絶対守護 ヒーロー嫌いのヒーローアカデミア   作:ひよっこ召喚士

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04 戦闘訓練 1戦目

 個性把握テストから翌日の事、午前中は普通の授業だったものの、プレゼント・マイクの授業ということでテンションだけは非常に高い授業だった。昼は大食堂ならクックヒーローランチラッシュのおかげで一流の料理を安価でいただくことが出来るが節約のため弁当だ。声を掛けられたら食堂に付いて行くことはあるが何かを頼むことは基本ない。

 

「心操も弁当か」

「ああ、山稜がついでにと」

「女子の手作りだとぉ!!」

 

「作ってあげるとか絶対ラブラブじゃん」

「お弁当普通に美味しそうやね」

「一人分も二人分もそう変わらないから、一口要りますか?」

「あ、貰う。って美味しい。女子だけど心操が羨ましいかも」

 

 そして午後の授業、ヒーローを目指す者達として必ず必要となる科目、ヒーロー基礎学。

 

「わーたーしーがー!!! 普通にドアから来た!!!」

 

 No.1ヒーローの登場に、教室中が興奮と感動の渦に包まれる。オールマイトの話を聞くと場所はグラウンドβ、入学前に提出した『個性届』と『要望』に沿って業者に発注した『コスチューム』に着替えて集合、とのことだ。

 

 私は個性で必要とする装備はあまりないので丈夫さと伸縮性と後は見た目を重視したがそれ以外は普通の服とあまり変わらないので着替えるのに時間は掛からなかった。

 

 心操は自分に使うためのマイク付きのヘッドフォンとそれをついでに利用しようと考えた周辺探索用の収音装置。それぞれの機器を接続して使用したり、音を録音することも出来る。拡声器やマイク越しでは『洗脳』は出来ないので暗示目的の意味合いが強い。注目を集めるために一応拡声の機具もある。分かりやすい攻撃手段としてはナックルも用意されてる。派手さは無いが堅実なコスチュームと言える。

 

「ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で見れば屋内の方が凶悪犯出現率は高いんだ……君らにはこれから、『敵組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2の屋内戦闘訓練を行ってもらう!」

 

 設定は、テロリストが市街地のアジト内に核兵器を隠していて……ヒーローはそれを処理しようとしていると。設定が海外ドラマみたいだ……先生が考えたのかな?

 

 敵役が先にビルに入って準備を整え、5分後にヒーローが行動開始。ヒーロー側の勝利条件は敵2名の確保か、核兵器の確保。核兵器の方は、張りぼての爆弾にタッチするだけでいいそうだ。敵の確保については、気絶させるか行動不能にするか、あるいは事前に渡された『確保テープ』を体のどこかに巻き付けることで達成とする。

 

 一方、敵側の勝利条件は、同じくヒーロー2名の確保か、あるいは制限時間15分の経過。コンビ分け及び対戦相手はくじで決定されると……なるほど。

 

 

Aチーム 山稜、葉隠

Bチーム 轟、障子

Cチーム 峰田、瀬呂

Dチーム 緑谷、切島

Eチーム 蛙水、常闇

Fチーム 八百万、尾白

Gチーム 耳郎、心操

Hチーム 爆豪、飯田

Iチーム 麗日、芦戸

Jチーム 上鳴、青山

 

 

 

 麗日、芦戸  VS 山稜、葉隠

 轟、障子   VS 耳郎、心操

 峰田、瀬呂  VS 八百万、尾白

 蛙水、常闇  VS 上鳴、青山

 緑谷、切島  VS 爆豪、飯田

 

 ふむ、葉隠とのペアになったか。対戦相手も含めて女子が固まったな。雄英に来て、ヒーローを目指している面々だするつもりは無いが油断は禁物だ。

 

「よろしく、葉隠さん」

「山稜さん、私はそこにいないよー!?手袋とブーツ見えてるよねー!」

 

 知ってる。あえて空中に向けて挨拶をするというボケは何人かにヒットしたようだ。葉隠さんが割と本気で焦ったような怒ったような声で突っ込んで来たのが良い味を出してくれた。対戦相手の芦戸さんまでもが笑っている。これは勝ったな。

 

