轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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20.後日談7 電-3

「それで、電の抱える問題ってなんなんだ?」

 

夕暮れ時の、桟橋そばの砂浜にて、天龍と加藤は一応は密談と呼べるものを行っていた。最近は後ろのベンチに居座る連中も多く、気を遣うことも度々である。

 

「こちらを」

 

タブレットを渡され、中身をみる。

 

「横須賀第4実験艦隊ねえ…」

 

記録:省資源建造実験、と件の話はある。

 

「渡したパスコードは、あくまで通常の提督用のものでござる。そのファイルは、オフラインであることが義務付けられております故、辿り着けませんな」

 

まあ、「どちらも」知ったことではござらんが、と加藤は続けた。変に抱え込みそうな部下に見せる気もなければ、「オフライン」を守る気もない、という加藤の意思表示だ。

 

「もしもの時は全公開で相手方を潰すと」

 

「当然でござろう。どなたかが仕掛けた余分なファイアウォールも定期的にバイパス工作しておりますな」

 

「ちなみに件の実験艦隊は解隊済みで。特務設立前後の話ゆえ、オフラインデータばかりで追跡は困難でござった」

 

「解隊も当然だよなぁ」

 

実験結果が建造失敗と、通常の建造より能力の劣る個体の頻出で、実験は打ち切られた。

 

「人様の亡骸まで使って、これじゃあな」

 

「我々が得られるのがそこまでで、生きた人間が使われなかった保証はありませんな」

 

所詮正規ルートの情報でござる、と加藤が補足する。

 

「それもそうか」

 

「冬木に踏み込んだ際、元艦娘の救命のため「再建造」を行いました。成功率を上げるため資材を追加せよ、と手順書にあるとかまっこときな臭く」

 

「そりゃ真っ黒だ」

 

生きた人間では実験済み、結果のフィードバックとしか考えられない。

 

「少ない資源でどう戦力を確保するか。戦災であふれた孤児。身元確かから不明に至るまでの個人―いや、故人」

 

「窯にくべて燃えるなら、国家って船の燃料にするか」

 

「電も、大方のところ孤児の遺体―下手をすると生きた孤児を、建造に使った結果かと。出身部隊が実験艦隊でありますから、その点は真っ黒です」

 

艦娘化手術とはまったく別物、「個人」が残らない上、出来上がるものは劣化品。

 

「待てよ。艦娘としてはオレより長くね?」

 

「艦娘として長くても8年。ベテランに聞こえますが、言い換えましょうか。「誕生より8年」」

 

「わりい、世迷言だった」

 

「実験艦隊が健在の間は、データ取りが終わった者は大半が最前線送り。解隊後は電も含め一部は訓練期間が長く取られましたな。2年前後横須賀に留め置かれたのち、電はタウイタウイ第3に、という流れでござる」

 

「大井のいた第4は?」

 

「第4以降はここ数年の新設鎮守府です。大規模反攻前に露払い代わりに何度か行われていて、質より量か、隙間埋めの急造部隊です」

 

「古参の多い第3が壊滅するほどの相手で第4がもつはずもなし、ってわけか」

 

「わずかな生き残りからの聴取では、どちらの鎮守府も放棄と撤退の命令は出されたとのことで。誰もが義務は果たしていた、ただ情勢が悪かったとしか言いようがないでござるな」

 

「生き残りが合流して、うちの避難所に辿り着いたか」

 

「これ以上の追跡もあまり意味はありますまい」

 

「文句を言う奴さえいないかも知れねえし、藪をつついて、てのも御免だな」

 

せっかく生き残った奴に手を出されるのも困る、と天龍が言うと、加藤はそれを補足した。

 

「電殿の体質を考えますと、とち狂った理由で再開などされたくないですし」

 

「そっちもあったか」

 

「現状では何も分かりませんでした、というのが都合が良いかと」

 

「Need to knowでオレは頭に入れておけと」

 

「万が一で知って思い詰めて暴走するようなら、止める材料として使っても構いません」

 

「了解」

 

そこでお開きなのだが、

 

「ところで、可能でしたら、今後の予定を多少は聞いておきたいのですが」

 

「オレ以外の分もか?」

 

「欲張って良いのでしたらお願いしたいでござる」

 

「青葉だったらお前から誘えば付き合ってくれるぞ。ただまあ」

 

天龍は一歩踏み込むと左腕を彼女の腰に絡める。密着はせずに右手の人差し指で、加藤「あきつ丸」の目の下を撫でた。

 

