轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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18.後日談6 電-2

 なんか昨晩の記憶があいまいなまま、朝、目が覚めると電のお腹の上で目が覚めた。お前対魔忍だから、今オーク避けの対策練ってる(意訳)って天龍さんに言われた後、電で癒されようって部屋に戻ったとこまでは覚えてるんだけど。なんかとんでもないこと口走ってた気がする。あと昨日、風呂入ってないや。

 

 何かもやもやした感じのまま、やけに引っ付いてくる電を背中に貼り付けて、朝食に行く。朝食受け取り時に、予定変更のため、別命あるまで全員鎮守府内で待機、と通達を受ける。昨日言われた件がもう動き始めたのか?わたしらはここに来てから開店休業だからいいとして、頻繁に出撃する子たちも、今朝は大体食堂でゆっくりくつろいでいた。そんなところで、普段なら遠征任務に出撃するちみっこたちが視界に入る。少しの違和感ののち、ふと気づいて横の電に声をかけた。

 

「電、ちょっと立って」

 

「?」

 

怪訝な顔をするがすくりと席を立つ。その電を確認すると、少し先で談笑する雷、電、暁の一人足りない第六駆逐隊を見、声をかける。

 

「ちょっとごめん、皆ちょっと並んでくれない?」

 

3人はほぼ同身長だ。問題はうちの電だ。違和感の正体は、テーブルの上に出て目に写る体の大きさ。並んで見れば、わたしの電だけ明らかに背が低い。個人差、と言いたいが艦娘の体格と言うのは、艦種にも響く。140cm前後の子たちの中、一人だけ120cm程―二人だけで居過ぎた。手を煩わせた礼を3人に告げてから、電の手を引いて執務室まで向かう。

 

「身長なぞどうでもいいのです」

 

どことなく不平を言うかのように、気にし過ぎと言い募る電をなだめる。

 

「艤装を扱うにも体に無理がかかってたらまずいでしょ。わたしを置いてくつもり?」

 

今ナチュラルになんか口走ったけど、説得出来りゃなんでもいいや。成長痛もどきも発生してるわけだし、艦娘として変化しているのか、人間が無茶をして艤装を運用しているのかだけでも突き止めてもらわないと―そんな考えにまで及んで口を噛み締める。

 

 

「失礼、今いい?」

 

程なくして本棟上階、執務室に入る。

 

「なんだ?」

 

「第六駆逐隊の身長データの平均とかない?特に電のやつ」

 

「艦娘の登録データとか普通に機密っぽいから直接は無理そうに思うが。問い合わせた方が早いかね?」

 

「この子、明らかに他の子より背が低いのよ。この間の検査でも成長痛もどきまで出てたし、何か類似データでもあれば欲しいんだけど」

 

自分を無視して交わされる会話に、電は必要ないと切って捨てる。

 

「何の問題もないのです」

 

「問題なし、とすりゃ楽なんだろうがな、ここじゃもうちょい注意深く見ろってのはオレもそう思ってるし、上もそう思ってる」

 

思考面で反乱を起こすのが容易な艦娘ばかりだしな、と先に続くやばそうな事実を、天龍は口にはしなかった。

 

 

 

 

 幾つかの規定のチェックや、ネットワークのアクセスを試して、天龍さんが口を開いた。

 

「結局その辺も、特務任せになりそうだな。本来はオレが色々と繋ぎつけなきゃならねえんだが」

 

ここ、なんかあるの?とわたしが思ったところで

 

「トラウマ持ちが多いから、艦娘に圧を掛けられそうな奴らが来られないように半孤立状態でな。おかげでここから、あまり動けないってわけよ」

 

対策は緊急時のへそくりくらいだ、と天龍がおどけたので思わず呟いてしまった。

 

「ボート、持ってくるんだった」

 

元々海図にあるような島だが、時間稼ぎであっても退避先になるのは変わらない。その逃亡先(出発点)の記録が残されたボートを、軍港に置いてきたのは失敗だった、と今更思った。最悪の事態が起きても、逃走手段と逃走先があるなら、なけなしのへそくりとやらを積んで逃げたい娘達で逃げる、と言うのもありだ。

 

「報告まとめてて思ったぜ、もったいねえって」

 

「宝探し、行ってもいい?」

 

