強いやつと戦いたい太刀川がヴィザを、要注意な相手であるハイレインを悠菜が受け持ったのは悪くない。そのまま余っていたワープ使いであるミラと遊真が戦闘を開始したのは自然な流れだが、戦況は芳しくない。
[微弱だが門と似通った反応から攻撃の予測は出来るが、解析は出来そうにない]
「どうにもオレのトリガーだと普通に相性が悪いね」
強化して直接殴る蹴るなどか、直線的な砲撃を行うかが基本の攻撃手段である遊真と自由自在に移動してみせるワープ使いとでは分が悪いのは事実である。展開までに多少の時間はかかるようだが、一気に距離を詰めようとして自分が飛ばされでもすればたまったものではない。
[こちらに玉狛第一も向かっている最中だ。無理に倒す必要はない。だが手負いの敵とはいえ油断も禁物だぞ]
「そうだな…一撃でもいれれば漏れ出たトリオン量的に倒せると思うけど無理はしない。ワープでオサムを追わせる暇を与えなきゃ勝ちだ」
[他の者への援護の隙もだな]
眼の前の相手を倒せば勝ちというほど戦争というのは単純ではない。次に繋げるための一手となるようにと気を引き締め直し、遊真は敵を見つめた。
多少無理やりに戦う権利を主張した太刀川は活き活きとした様子で戦闘を行っていた。
「ははっ、アンタ強いな。こんなに楽しいのは久々だぜ!!」
「ほっほっほっ、これは中々……『星の杖』相手に普通のトリガーで打ち合える方も早々居ませんよ?」
対するヴィザは高速で動き、視認するのも難しいブレードを難なく防いでいる眼の前の戦士に驚きを示していた。
「たまには居るのか?それじゃあノーマルトリガーで打ち破った一人になってやろうじゃねえか!!」
「…!!それができれば貴方が一人目になりますね。自分の強さを疑わないその姿勢……これが若さというものですかな。いやはや……恐ろしい……」
ブレードを捌いて近づき、直接斬り結び、軌道を変えたブレードを弾いてまた距離を詰める。繰り返しの中で動きを洗練させていく太刀川に脅威を感じながらもその挑戦をヴィザは真っ向から受け止めた。
悠菜が起動したトリガーはこれまた黒トリガーに分類される代物である。なんなら範囲殲滅用として作った『崩壊』や『嵐』を作る上で多少は参考にしたトリガーである。
悠菜のトリオン体の周囲に浮かぶように存在する真っ白な液体。無重力空間を思わせるその光景はすぐに崩れ、量を増やしながら津波や雪崩の様な災害の様に襲いかかる。
警戒していたハイレインは距離をとり、攻撃を仕掛けやすい位置を取るという目的から、飛び退きながら家屋の屋根に着地する。
「不定形な攻撃……『泥の王』と似通ったトリガーか?」
「あれほど複雑じゃないですが、扱い難さはこっちが上だ!」
地面を伝い、壁を伝いハイレインを追いかける白い液体。どうやらあれらを浮かせられるのは使用者の周囲だけのようだ。
流動的な攻撃が宙を飛んで追いかけてくるようであれば面倒だと考えていたハイレインはそう思わせている可能性を頭の隅に置きながらも少し安堵し、足を動かしながらも『卵の冠』によって使用者である悠菜を狙う。
これだけで討ち取れると考えるほど甘い思考はしていなかったが、キューブに変えることで液体を削る事はできるだろうと考えていたハイレインの予想は大きく裏切られ、液体に触れた瞬間に逆に液体がまるで弾を溶かしたかのようにかき消してみせた。
「『卵の冠』が効かんだと?!」
容量を生み出すのにかなりのトリオンを消費するが触れたトリオンを問答無用で溶かす能力は敵からしてみればたまったものではないだろう。だがこの場合は相性の悪さも際立っていた。
トリオンに対して干渉するという点は同じだが、変化と消去では後者の方が優先度は高い。変化させようにもそのトリオン同士を消滅させるのだから。
大抵のものがトリオンで作られている近界では有用性も高いが、扱いにくさも比例する。そこら中にトリオン製のものが存在するので不用なタイミングで消費してしまうことがあるのだ。
しかし、玄界であれば周囲にあるトリオン製のものなど本部か味方のトリオン体ぐらいのものだ。その扱いやすさは格段に上がると言える。
「様子見なんて真似してるなら、そのままあなたのトリオンを溶かし尽くしてあげますよ」
「さっきからわちゃわちゃ動きやがって!!何がしてぇんだ?クソ面倒くせぇなぁ!!」
風間隊と戦いを続けていたエネドラは大技でも倒せず、小細工も何故か聴かない敵にイライラが溜まっていた。
「お前らの攻撃なんて効かねぇたんだよ!!それなのに同じ事を繰り返してこの猿がよぉ!!」
自分の優秀さを疑わないエネドラにとって、自身が負けずとも勝てない相手というのは許せないものだった。段々と対処に慣れていく風間隊に対して動きを悪くさせていくエネドラは傍から見れば滑稽そのものだった。
「【風間さん、配置に着きました】」
