轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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2.探索

 昨日同様、潮騒の音で目を覚ます。思ったより風通しのいい倉庫の隙間や明り取りの窓からの光が目立つ中、身を起こすと昨日よりも大分マシな状態のようだ。あった筈の傷も消えているし、履いてみた走行靴も重さを感じない。燃料を一杯呷ると昨日同様金属材を齧りながら探索に出ることとする。なお、燃料消費する感じがあったのでサンダルに履き替えた。棚をまた探してウェストバッグ上の工具袋を見つけると、ペンチにワイヤーカッター以外をぶちまけて身に着ける。多少の小物は回収し易くなるだろう。ライトも小型のペンライト程度の物を工具袋に入れて置く。これでショットガンを両手で保持して移動できる。ガバメントも残弾数と薬室が空なのを再確認してホルスターに突っ込むと、ゆっくりとスライド式の扉に隙間を作った。何もいないようである。昨日よりは周囲、特に海側を警戒しながら移動を開始した。

 

 焼け落ちた宿舎とおぼしき建築物のあたりをまず探索する。転がっているものの中に、屋外に設置されていたらしい円筒状の物が幾つか見えるところから、恐怖で明かりを点け続けていたところを爆撃を受けたように思われる。内装の電灯はともかく、ライトアップ用の照明などいい的だ。崩れそうなので周りを歩きながら目視で内部をチェックするが、平屋なのとほとんどのものは焼け落ちているのとでなんとも言えない。出来れば見えた何人かは埋葬したいところだが、半端に残った屋根がそれを許さない。深海棲艦の爆撃であっても不発弾は発生する。むしろ地雷のごとく不発弾が残り、基地―いや鎮守府だったか―でも爆撃されたあとの処理は一苦労だった。現状で不発弾の至近爆発を喰らうのは避けたいところだ。焼けたダイニング周りも諦めた方がいいだろう。海岸沿いだけに地下室もないだろうし。

 

 倉庫等がないかと、より島の中央側に移動したところで、ガタガタになった道と焼けたトラック、それにほぼ白骨化した誰かを見つけた。風穴の空いたジャケットにブチ折れたM16系のライフルからすると艦載機の銃撃を受けたのだろう。上空を見つつ音を聞くが特に何もない。道は漂着した海岸とは反対側に伸びているので、大型船等はそちら側に接岸するようになっていた可能性はある。ビーチ側はボート類でもなければ入るのは無理だったし。

 

 埋葬は先送りにして、道沿いに木々の間を早足で歩くこと恐らく2時間。登り下りと歩いたところで、日はまだ天頂にはなく午前の間に着けたので助かった。こちらは完全に入り江状の地形で、各岩壁に寄せて港湾施設と呼べる物があるのは確認できた。クレーン類はなく、トラックに小型シャベルらしい代物、それに中型船程度は入りそうなドックは銃撃や爆撃を受けたらしく期待できないが。桟橋も余波を受けてはいるが、沈んだ船は湾内になく、少なくとも出港は出来たようだ。目的地に辿り着けたかは神のみぞ知るところである。点在する倉庫や詰所、受付施設を探そうとしてそれを見つけられたのは先ほど死体を見たせいか。

 

―桟橋の中途から、這いずったような黒い汚れが受付施設に続いている。

 

発生元まで降りてみれば、想った通り支柱の一本が開始点だ。浅い底には艦娘の武装らしきデフォルメされた砲塔状の物が見える。連装砲か?であるならば味方だが。ショットガンを肩に下げるとガバメントを抜き初弾を装填、セイフティをかけてホルスターに戻す。ショットガンを構え直すとポンプアクションを行い初弾を装填する。深海棲艦が艦娘の武装を使用できないとも限らないし、艦娘がここで沈んで沖へ流されて武装だけが残った可能性もある。艦娘でも出会い頭で錯乱状態であると、現状ではこちらがやられる可能性が高い。走行靴を置いてきたのが悔やまれる。出来るだけ静かに、ガラスの割れた金属枠のドアを開ける。後ろ手に内開きのそれを音がしない様に閉めるが、上部の開閉機構の油が切れ気味らしく、軋みの大きさに肝が冷える。受付のカウンター類は無視されたのか奥へ続くドアが半開きで、油痕とも血痕ともつかない跡はその向こうへ続いていた。行動としては人または艦娘だ。海からくる恐怖に怯えたとも取れるし、死ぬなら人の気配のするところでと思った可能性もある。カウンター奥の設備類―各種サーバー類を横目に奥へと歩く。出た先は薄暗い廊下で、ぱっと身で閉じられた扉と、扉もなく壁側に何かの設備がある出入り口が複数見えた。事務所に宿泊施設があるなら電源系統や給湯設備、他リネン置き場が順当なところだ。その一つ、崩れてはみ出したシーツ類とともに足が見える。跡はそこで止まっているし、見たところ最低でも靴を履いた人間だ。近づけば死体か瀕死か見分けのつかない駆逐艦クラスの艦娘が足を投げ出して座り込んでいた。防弾盾に装甲された魚雷発射管は左側しか見当たらないが、脱落したか最初から装備していなかったのか。背部機関部から右に伸びるアームは途中から折れて砲がなくなっている。ただ、残った発射管に1発だけ魚雷が見える。ふと、気配を感じると機関部の煙突上部に小人が見えた。ということは。