「舞鶴に残り続けてる馬鹿が何人かいる。廃墟でも漁らせて、物資になりそうなもん確保させるわ。現状じゃお前らの外出は認められねえ」

 

余計な離反工作仕掛けるよりは、オレの命令で無駄に終わるかもしれない仕事させてた方がいいしな、と天龍さんが言ったのでつい確認してしまう。

 

「廃墟漁りは賛成だけど、反乱だのなんだの、わたしが聞いていいの?」

 

「オレ同様にどうやって生き残るか、考える奴が来てくれたんだ。今のうちにこっちに引き込むに決まってるだろ」

 

オレになんかあったとき、あいつらを連れて逃げてくれそうな奴は必要だしな、と付け加えられる。

 

「それ、逃げた先でわたし締められたりしない?」

 

「お前の秘書艦がさせねえだろ」

 

そう言って彼女は電の方を顎で示す。もちろんなのです、と電はふんすと頷いた。

 

「助けてくれる奴に義理を通さねえようようなら、叩き潰してくれた方が草葉の陰で泣かなくて済むってもんだ」

 

「生きててくれた方がやっぱりいいわ。わたし、電を抱えるだけでいっぱいいっぱいよ」

 

「もしもの時は覚悟しといてくれ」

 

ろくでもない会話はそれで終わり。わたしは退出するのだが、なんだか執務卓に電が絡んでる。

 

「電?」

 

「少しお待ちください」

 

何か、天龍さんに囁いているようだが、扉で待つわたしは当然聞き取れない。天龍さんはと言うと苦笑しながら「了解だ」と何かを肯定していた。

 

「お待たせしたのです」

 

とてとてと戻ってきた彼女とともに、わたしは部屋に戻ろうと歩き始めるのだった。まあ、途中で引っかかったのだが。

 

 

 

 

「うん?」

 

電の件をとりあえず上に投げた後、「わたし」にあった。本棟で出待ちまでして、と言うことは少しまずそうな話か?「大井」の視線がわたしと電の間をさ迷う。

 

「ごめん、二人だけで話したいんだけど、今いい?」

 

「時間はいいんだけどね」

 

北上さん'sの差し金、という線がゼロではないと思うと少し怖い。かといって電も、わたしの上でまだ「おかーさん」て呟いたりするし。わたしら抱えておかーさんが増えました、と言いそうな程度には狂ってる(狂わせた)のだから仕方ないか。

 

「電は艤装のチェックに行くのです」

 

「え、ああ、えっ?!」

 

止める間もなく工廠に歩いて行ってしまう電。やばい。

 

「確認するけど、騙して悪いがとかじゃないわよね?」

 

「ちょっと、そんなに信用出来ない?!」

 

「だってわたしら大井よ?あっちの大井も欲しいなーとか言われて、北上さんのところにわたしを連れ込まない自信ある?」

 

「そう言われるとまあ困るけど、今回は危ないって警告だから」

 

「場所、変える?工廠から見える範囲から外れたら、多分撃たれるけどね」

 

わたしの警告に、大井も電の行動を理解する。

 

「ちょっとそこまでする?!」

 

「ここに辿り着くまでがねー。電の見た目の大井がいると思いなさいよ、わたしが北上さんだとしてさ」

 

「そう言われると納得するしかないわね」

 

はあ、ため息をつくと大井は口を開く。

 

「ちょっとそこまで行きましょ。工廠も見えるからいきなり撃たれないと思うし」

 

彼女の言葉に本当にちょっとだけ歩くと、本棟の端の方で足が止まる。あれ、ここって執務室の下辺りじゃ。在室確定な部屋の下で?!

