轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
鈍い痛みと共に意識が浮上する。正直ほぼ2日間アドレナって動き回っていたってのは想定外だった。どうせ脳内麻薬ドバドバするんなら綺麗どころと組んずほぐれつの絡み合いで体験したいところだったが、ほんと体の仕様が戦闘特化のうえ環境がブラック過ぎる。相次ぐ戦闘やプライベート空間のなさで一人遊びも出来なかったし。
「北上さんに押し切られてた方が良かったかなぁ」
大井という艦娘は北上さんのケツを追っかけるのが定番らしく、北上さんとしては行動が淡白なわたしに最初は違和感が大きかったとか。追えば逃げるんだから行動が逆になれば北上さんが追ってくるわけで、そういうとこやぞ、と他の大井に注意してやりたいとこだ。とはいえそういう会話の時点で何人かの大井が「物理的にいなくなってる」訳で代わりを勤めるのはやぶさかではないものの、心の地雷をひたすら踏み続けそうな案件は勘弁して欲しい。結果として生きてはいるものの、死亡フラグ全被りしたのもある意味トラウマ抉ったっぽいし土下座で許してもらえるかも怪しいわ。
「北上さんがどうしたのです?」
「今回ガチでやばそうな仕事だったもんだから、出撃前にって、この話は無し!」
(多分)小学生に教育に悪い話振るとこだった。大体キスまでいってたし。ほんと続きしたかったけど、思い残す事はないとかなるとそっちの方が重いんじゃ。
「大丈夫なのです、鎮守府ではよくあることなのです」
「子供で戦争やってる時点で教育に悪いどころじゃないけどさ」
「子供じゃないのです。艦娘なのです」
「両手で」右手を握られている感触からすると、彼女の傷はほとんど問題ないレベルか。
「あいにく大半が少年兵としか思えないのよね」
「大井さんは変わっているのです。他の大井さんと比べても」
「前も言われたわって、わたし名乗ったっけ?」
彼女の名前をまず聞いていないし、記憶を辿っても名乗る余裕もなかった筈だ。思いっきり痛がらせた記憶しかなくてきっつい。
「北上さん北上さんと常に言うのは大井さんくらいなのです。わたしの鎮守府にもいたのです。ついでに言うと肝心なところでへたれてチャンスを逃すのもいつものことなのです」
大井自体がそれか。どこのキルドレやねん。
「そうは言うけど最後の思い出にとか御免だし。ただでさえわたしは3人目だからって状況でそういうの重過ぎるから。まあ帰って来たら続きをしましょうって逃げたら宣言通りにわたしが柿崎って北上さんにパインサラダ作らせたわけだけど」
「3人目なのです?」
回線繋がってるかも怪しいとこばかりだし知らないか。
「自分自身が何人もいるヒロインの2人目が「いなくなって」3人目が来た時の台詞」
「艦娘なら当たり前なのです」
「うっわ、わたしらの職場環境マジでブラックだわ」
「ところで、パインサラダっておいしいのです?」
「さあ」
どっかにパイナップルが生ってれば片鱗くらいは分かるだろう。
「柿もパイナップルも食べたいのです」
うん、まあそうだね。ネタが通じない上に欠食児童の食欲煽るだけですわ。
「柿崎って人、お知り合いなのです?」
「ステーキを食べる前に出撃する羽目になって帰還できなかった奴。戦争物の登場人物だから」
「ステエキですか」
駄目だ、内容が食欲煽るだけで手に入るのが「あの」チョコレートバーくらいとか殺されるかもしれん。
「手、握ってていいですか」
「うん」
横になったままの彼女の手に力が入る。
「そっちに寄っていいですか」
「おっけー」
敷いた毛布やシーツの上で彼女の腕がわたしの右腕に絡められ、体が右肩側に被さってくる。すんすんと鼻を鳴らすような息が聞こえるが、2日どころではなく水浴びもしていない状態で匂いを嗅ぐのは勘弁してほしい。
「潮の匂いしかしないのはお互い様なのです。それで北上さんをどうしました?」
磯臭い女と来たか、なかなか辛辣な。
「置いてきたと言うかわたしを置いて行かせちゃった。目の前で沈みながら逃げてって言うの、絶対トラウマだよね。3人目だしいっそ忘れてくれてる方がいいんだけど」
