轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

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21.迎撃

─夜間警備

 

少しずつだがわたしたちにも任務が割り振られるようになった。本土や付近の「掃除」が終わったのだとか。あとはあきつ丸、川内とその都度臨時で入る艦娘でまわしていた夜間の警備に良さそうな人員だったこともあるとか。帰還前のあの一戦、ちょっと過大評価されてね?

 

『まあ、緊急時の指揮能力を当てにしてる部分もあるが』

 

残業中の天龍さんが疑問に答えてくれる。

 

「二人だけで指揮もなにもなくない?」

 

『まだ様子見だ。それに後詰に三人控えてるからな』

 

ヤバイときはオレも出る、とカミカゼ管理職なことまで言い出すし、艦娘が提督やってる弊害は確かにありそうだ。暗い海を走りながら、少し振り返って島々を見る。多くはないが一部の島からサーチライトの光が照射され、警戒拠点としての主張を強くしている。

 

「どうしました」

 

追従する電が問い掛けてくるが、漠然とした感覚なので答えにくい。ゆっくりと(元)無人島群を周回するコースを取りながら、近そうな言葉を口にした。

 

「哨戒任務というより、歩哨かな?」

 

背後を気にしなくていい安心感。油断かもしれないが、心細さはどこにもない。

 

「門こそないけど、基地正門で壁を背にしている感じ」

 

『流石に気を抜きすぎじゃねえか』

 

「深夜放送もあればいいかな。ノイズが入ったら、敵の合図って具合で」

 

「次からラジオ持ってきます?」

 

『夜間飛行かトラックドライバーのイメージじゃねえか?むこうさんだって通信管制くらいあるだろ、やめとけ』

 

たしなめられたのを機に、戯れ言を控える。「外側」に目を向けながら単装砲のグリップを握り直すと、腰を少し落としながら水上走行を継続する。やはりすねは無装備で正解かな。感覚的にフル装備の棒立ちに近い状態は性に合わない。少なくとも警備程度なら単装砲、対空機銃、両腿に魚雷が身軽でいい。

 

「装備、どうです?」

 

「いまのとこ問題なし」

 

自称臆病者だから、電達と同仕様の防盾付き魚雷発射管を積んできたのだが、どうやらわたしはこれでも大丈夫らしい。一基三発なので火力は下がるが、威力の面では酸素魚雷でカバー出来るし、撃ち終わったあと投棄する理由が全損以外になくなるので経理的にもいいはずだ。

 

『・・・今、二人出た、交代して一度待機に入ってくれ』

 

「仕事?」

 

何らかの状況の変化か?と問う。

 

『本島で二隻撃ち漏らしたらしい』

 

「一人足りなくない?」

 

待機は三人だったはずだ。

 

『三人目は榛名だ。再出撃後に四人で索敵、こっちに来たなら砲撃で片を付けたい』

 

「了解」

 

指示に従い電と戻る。会話中に既に南側に来ていたので、そのまま北上して島群内に入り演習エリアを通過、桟橋につけたのだが。

 

「今日の執務、赤城さんなわけ?」

 

榛名さんの砲とレーダーユニットの動作チェックを、艤装を装備した天龍さんが手伝っている。

 

「ああ」

 

少し気のない返事をした天龍さんを見ると、チェックの終わった榛名さんが桟橋から降りた。

 

「行けるな?」

 

「はい、大丈夫です」

 

よし、行けと彼女が言うと榛名さんはそのまま北側に出港した。

 

「お前らは待機所に入れ。艤装は装備したまま、四十分後に再出撃だ」

 

「天龍さんはどうするのです?」

 

「オレはここで待つ。事態急変時には先に出るからな」

 

コンクリート製の桟橋に上がると、本来はプレハブ小屋だったらしい待機所に開けっ放しの両開きのスライドドアから入った。内側はほぼそのままだが、外側は鋼板を追加されて簡易トーチカの様になっている。適当に置かれた二つの丸椅子に、入って左の壁寄りの平ベンチ、果ては右の壁に寄せて置かれた大きめの木箱と、どれも背もたれのない「椅子」ばかりだ。中央にはやや小さめの、四角い卓が置かれていて先に出た二人が使ったらしいカップと、飲み物が入っているらしい大きめの水筒が置きっぱなしだ。未使用のカップも重ねて置かれている。

 

「工廠から直接出たからなぁ」

 

