愛した武器がどんな性能になろうとも、決して倉庫に送らなかったある男の戦い

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随分前にノリだけで書いた物なので短いし拙いです。それでも良いという方だけ、お読みください




曇りなき信心を胸に抱き、主を携え駆けよ戦場

視界の全て染めていた暗闇が晴れると同時に、嗅ぎ慣れた硝煙の匂いが鼻に飛び込んでくるのを感じる。

 

上を仰げば、まるでこの戦争に果てが無いと言うかのように群青の空を黒雲が覆っている。カーテンを連想させるようなそれは、戦士達が浴びる筈の陽光を奪い、代わりに死神の鎌を首に当てられたような緊張感を押し付けて離させない。

 

かのノルマンディ上陸作戦を恐らくモチーフとしたマップ、“Dデイ”。航空機による銃撃や、地雷による(自爆判定)。散りばめられた障害物(オブジェクト)や高低差を加味した上で、俺はこの戦場を気に入っている。

 

「…さて」

 

近接枠にて鎮座する神格(ミシカル)化された主を両手で持ち、色に光り輝く殴打面の美しさに見惚れながら張り巡らされた塹壕を虚空を踏んで飛び越え、僅かな時間で上陸する側(敵チーム)を観察する。

 

「プリング2、モルガナ(ライフル)1、バイ菌(シャッガン)2…相手にとって不足なし、いざっ!!」

 

急速に接近するプリングサッカーガン(赤いスッポン)は、待ちの姿勢を取っている味方達が倒してくれるだろうと突っ込みたいが故に適当な理由を付け、ガジェットのステルスを起動して高低差から発生する地の利を全力投球するかの如く勢いよく崖から飛び降りながら携えた主を片手で柄の中心辺りを軸に高速で回転させ、丁度縄梯子を登ろうと近づいてきたバイ菌を構える敵の首に空中で振り返りながら抉りこむように主を振るう。

 

「死ねゴラァァァ!!!」

 

瞬間、回転によって内部に蓄積されたエネルギーが殴打面を後押しするブースターに変換されたことにより一時的とは言え驚異的な速度を手にした主が、道を阻むものの一切を撃滅せんと敵プレイヤーのうなじに激突し、多段Hit判定(AOEによるガバ判定)によって一瞬でその生命を喰らい尽くす。

 

「よし、次ィ!!」

 

抜け殻と化した敵プレイヤーだったものの死体が縄梯子と熱いキスをするのを横目に、既に此方に狙いを定めているモルガナ使いを視認して武器を変更する。

 

他の武器と比較しても明らかに規格が大きい、腰に装着されたベルトから背を伝うように伸び耳元で四つの砲口が覗くそれは外骨格(スケルトン)シリーズのヘビー枠、デモリションスケルトン。特徴的且つ威圧的な外見とは裏腹に、(おも)にサポートとして使用されるデモ助の砲口を俺は敵に向かって走りながら真下に向け、両手でがっしりと持ったリモコンを使い射撃命令を下す。

 

シュドドドンッッ!!と地面に叩きつけられた砲弾が一つ残らず爆発し、その爆風をモロに受けた俺は自爆…することはなく、空を駆け宙を舞う。

 

ピクセルガン最大の特徴とも言えるテクニック、ロケットジャンプを活用し数瞬前に己がいた場所を貫く黄金に煌く光線を気にも留めず、再び装備し回転させた主を振り下ろす。

 

「ぐっ…死な安ぅ!!!」

 

やはり、敵もそう簡単には倒させてくれない。素早く持ち替えたのであろう金に包まれた蒼色の銃身(エクスターミネーター)から放たれた光線が胴体に突き刺さり、体力が七割程持っていかれる。だが、死ななければ安いもの。例え体力が1ドットしかなかろうが、主を振るえば全ての事象は解決するものなのだから。

 

地に伏した(せた)敵を踏みしめ、大破した輸送車らしき物を盾にしながら主を回転させ、ただ敵に猛進する。

 

「捨名ーーッ知ぃあ、ヤベ!?」

「文字通り横槍ってなぁ!!」

 

輸送車から飛び出した瞬間、ステルスが切れてバイ菌の引き金に既に指を置いている敵と目と目が合う。これは逝ったか…?と思い近い内に来るであろうリスポンに備えると、威勢良く空から降ってきた味方であるフレが、スパルタ兵の槍(と盾)(戦の槍)で敵の立方体の頭を地に縫い止めた。

 

