轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
頬に感触を覚えて目を開く。真横に目をやると妖精が頬をつついていた。思ったよりひどい疲労感を覚えながら身を起こすと、彼女と妖精たちが非常食のビスケットバーを齧っているところだった。
「おはよう」
「おはようなのです」
「傷はどう?」
「まだ痛いのです」
「一応明日包帯換えるから、もう少し痛くなるわよ」
「そうですか」
暫しの沈黙。
「船はどうなりました」
「どの船?」
「大きな客船です」
「そこにはないから、どこかに行けたんじゃない?」
「洋上で出会いました」
「それじゃあわたしは知らないわね」
「そうですか」
「食べ終わったら少し横になったら?」
言ってから艤装を外せる状態なのかと妖精の方を見る。何人かが頷いたので大丈夫そうだ。最悪キットの中にあるモルヒネを使うことも考えるか?とはいえ駆逐艦は軽巡のこちらよりも体が小さい。こくりと頷いたので少し待っててと声をかけると扉を開けっ放しの会議室の机や椅子をどかしてスペースを作る。シーツやダンボールに納まっていた毛布などを引っ張り出して重ねて置くと、戻って艤装を外すのを手伝おうとしたが、ここでまた班長のストップがかかった。艤装を起動状態で移動した方がまだ負担が少ないそうだ。彼女の前で支え代りに立つ。ゆっくりと立ち上がって歩くのを先導し、先ほどの毛布の上で座らせると、背後に回って妖精たちの作業と同時に艤装の機関部―魚雷発射管や砲の脱落したアームユニットのあるそれを彼女の背中から後退させた。ぽふっと軽い体躯が倒れ込む音が聞こえる。と、残りの資材や連装砲、置きっぱなしの銃やシーツなどを妖精たちが運び込んでくれる。そういえば、と彼女のほぼ靴な水上走行靴を見る。また気付いたが、左足首がまずいように見えるし、素の状態ならソックスも脱いだ方がいい。
「ごめん、また少し痛くするわよ」
左の靴に手を掛けるとびくりと彼女が身を固くした。やはり右よりも足首まわりが外側に盛り上がっているように見える。靴と靴下を脱がすと、やはり足首の外側がややその上まで赤く腫れあがっていた。重量バランスが崩れた際にひねったか。ダンボールの一部から湿布を取り出す。冷湿布の方だが、まだ大分赤いのでこちらか?声も掛けずにそのまま貼ったのは正直こっちもいっぱいいっぱいだったのもある。ついでに右も脱がせてから自分もサンダルを床の上に放置した。彼女の左側で横になったところで手を握られる。まあ、いいか。カーテン越しだが外はまだ日はあるようだった。
起床ラッパが聞こえて目を覚ます。ふと視線を上げるとここの時計も動いているらしく、5時を指している。ということは午前5時―昨日、日はまだあった筈なので12時間前後眠るとはこっちの体も大分まずそうだ。右手は握られたままなので起こすのもどうかと思いラッパを止めさせる、怪我人を無理に起こすことはない。手は温かいが、一応呼吸を見て異常はなさそうなのを確認する。
と、妖精の一人がわたしの背側、昨日置いた艤装を指差した。煙突とアーム下部に数人の妖精が陣取り、床の上に置いた連装砲にも一人乗っている。艤装の発射管は3発とも装填済みだ。仕方がないのでまず降りろと伝え、自分も再び横になるとフリーな左手で艤装の腰部ベルトを掴み、止むを得ず引き寄せる。文句が聞こえるがこの状況で彼女の手を引き剥がす非道は行えないので無視。そのままだと連装砲も引きずられると判断した妖精が連装砲を運んできたので、再び妖精たちが機関部に登ったのを見て連装砲をアームの台座に載せる。静かに固定作業は行われ、テスト動作らしいものの終了と同時に妖精たちは全員で手で○を出した。
「それじゃもうひと眠りするわ」
オイッと突っ込みが聞こえるが怪我人叩き起こすわけにはいかんじゃろと反論するとグヌヌと唸る声が聞こえる。ダンボール箱に非常食と飲料水があるから先に食事にしとけと伝えて目をもう一度閉じるが、今度は意識は落ちなかった。ガサゴソと妖精たちの動く音が聞こえるがあまり気にはならない。そういえば昨日は鋼材と燃料以外口にしていないな。ビーチに戻れば一応酒も甘みも残っているが、人数的に甘みの方は打ち止めになりそうだ。うん?と手に感触を覚える。手触りの違いや指を確認するかのようにわたしの指に沿って彼女の指が動いた。多分、姉妹の指と比較して違和感でも覚えたのだろう。彼女たちは―記憶違いでなければ背も手も小さい。何人いたか覚えていないというか、基地ではそういった人数が揃っていた記憶がない。