 

 俯いた顔の頬に指をやる。温かい。右脇腹のおそらく貫通創や焼けただれた右腕、頭部の傷で血に染まったらしい水兵服からすると人間なら大体死んでいるところだが、艦娘というのはこの程度では死ねないようだ。呼吸も浅いがある。大体無事な左手を取って手首に指を当てる。呼吸同様脈はある。艤装はそのままの方がいい、機関側の力だけで生きている可能性もある。足早に受付の部屋に戻ると、サーバーや冷蔵庫を物色する。そのままだったウォーターサーバーよりは冷蔵庫のペットボトルのミネラルウォーターがいいだろう。メディカルキットも見つけた。艦娘のところに戻り頭の傷から見る。血はほぼ固まっているのか?迂闊に動かしたくないが、運ばなければならない以上ほぼ無理だろう。右脇腹の―貫通創とより外側の削り取られたような傷を水で少しでも洗い、少ない消毒剤で消毒するとガーゼを詰め込み、包帯の不足分はリネンのシーツを裂いて代用する。焼けただれた右腕に頭部の砲弾か破片が掠った傷も同様だが、ガーゼが不足したので一旦消毒用アルコールを浸み込ませて殺菌したシーツでこちらも代用した。これで今見つけたうちの消毒剤は空だ。ビーチ側に戻ればサバイバルキットにはいくらかあったが、複数回交換することを考えると消毒剤も包帯類も心下ない。建物の構造と配置からから考えて、扉のどれかからドック等の施設に行ける筈と思い、床に置いたままのショットガンを再び手に立つと、また小人が目に入る。小人―妖精に声をかける。

 

「燃料は?」

 

腕を×の字に交差させるから切れかけだ、現状で動力が切れるとまずい。

 

「ドックに残った燃料か、最悪オイルを探してくる。代用は効く?」

 

今度は○だったので足早に先へ進む。一番奥に鋼鉄製の両開きの扉があった。スライド式であるし、先ほどのドックだろう。鍵はかかっていなかったし運よく歪んでもいなかった。中に入ると、湾への出口側の天井が損壊しているのが見え、真下に甲板が焼けた中型のボートが見える。ブリッジはガラスが割れた程度で意外に船もこのドック自体も損傷が少ない。残弾がなく引き上げたか?ざっと見て複数のジェリカンを発見し持ち上げて見る。ほとんどは空だったが、一缶だけ半分はありそうな物を見つける。近くの棚を見てボルト類を確認すると、セイフティをかけてからショットガンを肩に下げる。ジェリカンと持てるだけのボルト類をまず持って駆逐艦の彼女のところに戻った。

 

「燃料と資材になりそうなもの、持って来たわ」

 

数人の妖精が姿を現すと二人が給油パイプの受け側を上に向ける。ボルト類は床に置いたところで他の妖精が回収して作業を始めたので、ショットガンを床に置いてジェリカンの蓋を開けると給油口に傾けた。残量がまだある内にストップがかかる。軽く振ると1/4はありそうだ。この程度で満タンになるのかと改めて艦娘スゲーと思いつつ、ほぼ空になったボルト・ナット類に再度ドックへ足を運ぶ。ふと思ったが種類ごとに入っている箱ごと持って行ったのは間違いだった。ボートや車両の修理を想定した場合、必要な径の物がないとまずい。となると―溶接機材のそばにある溶接棒数本と、未使用の鋼材、端材を持って戻る。燃料はまた探すとしよう。

 

 と思ったらボルト類を再度要求された。鋼材はともかく溶接棒は今はいらないらしい。仕方なくボルトを複数種持って戻る。幾らか残ったところでこちらもストップがかかったので、ドックの棚に戻しながらサバイバルキットを探す。船にあるだろう物は動かすことを想定して後回しにし、在庫を探す。出港してから積み忘れが発覚とかやばいし。程なく3つ程見つかったうちの一つだけ手にすると、今度は受付施設側の倉庫を探す。単純に開けていなかった扉の一つの会議室に、壁に寄せてダンボール類があった。既に開けられた箱の底に少し残った複数のサバイバルキット、バラバラに納められた包帯・医薬品類や数本の消毒用アルコールを確認し、全ては持ち出さずに運ぶ。意図してか不可抗力かは分からないが、総ざらいにするには時間がなかったのと、運良く辿り着いた者への気遣いか?創傷・火傷向けの軟膏もあったので包帯の巻きなおしには使うか。抗生物質の類もあったが軟膏が抗生剤入りとの表記もあり、副作用も怖いのでそのままにする。あとは保存食に飲料水か。日常的に倉庫の物品や受け入れた荷物の臨時置き場に使っていたようで、雑多に物が置いてあって有難い。