「この隈が消えるまで、休暇を取らされると思うけどな。あいつが満足いく程度の被写体になるなら、相手をしてくれる筈だ」

 

「拙者、青葉殿をだしに口説かれてます?」

 

青葉の説明と、天龍の行動のちぐはぐさを加藤が確認した。

 

「抱え込むのは物理的に無理だけどなあ、ストレートに他の子も紹介してくれと言われると、まあイタズラの一つも仕掛けたくなるだろ」

 

「少し欲張りすぎましたか」

 

「それより寝ろ、添い寝はなしでな」

 

恐らく言っても聞かないだろうと思った天龍は、当然特務にも加藤の休暇について問い合わせた。おかげで横須賀に帰還後、

 

「この間はお楽しみでしたね」

 

と金田にからかわれるに至り、加藤は問答無用でびんた(張り手)を金田に喰らわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 轟音

 

スケール分小さくなってはいるが、不格好な拳銃みたいな単装砲からは大砲の音がする。つい拳銃のように標的に向けてしまうのだが、「大砲」として意識して撃つと実に面白いことが出来る。

 

『無茶な撃ち方しますねえ』

 

艤装のチェック、及び訓練に明石さんも付き合ってくれている。まあ使えそうな装備を試したい、と我儘言ったせいもあるけど。単装砲一つとっても奥が深すぎる。今まで銃の認識が強すたが、銃の基本を外しても撃ててしまうのだ。真横に伸ばした腕の先でほぼ90°前に手首を曲げる。砲撃、雑に撃ったので命中こそしなかったが、至近の海面に水柱が立つ。腕は少し揺れたが、手首も無事だ。何故ならわたしの腕は船体の一部で、砲撃の反動を許容範囲に抑えられるからである。その状態から手首の角度を少し変えると、砲身も上げて撃つ、命中。

 

「これ、集中が途切れたら怪我するとか、ある?」

 

『艤装なし、または停止状態だと個人差が出そうですね。応用として訓練するのもいいですが、リスクあり、で考えた方がいいかと』

 

「データがなかったら入渠前提で実験もありかな?」

 

既に実験済みで非推奨、とかありそうだし。

 

『提案だけして保留にしましょう』

 

その前にデータは探してみますが、と明石さんは付け加えた。

 

「経緯次第では負傷状態のまま謹慎、とか天龍さんはやると思うのです。控えた方がいいと思います。」

 

同様に演習場に出ている電が指摘したので、思わず納得の声を上げた。

 

「あー、ありそう」

 

あの人、雑に見えて罰の与え方が結構おっかない。

 

「電にお世話されたいのであれば止めませんし、お世話していただけるなら、喜んで電がやるのです」

 

地雷手前だわこれ、下手に話がエスカレートすると四肢潰されてお世話されたり、四肢を潰してお世話を要求されたりしそう。

 

『それで、脚側はどうですか?』

 

「連続で撃つわ」

 

的に正対しているので、太ももに固定された二門ともまず上に旋回、更に各門俯角を取る。各砲塔の発射を宣告しながら、右、左、同時斉射と三通りを連続して行った。外れ弾と的を貫通した砲弾が、演習エリア境界に設定された島に着弾する。

 

「わたしとしちゃ魚雷より好みだけど、着弾確認とかでも弊害が出るかー」

 

マンターゲットではないものの、少なくとも胴から上の高さの的を狙うと、脚部からでは上に向けて撃つことになる。

 

『演習弾なのでマシですけど、実弾だと島が削れちゃいますね』

 

「イ級とかの人型でない相手ならともかく、ヘッドショット狙うときとか不味いかな」

 

「対空を考えたら、流れ弾は気にするだけ無駄なのです」

 

それもそうか。装備交換のために岸に戻る。左ももに連装機銃、右ももに魚雷発射管を取り付ける。魚雷発射管はさっきまで空にしておいた左腕の分も含め、一発ずつ演習用の魚雷を装填する。機銃は実弾がフル装填だけど。

 

「これが着弾すると25㎜機関砲弾相当の打撃を与えるって、今でも実感できないわ」

 

「わたしらとしては当然、の話なので、大井さんの感覚はやっぱり提督寄りなんですねえ」

 

明石さんはどうやら、わたしのことは聞いているらしい。その辺を聞いたら

 

「緊急時の指揮権限、大井さんも下の方とはいえ入ってますよ。変更がないままなら、遠征隊の天龍さんより上になってます」

 

それもあっての研修か。

 