「お笑い勝負じゃないからね!?」

「君とならトップを目指せる!」

「目指さないよ!!ヒーローになるんでしょ?!」

「お笑いヒーロー?」

「お笑いは要らない!!」

 

「お、お願いだから。わ、笑かさないで、ひ、ひひ、お腹苦しい」

 

 もう一部を除いてほぼ全員が笑っていた。あえて真顔で淡々と反応を返したのは成功みたいだ。その中でも芦戸が笑いすぎて女子がしちゃいけない顔一歩手前に差し掛かっていたのと、いい加減真面目にやってやれという心操からのお叱りも受けたのでチームで別れて準備を行う。

 

 

「さて作戦考えようか。真面目に、真面目に!」

「強調するぐらいなら最初からふざけないでよー」

「ごめんなさい。で、どうしようか?」

 

 相手は麗日、芦戸の二人だ。個性把握テストでは11位、12位と微妙な順位だったと記憶しているが、あの二人はどちらも触られたらアウトに近いので戦い方に気を付けないといけない。

 

「私は完全に隠れれば見つからないと思うよ」

「なら私はプリズムでガードすればまずは安全ですかね」

 

 直接触れられないと麗日の個性は発動しないし、芦戸の酸も防げる。何なら葉隠も念のためプリズムの中に入れてしまえばやられてしまうことは無い。

 

「後、訓練の意味を考えると戦ってもおきたいですね」

「訓練の意味って?」

 

 これは授業だ。わざわざチームをヒーローとヴィランに分けたという事はそれに適した行動を取り、勝つ必要性がある。こちらはヴィランチームだから大抵の事はやっても良いだろうが、向こうはヒーローとして挑むわけだからやってはいけない事も多い。そして設定上、手元にあるのは核兵器なのだからあまり近くで戦ったり、巻き込むようなことがあれば本末転倒だろうと伝える。

 

「そっかー、訓練の意味か。戦うのはヴィランなら忍び込んだヒーローには襲い掛かるから?」

「知略的なヴィランも居るでしょうが、私たちは今はテロリストです。隠し持ってる兵器に何かがあったら困るので全力でヒーローを排除しなければいけません。ただし、ペアで協力して上手く個性を使いつつという条件付きです」

「なるほど」

「後はヴィランらしい、騙しや嘘なども織り交ぜていきたいです。最後は不意を突いて倒したり出来れば最高ですね」

 

 どこで戦うか、張りぼては何処に設置するか、どうやって倒すか、相手に伝える情報と伝えない情報、嘘の情報をしっかりと話し合う。お互いの出来ることを最大限に利用してヒーローには絶望してもらいましょう。

 

 

『それではスタート』

 

 合図と共に麗日と芦戸が勢いよくビルの中に突入してきた。色つきのプリズムを張った私と手袋とブーツを付けた葉隠が堂々と姿を見せる。

 

「いた、芦戸さん行くよ」

「うん」

 

 私たちに攻撃しようとしているのか、確保テープを巻こうとしているのかは分からないが一直線に向かって来たのは良くなかった。バンという大きい音と共に二人は見えない壁にぶつかって、痛そうに顔や体を触っている。

 

「はは、始まってすぐ自滅してるよ」

「本当に引っ掛かるとは思ってなかったんだけど。二人とも大丈夫?」

 

 予期せぬ痛みに打ち震えていた二人も仕掛けた側からの煽りとしか思えない言葉に憤慨し、起き上がる。山稜は確実に煽っているが葉隠は普通に心配している部分もあるが先に喋った山稜の発言の後なのと敵からの心配なのも相まってこちらも煽りにしか聞こえないだろう。

 

「逃げるよ」

「了解」

 

「「逃がさないよ!!」」

 

 ここからが問題だ。二人を見失っては作戦が成り立たないし、ずっと追っかけられていると最後の仕掛けが出来ない。時間を稼ぎながら、複数の罠を使って隠す時間だけは目を塞がせる。最初から最後まで決めてしまうと予想外への対応が難しいので最初と最後と大体の流れしか決めていない。ここから先は……

 

 

 

「私の腕の見せ所だ」

 

 

 

 

 

 

 場面は変わって、戦闘訓練をモニターで観察している面々は山稜の容赦のない罠や騙しに苦笑いを浮かべていた。何人かは苦笑いを通り越して震えている者もいた。

 