 

「それで「まっ」待たない。北上さんが、あんた落としたいって言ってるから気を付けて」

 

「ちなみにショートパンツ履いてる方ね、知らないだろうから言っておくけど、」

 

大井の言葉にやっぱり怖い方に目をつけられたのは理解した。

 

「知ってる、最低でもモノはあるから呑気にしてたら純潔とはおさらばって奴でしょ」

 

「あんたも大概な発言の上にわざわざ処女宣言とか嫌味?」

 

北上さんに囲まれ―囲われているのにそこに噛み付くって、この時点で訳ありか。

 

「そこは安心してよ、この間までの話。今はまあ、相手に問題はあるけど、一応経験済みってやつ」

 

実も蓋もない発言に彼女はさらに呆れる。

 

「ああ、うん、あんたが転ぶ相手に文句付ける気はないわ」

 

うん、選んだ相手なんて分かり切ってるんだから、頭が吹っ飛ぶ前に口を噤む方がいいわ。

 

「…発端は北上さんがあんたに未練残しまくりなことよ。あんた何したのよ」

 

彼女の物言いについ噛み付いた。多分「わたし」と「大井」連名での抗議だ。

 

「「わたしの北上さんに何したのよ」、なら百点満点なんだけどねえ。わたしに気後れしてどうすんのよ」

 

一応譲ったつもりなんだから、もっと彼女には堂々として欲しいものだ。

 

「っ」

 

「先にひとつだけ謝っておくわ。あのベンチで交代する前、一回だけキスさせてもらったから」

 

「…続けて」

 

「前のところでさ、膝貸したり、背中貸したりしてたわけよ」

 

先を促される。

 

「最後の出撃の前にね、押し倒された」

 

「それで?」

 

「キスされたところで、わたしが逃げた。帰ってきたら、続きをしましょうなんてね。それで目の前で沈んだんだから、ひっどい女でしょ?」

 

ミサトかよ、と合いの手の如く上から声が降ってくる。

 

「聞かれてるんだけど」

 

わたしの指摘に大井が捲し立てる。

 

「聞かせてるんだからいいの!電に撃たれるんじゃなかったら、執務室で話すのも選択肢にあったから。揉め事だから耳に入れといた方がいいし」

 

「で、オレの胃がまた痛くなるって訳だ」

 

今度は明確な声が、上から聞こえる。

 

「つーか大井よぉ、二人揃って逃げるとかオレに対する嫌がらせか。おかげで北上までつかいもんになんねえ」

 

「逃げたって、あんたも?」

 

天龍の指摘に目の前の大井に問う。

 

「…」

 

「言いたくないならいいわ。どっちにせよ理由は一緒でしょ。あの人の重荷になりたくないとかそんなん」

 

「そんな大層な理由じゃない」

 

彼女の否定にわたしのの理由を述べ続ける。

 

「出撃でさ、もう思い残すことはないって先陣切られるの、嫌だったから逃げたけどさ」

 

「で」

 

先を促されて、人差し指を立てて、少しだけ嫌な感じのしそうな笑みを浮かべてやる。わたしは意地悪なんだ、逃がす気はないわよ?

 

「実はもうひとつ」

 

「…聞きたくない!」

 

お互い大井だから大筋は分かる、その一点を除いては。

 

「「偽物の」わたしはあの人にふさわしくない、最初の部分以外は多分あんたと同じでしょ?」

 

「偽物?」

 

ここで大井がやっと意外そうな顔で興味を示した。これまでは大井同士の一人相撲だったからこその「聞きたくない」だ。そこへ「偽物」の異物が入った。

 

「わたしは、大井としては変だ。北上さんにあんた程の興味を持ってない」

 

「でも、そういう大井だっているでしょ」

 

「もう少しおかしな言い方になるけど、北上さんのところに行きたい大井を、止めてしまえる「わたし」が、いる」

 

ここで初めて大井がわたしをまじまじと、いや怖い物を見るような目で見たうえで、一歩引いた。まあわたしがニマニマとした笑みをわざと浮かべているのはあるが。鏡で見た自分と若干の差異のある美少女、実のところ落ち着いて見ると眼福なのだ。わたしより少しだけ腰まわりが絞られた感じがあって、多分こっちよりスタイルがいい。電の事がなかったら口説いて抱きたい、というか、愛でたいというか。いっそ引き込んで電に「新しいおかーさんよー」と自爆するか?結局「おかーさん」呼びからも逃げられてない。とっとと抱けぇ!とけしかけられたのもあって、結局天龍さんにハメられた気がする。いや、モノもないのに電とハメあったわけだけど。

 

「あー、ダメだ、あんた口説いたらおとーさんもついてきて強制的におかーさんにされるんだった」

 

「いきなり何を言い出すのよ!」

 

わたしの頭の沸いた発言に大井がもう一歩引いた。

 