いつまでも挑んでくる敵に苛つく割には自分が一チームに対してどれだけ時間を掛けているのかを考えていないエネドラの周囲には既にランバネインとの戦いを生き残った隊員が潜んでいた。
「【やれ】」
「ッ!?なめるなぁ!!」
次の瞬間、潜んでいた隊員たちによってトリオンの銃弾が嵐の様に降り注いだ。一瞬驚きはしたものの体を流動させ、体内で核を動かしなんとか攻撃を無傷で受け切るエネドラ。
策を弄して来たことに驚きと苛立ち、そして猿の精一杯の努力に憐れみ、不用意に顔を出した連中を狩ってやろうと視線を動かすと足元に着弾した一つの弾が炸裂した。
「ハッ?!」
流動した身体が形を保てずに吹き飛ばされる。範囲内に含まれていた核は無事だが、覆っている殻が少し損傷を受けていた。まずいと直感的に焦りながら身体を元に戻そうと急ぐがそれよりも早く一発の銃弾が核を目掛けて飛んでいった。見事に命中したそれは攻撃力が無い為にエネドラは外れたものだと思いこんでしまった。
「【スタアメーカー着弾しました!!】」
「【よし、警戒させながら少しずつ下がれ、後は俺たちでやる】」
攻撃手のトリガーでどこにあるのか分からない小さな弱点を探して倒すのは難しいが場所さえわかればなんてことはない。
「【うわっ、反応見るとメチャクチャに動かさてますよ】」
「【さっきの砲撃を警戒してるんですかね】」
「【あまり目で追うな。感づかれるぞ】」
スタアメーカーによるマーカーを視界に共有させると体内で縦横無尽に動く核を捉えた。後はアレを切り裂くだけだと最後の詰めにかかる。
エネドラは銃弾を放ちながら少しずつ距離を取る隊員たちに注意を向けている。風間隊がブレードしか使わないと考えて風間隊よりも周囲の隊員の方が危険だと判断しているようだ。
どうやら身体を吹き飛ばしたメテオラによる攻撃を警戒している様で弾が当たる場所かる必ず距離をとっている。これまで戦っていた風間隊が銃手用のトリガーを用いて無かったが故に特徴が割れていない、理解できない不安が後押している。
そこへ距離を詰めながら歌川がこれまで使っていなかった銃手用のトリガーを発動させると、エネドラは驚きながら近距離で放たれたソレを避けようと大きく避ける。
「ハッタリかクソッ!」
放たれたソレはアステロイドであり、必要以上に警戒させられたエネドラは怒りを露わにして一番近くにいる歌川に攻撃を仕掛けた。
「メテオラ」
そこに今度こそメテオラを放つと間近で喰らったエネドラは再度核を守りながらどうにか距離を置こうとするがその前に爆発に身を隠していた風間による攻撃が核を切り裂いた。
「なっ?!」
警戒してくれたおかげで動きは読みやすかったな。と淡々と攻撃しながら考えると本部へと通信をいれた。
「【こちら風間隊、黒トリガー使いを撃破しました】」
戦いの場から離れた修は嵐山隊のサポートを受けながら懸命にボーダー本部を目指していた。負傷しているとはいえA級部隊、道中で襲ってくるトリオン兵は嵐山隊によってスムーズに片付けられている。
「新型を避けながらだとどうしても遅れがでますね」
「万全な状態ならまだしも、今の状態で当たるわけにもいきませんからね」
レイガストの修復が困難なうえ、トリオン漏れの事も考えるとアステロイドさえも撃てない三雲はトリオン体で動くのがやっとな状況だ。
「……なるほど、それは朗報だ!人型ネイバーの撃破情報が入った。伏兵がいない限り、敵はトリオン兵と先程の場所にいた相手だけだ」
「風間隊ですか、流石ですね」
散っていた人型が倒されたことで集中していた隊員が動き、トリオン兵の掃討もまた進みだした。これまで以上に動きやすくなるだろう。
「今のうちに少しでも近づこうか、ペースを上げるよ三雲くん?」
「はい!!」
悠菜とハイレインの戦いは相性の悪さも相まって、ハイレインが対処に回り、それを追いかける形が続いていた。
「エネドラがやられたか、くっ!?」
エネドラごと回収するのであれば船とエネドラのマーカーがあるために可能だが、始末するとなればミラを自由に摺る必要が出てくる。
「ヴィザ!!」
「了解しました…」
「なっ!?逃げる訳じゃねぇな。行かせてたまるか、ってこの!?旋空孤月!!」
ミラを動かすために背を向けて空閑の方に向かうヴィザ、それをフォローするようにいくつかのキューブ化の弾が放たれるが難なく避けて旋空孤月を当てる。
「ここまで……ですが役目は果たせましょう」
「やばっ!?」
トリオン体に大きく線が走り、多くのトリオンが漏れ出ている。それでも星の杖を起動させると遊真のトリオン体を破壊した。
「すみません。ヴィザ翁、泥の王回収、金の成鳥の確保に向かいます!」
ミラが黒トリガーを用いてその場から姿を消した。ボロボロだがトリオン体を維持しているヴィザは星の杖を構え直して太刀川に向かい直る。