入り口側の壁に寄せて単装砲を床に置くと、卓にある水筒を右手で取ってみる。艤装の稼働率を落としていても軽いが、少し振ると多めの液体が揺れる感触が戻ってきた。

 

「少しもらいましょ」

 

「はい」

 

左下腕に装備した機銃をぶつけたくないので、水筒を一度置くと基本右手だけで二つのカップに飲み物─紅茶を注ぐ。しっかり蓋を閉めて水筒を置くと、座りやすそうな平ベンチ側にカップを寄せて置いた。くるりと入り口側を向くと奥にあとずさってベンチの奥半分にまたがる。ただ座るなら丸椅子の方が楽だけど、どの方向にもころがれるので艤装を背負ったままだと嫌だったから、少々お行儀悪いがこの通りである。電も同様に、向かい合って入り口側の半分に座ると、片方のカップを渡してくれる。

 

「ありがと」

 

時間前の再出撃も有り得るので機銃は外したくないが、左手で物を取ろうとするとミスってぶつける可能性もあるし、助かる。なんとはなくお互いを見ながら紅茶を口にする。

 

「ふ」

 

何となく笑ったと思う。

 

「おいしいですね」

 

ぬるめだけど、とてもおいしい、と感じた。

 

「きっと、金剛さんですね」

 

「そうね」

 

思えば渇いていたのか、わたしも電もすぐに飲み干してしまう。

 

「もうすこし、のみます?」

 

空のカップを手に聞く彼女に、首を振ると左手でうわ手にカップを掴んで、卓に置いた。電もカップを片付けてしまう。

 

「別に、もっと飲んでもいいんじゃない」

 

私の真似をするように飲むのを控えた彼女に、遠慮するなと告げたものの、

 

「なにか理由があると思うのです」

 

と返されたので、些細な理由を述べた。

 

「直撃くらってみっともないことになりたくないだけよ?」

 

「そういうの、大事だと思います」

 

変に生真面目に答えた彼女に、また笑みを返す。

 

「でも」

 

「でも?」

 

目を伏せがちに小さな唇が動いた。

 

「すこし、ものたりないのです」

 

「へ?」

 

いや、待機中でしょ。

 

「くちさびしいですね」

 

少しだけ目をさ迷わせると、通信状態を確認する。受信待ちで、発信はなし。

 

「口だけ、よ?」

 

我慢とかフラグ的に縁起でもないし。とはいえ寄って来ようとする彼女を押し止めると、ベンチに右手だけついて乗り出すように上体で前に出る。電も同様に両手をベンチに突くと、少し上向くように身を乗り出した。

 

 

 紅茶の香りが、鼻をくすぐる。少し開いて重ねられた唇から、「彼女」が来ようとするの押し止める。紅茶の後味を感じながら、少しだけはなれた。

 

「駄目よ。直撃どころかここでみっともないことになるわ」

 

むー、と不満げな顔で唸る電に、もう一回だけと告げて再度唇を重ねた。ほんの少しでまたはなれる。

 

「まだお仕事中、いい?」

 

「・・・はい」

 

無線はまだ沈黙したまま、時間にしても15分も経っていない。ベンチについた右手を電の両手が覆ってきたのは好きにさせた。そういえば。

 

「榛名さんも工廠から直接出たみたいね」

 

ここで待機していたのは二人だけだし、大型の戦艦用艤装だと、ここは少し狭い。そんな風に思って口にしたら、ぐいぐいと強めに手を掴まれた。見ればいつぞや見たように口をへの字に曲げて電がむくれている。

 

「気を抜きすぎ」

 

じっとこちらを見るばかりな彼女。妙に突っかかって来るな、今夜は。

 

「だいぶ「悪さ」した自覚はあるし、先に気を抜いてたのはわたしだけど、お願いだから今は事故らないことだけ考えて」

 

「「事故」ですか?」

 

「二隻って天龍さんは伝えたけど、そのフォローをしてるのがあと一隻、下手をしたらそれ以上いるってあの人も多分考えてる。「わたしたちの時」と立場を逆にしてみなさい」

 

「撤退中の二隻に襲い掛かったら、いきなり砲撃で「照らされる」?」

 

「榛名さんを出した上に、自分まで戦力にカウントしてる。わたしたちが戻れば通常編成の六隻艦隊相当よ」

 

「了解・・・なのです」

 