「片付くんならとっとと片付いてくれた方がこっちとしても楽なんだが」

 

上からまた声が降って来る。

 

「無理。アレは腹の中に受け入れる覚悟出来ない」

 

今だって、意識すれば電にされた分の違和感が、わたしを変に刺激する。そこでわたしの「かたち」を否定するような剛直で、電の舌の細やかさに上書きされたくはない。わたしの拒否に、慣れれば乙なんだがなぁと色々認めたくない天龍の呟きが聞こえる。そっちの意味でも同類、ということだったようだ。

 

「でさ、「大井」。今の「わたし」、ずいぶん「自分」にしては変だったでしょ?」

 

「北上さんたちが、二人がかりで悪ふざけする時みたいな顔はしてるわね。ああいう時は、いくら好きでも身が持たないって気持ちの方が強くなってつらいのよね」

 

メリハリがついたスタイルじゃなく、もしかしてやつれて部分的に細っこい?よく見ると丸顔気味のわたしより、頬からあごのラインが細いし、

 

「天龍さーん、ちょっとこの「わたし」、わたしたちの部屋に退避させた方がいい?二人なら電を押さえこめるし、万が一があっても減るもんないよね?」

 

「お前に渡すくらいならこっちに避難させるわ。さっきの発言といいただ単に抱きたくなっただけだろ。北上から逃げるくせにオレの戦友の大井は抱きたいとか、ふてえ「野郎」だな」

 

こっちの大井が天龍の地雷とか、どう歩けばいいのよ、この鎮守府。最初から踏み込んでたら爆死してるわ。

 

「…わたしそこまで尻軽に見える?」

 

口説けばヤれそう認定したと同義と言われ、ショックを受ける。やばい、なんか対魔忍扱いのせいでデリカシーが死にかけてそう。

 

「いや、そこまで魅力的だってことだから!尻軽とかそういうのじゃないから!大井は北上さんには義理堅いって共通でしょ!」

 

慌ててフォローを入れて持ち直させる。わたしの剣幕に北上さんみたい、と大井がくすりと笑った。ついつい近付いて肩に手をやる。あ、でも、

 

「ん?でもこの件は北上さんたちを売ったことになる、あれ?」

 

わたしの指摘に大井はまっとうな返事をよこす。

 

「だってここで強姦騒ぎなんて起こしたら北上さんたちの評価が大変なことになるし。天龍さんの邪魔になるのもやばいし」

 

「んー、そうするとまずいのはもう一人の北上さん?」

 

「あの人もあの人で大井運が悪すぎたのよ。んであんたを見て欲張っちゃった感じ」

 

「あーなるほどー、そりゃ仕方ないか」

 

仕方なくないのだが仕方ないと納得できてしまうわたしは、やっぱり大井ではあるらしい。

 

「そこで仕方ないの結論になるの、やっぱりおかしくね?」

 

天龍の指摘にまあ、それが普通の感覚だよな、と思う。

 

「それが大井ってことで納得して。今、わたしもなんで納得した?って思ってまた納得するって繰り返してるから。それじゃわたし、忠告の件は承ったから、この話は一旦おしまいで」

 

それじゃ、また、と終わりにしたいのだけど、あれ、わたし何でまだ彼女の肩に手をやってる?やっぱり彼女も欲しいとか思ってるかも、と考えたところで、ガチン、と後頭部に冷たい感触が当たる。

 

「近いのです!」

 

どうも痴話げんかもどきがとても仲良くしているように見えたようで、我慢できなくなった電が艤装を持ち出してわたしをホールドアップさせた。即座に電及びわたしに謹慎処分が下る。

 

「電、お前は艤装の工廠外への不許可持ち出しな。んで大井、お前は電に対する監督不行き届き。罰は謹慎と一部時間は執務室でオレの手伝いだ」

 

「あんた、見えてたでしょ!」

 

真上の「天龍」に文句を言う。

 

「当然だろぉ?」

 

天龍さんのニヤニヤ顔がすっごいむかついた。

 

 

 

 

 

 それで数日間、執務室勤務もやらされたわけだが。

 

「こいつがお前が使えるコードだ。特務のお偉方が、第六駆逐隊の身体データへのアクセス権限をくれたからな、例の問題をこっちでも調べられる」

 