「やっぱ火力高ぇなそれ」

「高いけど重量と攻撃速度がなぁ…やっぱ返金(ゴールドキャッシュバック)が安定だわ」

「お?主の悪口か?」

「なんで重量戻んないんだろうな主…」

 

攻撃速度を代償にリーチと高火力を得た戦の槍は、どうやらフレには使いづらいようで愛用しているゴールドキャッシュバック(成金が使うようなギラギラしたヌンチャク)と交換される。

 

「とりあえず戻るわ、狙撃のタスク終わらしたいし」

「おう、俺は残るから先行ってていいぞ」

「了解」

 

自陣地から聞こえる銃声が消えたということは、あちらの戦いの終結を言外に伝えている。

 

武器を見た限り中々強そうであったし、何より人数差があったので味方が敵をやってくれたと考えて問題はないだろう思い、敵のリスポン地に近づくべくプリングを発射しようとした…その時だった。

 

「早く帰ってソゲキッ!をしなけれバァ!?」

 

何故か狙撃の発音だけネイティブにしたフレが、聞き覚えのある着弾音を奏でながら眉間を撃ち抜かれて仰向けに倒れ込むと同時に、背後で何者かがプリングを撃つ音が聞こえた。

 

並の銃では起こせない、一瞬の内に何発も弾が当たったような音を被弾者に奏でさせる銃はかなり少ない。それもフレが気付かない距離からの攻撃とすると、条件が合致する銃は俺が考える限りでは一つ。

 

「っ!!」

 

主では間に合わないと判断して持ち替えた武器、回避不能を片手に振り向き、スコープ越しにですら感じさせる圧倒的な殺意(kill欲)が込められた無垢なる眼でこちらを射抜き、狂気を全開に発露しなければできないような凶悪な笑みを浮かべ、三日月のよう口の端を釣り上げながら落下する敵と相対し、思わず俺もつられて醜悪に歪んだ笑顔になる。

 

「…っ!いい趣味してんじゃねぇか!!」

 

人の形をした狂気の権化が向ける銃は、予想通り傑作のマスケット銃(高火力ロマン砲)。奇しくもスナイパーとは名ばかりの短射程高火力同士が交差するこの状況に何とも喩えがたい気分の高揚を覚えながらも、こちらも負けじと小さな撃鉄にありったけの殺意(kill欲)を込め、躊躇うことなくそれを起こす。

 

『「死ねぇ!!!」』

 

言葉と銃声が寸分のブレなく、同時に戦場に響く。

 

俺の回避不能から放たれた弾丸も、敵の傑作のマスケット銃から飛び出した散弾も、大気を裂き、狂うことなく互いの額に命中する。

 

純白に包まれ行く視界の中で、確認できることは二つ。俺は吹っ飛ばされて背後にある装甲車に身体を強打し、奴は空中で倒立をしようとして失敗し大地にヘッドバットしたことだけ。

 

 

 

戦場に舞い戻った静寂が、引き分けと宣言したような…そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

約一分半後。

 

「いや試合終わってねぇから!なんならあの人単騎で無双してるぞ!?」

「…フレ、キル数見てみろ」

「今それどころじゃ…嘘だろ?あの人二十点中十五点一人で稼いでらっしゃる…」

「二分でこれはヤベェ。しかもあの人基本マスケットしか使ってねぇし」

「味方達は…リスキルされてるな」

「無敵時間関係無しとか恐ろしすぎるだろ…」

 

点数は僅差で勝っているものの、気を抜けば一瞬で抜かれかねないkillスピードには、驚愕の一言に尽きる。

 

俺達のように二人がかりならまだしも、単騎でリスキルは基本無理がある筈なんだがなぁ…

 

「よし、信仰者行ってこい(逝ってこい)。俺はここに残るから」

「まさかまたあの西部劇の決闘みたいなことをやれと?我近接使いぞ?」

「大丈夫だって、骨は拾ってやるから」

「期待してねぇじゃねぇか。大体、さっきは偶然当たったが普段はガバエイムな俺が、ほぼ百発百中のあの人に勝てるわけない"ぃ"ぃ"!!?」

「信仰者ぁぁ!!?くそ、一か八かやってやらぁ!!!」

 

いつの間にか味方陣地からお戻りになったらしい神格化済みのマスケット使い(無双する変態)に頭を撃たれその衝撃で空中側転を決めながら俺は海へと落ち、フレは負けイベに突っ込むかのような若干悲壮な表情をしつつも、ヌンチャクを振り回し戦意を奮い立たせて俺の仇討ちかは分からないが戦いに挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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