半分は当てずっぽう、おまけに自分まで出るって言ってるのは「相手の一人」の榛名さんを出撃させたためもあるだろうが、それでも単純に二隻と考えていないのは彼女の行動を見れば分かる。さて、何が出てくるか。

 

 

 そろそろか、といったところで袖を引っ張られた。見るとパイロットの衣装の妖精さんがいる。妖精さんが指し示した先─扉の外にからからと複数台の小さな台車に載せられたこれまた小さな零式水上偵察機が三機、整備兵っぽい妖精さんたちに引かれて現れた。なお、「大井」も「電」もこれの運用は出来ない。

 

「夜間ダガ上空警戒ニ当タル」

 

目は多い方がいい、ということだろう。ちょうど手隙のわたしたちがいるから水面に降ろせとの指示。まあこっちも不慮の遭遇は回避したいし、文句はない。全員で出撃のために桟橋に移動すると、待ち続けていたらしい天龍さんがこっちに気付く。

 

「水偵、か。許可する」

 

やっぱ妖精さん達の独断か。砲を桟橋に置いて一度降りると、妖精さんたちの乗り込んだ機体を両手で海面に下ろす。と、降ろした機体から順に、エンジンを始動させて滑走を始めた。三度、南側に白い航跡を残して機体を視認しづらくなった辺りで音が上空へと上がっていく。それを見送ると、砲を回収してから天龍さんに向き直った。

 

「大井、電、出撃します」

 

「島群南端で警戒中の吹雪、漣の通過を待て。その一分後に同航路で周回し警戒に当たれ」

 

「了解」

 

右に並んだ電と顔を見合せ、同時に水上走行を開始した。待機中にリセットされた目をまた慣れさせるため、速度は押さえ目に周囲を見ながらパスしていく。おかげで待機地点到着時には、やや離れた電の顔をかなり視認できる程度には暗さに慣れていた。唇─本来なら桜色のそれが気になって仕方ない。

 

「どうしました」

 

「なんでもないわ」

 

我慢できているつもりだったが、そうでもないようだ。さっきので火をつけられてしまった感じか。まあ、泣き言っても始まらないので、機関の出力を落としつつ耳をすます。機関の稼働音、波音、上空のわずかなエンジン音、時折無線にのるノイズ。吹雪と漣の航行音はまだ聞こえない。視線を遠くにやるが、海面に目ぼしいものはなく、上空もよく見える星々、三日月に、それに照らされて視認できる少しの雲くらいだ。

 

「なにもみえませんね」

 

「そうね」

 

先に上がった水偵も確認できない。多分より北側の上空で警戒中なのだと思うが。

 

「南に離れていく航跡とか見えたら、楽だったんだけど」

 

「それはそれで問題になりそうです」

 

警戒網突破されたってことにはなるし、失点扱いか。と、

 

「航行音、かな」

 

口に出して程なく、吹雪と漣が西から東へと通過していく。吹雪の後ろについた漣が身をひねって手を振ってきたので、手を振り返しておく。

 

「万が一はなくてよかったわ」

 

「そんな縁起でもない」

 

警戒網を抜けてきた深海棲艦が、という可能性も零じゃなかったし。艤装の稼働音だってフル稼働でも大したことないから、音を聞いている時点で大分まずかったかも。彼女たちの通過から一分、指示通り外側に航行を開始する。

 

 

 

 多少の明かりはあれど、やはり暗い。待機前と違って並んで航行しているのも、それが原因だと思う。

 

『コチラミカヅキ、海上二異常ナシ』

 

『ビスケット、同ジク、不審ナ航跡等視認出来ズ』

 

『オルガ、上空二不審ナ機影視認出来ズ』

 

『傍受して避けてくれりゃあ楽なんだがなぁ』

 

最後に天龍さんのぼやきが混じるが、そりゃ希望観測にすぎる。それはそうと妖精さん、変なコールサイン使ってるな。今夜の月に、待機所に足りなかった菓子?いやそれだと一番最後が分からん。

 

『待機用にクッキー持ち込むべきでしたわ』

 

『漣ちゃん気を抜き過ぎ』

 

『肩の力を抜いているだけですぞ』

 

コールサインからの連想か、漣が声と比して実に残念な口調で菓子のことを口にして、たしなめられている。相変わらずの残念美少女振りというか、姫はやれてもサークルクラッシャーにはなり得ない感じ。

 

『榛名です。電探に不審な反応ありません』

 