 

 艤装の修理作業は継続していた。入渠施設のような意味不明のものよりは理解しやすい形で妖精たちが作業をしているものの、その分時間もかかるようで、動かせるかの問いに班長らしいヘルメットを被った妖精が首を振って否定の返事をしてくる。持ってきた物をそばに置くと、あとの準備のために彼女の頭上のシーツ類を崩さない様に取り出す。もう少し外を探すか、出来れば沈んだ連装砲を回収したい。置いた食糧類に複数の妖精が目を向けていたので一部を開けて置いてやる。交代で食事を取るように食料に彼ら(彼女ら?)が群がるのを尻目に、外を探すと宣言してショットガンを手にした。

 

 焼けた車両は無視して倉庫―車庫に入る。こちらは攻撃を受けなかったようだが車両はなく、3台全ての車両が損壊状態だと分かった程度だ。複数のジェリカンがありおそらくガソリンか軽油が残っているのが分かる。資材・工具類もこちらにもあるので、最悪こっちからも持ち出せば彼女の艤装の修理には充分だろう。純然たる武器類は見当たらない。またある筈の食糧庫は外に出てもそれらしい物が見当たらないので、宿舎近くにあるべきものを見落としたか、宿舎自体にあって全損したかのどちらかか。再び受付の有る建物に戻って各部屋を探す。受付カウンターの引き出しにはリボルバーがあった。それ以外の部屋は資料や事務用品、従業員用の衣服(制服ではないらしい)に純然たる消耗品、幾らかの茶菓子・紅茶やコーヒー類と多少の弾薬があった。こちらもまだ回収せずに彼女のところに戻り銃器と工具類を置いて行く。各銃はもちろん薬室を空にしてだ。

 

「連装砲を取りに行ってくる」

 

妖精の一人が頷くのを見てから外に出ようとしたところで受付の壁掛け時計が目に留まる、1時30分。外に出て太陽を見れば天頂からやや傾いているようにも見える。とりあえず回収に向かう。桟橋の上でどうせ誰もいないと全部脱ぐ。タオルを持ってくるのを忘れたが、あとでいいか。そういえばあるかは分からないが井戸(水源)も確認していない。桟橋から降りたところで問題発生、水の上で「立って」しまった。どうやら「轟沈」は解除されたようだが、こうなると意識を切り替えないと通常は水面下に行く方法がない。幸い浅い位置に連装砲は沈んでいるので、底に落ちた物を拾うイメージならいけると判断し、顔から肩まで水に突っ込んで手を伸ばす。海水の反発で弾きだされそうになるのをどうにか抑えて砲身を掴んだ。そこから体を戻そうとした瞬間に一気に水から押し出されて吹っ飛ぶ。背中から木材―桟橋に叩きつけられ、しばし痛みに悶える。連装砲から手を離さなかったのでまた水の中には落とさなかったが、一緒に金属音がしたので叩きつける結果になってしまった。余計な修理が必要になると困るな。上半身の一部や髪が濡れたままなので下だけ着込むと施設に戻る。1時45分。時計は機能しているようなので、少しだけ気が楽になる。上半身丸出しで戻ったところで妖精に声をかけられる。

 

「ハシタナイ」

 

「上だけ水に濡れてんのよ。タオルない?」

 

畳まれたタオルを妖精の一人が持ってきてくれる。礼を言って受け取ると海水で重くなった髪を重点的に拭いてから、シャツに破損状態の制服、ライフジャケットと着込んだ。

 

「鋼材ノ追加ト、弾薬ヲ所望シマス」

 

了解、と返事をしてそれぞれを回収して回る。ドックの未使用の鋼材に、事務用品置き場にあった弾薬―5.56mmとショットシェル、こっちはビーチの物より分かりやすく12GAの表記があった―を使いきらない様に持って戻る。さらに数人出てきた妖精が床に置いた連装砲に取り付くと、そちらの修理も始めた。妖精が動き続けている以上はこの子も生きているはずだが、心配になってまた呼吸と脈を診る。少なくとも生きてはいるがそれ以上は判断がつかない。包帯を換えるには多分早すぎるし、脇腹も出血は包帯を巻く時点でほぼ止まっていた。作業中の妖精を見るが、「班長」は首を振る。まだ時間がかかるようだ。探照灯をテストしていたのを見て手持ちの小型ライト以外は今は不要だろうと、追加の食糧だけ持ってきて休むことにする。

 

「少し休むわ。適当に起こして」

 

重ねたシーツの上で横になる。まだ日はあるのに、すぐに意識が落ちた。

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