「あの」
横になったまま返事をする。
「おはよう」
「おはようなのです」
握られた手が開かれたので、こちらも手を開く。するりと抜けていく手が途中で止まって指を一本だけつまむようにして少しだけ止まるが、それも離れていった。怪我人でなければ抱きしめてあげたい動きだ。そういえばちょっとだけお願いしますとかいって少し抱き着かれることも多かったか?駆逐艦クラスは正直戦友として存在すると思考がバグる。ああ、そう言えば「北上さん」を置いて行った(というかわたしを置いて行かせた)のもそのせいだったか。恨みはないと言うか、外見的にも総年齢的にもくたばるのはこっちが先だし、泣き言いうのもみっともないか。艦娘―軍艦の化身とやらのせいか思考回路がシグルイと化しているのは自覚している。一般人のままなら無様に泣きわめいていたはずだ。そんなくだらない思考を追いやって身を起こす。正直言ってこの子の意識がある状態だとこれからの作業は気が重い。
「包帯、換えよっか」
「班長」の言葉に従ってまず艤装を装着させる。稼働状態なら痛覚もある程度鈍るとのことなので。そう言えばある程度艤装で止まったとはいえ着弾の衝撃などもある意味記憶からとんでるわ。稼働状態に入ったのを確認して、右脇腹の包帯を引き剥がす。えぐれた部分は肉が盛り上がり始めてる事にやっぱり人間じゃねえと思いつつ、貫通創の方はどうしたものかと思う。引き抜いたガーゼでまた出血してはいるが―出血はしているがこれ新しいガーゼ押し込むの無理だわ、昨日より明らかに狭まってる。顔を目にすると多分作業の手が止まるので妖精さんに手伝ってもらって消毒してから腹・脇腹・背の3箇所にガーゼを貼り付け、艤装を避けながら新しい包帯でグルグルと巻く。次は右上腕の火傷痕だが、こちらもガーゼ・包帯代わりに使ったシーツを引っぺがすとかなりの部分が色が違うものの、既に新しい皮膚が出来ているかのような状態だ。とはいえこの状態はかなり痛みを感じやすい筈なので、軟膏とガーゼで覆いまた包帯を巻く。聞こえた音は無視して―無視して顔を下げたまま昨日貼った湿布を剥がすと、腫れはあったが赤みは大分消えていたので温湿布を貼る。最後にへの字なってた口を視界に入れながら頭の包帯代りの裂いたシーツ外すと、小さくなった傷の周りを消毒して大き目の絆創膏を貼った。絆創膏で間に合うレベルに傷が小さくなるとかマジでいかれた回復速度だわ。
「ひどいのです」
「しゃーないでしょ、躊躇したらあんたもっと痛い目に遭うだけだし」
よく頑張ったと頭を撫でるなり飴ちゃんあげるなりしたいところだが、負傷した頭を撫でるのもまずいので効果を疑問視しつつも無事な左腕に身を寄せようとして失敗した。
「ガッ」
「!?」
そりゃ眠るわけだ、真正面からの着弾で折れたかそれに近い状態のまま回復しきってなかったと。もしくは桟橋で叩きつけられたショックで治り掛けの部分が悪化したのか?どっちにせよ彼女の肩に当たった部分から痛みが一気に広がってしまった。
「あーみ、ミスった、こっちも駄目だったわっ」
どさりと横になる。正直認識した痛みで動けない。艤装もないから修復した艤装からのフィードバックもなし。時間をかけて補給するしかなさそうだ。「艤装ハ?」と問いに靴だけ反対側のビーチの倉庫の一つにあると伝えると、彼女が立とうとするので手を掴む。怪我人を走らせるわけにも行かないし、迂闊に道を移動させるのもまずい。
「こっちにある車両も向こう側の未舗装路上にある車両も銃撃されてる。艤装背負ってちんたら歩いて行ったら陸で沈むよ」
その上で隠蔽性のとても高い妖精さんたちに伝える。味は落ちるが酒も甘みもあるぞっと。「決死隊ヲ募ル!」の掛け声とともにワラワラと艤装から妖精さんが降りてきて整列した。補給資源はこちらにもあるから靴と集めて置いた酒・食糧の回収、出来ればある筈の水源の確認をお願いする。不発弾の危険があるので焼け落ちた宿舎には注意するよう言い含めてだ。多分何人かの無鉄砲は燃え残った食材目当てに突っ込みそうだが、建物を崩す確率がより低いこの小ささなら何とかなる場合もある。「続ケ―!」との号令とともにわたしはまた意識を落とした。
とりあず今晩(2020/11/21AMの夜)はここまででダウン。例によって細かい部分は時間がかかる。