「あんた、これ見越して?」

 

「ちょっとだけ危ねえ方の北上も牽制できる、やばそうな案件も上と同時並行で調べられる、オレも書類を手伝ってもらえて助かる、他にも色々でいい手だろ?」

 

完全なアドリブだけどな、と天龍は付け加える。状況次第では心中されてたわたしへの謝罪はなしか。

 

「謹慎及び労働奉仕処分は口頭のみ、名目は提督実務研修で片付けたことでチャラにしろって。お前の膝の上の電はあくまで秘書艦研修中だ」

 

「それでわたしは?」

 

「大井」が天龍に問う。

 

「通達した通り、お前はしばらくオレの秘書艦だ。ほんとは鳳翔さんの予定だったんだがな、ここ最近のお前の様子からあの人も納得してくれた。で、寝室はここの隣を使え。夜間はあきつ丸が回ってるから、あいつらも夜這いは出来ねえだろうし」

 

あいつらは数日間「大井禁止」だ、と天龍は宣言する。

 

「それ、わたしの方が夜這いかけられたりしない?」

 

「そこのちっこい護衛艦が頼りにならないとでも?魚雷の携帯許可は出してるぜ」

 

護衛も狼になりそうなんですが、それ。

 

「天龍さん、わたしもいきなりの一人寝はつらいんだけど」

 

あっちの大井もそう苦情を入れるが、

 

「お子様か!鳳翔さんと代わってもらったってのを理解しろ。今だとオレと鳳翔さんの二人がかりになって、お前がいっそうやつれるだけだぞ!」

 

爛れた関係過ぎる…。

 

「例によって独り身にはつらい鎮守府であります」

 

警備体制の変更であきつ丸が来ているのだけど、そんな愚痴を吐く。夜間警備は川内と交代でやってるらしい。川内はお休み中ということか。

 

「女所帯の惚れた腫れたに言っても仕方がないでござろう、あきつ丸殿」

 

ちょくちょくここを訪れる特務の加藤「あきつ丸」さん。あきつ丸と同艦種だが、目の下の隈がひどい上に、顔の造作も何か大分違う感じがする。

 

「内地勤務の加藤殿がうらやましいですよ」

 

「自分、そこの天龍殿と同類ですので、むしろ殿方に対処せねばならんのが煩わしいでござる」

 

「嫌味でありますか?」

 

「いえ、本心でござるよ?綺麗どころや可愛い盛りの艦娘が大好きでして、それなのにどうも周りはまっとうな娘さんばかりで」

 

それはそれで健全でござるが、天龍殿のおこぼれにあずかりたい次第ですな、とニヤニヤと笑う加藤さん。隣のあきつ丸が引いている。加藤さんがパスコードを持ってきてくれたわけだが。

 

「夜間の警備についてくれるのはどちらのあきつ丸殿で?」

 

ついつい聞きたくなる。

 

「自分であります」

 

まともそうな、それでも色白なここのあきつ丸が答えてくれる。その後に加藤さんがまた口を開く。

 

「拙者、あくまで使い走りのメッセンジャーで、立場的にも通常の警備には立てませんな。まあ添い寝が必要なら喜んでお相手いたしますが」

 

途端に電が威嚇を始めた。お世辞でも誘わない方が良さそうだけど、御礼の菓子折くらいはいるかな。

 

「それはそうと、天龍中佐、こちらにサインを」

 

加藤さんが、天龍さんに書類を差し出す。内容を一瞥すると、ためらうことなく彼女はそれに署名した。

 

「甘くねえか?減俸5割くらいになっても仕方ねえ部類だと思うが」

 

「新聞沙汰になればそうでござるな。艦娘の特性からすると、痴話喧嘩の類で波風立てても、全体としては無意味どころか有害でして。余計な詮索を避けるのも含めて、自主返上一割辺りが限度かと」

 

「内々の処理でいい些事、って扱いにするわけか」

 

「正規の手続きで防衛線に穴が開いては、話になりませんからな」

 

べんきょうになるなー(しりたくない)。不祥事隠蔽しとくけど罰は与えたよ!っていみになるんだなー。…兵器が年頃の娘の感情持ってたらそうなるかぁ。

 

