轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました) 作:Toygun
わっしゃわっしゃと栗色の髪を洗う。電源がないのでやや薄暗いがこうして体を洗っていると、本当に観光に来ただけかのように思い込みそうになる。
「それじゃお湯かけるわよー」
成分が残るとけっこう不快なので、髪留めを外してそこそこ長い髪になった、電の頭やら髪先やらを片手で念入りにかきわけて泡を流す。これでよし、とばかりに髪の長い部分を彼女の前にやって、背中に手を付ける。石鹸でうなじからおしり手前くらいまで泡立てていったん流し、久しぶりのシャワーなのでもう一回、石鹸をつけたタオルで撫でる、ついでに耳の後ろも。それでもう一回流したところで、
「それじゃあとは自分でやりなさい」
首だけこっちを向いた彼女がむくれているが、シャワー自体が複数あるのに洗うのは一人だけとか効率悪いし。
「その前に電がお背中お流しするのです」
まあそういうことならと頼む。見た目は小学生でも艦娘なので力は強い。背中を大分強くごしごしやられるものの、磨かれている感の方が心地よいのは艦のせいか?細かいところも先ほどの真似をするようにしてくるのだが、耳の後ろを執拗に撫でてるのはわざと?大体の部分は終わったのであとは流すだけかと思ったらいきなりびとっと背に貼りつかれる。ああ、まあそうなるか。
「こら」
手とタオルが撫でる様に腹から胸に上がってくるのを止める。
「電にお任せなのです」
「いいから自分を洗いなさい」
引っぺがして自分の髪と体を洗う。むすーっとして同様に体を洗う電を見るが、今度はおとなしく従っている。バスタブはあるが水の節約のため使わない。まあシャワーでもそんなに節約にならないとはいうが。
電源がなくてドライヤーを使えないので、髪もタオルでできるだけ水気を取るのがせいいっぱい。濡れたタオルを洗濯かごに放り込むと着替えのショーツだけ履いて長めのタオル、シャツを取ると、ペタペタ歩く。ハシタナイとまた言われるが髪が乾かないので仕方ない。ちょっとした悪戯もあるが。まだ日は暮れていないし、タオルを肩から胸にかけ、脇にシャツを挟み持つダメダメ女子スタイルを決め込みながらケトルでお湯を沸かし始める。沸くまでの間に複数のトレーを含む紅茶のセットを会議室に運び込み、続けて沸いたケトルを持ち込んで複数のカップに注ぐ。うち二つだけ取ると、ティータイムかと聞いてくる一部の妖精にトレー上の余分に淹れておいた紅茶を示し、好きに持って行くか飲みに来るか交代でね、と伝える。ちょっと対応が雑かもしれないがこれからちょっと取り込み中になるので、出来れば勝手にやってもらいたい。
カップの載ったトレーを横に置くと、敷き直されたシーツに足を投げ出すように座る。ぽんぽんとシーツをたたいてむすーっとしたままのいつもの髪型に戻った電を呼びつける。わたしがまだ上だけマッパだったのは想定外らしく、こっちゃこいと手招きするとそろそろとこっちに寄ってきた。
「大井さん、服を着ないのですか」
「髪がまだ湿っぽいからね、乾くまでいいよ?」
意図を理解するとわたしの前にちょっと姿勢悪く座り、まだ少し湿った栗色の塊が胸の谷間に納まった。少し上から覗き込むと、にへらと歪んだ口元が見えるし何がそんなに楽しいのかふんすふんすと意気揚々な鼻息も聞こえる。身じろぎすると下にずれていってしまい、電曰く「素敵な感触」とやら求めて頻繁に姿勢を直すので、みぞおち近辺を左手で抱えて支えてやる。カップの一つを渡すと彼女は両手で受取り、鼻歌さえ奏でながらそれを口にした。わたしも横を向きながら少し紅茶を含む。少し過激な女子会風味、大井椅子を気に入っていただけなら幸いだが、ドアは開けっ放してあることをにこの時点で気付いていないのはまだまだかと。
紅茶党の連中が紅茶を前に騒ぎ出したところでビクっと電が固まったのが分かる。なおそれと同時に両腕で抱えてやった。妖精たちが立ち寄りカップで紅茶を飲んで談笑したり、ミニチュアの水筒に詰めて持ち場に走って行ったりとするが、ちらりと視線をこちらにやっても平静さを保っているので、わたしの意図を理解してくれているようだ。はては電が足をバタバタさせて抵抗を始めても無視している辺りかなりのプロ紳士集団のようである。
「ほらほら、暴れない」
