ」
どうやら相当ひどい顔になってるようだ。あとナチュラルに口説くな。
「後で電で癒されるか慰めてもらうから、いらないわよ」
そいつは残念、と彼女は言うと話が続く。
「流石にオークはいないが、オークみてえな紳士淑女方はまだまだ居やがりましてな、金と女で色んな後ろ暗い商取引があるわけだ。大分減ったにしても」
「それで」
「お前らの件は、ここの後見をしてる特務で止まってる。ただお前の異常性については、特務に報告せにゃならんので動画データ「が」提出済みだ」
乙女はこの間業務終了で閉店したが、立ち居振舞いに使い続けるつもりだった、乙女の矜持が完全に死亡した。赤くなる余裕もねえくらい素寒貧でからっけつになったわ。
「うん?動画データだけ?カルテは?」
「おいおい、そんな文書あげちまったら正規ルートに流れちまうだろ」
あー、なるほど。
「お前らは戦力として期待は出来るが、PTSDのため療養中。拠点防衛及び拠点内警備の予備として、経過観察を継続だ。正式な命令はこれからでな」
「その命令が来るまで大人しくしてろと」
天龍は頷くと言葉を続けた。
「陸上での艤装稼働訓練もいいんだけどな、体制が整わん内に、好奇心旺盛なちみっこどもに連れ出されて、話が拗れても困る」
「艦娘さらうにゃ海の上、ってわけ?」
「そういうこと。ここは海からアクセスするしかないが、逆に本気になったらどっからでも侵入できる。侵入経路の制限が容易な本土とは、条件が違いすぎる」
「それに、命令がくれば二人とも武装携帯も許可されるしな」
「分かった。じゃ部屋に戻るわ」
「おう、しっかり甘えて癒されとけ」
「そうするわ」
ふらふらっと、大破した心を抱えて宿舎に戻った。足がまじでまともに動かねえでやんの。途中で警備に付き始めた(大体夕方からの夜勤だそうだ)あきつ丸にも声をかけられるくらいやばそうだったようで。そうして部屋に戻って、
「ただいま」
と電に声をかける。椅子に座って外を眺めていた彼女は、お帰りなさい、と言いながらこちらに振り向くと、わたしのひどい様子に目を丸くする。何かを言い出す前にわたしは口を開く。
「ごめん、しばらく甘えさせて」
その言葉に、電は靴を脱いでベッドに上がる。
「どうぞ」
靴をほったらかしてベッドに上がると、まだ座った状態の電を押し倒す。言葉とちぐはぐな行動に、多分彼女は困惑したと思うが、リボンを解く音が聞こえたので裸のお付き合いだと思ったのだろう。それなのに、わたしが彼女のお腹に頭を載せて動きを止めたので、彼女も服を脱ぐのを一旦やめる。
「今日は、お風呂はいいや」
いきなりに意味不明な発言に、多分反応に困ってる筈だ。
「明日も、いいかな」
「そうですか」
やっぱり反応に困ってるわ。
「いなづま」
「はい」
「2、3日、お腹貸してね」
彼女のお腹にうつ伏せたま、投げ出していた内の左手を寄せて、セーラー服越しに暖かいお腹に触れる。柔らかい手がわたしの頭にのった。
「いなづま」
「はい」
子どもに愚痴る内容じゃない。でも吐き出していた。
「わたし、とんでもないビッチだって」
「それは」
「わるいひとたちが、すごいほしがってるんだって」
「…」
あ、ごめん、服、濡らしちゃってる。
「ごめ゛ん゛ ま゛ぎごんじゃっだ」
電に、すがり付いて、泣いてる。島で自分以外の怖さで、泣いてた時とは違う。素面で、わたしが、わたしとして、情けなくて。こんなことなら、沈んでおくんだった。艦娘として、女として、生き残るんじゃなかった。
―嘘はやめてよ
静かにして欲しい。あんたとは、話したくない。
―あんたがいなきゃ、北上さん、死んでたじゃない
他の女に取られたじゃないか。どうせわたしはビッチだから、どうせふさわしくないさ
―3人で楽しんでるくらいだから、ちょっと間が悪かっただけよ
お似合いだって?
―大体あんたがいなきゃ、この子死んでたわよ、あの島で
…。
―巻き込んだとか、ばか言ってないで、戦友を頼りなさいよ
「大井さん」
今、誰と?
「生きてください」
「いなづま?」
今、わたしは誰と話して?