「おまえまで付き合う意味は?」

 

「出張ってこられる上司ですぞ。責任者として適当ですし、特務の後見を強調出来ますな」

 

ここは特務の管轄、って縄張り争いか。

 

「今度一杯奢るわ」

 

「立場上拙者が上司でして、そういうわけにも」

 

「それを出したら添い寝もしてやれねえじゃねーか」

 

「お泊まりの際に研修会の名目でなんとかなりませんか?拙者としましても、こうもお堅いお嬢さん方としか巡り会えないとなると、主義を曲げざるを得ませんで」

 

「主義ってなんだよ」

 

「恋路に割り込む阿呆に慈悲はいらぬ、しめやかに爆発四散させるべし、でござろう」

 

「ああ、まあ割り込みのレベルによるな」

 

「それだけに此度は顎が外れるところでござった。問題のある人員を押し付けている自覚はありますからな」

 

「つまり?」

 

「心中未遂なぞ起きるようなら、違う首を落とすのを含め、こちらで後処理は引き受ける所存で」

 

「だ、そうだ、大井。北上ども、命拾いしたぞ」

 

「あの、別の首って」

 

大井が聞き返すけど、天龍さんは手をひらひらさせて制止した。

 

「それには触れるなよ。今にも蹲りそうな感覚で肝が冷えてんだ」

 

「その前にうちの電がトンネル工事でしょ」

 

「亀の首」にろくに反応しないで、電がやらかすと告げるわたしに、天龍さんが疑問をぶつける。

 

「なんでお前平静なんだよ」

 

すぐには答えず、まず電の好みから聞くことにした。

 

「ねー電、天龍さんと出来る?」

 

「素敵なひとなのは認めますが、煙いのが苦手なのです」

 

「あら、残念。電にしてもらえばファントムペインなんてきれいさっぱりなくなるのに」

 

電の返事を聞きながら、やっぱり先日の大井に抱いた感覚は「愛でたい」の方かな?とも思う。ガツガツ食いつく感じは、ほとんどなくて─好みの部分以外は、わたしの中の男の子が家出中だな、これ。

 

「拙者が主義を白状した先から誘惑とは、鬼でござるな。あわよくば拙者もお仲間に、とか考えてしまうではないですか」

 

「大井さんは、意地悪ですから」

 

「あれ、もしかして、電けしかけられたら、わたし終わっちゃう?」

 

大井が電の「戦力レベル」に言及したので、わたしから追い討ちをかけた。

 

「電はいいわよぉ。シリンダーをキレイキレイしてくれるから」

 

「お前、電の舌のことになると頭対魔忍にならね?」

 

話題が夜の方に吹っ飛んだので、咳払いと共に加藤さんが話を戻した。

 

「…話を戻して下半身工事の件ですが、艦娘なのでやったとしても一時的な罰に留まるでござる」

 

「「「入渠かー」」」

 

「いかにも。まあトラウマでしばらく悪さ出来なくなれば儲けものでござるな。おや、どうされた、あきつ丸殿」

 

「内容の下世話さに身の危険を感じたであります」

 

「これは申し訳ない。まあ、罰の件についてはあくまでそこまで行けばの話でござる。あと、電殿」

 

急に呼ばれて電が首を傾げる。いや、そこは返事をするとこでしょ。

 

「あくまで北上殿が無体に及んだ場合に、罰があると理解するように。大井殿が自分から転んだら適用外ですぞ」

 

艤装持ち出しの件はしっかり反省するように、と彼女は電に言い含める。

 

「他に罰とかなくて大丈夫なの?この子」

 

大井が心配そうな顔で言うので、すぐに返事をする。

 

「そんなの簡単よ?」

「だな」

「そちらの大井殿が耐えられれば、でござるな」

 

天龍さんと加藤さんもすぐに気付いた。

 

「ねーいなづま」

 

「はい?」

 

「今夜は別々に寝よっか?」

 

膝の上でピシッと電が強張った。すぐにぐるんとどうやったってレベルで対面に振り返ると、痛いくらいに抱き着いてくる。

 

「ダメ、ダメなのです!大井さんは、電と一緒なのです!」

 

ガタガタ震えながら恐慌一歩手前だ。

 

「予想以上に効果がありそうで、手加減が難しそうですな」

 