 

「転ばして、頭をぶつけさせて、触れたと思ったらバリア越し、何度も何度も」

「その度に醜悪なコメントが付いてくる」

「バリアも葉隠さんも見えないから対応がしにくい。芦戸さんは酸を飛ばしてバリアの有無を確かめたけど、確かめた後にバリアを設置されて、頭を抱えて唸ってたね」

「『プリズム』、色々なことが出来ると説明してもらいましたが、まだバリア一つでこれですもの。私でも叫んでいたかもしれません」

「そろそろ10分経つぞ」

「あ、二人がバリアで囲まれたって消えた!?」

「いや、入り口に戻されてる」

「ワープ、正確にはバリア同士の位置交換か」

 

 やっている事の一つ一つは小さいし、ダメージと言えるダメージは無いが、その積み重ねに精神が削られていった。いきなりスタート地点に戻された二人は一瞬呆然としていた。オールマイトを含めて全員が敵に回したくないと心の底から思っていた。

 

 

 

 

 

「ああもう。やだぁ」

「芦戸さん。落ち着いて、まだ何とかなるよ」

 

 あの二人を倒すのはこの10分で難しいという事が分かった。はっきり言って強がりである。出来ないとは言いたくないために難しいと言っているが同じ条件で戦う限り山稜1人にも勝てないだろう。

 

「爆弾さえ触れれば」

「何処にあるのか探させてくれないよ~」

「ワープさせられる前に山稜さんが『念のため爆弾の所に行ってくれ』って葉隠さんに伝えてたんよ。葉隠さんが上に向かってるのが見えたわ。あそこより上となると屋上しか無い。どうにか山稜さんの間を一人で良いから通り抜けるの、まだ終わってない。諦めるには早いよ!!」

「うん!!」

 

 麗日の諦めない意思、それは同じくヒーローを目指す芦戸には輝いて見え、勇気づけられた。既に残された時間は少ない。それでも二人は残っている気力を振り絞り全力で階段を登って行く、山稜さんのプリズムは認識した場所にしか置けないと言っていた。山稜さんが隠れる場所が無い階段は周囲に警戒さえしていればそこまで心配しないで上ることが出来る。

 

 

 

 

 

 

「ここは通さないよ」

 

 

 だからこそ屋上へ向かう階段の真ん中で二人の行く道を遮っていた。ここさえ守ればいいのだからそうすると考えていた。だけれど二人も考えが無かったわけでは無い。

 

「芦戸さん。行って!!」

 

 麗日が芦戸に個性を使い無重力状態にしたと思うと窓から飛び出して直接屋上を目指し始めた。山稜は慌てて窓を塞ごうとしたが間に合わなかったようだ。

 

「葉隠の援護に!?」

「絶対に行かせない」

 

 瓦礫などを思い切りぶつけて山稜の目の前の階段を下から崩した。ヒーローらしくない破壊的な行動だが足を踏み外しかけた山稜の動きを止めることが出来、開いた穴からの山稜のバリアを潜り抜けて上を取ることが出来た。

 

「勝てなくても芦戸さんがやってくれるまでの時間くらい私が稼ぐ」

 

 芦戸なら酸をばら撒くことで葉隠の行動を狭める事も出来る。直接触れなくても攻撃できるあしと芦戸であれば葉隠を押しぬけて爆弾を確保してくれる。その間だけ頑張れば良い、そう考えればいくらでも力を出せる。

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に勝『捕まえたわ』つ。え??」

 

「お疲れ様です。葉隠さん」

 

 私の方を見降ろして構えていて後ろへの注意が散漫になっていた所を手袋もブーツも脱いで、正真正銘全裸になって忍び寄っていた葉隠に確保テープを巻かれた。

 

「なんで?!えっ、芦戸さんは?」

 

 

 

 

 

 

 少し前に戻って芦戸が窓から飛び出して屋上へと向かった時のことだ。重さが無い体は操りにくいが、どうにか屋上へ跳んで、手すりに摑まる事で停止出来た。勢いがあるため見張りの葉隠には見つかっていると考えてすぐに、酸をばら撒き、体勢を整える。

 

「居た。そして在った!!」

 

