轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
艤装制服の修理が完了してシャワーを浴びてから着たいのだが、水を被るのがこわくてシャワーを浴びられないという事態に陥っていて例のいくつかあるシャツとショーツで誤魔化している。連装砲と機銃を回収したのは昨日で、あの後ここ数日の間に寝床となった会議室運ばれて意識を取り戻しては気絶するの繰り返しで今日になったとのこと。寒い寒いと繰り返すわたしを電が抱きかかえて眠ったと今日になって聞かされたが、目覚めたときにはやっちまったと誤解して激しい後悔に襲われたものである。土下座しようとしたが何故か身動きできず、目を覚ました電にある程度説明されていくらか納得したのだが。
「甲板ハ洗ッテワックスカケタダケ。キャビンノガラスハデッチアゲタ」
外見的に下着姿のままボートの状態を聞いている。昨日までは電がくっついてくるだけだったが。ボートのあちらこちらで作業中の妖精が顔を出す。
「ダイジョウブカ?」
今日起きてからは互いに腕を相手の体に絡めていないと駄目な状態だ。左脇から身を寄せている電の体温でどうにか精神の平衡を保っている。
「理解はしてるから。あれの影響がまだ残ってるだけ」
「轟沈」は実のところまだなんとかなるのはわたしたちだけでなく他の生存例も多いらしい。
「マア底ハサムイカラナ。死ンダ奴ラガシガミツイテクルシ」
「沈没」でも「サルベージ」は可能らしい。陸近くで沈んだ場合は例え死体でもサルベージするべし、と指揮官教本には記載があるとか。理由は軍機となっているが、底で放置すると「向こう側」に行ってしまうというのが公然の秘密だ。本土では燃料の無駄と言われても普通の回収船を何度も繰り出しているし、未発見だがサルベージ船の艦娘を研究するチームもあるのだと。向こう側の件は薄々そんなんじゃないかと思っていたが、サルベージ推奨の規程その他は初耳だ。
「あれって、死人の声?」
「ナニカ聞イタンナラソノ部類ダナー。但シアンタノ中カラダガナ」
どういうことかと問うと、
「沈ンダ船ト死ンダ兵隊ガドッチモ生キテ歩イテルンダ。チョットノコトデ転覆シカケルノモゴ愛敬ッテモンサ」
意訳すると死人が歩いているのだから仕方がないと言われ、我慢できなくなって電の肩を抱く。
「ごめん、ちょっとこのままでいさせて」
溺死とかの物理的な話ではなく、ガチで直接「死」の領域に沈んでいったことを理解する。
「もっと電にあまえるといいのです」
「マア大井殿ハ他ノ大井ヤ艦娘トハ少シチガウオカゲカ、モウ動ケルヨウダシ、大丈夫ダロウ」
会ったときから通常個体ではない、と認識していたので
どぶさらいの要請をしたと白状されたわけで。
「それでもやせ我慢はやめてください。そういうのはな提督のお仕事でいいのです」
「ソレジャ続ケルゾ。見テ分カルト思ウガ船体・機関部トモニ点検ト整備ノ最中ダ」
「燃料ハ八割。ドコカヲ経由シナイト本土ニ届カン」
満タンでも無理だし、タンクから電に補給したら勿論さらに減るとのこと。
「南下して味方基地を探すとかは?」
「南方の所属先ハ多分壊滅シテル。大井殿ノトコロハ?」
「全力出撃だったから。ごめん、愚問だったわ」
地理的にフィリピンとかの端っこなのは船にあった海図類で確認済みだとか。戦地に行きたきゃ西に行けばいい。
「ヨッテ沖縄近傍ヲ目標ニ本土ヲ目指ス」
「最初の横須賀ではないのですか?」
「行キタイカ?」
「いやなのです」
元々横須賀所属で東南アジア方面に転属になったそうだ。本土よりの噂などを妖精達が知っているのはそのせいということで。横須賀に戻ってももどうせまたこっち側に送られるとのこと。
「でもそれだと沖縄の基地でも同じにならない?」
「鎮守府じゃないのです」
「ソコマデ日モ経ッテイナイシ、マダアルダロウ」
二人の話からすると、沖縄のどこかに基地(鎮守府が通常らしいがどうにも慣れない)ではない受け入れ先があるようだ。
「何ニセヨ台湾デ燃料ヲ補給スルカ、北上ヲ続ケテ船ヲ捨テルカダ」
燃費重視の低速航行になるので時間はかかるし、途中で敵に遭遇して全力で逃げると台湾にも届かないかもしれない。台湾でも味方に見つかると戦地に逆戻り。誰にも会わずに北にある楽園目指して突っ走れと。
「あと、その場所の事は誰にも言ってはいけないのです」
「そりゃ脱走兵の隠れ場所なわけだし」
「北上さんとの約束なのです」
「八つ裂きにされても言わないから安心して」
言ったら他の大井に16分割にされるんじゃね。