「部屋の隅で幼女がガタガタ震えて泣いてるとか、考えたくもねえ。すっぱぬかれたらこれ自体スキャンダルにならねえ?」

 

「ですから駆逐艦以下は、運用が大変なのでござる。今の一言だけで大分効き目がありましたし、今回は追加は要りますまい」

 

「ちょっと口を挟んだだけなのに、これじゃわたしが電を苛めたみたいじゃない。ちょっと納得いかないわ」

 

大井の八つ当たり気味の愚痴に、天龍さんがぽんと彼女の肩に手をやる。

 

「まあ、なんだ。お疲れ」

 

「結局わたし、一人寝ですし」

 

大井の苦情に天龍さんがわたしを見た。思わず言ってしまう。

 

「いいの?電が馬鹿やったら拗れるわよ?」

 

「その怖がり方なら、電は大丈夫だろ。あとはお前が話を拗らせないかだ」

 

くっついてる電と、そっちの「わたし」を見比べながら、何となく考える。

 

「三日くらいは電にかかりっきりで、「わたし」にちょっかいかける余裕もないかな。ちょっと今の、効きすぎたわ」

 

「それじゃ大井、夜は健全に過ごすことにして、あっちのお前に厄介になれ。やばかったら叫べよ?」

 

「「期間はいつまで?」」

 

つい「大井」同士でハモる。

 

「最長で一週間のつもりだが、三日もすりゃ北上も泣きついてくるだろ」

 

話はそこで終わったのだが、オチがひどかった。三日目の朝にやつれまくった北上さん'sが天龍さんに泣きついてきた。当然研修中のわたしらの前でだ。

 

「おおいっちかえして」

 

北上さん(通常)が土下座してるんだけど、語彙と抑揚が死んでる…北上さん(男)は執務室につくなり、ソファに突っ伏して微動だにしない。も…ないとうわ言が聞こえて、もしかして北上さん(通常)に潰された?と思わず北上さん(通常)の方を見る。

 

「お前ら自分同士でも加減効かねえのか!」

 

「天龍さん、お説教の前にこっちの北上さん、入渠させないとまずいと思うんだけど」

 

慌てて北上さん(男)を抱えて天龍さんに許可を求めた。

 

「おう、頼むわ。ちゃんと電を護衛に連れてけ」

 

返事を聞いて、浴場併設の入渠設備に走った。俵担ぎで運んでいるが、間近に見えた顔とかがカサカサに見えて、干からびてる感が強い。脱がす手間も惜しんで入渠槽に放り込むと、電に見守りを頼んで飲み物を数本買ってくる。

 

「あれー、おおいっちだー」

 

戻ったらちょっと復活してたけど、こっちも語彙死んでるわ。しかも注意力も死んでるようで、間近の電の、装甲魚雷管に気付いていない。電には魚雷を仕舞わせて、一旦経緯を聞いてみる。

 

「んー、やつあたりー?」

 

ダメだ、要領を得ない。スポーツドリンクの蓋を開けて、足元の入渠槽の北上さんの口に突っ込む。んぐんぐと素直に飲んでくれるのはいいけど、横からとは言え両手で頭とペットボトルを支えていると、違うものを想起して困る。電の圧も強くなるし。

 

「あれ、大井っち?」

 

復活早いな。

 

「って、服ごとぉ!」

 

びっしょり濡れた衣服に、北上さんが不快さで声を上げた。

 

「大井さんが運んでくれたのです、文句を言うんじゃねーです」

 

「なにそれ、そんなおいしい状況覚えてないとか、大損じゃん」

 

この人やっぱり軽いなあ。

 

「お望みならこのまま執務室に運びますが」

 

「え、なんかサービス良くて裏ありそうなんだけど」

 

「行きと同じ俵担ぎで、前後逆でうちの子が魚雷向けますけど」

 

「天国は遠いのに地獄は間近とか」

 

「お姫様抱っこだと、わたしが後で(快楽)地獄見ますので」

 

「腰抜けたままだから地獄決定じゃん」

 

電の目の前で北上さんをお姫様抱っことか、夜に電に襲われるフラグだし。選択肢はなかったようだ。

 

「では」

 