 再開を告げ、電を随伴に再度海上を走る。残った的の一つに対し、走行しながら同時に魚雷を海中に投下した。二本の航跡が標的に真っ直ぐ伸びていき、運良くかつ運悪く一発が的の支柱自体に当たってしまう。

 

「うわ、後始末の手間増えた」

 

ブランクで外すと思ったらこれだ、開幕ミサイルよろしく使っていまくってたのが災いしたのか、期間が開いても一休み程度だったらしい。リハビリに動作確認程度でラッキーショットなんて、むしろアンラッキーだ。へし折れて丸ごと海中に没してしまったので、後で立てる的の本数が増えただけだ。海中部分の整備は妖精さんや潜水艦の子がやるにしても。

 

『止まった的ですし、よくありますよ』

 

「気を取り直して機銃いくわ」

 

妖精さんは普段は工廠に屯してるかな?とかあとで付け届けでもするかと考えつつ、ジグザグの戦闘機動を行う。追従する電にハンドサインで違うターゲットを指示すると、合図と共に射撃を開始した。わざと演習エリアに右から入ったので、右舷側に標的がある。よってわたしは直前で180°ターン、慣性とスクリューを逆回転させるイメージで、違う意味で逆走しての射撃だ。左ももの機銃からの曳光弾混じりの銃撃が、瞬く間に的を蜂の巣にした。電はそもそも艤装の可動式砲架台に機銃を装備しているので、こちらのような問題は生じない。

 

『どうです?』

 

「機銃にも照準自体にも問題はなし。わたしの艦種が魚雷以外は使いにくいって分かっただけね」

 

「そのための電なのです」

 

駆逐艦が軽戦、わたしは積載の多い爆撃機という役どころか。

 

『一応、固有装備を拡張部位に装備して、手に機銃を装備って手もありますよ』

 

「戻って装備位置変更だけ試して、演習場整備に入ります。この後空母の方々が使う予定でしたよね」

 

また岸に戻って、左の発射管と機銃を上下入れ換える。機銃は手持ち、腕部アタッチメントのどちらでもいけるようだ。発射管も上下可動などに悪い影響はなさそう。

 

「必要があれば、出撃時に位置変更ですね」

 

わたしが携帯できるのは、固有装備の魚雷だ。わたしの場合は腕から外してしまうと、収納が出来なくなる。あきつ丸など一部の、全艤装を収納できてしまう子がうらやましい。左腕を四連装魚雷発射管に戻し、フル装填して収納状態にする。単装砲と脚部発射管は外して運搬台に置くと、電と一緒に的の交換を行った。終えたところでちょうど、空母組がやってくる。赤城さんが二人に加賀さんが一人で、ここに所属する空母全員と言うわけではない。瑞鶴って子と、あと龍驤さんが―わたしの知らない龍驤さんが確か、いた筈。

 

「こんにちわ」

 

「やあ、調子はどうかね」

 

先頭を歩いて来た赤城さん、次の赤城さんの順序で挨拶してくる。最後尾の加賀さんは軽い会釈で、前々からの印象通り、少し気難しいタイプのようだ。2番目に来た赤城さんは、記憶違いでなければ以前執務もやっていた人で、明確には言われていないが天龍さんの「同類」の筈。ん?赤城さんは何人いるんだろ、ここ。調理担当の赤城さん、いたよね?

 

「こんにちわ、ちょうど再設置が終わったところです」

 

ともあれ、挨拶と最低限の整備は終わったことを告げる。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、そういうルールですし。あと一つミスって、支柱ごと水没した的があるので事故に注意してください」

 

あとで潜水艦の子か妖精さんに回収を頼んでおかないと。納入時期によってか、金属支柱部がパイプだったりステンレス鋼材だったりばらばらだ。台座部分に刺さったままの部分、底に沈んだ部分のどちらも、艦娘に簡単に刺さる代物ではないと思うが、それで安心できる物でもあるまいし。

 

「水面下なら大丈夫ですよ」

 

赤城さんの否定に、もう一人の赤城さんが一応の可能性を告げる。

 

「いや、万が一もありうる。いきなりの機能不全で沈み始めたなら分からんぞ」

 

「一応、素でも対人弾なら痛いだけですみますけど、「船底に穴が開く」みたいな感じに損傷しないとも限りませんので」

 

「なんで知ってるのさ」

 

わたしの変な知識の披露に、2番目の赤城さんが呆れたと表情が抜け落ちたの中間のような表情で聞いてくる。なんか虚無一歩手前だ。

 