連装砲と防弾楯の具合を確かめる。機関部がないので仕方ないのだが、重い。なんとなくイメージとしてだが、腰をやや落とすと左の楯を全面に向け、右肘を直角に曲げて連装砲を構える。全くもって量産機然とした装備になった。なお、電は機関部のアームに対空機銃を載せ換え、連装砲は手持ちに変更している。探照灯はいったん外して機関内部の倉庫に収納していると。
「電は改装済みなので3つまでなら同時にあつかえます」
改装とやらをしてもらった記憶もないし、単装砲と魚雷だけで戦わされたのはそのせいか。
「大井さんは激戦区にいたようですので、多分改装できる状態だと思うのです」
但し大井の改装は極端なタイプになるので、わたしの好みではないかもしれないそうだ。バランス型から武装でいじる優柔不断だからねぇ、わたしって。
動作チェックまで終わったので追加で靴も履く。シャツにショーツで素足に靴とまあしっちゃかめっちゃかだ。
「わるいけどさ、ちょっと外まで付き合って」
シャツの裾をつかんでついてくる電を連れて、受付施設を出る。ゆっくり石だらけで砂浜未満の岸に近づいて、途中で足が止まる。
「電ってさあ、わたしのどこがいいわけ?」
立ち止まったせいかそのまま背にひっついている彼女に聞く。
「なんだか安心できるのです」
「風呂も入れてなくてくっさい女なのに?」
「海のにおいなのです」
「それじゃあさ」
水上歩行試験なのだが、足が止まったら抱き着いていいし、好きなだけ「吸って」いいとの条件を出した。半ば自爆だが恐怖心を羞恥心で上書きして前に踏み出す荒療治の「つもり」である。
で、身を離すように一歩水上に踏み出した。沈みはしないがそこでいきなり固まる。当然重い当たりで艤装を背負った電が背に抱き着いてくるので、僅かの逡巡で、もう一歩踏み出す。電の質量分動きが重いが、人肌の安心感かまだ歩けた。
ふと立ち止まってしまうとはっついたままの電がスンスンと鼻を鳴らし始める。抱き着いたままなのはどうかと思うが、足を降ろした瞬間は止まっているのです、と抗弁され条件設定を間違えたかと思う。ふと水平線を眺めるというのも、うなじや脇の下とかに頭を突っ込まれそうになるので、時間的余裕なく歩く。そろそろ湾から出そうな辺りで切り上げることにした。
「もう終わりなのです?」
「これだけ歩けりゃ充分でしょ。大体現状で」
歩きながらそれを認識して完全に固まった。戻ったらまた出なければいけない。出られるではなく、出なければいけない。耐えられずに振り返って見る。あの「暗く寒い深い底のある海」に出なければいけないのだ。
「帰らなくてもいいのではないですか」
この子を場合によっては楯にして。
「ここは暖かいのです」
この子を守りたければ、わたしが楯になるしかない。
「こんなところ、もう誰も気にしないと思うのです」
機関のないわたしでは、底に沈むと同義だ。
「大井さんは、おかーさんになってくれました」
「やめて」
「電も大井さんのおかーさんになれます」
「やめて」
「電も大井さんもいっぱい頑張りました」
「やめて!」
「もう頑張らなくていいと思うのです」
「わたしは!帰るの!」
「ここなら、いたくもこわくもないのに?」
「北上さんがいない!」
「そうですか」
「わたしは!北上さんに会いたいの!」
「ですよね」
「北上さんにごめんなさいっていってないの!北上さんに付きまとって邪険にされたいの!」
「そういうひとですよね、大井さんって」
そう言っているのにわたしは電の頭を胸に抱いていた。
「だから電のものにはなってくれないんですね」
こんな風に抱きしめてくれるのに、と彼女が不満を口にする。
「ごめん、電。やっぱり「大井」は帰りたいって」
いきなり楯になったり変に怖がったり妙に覚悟が決まってるのが、いったい誰なのかようやく分かった。つまり「わたし」は員数外の乗客なわけだ。わたしを見上げる電がああ、と声を上げると、さらに不満を口にした。
「本当に、北上さんはずるいのです。ここにいないのに」
「大井さんも「提督」も最初からあの人のものだとか、ずるいのです」
手を引きながら、愚図る電に返事をする。
「「わたし」は、電の提督になれると思うから、それで手を打ってよ」
「「おかーさん」もつけてください」
にへらと笑いながら上乗せした彼女に、
「それじゃおかーさんらしく、一緒にお風呂にしようか」
あと数歩のところでそう言ったら急に抵抗しだした。あんたは猫か。
スマホだけで書いてみた。これヤンデレタグもいるかな。行き当たりばったりだけど大体道筋はついているはず。電が後ろでしゃがんで深呼吸するとか挟めなかった描写もちらほら。「大井」の叫びも少し弱い気がする。
電の好きにさせるR18も書いてみたいが…子どもだから人恋しいってイメージからなんでこうなった