「大井さんはいじわるなのです!」
顔を真っ赤にして抗議する彼女を受け流したところで、女子会風味の公開羞恥刑(なお大井的にも自爆)は終了の合図を出された。
「オ楽シミノトコロ申シ訳ナイガ」
机上からこっちと視線を合わせてくる少尉が声をかけてくる。
「飯ニシヨウ」
時刻は午後4時を過ぎたところだった。
ティーバッグを入れ替えて紅茶を追加し、クッキーの残りやら並んだ「ボルトと燃料缶」やらを無視しながら少尉殿との会話を続ける。シャツはもう着た。
「目の毒なもん見せちゃって悪いわね」
「ソノ辺ハマアトモカク、大井殿モデリカシーハ大事ニスルベキカトハ思ウ」
「人前にせよ二人っきりにせよ嗅がれるのも同等なんでー」
「コチラカラモ長門・大和ニ抗議文ヲ出スコトニスルノデ、ウチノ子ノ無礼ニツイテハゴ容赦願イタイ」
待て、(流石に大和であることは分かっているが)「ただのヤマト」もかと思わず愕然とする。戦艦級は駆逐艦を甘やかす奴も多いので、ちょっと対人傾向がおかしくなるのも前線では良くあることなどと言う話まで出る。それはともかくと、話が一度区切られ金属カップに入ったガソリンを勧められる。
「訓練ノ様子ハ見テイタ。補給ハ必要ダ」
球磨型の大井も吹雪型の電も大体重油なので、この島だと代用としてガソリンか軽油を飲むしかない。軽油は残りをドックのボートに補充しているのでガソリンだけ余ることになる。発電機はガソリン式だったので電源の確保は出来なくもないが、燃料の無駄遣いも夜間にエンジン音をさせるのも、やりたくないのは共通見解だ。砲の試射もしていないのはそれもあるし。それはそうと、席を立ってドックから未開封のオイル缶を持ってくる。なんだなんだと回りが見ている前でガソリンを一気飲みすると、今度は箱のボルトをジャラジャラ音を立てて口に流し込んで、ガキゴキと人体からしてはいけない音をさせて噛み砕く。最後に缶を開封してオイルを流し込むように飲み込んだ。
「酒がないわ」
「何ヤッテルン」
「神様の真似」
どこが琴線に触れたのか電まで同じことをしていたが艦娘なら問題ないので放置する。ただし油感が残るので慌てて紅茶を口にしていたが。紅茶を口にして口の中の油を洗い流す。
「変ワッタ神様モイルモンダナ」
ソレハサテオキ、と話題が変わる。
「ボートノ整備ハ完了シタ。水ハ数日ハ持ツシ、腰ヲ据エルナラ貯水設備程度ハドウトデモナル、雨ダヨリニナルガ」
少尉は続ける。
「食糧ハ島ノ備蓄分ハソロソロダメダ。何人カガ干物ヲ作ッテイル最中ダカラ、最悪断食トタマノ飯ノ繰リ返シデモナントカナル」
漁村農村の次男三男連中だからその程度お手の物だそうだ、戦中の人スゲー。備蓄については未開封のサバイバルキット分を除いてそろそろ底をつくという状況だ。先程缶のクッキーも食べ尽くしたところだし。
「アンタガ先任ダ。好キナヨウニ決メテイイ」
ガソリンがあるからもう少しだけここにいられるが、艦娘として元気でいたいならガソリンは消費し続ける。脱出手段はほぼ確定されていて、資源と医療物資関連についてはジリ貧だ。釣りは出来るから、本当に釣れた時だけの食事でも全員何とかなる。人間ならこうはいかない。
「天気はどう?」
「ココ数日ハ雨モナイガ、イキナリ降ルノガコノ辺リダ。春先ダカラマシダガ一月モスレバ台風ガコワイ」
放送電波がないためラジオは情報源としては沈黙したまま。待つと最悪冬直前まで足止めをくらう寸法だ。漂着者を待つのも「修理」を考えると資源的に厳しく、敵が漂着する可能性もある。人間が漂着したなら、助けたければ即刻脱出を選択しなければならない。
「少しだけ休んだら出ましょう、そうね、一週間以内に」
「大丈夫カ」
「スコール程度でもそのまま出ましょう。甲板にバケツでも置いて足しにしてもいいし」
「干物ハドウスル」
「もちろん船にも積むけど、ここに置き土産にしてもいいんじゃない?粗方食べちゃったことだし」
「雨水モ適当ニ処理シテタンクニ足シテヤルカ」
「そんな感じで。またのご利用お待ちしておりますとか貼り紙しとこっか」
「悪クナイナ」
「資材は?」
「金属ハステンレス系ヲ選ンデ積ンダ。誘爆ヤ火災ノ危険性ヲ考エテ調理用目的デ固形燃料ダケ積ンデガソリンハ置イテ行ク。ソレトライフルニ5.56mmヲ全部ダ」
「38口径が受付にあるからガバメントと45口径も全部持って行くわ。あとから来た人には悪いけど、メインとサイドで形になるからまあいいでしょ」