『各監視塔からも特になしだ。ついでに艦種の情報もなし』

 

他所とは違って、ここの監視塔は妖精が運用している。実のところ稼働率は高くないそうだが、今夜は機能しているらしい。

 

『情報じゃ数は最低二隻、ただしおまけに大盤振る舞いもあり得るからな。足下にも注意しとけよ』

 

潜水艦もあり得るかー、やだなぁ。前沈んだ原因、発射元視認出来なかったから多分潜水カ級だし。水上を走る物体の視認も一苦労な状況で水面下を移動する奴なんて無理だわ。

 

『北東、航跡三。人型一、魚型ニ。魚型一カラ出火中』

 

『速度約十ノット、南南東ニ移動中』

 

来た。

 

『全艦停止、漣!』

 

反射的に減速するけど、水上では視認外とはいえ敵の近くで止まれとか勘弁してほしい。

 

『かしこまり~、てありゃ、四隻目いますな』

 

『種別は分かるか?』

 

『多分水面下移動中の水上艦ですぞ。潜水艦の音じゃねーです』

 

『了解、ソナー引き上げて北東側で停止中の大井達と合流しろ。榛名、見えてるか?』

 

『電探で補足済みです』

 

榛名さんの返事のところでもう吹雪と漣が合流してきた。発見の報の段階で北側に戻ったからだとか。ソナーの都合もあったし。

 

『榛名の斉射後、単横陣で砲撃ポイントに雷撃、その後残敵の掃討に移れ。榛名、撃て』

 

『撃ちます』

 

後方から轟音が響いた。少しの後、私たちよりもさらに北東で火の手が上がる。

 

「と、突撃!」

 

わずかに間を空けて宣言、前傾気味にまだ明るいそこへ滑り出す。

 

「雷撃は?」

 

左隣の吹雪の質問にやけくそ気味に叫ぶ。

 

「視認したら半分撃って!自分に一番近い奴か真っ正面に!」

 

連携訓練もなしにいきなりの突撃隊長だ。分かりにくい加速感とともに光源が急速に近付く。やや赤く光る人型─炎上中の深海棲艦に対し左右の発射管から魚雷を落とす。ややタイミングがずれて計十四の航跡が三つの艦影に向かうが、

 

「ブレっ、左右に散開!砲撃自由!」

 

人型の腕、まだ動いている魚型の動きに水上戦闘らしからぬ指示を出しそうになる。南に離れる電に追従しながら牽制で単装砲を放つ。北側に離れた二人からも砲撃音が響き、深海棲艦からの応酬も合わせて賑やかさが増す。砲弾の通過音を聞いた直後、視界の左に流れていく深海棲群が更に炎上した。

 

『魚雷命中。魚型二、轟沈。人型水没中』

 

『注意、四隻目確認デキズ』

 

『探すしかねえな』

 

速度を緩めて周囲を確認する。人型─顔の半分しかもう見えないリ級を注視しつつ、水面を見るが、砲火と爆炎のせいでまだ目が効かない。

 

「ソナー、使える?」

 

くぐもった爆発音が響いて、漣が否定する。

 

『まだムリダナ』

 

先に沈んだ、多分イ級の弾薬に誘爆したようだ。直後に東の方で魚雷の爆発音も響く。

 

『一発外れてたみたいなのです』

 

時間経過で自爆したか。気が付けば深海棲艦は全部沈んでいて、燃料や一部の破片などが水上でまだ燃えている程度だった。

 

「逃げられた?」

 

自然と皆そこに集まってしまったのは、大分不味かったはずだ。

 

『この期に及んで出て来ないってんならそうかもしれないが、同じ手を使われると厄介だな』

 

天龍さんのぼやきに同意しつつ、まだ燃える破片を蹴った直後、「足を掴まれた」

 

「ひ」

 

浮上した黒い影に引き金を引くが脇を抉るにとどまる。

 

「ア・・・ウ・・・・イ」

 

ガチンと装填時間を考えずに引き金を引いてしまい対応が遅れる。苦しい、と感じたときには首を掴まれていて、相手の艤装で足元をぶち上げられていた。

 

「キ・・・・・・ホ・・・・」

 

フェイスガードから覗く眼が恐ろしく。その向こうで吹雪と漣が何かを叫んで。右下で轟音が響いた。

 

 

背中から水に落ちる。艤装ごと半ば水に浸かるが、それ以上沈まないものの、絞められていたため仰向けのまま咳き込む。芯から凍るような声が響いた。

 

 

じごくにおちろ   

 

 

爆音と爆風、破片が同時だった。仰向けのまま敵の方を見れば、左腕を飛ばされた雷巡チ級と、右手側に電の背が見えた。チ級の正面が焼けただれているのを見ると、電に魚雷を直当てされたか。多分、連装砲で飛ばされた腕は─わたしの首にかかったままだった。チ級なら左も装備があった筈だから、大破して曳航でもされていたか?