「前のとこで訓練用の弾や燃料も事欠いた時に、ダダ余りの現地陸軍装備で地上訓練やりまして。士気にまで響いたんで数回で取りやめましたが」

 

艤装稼働状態で喰らう訓練砲弾の数倍は痛かったからな、あれ。駆逐艦の子なんか45口径1発で動き止まるというかその場に蹲って、1発なら小破とかみたいな判定設定出来なかったし。ほぼ同じ体格の龍驤さんは、数発喰らってもそのまま気合で突っ込んできてやたら怖かったが。それはそうと正規空母の人の訓練か。袖を数度引っ張る電に、参考になる筈と伝えてから赤城さんにお願いする。

 

「訓練、見学させていただいてもいいですか?」

 

あとの予定は今日は報告書程度だし、タイプが違う人の動きも見た方が役に立つだろう。赤城さんが―多分口調が普通な方の赤城さんがどうぞ、と答えてくれる。明石さんはわたしらの艤装を回収して行ってしまったが。赤城さん、加賀さんは特徴的な盾のごとき飛行甲板を含む艤装に、さらにその一部として和弓と矢筒を携えている。問題は、以前話した赤城さんの方だ。ほぼ一緒なのだが、何故か弓がなく手ぶらだ。で、許可をくれた方の赤城さんが、少しだけ申し訳なさそうに注意をくれる。

 

「とはいえ今日はあまり参考にならないかもしれません。先任の衛宮さんの射を見せて頂いた上で、主に射の訓練になりますので」

 

「はあ」

 

赤城で衛宮?「赤」城で「衛宮」で赤い弓か?そう思ったとき、彼女―「衛宮さん」が弓を出した。艦娘赤城のではない、どこかで見たようなハンドガードのある黒い弓だ。弓道の知識がないわたしでも、そのあとの動作は非常にきれいだった。事前知識としてあったにしても、あれは「当たる」、いや「中る」だったかと認識した。

 

「多分綺麗な構えなんでしょうけど、参考にならないんでしょ」

 

「なかなか盗めないんですよね」

 

赤城さんの言葉に、少し引いた位置で加賀さんがうんうん頷いている。背が高いのに変に縮こまった姿勢をしていてなんか可愛い。あといつの間にかその隣に電までいて、ぽけーとあっちの赤城さんの射を見ている、これもかわいい。

 

「仕方ないでしょ。「これは当たる」、「今のは当たった」、そんな感覚が常にある射撃ですよ、あれ。当たらない理由が分からないから、教えられない。ただ見せるしか出来ないやつ」

 

実戦の最中では何度かあった、撃つ前から当たると分かるあの瞬間。そういう感覚が生じた時には一連の動作は全てが無意識だった。気付けば次の標的を意識していて、前の敵を意識する必要は全くなかった。だって確実に沈んでいたから。それだけに「ああ、これは当たるな」となってそれを遮る馬鹿をやったけど。

 

 都合三度、彼女は矢を射た。結果は三つの的の中心に綺麗に刺さった矢だ。

 

「こんなところだ。参考になればいいが」

 

「いえ、とても為になります!」

 

何分未熟者でして、と赤城さんが言葉を続ける。

 

「私も似たようなものなのだがね」

 

実のところ水の上を歩くのは未だに慣れん、と彼女(それとも彼なのか?)も冗談ともつかないようなことを言う。

 

「あれははわないのでふか」

 

いつの間にかしゃがんで、電とお互いの頬をぐにぐにやってる加賀さんがそんなことを言う。何をやっているんだ、あんたら。

 

「何かね、加賀」

 

「天龍さんも好きな、赤城さんの砲撃は御披露しないのですか」

 

立ち上がって、自分だけ電の頬をふにふに摘まみながら加賀さんはそんなことを言う。電の方はぎりぎり指が届かなくなって、ぽかぽか彼女の肩を叩き始める。かったい胸当てがなけりゃ多分そっちを揉むくらいやっちゃうんだろうけど。それはそうと、自分だけ電で遊ぶというなら返してもらうか。

 

「衛宮さん、砲撃も得意なんですか!」

 

「いや、あれは砲撃というわけでは」

 

赤城さんがきらきら目を輝かせて詰め寄ってるから、見られそうだな。加賀さんの手を押さえながらそんなことを考える。数度わたしの顔を見てから、彼女が素直に手が離したので、腕をおろしてまだ加賀さんを叩いている電を脇から抱える。

 

