轟沈しましたが悪運はあったようです(大井になりました)   作:Toygun

9 / 22
9.遭遇

 航行速度、20ノット。まっすぐ行けても台湾まで32時間くらい。何となく船尾側に出て、もう見えなくなってしまった島の方を見ている。

 

「どうしたのです」

 

「「ヒマ」だとろくなこと考えないなって思うのよね」

 

 キャビンに居てもライフルの弾を抜いてまた込め直したり、変に腰のガバメントに触れてみたり、「銃で遊ぶな、ツキが落ちる」の一歩手前の行動をしてる。ケツにつけてきてる気がするとか思ったり、少し横になってもふとした音にまわせー(違う)と飛び起きそうになったりとか、無駄に神経が張りつめている。考える暇なく出撃していた時と違う上に、足元が揺れない時間が長すぎたかもしれない、などと馬鹿げた考えが思考を掠める。

 

 複数個所に妖精が歩哨に立っているし、操船さえ妖精がやっている。正直わたしたちが起きている意味もないが、艦娘も海上ならば眠らないでもいける、むしろ眠れない。東西南北、全部海。唯一の慰めは、ただの海だということ。深海棲艦の支配領域である「血塗られた赤い海」ではない。だが各国の勢力圏下でもない。誰のものでもない戦闘区域だ。なんとなく二人してぼーっと海を眺めていると、複数の妖精にあっち行けとばかりに船室に戻される。砲や機関のチェックでもと思ったがそれも妖精に通せんぼされた。最悪の場合は海に立つことになるのだから、待機してろとのお達しである。船室・操縦席周りの床に毛布を置いて二人して座ってぼーっとする。言ってみれば船上での待機任務だが、退屈を通り越して虚無に入りそうだ。さらに下の簡易居住スペースまで降りなかったのは、多分わたしも電も不安だったからか。

 

 宙ぶらりんな心持ちのまま窓越しに空を眺めてる。右に座っていた電も、いつの間にかわたしの膝の上で頭をごろごろさせていた。だらーっと床に投げ出していた左手をとると、何が楽しいのか両手でわたしの掌や指をぐにぐに押したりさわさわという感じに撫でたりと、ガチですることのない時の遊びみたいでこれやばくない?と感じなくもない。そのうちそれにも飽きたのか上を向くのだが、急に唸る。ん、と下に視線をやると

 

「みえないです」

 

がっつりわたしの腹側に寄れば、まあ、見えなくなる程度には障害物があるわな。

 

 仰向けで手癖悪く動き始めた電の左手をはたいたりしていると、下から魚の焼ける香ばしい匂いがしてくる。「班長」がひょこりとそばの床に出現し、

 

「干物ヲ焼イテミタガ、少シニシテオイタ方ガイイ」

 

と告げると、わたしの左側にアジの干物の乗った紙皿と飲料水のペットボトル(2本)を置いて行った。アジは半身をさらに2つに切って串に刺してあるが、これで二人分という事か。まあ動いていないし。少し齧って、その塩辛さに言われたことを理解する。妖精パワーで海水から抽出した塩をこれでもかと使ったと聞いてはいたが、古い作品の塩漬け肉とか多分このレベルなんじゃないか、という塩辛さだった。当然皆食べているので酒ガホシイという声も聞こえる。それでもすぐ飲み込むのはもったいなく、よく噛んでいると旨みは当然あるわけで、酒を飲みたくなるのも理解する。水を飲んで一息入れると、少し位置をずらした電の、むすーっとした顔が目に入る。やって欲しいことは何となく分かるが、「アジの干物」でそれはないだろう。

 

「ちゃんと起きて食べなさい」

 

多分やったら一口で食べようとするだろうから急かして起こすと、塩辛いぞと注意して皿とペットボトルを押し付ける。残った水をちびりちびりとやりながら、またぐだーと脱力していた。横目で見ると案の定、干物を口にして半泣きの電が目に入った。やや水を残しながら、補給に近い食事が終わる。日も暮れ始めていた。

 