 

 

 至近距離のどつき合いは流石にまずい、と指示を出そうとするがかひゅ、と空気が抜けるような音しか出ない。向こう側で二人も待機しているのだし、最悪自爆もあり得る相手と正面でやりあう意味はない。電が二本目の魚雷を取り出すのと、チ級が残った腕で何かを引き出そうとするのが重なったところで、チ級の肩から上がかき消えた。直後に衝撃音が響く。

 

 

「退避ーっ!」

 

 

今の声は吹雪か?見辛いが白いセーラーが北側に後退していくのが見える。わたしはというと、魚雷を投げ出した電に引きずられて移動していた。残ったチ級の残骸の辺りで水柱がもう一度だけ上がる。

 

『人型一、撃破。任務完了』

 

『待て、どうなってる。大井?』

 

上空の妖精さんの報告に、天龍さんが問うと吹雪が興奮して返す。

 

『正体不明の砲撃です!』

 

「大井さんは深海棲艦の攻撃を受け、現在動けません」

 

わたしを曳航する電のあとに、無事を知らせるために無理矢理声を出す。

 

「ました、からでてきたチ級、砲撃で吹き飛びました」

 

『負傷は?』

 

「首を絞められたのと、背中から落ちたので艤装が機関不良起こしてる」

 

『あきつ丸と川内に後処理に出てもらう。全員帰還しろ』

 

「先程の、砲撃は?」

 

『そいつは今から確認するが、多分問題ないな。砲撃が必要だったこと自体は問題だが』

 

会話中に吹雪と漣が合流してくる。

 

「大井さん、大丈夫ですか」

 

仰向けのまま吹雪に対応する。

 

「首絞められたのと、ホラー映画さながらのご登場されて腰が抜けただけだから。最初足掴まれたわ」

 

「それは災難ですなぁ」

 

「浸水したのはある意味助かったわ」

 

漣の相槌にぶっちゃけた。

 

「自分で言っちゃいますか。武士の情けくらいありますよ」

 

「言っとかないとこのままベッドに曳航されそうだし」

 

海水ですっかり濡れているが、漏水は事実なのでシャワーくらい浴びたい。ひゃあと漣が悲鳴を上げ、急に吹雪が不機嫌な顔になる。

 

「仕方ねーです。このまま風呂まで運んでやります」

 

電のまんざらでもない声が前から響く。

 

「あら、運ぶだけ?」

 

「じっくりあらってやるのです」

 

「電のお好みでいいのよ?ちょうど海水に浸かっていい感じだし」

 

「お二人はいいですね」

 

むすっとした顔で吹雪がそんなことを言う。

 

「あー吹雪殿、提督は競争率が高いですから」

 

「そういう漣ちゃんはどうなの?」

 

「ご主人様はあくまでご主人様でありまして、間に挟まるのはよくないでしょう」

 

この子、やっぱこっち側だわ。第4にいた子とももうちょっと仲良く出来てれば楽しかったか。

 

 島群北側であきつ丸、川内とすれ違う。やせんーと叫びが聞こえるが、

 

「夜戦、終わったところなんですがねえ」

 

漣のツッコミは勿論届かない。

 

 

 

「お帰り」

 

桟橋で天龍さんと榛名さんが待っていた。

 

「「ただいま戻りました」」

 

電と吹雪の声が重なる。指揮官のわたしがこの有り様なので仕方ない。

 

「この組み合わせだと大井が指揮しないと上手く行かねえか」

 

「かといって打ち合わせなしで指揮権まわされるのも困るわ」

 

「悪かったな。状況も悪すぎたらしくてな、お陰であの有り様だ」

 

天龍さんが施設側─宿舎の方を見る。わたしも電に支えてもらいながら立って、全員でそちらを見る。

 

「角部屋、穴開いてます?」

 