「一度だけだぞ」

 

期待の眼差しに耐えられなくなったのか、「衛宮さん」が了承の返事をした横で、わたしは視界を塞ぎ掛けた手を、抱えた電ごと身を引いて回避した。遊び損ねた子どもみたいに加賀さんは─「加賀」はむすーっとしている。天龍さんが言っていた焚き付けるな、の意味がようやく分かった気がする。

 

「的を壊すのも手間だ、少し手を抜くぞ」

 

わたしが昔聞いた「それ」を呟くと、彼女は右手に虚空から滲み出すように現れた剣を手にした。先程と同じ、流れるような動作でそれを弓につがえると、矢とまるで変わらない勢いで飛翔した剣は的に当たり、砕け散るガラスのような音と様子で宙に溶け消えた。傷一つない的に、今のが現実だったのかさえ覚束なくなる。

 

「くるしいです」

 

抱えっぱなしの電の抗議に慌てて腕を弛めて、からからに渇いたのどに気づく。存在自体がオカルト寄りなのに、「オカルト」の実演に恐怖に近いものを覚えたか。

 

「今のは手を抜いたが、実戦では当然深海棲艦を撃ち抜けるものを使用する」

 

これでいいかとばかりに彼女がこちら側を見れば、加賀さんはまたうんうんと頷いているし、赤城さんは─ 一気に詰め寄ってすごいですとかやり方を聞き始めたりとかで、まるで子どもようで。しかしながら、外見年齢でいけば歳相応なのか、とも気づく。艦の記憶で兵隊として使えるだけであり、普通の軍隊も、兵卒は若者ばかりで半分子どもみたいなものだ。そんな子に手品のような、魔法のような綺麗な物を見せればそのはしゃぎようも理解は出来る。赤城さん同士のじゃれ合い部分だけで見られるならとても楽なのに。

 

「顔が青いが、大丈夫かね」

 

話題を反らすようにこちらを見る、赤城―衛宮さん。

 

「え、ああ」

 

下からも電から見上げられている。

 

「燃料は、自前ですか?」

 

一歩だけ踏み込んで、聞いてみた。

 

「…残念なことにな。私が怖いのなら、天龍に聞くといい。彼女にも事情は話してある」

 

「怖いのは多分、あか…エミヤさんの後ろにあるものだと思うんで、多分大丈夫です」

 

単独行動に向いてるガワがあるから被せた感が強い。概念が似てるから赤い袴の弓使い、名前が赤城で、衛宮の宮も宮殿とかで城にも通じるから―こじつけにしても勘弁して。

 

「電、彼女を連れて部屋で休ませた方がいい」

 

どうやら強がりも無意味なくらいに、顔色が悪いらしい。電が彼女の指示に従う程度には。

 

「はい。大井さん、降ろしてください」

 

電がわたしに行動を促す。ゆっくりと降ろして、両手で彼女の左手を握る。電はわたしの顔を一瞥すると、ゆっくり歩き出してくれた。いったい何に怯えているのか、わたし自身でもよくは分からない。死線の向こう側から戻ってきた癖に、ただの知識に怯えるなんて、滑稽すぎる。暖かいこの島で、冷や汗を流しながら歩き続けた。

 

 

 

「どうしたんでしょう?」

 

赤城の疑問に、やや近い答えを返す赤城。

 

「今君たちに見せたものは、「魔術」という技術の一部なのだが、少し言い方を変えるとするなら「呪術」だ。人によってはそれが発する場の空気自体にやられることがある」

 

そういった気に当てられたのだろう、と彼女は周りを煙に巻いた。実際のところ、妙な部分に踏み込んできた大井に警戒し始めていたが。

 

「さて、稽古の時間ではないのかね?」

 

「あ、はい」

 

先程の「射」の印象は半分どこかに行ってしまったようなものだが、普通の赤城にとっては気合が入っただけでも充分だった。ただ、問題は隣に並んだ加賀で、

 

「いや、ちょっと待ちたまえ」

 

礼やら作法はどこへやらに加え、ショートボウやクロスボウでも扱うかのように次々と矢をつがえて放ち始める加賀に、他の二人は呆然である。しかも少なくとも的には刺さるので、余計に質が悪い。そういえば一緒に出撃した時はあまり見てやれなかったと、赤城(衛宮)は思い出した。そのうち矢自体を投げる真似まで始めたので、後日ほぼゼロからの「弓道教室」開催に至るのであった。

 

 

 

 

「無理しないでいいぞ」

 