「どんなところにいても、電が迎えに行きます」
でも。
「気付いてます?大井さんを満足させられるの、電だけなのです」
「えっ」
いきなりのろくでもない告白もどきに、意識が浮上した。
「どうせどいつもこいつも、突っ込むしか能がない単細胞どもなのです」
待って、いくらなんでも教育失敗な言葉を並べ立てるのはやめて。
「大井さんの感覚を、余すことなく刺激できるのは、電だけなのです」
「ば、ばかっ、何を言い出すのよ!」
いや、確かに人間じゃ、機能的に限界があるし、フルにわたしを機能させるなら、電じゃないと無理だけど!
「ですから、老いも若きも、馬鹿も阿呆も、」
何か名言ぽい事言ってるけど、どうせオトすんだろ。
「搾り尽くして、干からびさせて、喰らい尽くして、生き延びてください」
ほらそうやって…あれ、なんか生存特化なら使えるぞ?これ。
「生きてさえいれば、電が迎えに行けるのです。陸(おか)なんて、歩いて行けます。馬鹿どもは最初から海に逃げられません」
「逃げ場がそもそもないのに、大井さんをさらうような大馬鹿どもは、電でもひと捻りなのです」
「あはは、なにそれ」
人間に逃げ場なんてない。そういう場所だった。
「いなづま」
絶好調になってきた、頭の沸き方が。
「あいしてる」
「電もなのです」
「結婚して」
「もう二人ともおよめさんなのです」
「そうだった。じゃあ指輪を買おう。ちゃんとペアで、名前を彫ったやつ」
「カッコカリではないのです?」
「なにそれ?ガチの結婚以外なんて偽装結婚みたいな偽物くらいじゃない。まあ同性婚は日本じゃまだだと思うけど」
「指輪、二つずつ着けることになりそうですね」
よく分からない事でなんか戸惑ってても、とってもかわいいなあ。
―ああ、まあ、あんたにとってはそうなんでしょうね
だけどすごくかっこいいんだ、わたしのいなづまは!
―あーはいはい、あんたがこの子がいいなら、わたしからは文句の言いようもないけど
こんなにかわいくて、かっこいいいなヅマヲ、泣かせタリ、傷ツケタリスル馬鹿、イルンダって
―あ、やばい?どーすんのこれ
ソンな馬鹿ドモは、コロシチャってイイヨネ?
―あーしーらない、最悪北上さんになんとかしてもらわないと駄目だわ
執務室で、書類仕事を継続している天龍と赤城。天龍が警備体制増強の申請を仕上げたところで、急に赤城の手が止まった。天龍がそちらを見るが、戸惑うような代物には見えなかった。
「天龍」
「なんだ」
「あの二人、どうやら関わらねばならんようだ」
「お前の案件にもなっちまったか」
「雑念もなかった筈なのに、あの二人の事がいきなり思考にのぼった。万が一が発生した場合、私があの大井を殺さねばならないらしい」
あまり面識がない相手を「危険人物」として唐突に認識した以上、干渉があったと判断するしかないと赤城は述べた。
「ほんと抑止力って奴は、ろくでもない仕事ばかり振ってきやがるな」
「まったくだ」
「自棄酒も出来ねえってのによ」
酒を控えるよう、そばの赤城や鳳翔に言われている天龍としては、愚痴るしかなかった。
艦娘は浄化を担い、深海棲艦は呪いを背負う。では人は ─ 人を宿した艦娘は、呪いをもって浄化を行うことさえ良しとする。
愛で人を殺せるなら、憎しみで人を救えもするでしょう
そんな戯れ言も、欲望で他者を呪いの底に落とす愚か者がいるなら、成り立ってしまうのだ。
注意:なんかすごい黒くなってますけど、あくまでフレーバーです。キャッキャウフフ(&ぬるぬる)するための前振りです。
一話分の前段を書いていたら、話が一個生えてきたうえに大井が病んだ。いわゆる「クスクスと笑ってゴーゴー」の手前の手前程度で。大井が病んだ理由はトレースできるけど。
①艦娘転生→ドキドキする暇なくバイバイブラザー(シスター)の繰り返しで男がすうっと薄れる
②自分が女の子と意識したところで電のおよめさんに、女が残って女の子は背後に控える
③「おまえ、ビッチやで」→後ろに控えていた女の子が「なんたる侮辱、生きてはおられませぬ」で自害、ビッチ≠およめさんで残った女(転生大井)のアイデンティティ崩壊の危機
④電「虜囚の辱めを受けようとも、生き延びて我を待て。所詮逃げ場なき木っ端どもである。そなたには再び我を刻み込んで洗い流してくれよう」
転生大井「電様バンザーイ、抱いて」
⑤「電様ニ逆ラウ者ミナゴロシ」…艦娘大井「これどうすんべ」
なお、きゃっきゃうふふして精神的安定は取り戻した模様。