 山稜のこれまでの行動から爆弾が屋上にあるというのも偽の情報、あえてそう見せた可能性も考えたが、爆弾は確かにそこに有った。そしてその爆弾の前に浮いている手袋とブーツ。既に全体的に酸は撒いた。ブーツがあるとはいえ迂闊には動けないはず。後はどうにかして葉隠を避けて爆弾に触るだけ。

 

「行け「捕まえた」る?!?!」

 

 腕に巻きつけられた確保テープにも驚いたがいきなり、何故隣から葉隠の声が聞こえてきたのか、理由が答えが分からずに思考が止まってしまった。だけど呆然とした中で一つ理解できたことがある。

 

「負け…ちゃった」

 

「さて、麗日さんも捕まえなくちゃ」

 

 呆然としてしまった芦戸はどうしようもないやるせなさと悔しさに襲われてその場で膝をついて頭を抱え込んだ。その後、こっそり上から近づいた葉隠が麗日を捕まえてゲームセットとなった。ヒーローチーム二人の捕獲により、オールマイトから終了の声が届けられた。

 

 

 

「はいお疲れ様!早速講評を始めよう。まずは今の試合について観戦組から意見を訊こうと思っていたんだが、今回は私が色々と説明をしよう」

 

 最初の試合だが、これは少々評価がしにくいものであった。何をしていたのかが分かりにくく、横から見ての感想を言ってしまえばどちらのチームにも良くない。

 

「今回の勝利はヴィランチームで、MVPは山稜少女になる。訓練の意味を読み取り、ヴィランとしての行動、ペアとの連携を抑えたうえで見事勝利を手にした。作戦を立てたのも山稜少女だったね」

 

「見えるバリアと見えないバリアを混ぜる事で罠へ引っ掛かりやすくしたり、表情の読み取れない葉隠少女はともかく君は純粋な演技で最初も過程も最後も全ての場面において相手を騙して見せた。そして葉隠少女が最後に確保しやすいように仕向けたね」

 

「葉隠少女は最後以外は常に手袋とブーツを付けていた。だからヒーローチームの二人は葉隠少女を探すときに手袋とブーツを探した。最後のはバリアの上に手袋を置き、足元にブーツを置いたんだね。そこに居ると思い込んだら人間はそこにだけ意識を向けてしまう。酸をばら撒く事も予想して葉隠少女を守るバリアも張っていた」

 

「芦戸少女が抜けた時は焦った表情と「援護に行かないと」とあえて口にすることで麗日少女に邪魔をさせて、自分に注目を向けさせた。結果としては、やり過ぎという意見も出たが、心を壊すというのはヴィランが良くとる手段である事に間違いはない。ヴィランチームとして正しい選択を取っていたと言える」

 

「葉隠少女も事前に大体の流れを決めていたとはいえ、山稜少女の仕草や指示を聞き、真意を読み取って動いており、姿が見えない事を生かした隠密行動も完璧だった。動くタイミングを見極めるというのはこういった緊張した現場では必要不可欠な技能だ」

 

「そしてヒーローチームだが、設定上一番の目標である爆弾を放置して約10分間、ヴィランに煽られて冷静さを失って追いかけてしまった点は減点だね。だが最後まで諦めず挑み続け、相手を出し抜く作戦を考えた事は評価できるし、作戦もお互いの個性だけでなく相手の個性にも合わせて役割を決めていた。後は思い込みや事前の情報だけで判断しないで動ければチャンスはあったかもしれないね」

 

 オールマイトからのフォローに近い評価で多少落ち着いたが、振り返ってみると単純に相手が強くて、自分たちが弱かったのだというのが分かる。精神的にも、能力的にも、色々な部分で終始掌の上で踊らされている気分だった。終わってから気付いたという点には失笑しか出てこないが、それでも何か掴めたことがあると思いたい。

 

「うん、失敗を通して学ぶのが学生だからね。更に向こうへ(プルスウルトラ)の精神だ。芦戸少女、麗日少女」

 

「「はい」」

 

 初戦から圧倒的な試合を見せられた面々は気を引き締めて訓練について考える。山稜が色々と行ってくれたおかげで訓練の意図と意義を知り、自分たちがどれだけやれるのかを何が出来るのかを考えだした。次の試合は動きから変わるだろう。

 


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