「上陸スル際ニ分ケテ持テバ砲弾ノ節約ニモナルカ」
「あとは食糧と飲料水をどれだけ持って行くかね」
「干物ノ出来ト、バカンスノ残リヲ楽シンデカラ考エルカ」
すっかり互いに遠慮がなくなったもんだとは思う。この間までは意識する暇もない雑魚寝ばかりで、こう密着を要求されて眠るのは初めてだ。
「まだおきてます?」
声をかけられる以前に、脇と背に触れる右手・腕に力が少し入ったままなので、電が眠っていないのはわかっていた。
「眠れない?」
「いえ」
もぞもぞと彼女は動くと、脱力で空き気味だった距離を詰めて来る。
「ただ、こわいのです」
腕がしびれそうだったから、毛布やシーツを余分に下に重ねておいて良かったとは思う。
「また海に出るのも」
「また戦うかもしれないのも」
「また沈むかもしれないのも」
ほぼ投げ出していた腕を彼女の体に絡めて、引き寄せてやる。
「そんなの当たり前でしょ」
「誰だって足元がおぼつかないのは嫌だし」
「痛いのは苦しいし」
「死ぬのは怖いんだから」
「それが分かんなくなったら、多分向こう側よ」
「それを忘れなきゃ、もう少し長生きできるかもね」
翌日、わたしたちは「服」を着て行動を再開した。
ボートに物資―シーツや毛布・着替えになりそうな衣服に、バラで置いてあった医療物資類、ペットボトルの飲料水を、ある程度ここに残した上で船に積む。非常食の類ももう手を付けるのはやめた。余分に釣れた魚がある日以外は特に何も食べず、少しだけガソリンを燃料として摂取するだけ。
突然のスコールでバケツやら容器やら持ち出して水を貯めたり、やることがなかった一部の妖精さんが破壊されたトラックをニコイチしたり沈んだ小型ボート直すのを手伝ったので意外に忙しかった。トラックは運転席までオープンになって、錆びはするだろうけど適当に偽装してキーを付けたまま放置。小型ボートは2台修理できたので流されない様に陸に上げておいた。壊れていた無線機は新しすぎて妖精さんにも直せなかったが。
焼けた宿舎は不発弾を探して(1発だけあったのを)処理、完全に崩して路上の誰かと共に遺体を埋葬した。一部あった鉄骨も妖精さんたちが資材化して、ドックに置いておく。
ショットガンとラジオもまたビーチの倉庫に戻す。ラジオ放送は電の艤装かボートの無線で受信できるし。
ドックの屋根は、破損部がそれ以上崩れない様にしただけで穴はそのままにしておく。修復状態でなければ再爆撃もそうないだろう。ガソリンのジェリカンも無事な倉庫に分散させておく。
残った事務用品を使ってそこかしこに注意書きを貼り付けていく。出来るだけ英語も併記しながら「ようこそ」から始まって「38口径は受付まで」「非常食あり。食べられそうな状態なら干物もどうぞ(食中毒注意)」とか貼ったり、壁の案内地図に「ガソリンはここ」「発電機(ガソリン用)」とチェックを付けたり。
あと一週間のつもりが、さらに三日のオーバーステイ(違う)だ。それ以前に全て無断使用だけど。宿泊記録を見つけたので、最後に自分たちの名前を書き込んでいく。
―タウイタウイ第3、電及び麾下妖精隊
―タウイタウイ第4、大井
状態はチェックアウト、行き先、日本。持ち出しはクルージングボート及び各物資、5.56mmライフルと45口径オートマチック。
それだけ書くと、残ったチョコレートバーを電とわたしで一本ずつポケットに入れて、ボートのキャビンに入った。
「ソレジャ、出港ダナ」
「忘れ物はないのです」
電、妖精たちも頷き合う。あまりやらない旗艦を、また今日からやるだけ。
「それじゃ、日本に向かって、抜錨!」
わたしの宣言とともに、船はドックから滑り出していく。辿り着けたなら―辿り着いた先には、どんな日本があるのか。少しの不安とともに、わたしは水平線を見つめていた。
前半はそこそこ書けたけど、後半は大分端折った。特に理由のない(ある)風評被害が一部戦艦を襲っていますが、超人ロックでキャラ名ナガトとヤマトがいますんでセットにしときました(読んでない人には分からんでしょうが)。これで一応一区切りだけど、この先もまだある。サブタイトルで「出港」にせず、かといって「出港」で話を分けずに洗浄だけですけど心の洗浄まで終わったってことで。
後半の会話シーンはもう少しいじらないとな・・・。