あんな顔してたから無理だよなー。
「大井さんは悪い人です」
「うん」
「電も悪い子なのです。北上さんの目の前で突撃したのです」
「そりゃとても悪いね」
「きっととても怒ってます」
「それじゃあさ、二人で謝りに行かないとね」
「行ってくれるのです?」
「流石に一人じゃあね、ガチ泣きされてもきっついし」
どの北上さんかは分からないから二回謝ることになりそうだし、向こうも訳分からないかもしれないけど、まあそこは勘弁してもらおう。出来れば他の大井とよろしくやってくれてるくらいがいいんだけどね。ああ、それはそれでこっちが泣きそうだが。それはそうと少しくぐもった声がするし、肩の辺りも湿っぽくなってきたな。出来れば胸か腹を貸してやりたいけど、肋骨ダメダカンナー。あ、なんかエイラっぽい思考になった、そっか大井ってエイラの同類か。そりゃヘタレるわ。
「「「「サケダー!」」」
「お前らちったぁ空気読め!!」
素で叫んだ。
んで戻ってきた班長以下自称決死隊の連中だが、現在わたしではなく静かに退避していた居残り組の説教を受けていた。うむ、居残り組はきちんと空気を読んでいたようだ。聞き耳は立てていたと白状する奴もいたがそれくらいは許容範囲、むしろ愚痴る相手が増えたとも言えるので有能の域である。説教の間も何人かがぼろっちい靴に鋼材をぶち込んで修理しているのだが、見ていても鋼材が見た目革靴になるのが訳分からん。なお、電はどうにか体を起こしたわたしの後ろに隠れている。多分顔真っ赤と言う奴だ(違う)。
「大体ヤネ、ハンチョーハデリカシーチューモンガ欠ケトルワ」
「ソノ件ニツキマシテハ誠ニ申シ訳ナク」
「吉原デアホヤッテ叩キ出サレタン、ワシガ取成シタノモ忘レタンカ」
「ソナイ古イコト持チ出サレマシテモ」
「帰還前ニ連絡ヨコシャドウトデモ出来タ話ヤデ?久々ノ酒デ浮カレルノモ分カランデハナイガ」
「正直スマンカッタ」
「あー、とりあえずもうその辺でいいわ。回収に出てもらったのは確かだし、靴の修理も終わったっぽいから」
「エエンデスカ、コイツ調子ノリマッセ」
「調子こいて轟沈した馬鹿としちゃ同病相哀れむって奴。とりあえず飲んで忘れましょ、多分まずいけど」
「状況モ酒モマズイッテ?」
「うん、だから飲んで少しは笑いましょ」
その前に戦果の確認だが。予想通り元宿舎に突っ込んだ数人が燃え残った棚から燻製肉を回収していた。水源は残念ながらなかったというか、登りの頂上からの支道に破壊された大型タンクがあったらしく、配管も大体途中で切れていてタンクの底の一部に雨水が溜まっている程度とか。恐らく燃料タンクと誤認されたのではとのことである。となると井戸を掘っても真水は出ないかもしれん。わたしが気付かなかったという事は支道は道の反対側の森の中かな。あとはサバイバルキットに非常食、例のチョコレートバーとビールとワインである。固形燃料も幾らか見つけたようで、とりあえずここの放置されたウォーターサーバーの水くらいはどうにか出来そうである。こっちの建物にあった紅茶類もいけるか。
「一応、確認ヲ」
靴と、大分短くなった靴下まで持って来られた。砂浜に捨てた奴を回収されたあげく仕立て直されるとかどういう仕打ちじゃ。真水もないので海水で洗うにしても連続作戦で履き続けた足と潮の匂いの染みついたブツやで。年頃の娘なら3日は引き篭もるんちゃうか。ジト目で睨みながら履くといきなりのフィードバックで神経が混乱する。やっぱり艤装の状態が体の状態にも戻るか、しかもこっちの方が効果がでかい。ラマーズ法もどきで呼吸を整えたが周りの目が不可思議な物を見る目だった。まあ妊婦でもないのにやってるのは変だよな。でもまあ痛いのは確かなんで少し効果があった気がする。
「吉原~」のくだりは掛け合いでそれっぽい会話になりそうな感じで捏造しただけで、特に逸話などはありません。やっぱり書いてて思うんだけど状況がブラックに寄ってくの、何とかならんかね。でもこうするとイチャイチャ未満が書けるんだよなぁ。あとこの大井、どうしても鈴谷っぽいのが混ざる。