「さっきの砲撃な、あそこからなんだわ」

 

暗いながらも宿舎二階に確認できる異常に、漣が言及すると天龍さんがそう答えた。

 

「艦載機の持ち出しも明石に確認したところだが、水偵は一機も減ってねえ。さっきの三機は未帰還のままなのにな」

 

「赤城さんですか」

 

「派手にやったのにこっちに来ねえし、眠ったまんま射たんだろう。水偵のよこした座標と視界でよ」

 

はーとため息をついて彼女は通達する。

 

「今夜の鉄火場はこれで終いだ。艤装を戻して休んでくれ。報告書は昼以降に書けばいい」

 

「天龍さんは?」

 

「予定通りこのまま夜勤だ」

 

榛名さんも頷いたところを見ると、彼女もそのまま勤務続行のようだ。ふと吹雪を見る。天龍さんの方をじっと見ていたようで、わたしの視線に急にあたふたし出す。

 

「なんでしょうか?!」

 

「残業、いける?二人の護衛で」

 

指示の意図を察した吹雪が元気よく返事をする。

 

「はい、やれます!」

 

ついでに魚雷の残弾を彼女に渡す。

 

「おいおい、シフトを勝手にいじるなよ」

 

「間に他の百合を挟むとか怖いもの知らずですな」

 

「こーいうのは姦しいくらいがいーのよ」

 

「分かったからお前はもう休め。電もそこの色ぼけ抱き枕にする程度にとどめとけ、一応負傷者だからな」

 

「了解なのです」

 

「それじゃお休み」

 

「お休みなさいです、ご主人さま」

 

「漣のそれもなんとかならんか?おやすみ」

 

彼女のぼやきに漣はウェヒヒ、とどこかで聞いたような笑いを返した。桟橋から離れて灯りを落とし気味の工廠に入ると、整備予定、の台に三人とも艤装を静かに置く。意外に金属音がしたせいか奥からんー?と声がするが、おやすみなさいと返事をするとおやふみー、と返ってきた。明石さんも仮眠途中で起こされてたから大変だ。

 

「次の補佐業務ではメイド服とかどうですかね」

 

「いいんじゃない」

 

宿舎に帰り際、結局足腰の安定しないわたしは電に運ばれているわけだが。

 

「漣」

 

「なんです?」

 

「メイド服は手に入れられます?」

 

電の問いに漣は笑いながら答える。

 

「少し時間はかかりますね。なんなら予備をお貸ししますが」

 

「駄目よ。電はわたしに着せたいんだから。返せなくなるじゃない」

 

彼女は少し目を丸く開くとまたウェヒヒ、と笑って答える。

 

「でしたら少し高級なワンピースとかも一緒に買った方が楽しめるのでは?」

 

お嬢様とメイドってわけかい。ディープではないが一般的なイメージのオタク思考だな。

 

「ほんとあなたってこっち側よね。まどかみたいに笑うし」

 

「・・・だれ?」

 

「少し前のアニメでさ。やっぱり本土側の子は多少のネタは知ってる感じかな」

 

「・・・なるほど。おっと、自分こっちなんで」

 

宿舎入り口、彼女は階段に足をかける。

 

「それではおやすみなさいませ、お二方」

 

足音を殺しながら上がっていく彼女を見送る。

 

「ちょっと間違ったかな?」

 

「電も活動写真のことはくわしくないので」

 

で、あとはと言うと。浴場で電に洗われてバスタオルにくるまれて運ばれてベッドに放り込まれたわけで。もちろん昼まで抱き枕コースで。

 

 

 

 同日、昨晩の報告書を仕上げて少々落ち込んでる赤城さんに提出してから、もう夕方という頃に起きてきた吹雪に会った。

 

「おはよう、というには少し遅いけど。どうだった?」

 

少々下世話だけど、遣り手ババアモドキのお節介をした以上、結果は気になるし。

 

「お」

 

「お?」

 

「おおきかった」

 

めっちゃ物理的に挟まったんか。

 

 




ちょっとタグとか使ってみた。会話と戦闘でやたら量が増えた感じがするけど、どうだろう。書いていると回収不能なネタを突っ込みたくなって、そのせいで漣と大井がディスコミってる。

大井は身軽さ優先ですねの魚雷管置いてきたけど、装備してきたならチ級の素の手は当たるにとどまった場合もあり、て感じで(足首を掴まれたら同様だけど)。

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