「相手を出来ずに申し訳ございませんでした。ですが隊長の命令がありましたので逃させていただきました」
「ちゃっかり攻撃をそらしておいてよく言うぜ」
このまま戦い続ければいずれトリオン切れでヴィザは落ちるだろうがこの男を自由にすればこの場の状況は一気に傾くために休む事は出来ない。
「おや、ミラ殿ですか…ありがたい」
「新型か…んなもん全部斬り伏せてやるよ!!」
少しでも時間をかせぐためかミラによってヴィザ翁の周りに10体の新型が送られてきた。フォローしながら戦えばそれなりに保つことだろう。
対してトリオン体を破壊された遊真はしくじったとばかりに苦い顔を浮かべている。どうするかと考えていると悠菜から声がかかる。
「遊真!!修くんたちに伝えなさい!!【この場でトリガーを使わずに援護に向かって】」
「……了解!!」
アフトクラトルの者たちも情報共有は出来ている。まだ戦える事を悟られない様に通信で本当の指示を出すと笑って遊真は駆け出した。
「ふむ……ミラ、壊れたトリオン兵の残骸を送れ!!」
ヴィザの近くにトリオン兵が送られた事、自身のトリガーと悠菜のトリガーの違いを考え、1つの策をこうじた。
「そのトリガーはトリオンを問答無用で消し去る恐ろしい性能を持っている。だがお前であっても消費は激しいだろう?」
「トリオン兵の盾、しかも使えなくなったものを有効活用ですか」
自身の卵の冠であればキューブからトリオンを回収出来るが、融解とやらは完全な消滅であるため不可能と判断した一手だ。
その予想は当たっており、トリオンの消耗の激しい融解でトリオン兵の山を消し去れば悠菜といえど戦い続けるのは難しくなる。
撃ち続けてくれればギリギリだがハイレインの方が先にトリオン切れになると考えていたが、あまり削れなかった事を悔やみつつトリガーを解除する。
融解で作り、残った液の分だけトリオンが無駄になるが避け続け、壊れたトリオン兵を溶かすだけなら意味は無いので仕方がないと割り切る。
「今からでは他の黒トリガーは厳しいか……正宗起動」
「……白鬼のもう一つ由来、白兵戦の鬼の本領か?」
「さぁ、どうでしょうかね」
長い刀を軽々と振り回していく、近くに置いてあるトリオン兵はもちろん、トリオン以外に干渉しない相手の弾を防ぐ手段は多い。
「斬るのが早いか、当たるのが早いかですかね」
「こいつ、どうしますか?」
「捕縛して捕虜にすることに決まってる。が別の人型ネイバーを倒した際には空間操作のトリガーで逃げられたらしい」
「周囲の警戒をしながらですか」
倒したエネドラをどうするのか菊地原が訊ねると風間が淡々と答えを返す。面倒な作業に心底嫌そうな顔をしていると、空間に穴があいた。
「来たか、黒トリガー」
「回収にきたわ、エネドラ。派手にやられたようね。早くしなさい。あまりかまってる余裕はないわよ」
「チッ、おせえんだよ!」
空間操作も黒トリガーであるために不用意な動きはできないと警戒しながらも手を出せずにいる風間隊。エネドラが穴の向こうのミラに手を伸ばすと、次の瞬間にその手が切り落とされた。
「なっ……!!?」
「悪いわね。急いでるの泥の王は回収させてもらうわ」
それだけを言うと、黒トリガーを外した手をその場に雑に放り捨て、エネドラを刺し殺すと穴は消えてなくなった。
「………ハイ……レ……イン……!!!」
「【本部、敵が黒トリガーを回収、その後使い手を殺害して撤退しました】」
【なに!?……分かった。死体を見られる訳にはいかない。それに敵の角は未知のトリガー技術だ。分析できれば次への備えになる。回収前に所持品を調べておいてくれ、ワープの座標を決める発信機があるはずだ】
「【了解】」
「いい感じだけどもう一手かな。【一人メガネくんの所に先に向かってくれる?】」
エネドラは死にます。急いでいるから回収だけして、殺さないルートも考えたけど頭がおかしくなってるからそれだと逆に役に立たないと考えてですね。
遊真ダウン、ウィザの足が遅くなってないし、重りもついてないので見きれないのでやられました。
悠菜の戦いは数の暴力や多彩な黒トリガーの使用が多いですが、戦い続けてこれ以上の黒トリガーの起動は難しい。という事でオリジナル黒トリガーはここまで、後は純粋な戦闘での時間稼ぎですね。
ヴィザと太刀川の戦いはヴィザの攻撃を警戒しながら能力持ちの新型と戦うのであればそこそこ戦えると考えてます。こちらも玉狛第一待ちですかね。
大規模侵攻書ききったらいったん終わりって言っといて、次の更新が3ヶ月後というのは我ながら酷くてすみません。それにまだ続くし、後2.3話で終わらせられるとは思うけど、スマホだと遅いので気長にお待ちください。
それではいつもの挨拶でさようなら。
読んでくれている方々に多大なる感謝を。