 最後の一滴を飲み終えたペットボトルも、再利用を考えて居住区の一角のダンボールに保管だ。紙皿もごみと言うよりは燃えるもの扱い。すっかり暗くなったが、船のライト類は点けずに航行を続けている。事故は確かに怖いが敵に捕捉されるのはもっと怖い。少し窓の外を眺めるが、闇に慣れ始めた目には船体の白が目立つ。月も星も良く見える状況だと、近づかれるとまずいか?と不安がこみ上げるが、どうすることも出来ないのでまた毛布の上に座る。船室内も計器類の明かりくらいしか光源はない状態だ。また膝の上の艦娘となった電の狼藉も、少し大目に見ることにする。まくり上げたり裾から手を入れるようなら殴るつもりだけど。ふと、電が体を起こすのと、わたしがそちらを向くのは同時だった。

 

 

 

「聞こえた?」   

 

徐々に速度を落とす中、船首側の甲板に出て、見張りを増員中の少尉に尋ねる。

 

「アア、チョウド進行方向ラシイ」

 

余力だけで船が前進していると、ド・・・ンというような遠くの花火のような音を聞いてそれに同意する。

 

「どっちにせよ進むしかないのよね」

 

「電が引けば回り道しても大丈夫なのです!」

 

艤装の装備で遅れて出てきた電がそう宣言するが、

 

「何かあったら確実に「わたしを置いて行かせる」わよ」

 

電しかまともに海上で動けないのだから、逃げるなら荷物は少ない方がいい。電だけなら航続距離では楽々日本に届くし。

 

「ソレデ、ドウスル」

 

「戦闘態勢のまま前進、あと、電」

 

「はい、なのです」

 

「探照灯こっちに貸して」

 

 

 

 再び航行を開始して数十分。エンジン音が邪魔になるが戦闘音はまだ続いていた。返答はしない様に指示して電に無線の傍受を頼む。結果分かったのが味方が多分金剛、時雨、響の3、敵が重巡と駆逐クラスで4かそれ以上ということだ。奇襲を受けたような会話らしく旗色は悪いっぽい。わたしは探照灯と防弾盾を装備すると連装砲は置いて行く。連装砲付きの妖精さんにボートの保持をお願いしてだ。

 

「それじゃ行きましょう」

 

電に曳航されて暗い夜を駆ける。走りながら作戦―ただ単にわたしが照らして、電が違う方向から撃つ、という作戦とも呼べない内容を説明する。当然、残っている味方がそれに追随してくれるという、希望的観測込みの内容だから他人任せもいいところだ。

 

「でも、危険なのです」

 

「ろくに動けないのに砲なんて持ってたら、防ごうとか避けようって意思もどっかいっちゃうわ。味方がいる内にやれるだけやる感じがいい」

 

そして電が横合いから砲撃で殴りつければいける筈だ。

 

「日本マデ逃ゲル予定ハドウナル」

 

味方艦隊と合流=現地戦力に組み込まれる可能性大と言う少尉の問いだが。

 

「遭遇した時点でその件はわたしたちの負け。見捨てても多分深海棲艦が残るから無理」

 

砲火がちらつくのが目に入り始めた。多分距離にして1kmを切ったところで、電を先に行かせてわたしは海上を「走る」。電も流れ弾に当たらずに向こう側に行ければいいけどって、あの子の方がやっぱり危険じゃん。砲声に着弾音、牽制の機銃掃射音まで響く中、瞬時の砲火で夜に慣れた目に敵味方の配置が見える。金剛型の巫女服の白のおかげだ、多分混戦じゃない。

 

「注意!探照灯ノ使用時間ハ「蓄電池」ノ分ダケダ」

 

通信機も背負った妖精さんが注意を促してくる。機関=動力がないから仕方ないが、使用時間は概念上のわたしの蓄電池に制限される。走り続けながら再びの砲火で当たりをつけて、右側にいるはずの集団に照射した。強力な光が奴らを周囲に視認させる。重巡リ級が2、奥におそらく駆逐。光を遮るように奴は手を上げる。

 

「Good Job! 見えたネー!」

 

通信機から多分金剛の声が響くと左手側で砲火とともに白いものがひるがえる。消灯直後におそらくリ級からの砲撃で、防盾で受けた衝撃に体勢を崩す。それら二種の砲声直後、深海棲艦の人型が炎上してリ級の一体の脱落を知る。炎上するリ級を目印に金剛と誰かが深海棲艦の隊列に突っ込んでいく、反航戦からややずれた丁字に切り替えた感じか。

 