天龍さんがこちらを気遣ってくれるが、

 

「この程度なら仕上げてからでないと」

 

震えの治まった手で報告書を書いている。ソファに浅く座り、電に背中を抱いてもらいながら。本音を言えば前から抱いてほしいけど、それだと何も出来なくなる。ペンを放り出して抱き締めて、この寒さをやり過ごそうとするだろうから。

 

「ところ、で。なん、で抑止の、守護者がいる?」

 

「そりゃ、みんな死にたくないからだろ」

 

彼女が「設定」を噛み砕いたような返事をした。

 

「万が一があったら、みんな、死に、ますよ」

 

「ここがその原因の一つなんだから仕方ねえだろ」

 

力加減をミスってボールペンが折れた。幸いインク芯まで粉砕はしなかったので、書類は無事だ。砕けたペンを離して置くと、お腹にかかっている電の腕を掴む。左手も先程から電の腕を掴んだままだ。

 

「オレがくたばったらここの連中が離反する。ここの一部の誰かが死んでもオレが全員引き連れて離反する。他にも幾つかパターンが考えられるそうだ。以前ならともかく、今じゃ実感ねえけど」

 

「たかが一拠点くらいで」

 

「特務も支援するってよ、原因が「人間」ならな」

 

その理由に思い当たった。

 

「二回目のクソゲーに、主義まで曲げて付き合う気はない。結果的に、ダメになっても好きに、生きる?」

 

「そういうことだ。人類側の戦力が完全に割れるとしても、庇護対象でもある戦力を食い潰すことしか「考えない」奴らとは、相容れないってよ」

 

「あ、はは、そりゃ消されるわ」

 

「ちなみに、お前も「やれば出来る子」って奴だ」

 

「電が死んだら、大井さんは後を追う、と言ったのは天龍さんでは?」

 

途中に電が口を挟んだ。その回答は、過大評価としか思えないが。

 

「どっかの誰かは違う判断をしたって訳だ。人間が馬鹿やってお前が死んだら、大井は死ぬまで馬鹿を殺し続けるって感じなんだろ」

 

「デ、ソノ馬鹿ハドコに?」

 

「特務が狩り出してるとこだ。最悪お前らは飼い殺してやっから、存分に二人で乳繰り合っててもいいぜ」

 

「ちょっと大井さんを黙らせます」

 

「おう、頼むわ」

 

電の腕を掴んでいた手が少し強引にはずされて、背中の熱源が離れていく。慌てて振り向こうとした結果、左に上半身をひねったところで頬を押さえられて少し上を向かされる。声をかけようとわずかに開いた口を塞がれた。執務室なのに、人前なのに、と今さら常識的な思考が反撃を邪魔して、電に口内をいいようにされる。唇が離れたところで無抵抗なまま、電のほぼない胸で頭を抱かれて落ち着き、動く気力もなくなっていく。

 

「いくらか落ち着いたかと」

 

左側で多分ソファに膝立ちの電がそんなことを言った。

 

「粗方出来上がってるし、あとはやっとくわ。戻って好きにしちまえ」

 

報告書を一瞥した天龍さんに、当然だとばかりに電が答える。

 

「言われなくとも」

 

するっと太ももの下に腕が入り込んで、少しの浮遊感とともにお姫様だっこで持ち上げられてしまった。また立場逆やん、と頭が回らないまま、天龍さんが開けてくれた扉の向こうへ運ばれていく。

 

「すぐに遠くに目が行く馬鹿だからな、腰が抜けるまでヤって目の前の幸せって奴を刻み込んどけ」

 

「もちろんなのです」

 

「いやだから電はわたしので、なんで天龍さんのいうことぉぉぉぉ」

 

抗議を言い終わる前にダッシュされて、つい横から電の頭に抱き着いちゃったもんだからそれを途中で見られながら運ばれてしまいました。おまけに翌日には「だっこでダッシュ」とかいう遊びが流行ってて、もう恥ずかしいどころじゃありませんて。

 

 なお、あっちの「わたし」が最大の受益者だったようで。北上さんに何往復も運ばれて最後は気絶してた。

 

 




 適当につらつらと書き上がった。武装関連は適当に書いてるけど、イラスト見るとなんかゲーム内装備描写と差があったりで整合性は考えなくていいかな?とも思う。

 伏線っぽく書いた電の来歴については一応これで回収終了。このあとは内容的に「次章」になる感じ。前話の「19.回想」に「後日談」とないのは次章絡みのため。
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