電に空のペットボトルは回収してもらって、さっきとは前後逆で(むしろまともな向き?)で、北上さんを担いで歩く。服も濡れるが、本来の仕事中ならいつものことだし。

 

「まじで魚雷向けられてるんですけど」

 

「半分とばっちりでしょうけど、変に暗躍したのとあっちの「わたし」を責めすぎた件は反省してください」

 

それにしても運ぼうと思うと、とても軽く感じるのがすごいな。本体だけなら戦力の回収も楽なわけだ。

 

「北上さん?」

 

歩いていて急に静かになってしまって、声をかける。

 

「ごめん、降ろして」

 

「でも、まだ歩けないんでしょう?」

 

「肩貸してくれればいいから」

 

言われた通りに降ろして肩を貸す。変にへっぴり腰で歩く北上さんに、つい聞いてしまう。

 

「もしかして当てちゃいました?」

 

肩か上腕、当たってたっぽい。

 

「わざわざ黙ってたのに言わないでよっぉぉ?!」

 

「後ろから狙いつけてるのに、いい度胸なのです」

 

電が魚雷を突き付けていた(どことは言わない)。

 

「でも固くなかったんですけど?」

 

「だからかわいい顔でエロいこと言うのやめて!」

 

急にずんっと突かれて「あん」と声を上げる。

 

「そんなに電を嫉妬させてーのですか、誘ってやがりますかこのアマ」

 

「だって二日も健全なのよ?」

 

「あれ、わたしだしにされてる?」

 

「…二人ともとっとと歩いて戻るのです」

 

そう言いつつ、セイフティのかかった魚雷先端が、どことは言わないが、わたしを撫でた。それが終わってからまた歩き始める。

 

「大井っち、なんか歩きにくいんですけど」

 

「あきらめるのです、北上さん。大井さんは今夜のことしか考えてません」

 

腰を振って歩くわたしに、二人とも呆れているが。北上さん(男)はわたしの意図に気付いてくれるかな?

 

 

 

 

「戻りましたよっと」

 

「お帰り」

 

うんざりした様子の天龍さんが出迎えてくれる。見ればあっちの「わたし」に北上さんががっつり引っ付いてた。ああ、うん。ちょっと病んだ時の電やわたしと同じだ。

 

「いやはや、北上型が病むのは珍しいですな」

 

いつの間にか、加藤さんが妙につやつやしたままそんなことを言っているが。

 

「加藤さんもですか…」

 

「大井殿?拙者、何か間違えましたか?!」

 

「いえいえ、二日程の禁欲生活も悪くは無かったのですけど、その裏で見目麗しい方としっぽり濡れてらっしゃったのかと思いますと」

 

「あれ、オレ誉められてる?」

 

天龍さん、ほんとに相手したんだ。

 

「北上さん方も干からびるまでヤり続けてるとか、ちょーとおかしいんじゃござんせん?次「わたし」をやつれさせたら、電をけしかけてこっちに頂きますよ?」

 

ひいっと「わたし」が悲鳴をあげているが、どうやって電を着飾らせるかとか、指輪の話などガールズトークも楽しかったし。いや、流石に体質がわたしと違うだろうから、早々堕ちないと思うけど。

 

「あー、大井。気持ちは分かるが、そうすると舌切り雀が一羽出来上がるんでやめてくれ」

 

流石にそれは困るので引き下がる。

 

「電、部屋に連れ帰って黙らせとけ」

 

「了解なのですが、逆に黙らされそうなのが怖いです」

 

あれ、おかしいな、電が天龍さんの言うこと聞いてるぞ?これはお仕置きだね!

 

─ガチャリ。

 

「これで少しゃあマシだろ」

 

あら、後ろ手で拘束されてる。

 

「あとで不機嫌になりそうで怖いのです」

 

「全力でヤって誤魔化せ」

 

そのまま部屋にドナドナされて、ほんとに全力でヤられました。だからなんで天龍さんの言うこと聞くのよぉ!

 

 

 

 

 

 




 今話の途中に裏が入るんで、時系列がごちゃごちゃになる奴。書くと細部がどんどん膨らむのが…。そこまで書く能力なかったと思うんだが。あと、直接描写はないからいいよね。

 電-3まで書かないと伏線回収つーか捏造設定盛り込めないとは思わなかった。
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