だが、残存戦力はそれを知る余地はないにしても、何故か戦闘能力のないわたしを標的にしたようだ。海上をただ走るわたしの周囲を複数の飛翔音が通過した。

 

 左に走りながら再度点灯する。先頭のリ級から後続を舐める様に照射することで後続が3隻のイ級、ただし味方艦隊が突っ切った際の攻撃でもう一体が炎上しているのが見える。通過する味方艦隊も背を照らす形なので、深海棲艦がわたしに注目しているなら問題なし。そして最後尾のイ級が突然の直撃で炎上すると、真後ろからの砲声に健在な方のリ級がうろたえた。

 

「電の本気をみるのです!」

 

最初の照射の時点で、外周りの電は攻撃位置に付き次第撃つ予定だったのだ。始めに言った通り何のひねりもないやり方だが、前段階で他の戦力と交戦中なららそれでも引っかかる。続く電の魚雷でイ級が打撃を受けると、反転してきた味方艦隊が砲撃、沈みかけかもう沈んだと同義のイ級の全てが轟沈する。リ級も当然砲撃を受けて艤装は半壊だ。ただし、ほぼわたしとは至近距離。砲声が響くと盾が半ばから割れた。着弾で倒れかかったのが効を奏し、暗天を仰いでしまった顔の上を2発目が通過したように思う。直後にわたしにリ級が覆いかぶさった。30ノットオーバーの速度での衝突だが、とっさに盾の残りを構えたことで直接の被害はなく、動力もなく軽いまま浮いていたわたしは押されて滑り続ける。ただし強靭な膂力で押さえ込まれ至近で砲を撃ち込まれるか、その艤装込みの剛力でもしや引きちぎられるかとわたしの命は風前の灯だ、一人ならな。

 

 海上に倒れ込んでの最後の点灯。そりゃよく見えるだろう。至近距離での照射で眩んだリ級の背に、次々と着弾の炎が上がる。それでも応戦しようとしたのか、身をひねった奴のそばで巫女服の袖が躍った。

 

「Fireeeee!」

 

戦艦級の砲撃、電及びもう一人の駆逐の同時攻撃を受けてリ級は沈んで行った。探照灯も時間切れかブツンと消えてしまう。奴らが没した後は静かで大分暗い海に―暗い中に赤い炎?

 

「助かったネー」

 

「ちょっと待って、あっちで燃えてるのは誰?」

 

沈み切っていない深海棲艦か?とそちらを見るが赤い炎が遠いものの、艤装のシルエットをわずかに浮かび上がらせる。

 

「時雨!?」

 

もう一人の駆逐―電と同じ制服、長い白、銀の髪?確か響だったか―が炎上中の艦娘の名を叫ぶ。慌ててそちらに多分金剛と響が走っていく。電にまた曳航させてそちらに行くと、海上でうずくまる、時雨が見えた。

 

「しくじったよ。機関停止だ」

 

本人自身は、多分まだ何とかなるだろうが、艤装がもう航行に耐えないようだ。わちゃわちゃと妖精さんが走り回って消火活動中である。

 

「私が曳航すればいいさ」

 

「足手まといは御免だ」

 

響の提案を拒否する時雨に、金剛が割り込む。

 

「それなんデスガネー。ワタシ、実は燃料ないデース」

 

響をこっちに合流させて救援を呼んできてくれる方がいいとか、お先真っ暗っぽい会話を続ける3人を見るが、状況がひっ迫するとまあ注意力散漫になるのは良くわかった、夜だし。

 

「悲壮な覚悟を決めそうなところで申し訳ないのだけど」

 

3人がわたしを見て、違和感を覚えたのか首をかしげる。

 

「母船、すぐそばよ」

 

あっ!と機関を背負っていないわたしに気付いた3人と、微妙に不機嫌な雰囲気をする電に、まあ、そうなるなと以前会った戦艦のような感想をもった。




北上に執着しない大井、という存在だと会話内で大井らしさを出すのが困難かな
艤装もないから戦闘描写で重雷装艦としての描写も描けないし。上官との会話なら多少は出せるかもしれないけど

電で一個ネタ思いついたけど、やっぱり暗いネタになってしまう。ともすれば雷ママ・電ママとかのネタもあるキャラでなんで子供っぽさ倍率ドン?って部分の説明にもなるし

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。