ワールドトリガー もう一人の家族   作:ひよっこ召喚士

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空閑悠菜②

 懐かしくもあり、煩わしい記憶でもある昔をの記憶を久しぶりに夢に見た。荒んでいたと言う訳では無いが人間らしさの欠片もなく半野生と言う状態の自分は消したくても消せるわけもなく、疲れていたのかぐっすり眠った身体はすっかり良くなっている。

 

「レプリカ、コーヒーお願いしても良い?」

[別に構わないが、調子でも悪いのか?]

 

 文句を言わずトリオン製の機械でコーヒーを淹れるレプリカ。出来ることは自分でやるようにしている私が何でもないようなことを頼んだからか心配まで返してくれた。調子は悪くない、ただ夢見が悪くてふらふらするだけ、どちらかと言うと精神の問題だ。

 

「意外と堪えてるみたい……体調は問題ないけど、落ち着かない感じね」

[その精神状態が続くようならばどこかで降りるのも一つの手だ。過ごしやすいとはいえ既に二ケ月も同じ空間に居る。それだけの時間を代わり映えのしない場所で過ごせばダメージ以上に精神へ影響する]

 

 提案は有り難いが死に直結しない問題は後回しにするしかない。夢の影響もあり今は特に気持ち悪さが残っているだけでここまで酷い状態が続くとは思っていない。差し出されたコーヒーを飲んで、作業に集中し始めればすぐに忘れるだろう。

 

「ん、ありがとう。でも平気だから」

[ならそうすると良い、決めるのは]

「私、でしょ?」

 

 レプリカは義父さんが作っただけあって非常に優秀で彼の提案や考えは非常に参考になる。だがあくまで参考であってどうするかと言った決定権は私にある。保護者代わりであり、指導者の様な存在であり、数少ない安心できる存在だ。

 

 小言と言う訳では無いが呆れた様な視線には流石に申し訳ないと言う気持ちが湧いてくる。だが事実問題ない、気を紛らわす方法はいくらでもある。起きてる時間が普通の人より長いのに加えて元来の性格もあり、暇をつぶす物は多く運び込んでいる。どれくらいかと聞かれれば私は一般的な人と比べて非常に多趣味と言える。

 

 まず第一に様々な研究を独自に行い、検証や新たなトリガー技術の作成を目指している。研究はトリオンとサイドエフェクトの関連性、トリオンが与える影響を捉えた医療研究、文化の発展、技術の軍事利用と生活利用の割合や戦争の歴史を通しての社会研究、トリオンの指向性や変異などの事例を集めたトリオン自体の研究、そして手に入れたトリガーを解析することで新たなトリガーを生み出したり、発展させる技術研究。

 

 他には食も必要はあまり無いが取ろうと思えば全然取ることが出来るので昔では考えられないぐらい味や匂い、食感などに工夫している。グルメと言う訳では無いが舌に自信を持てる程度には色々な食事文化に出会い、体感して来た。料理の作成の方においてもプロ顔負けと言えるほどの自信は無いが多くのレシピを所有し、日々の糧としている。

 

 書物やデータの収集も行っており、故郷を出る際にデータ化されている小説などもダウンロードしたのでスランプと言う訳では無いが研究に飽きたら椅子に座って読んで居ることも多い。レプリカの構造を真似た朗読機能も着いており、読むのが億劫であれば寝っ転がって聞くだけでも良い。完全な娯楽の部類に入る物には一部ゲーム機器も組み込んでいる。その殆どが戦争などをモチーフにしたFPSや戦略ゲームなのは誰も突っ込む人間はいないがもう職業病に近いのかもしれない。

 

[調整の手伝いは必要か?]

 

 現在行っているのは手に入れたトリガーの解析と改造である。今までに手に入れたトリガーでまだ解析が済んでいなかったり、調整が終わっていない物もあるがこの前手に入れたばかりの装甲型と言う物珍しい形のトリガーに興味が沸き、優先して作業に当たっている。

 

「反応や実験起動を繰り返してるのに飽きたらお願いするわ。今のところは問題も起きてないしね」

 

 そう言って作業を再開する。見たことが無い技術の解析と言うのは容易ではなく、それが独自の物であるほど暗号化されている部分も多く困難を極める。解析が済んだところから既存のデータで置き換えられる部分は置き換え、置き換えられない部分は機能を確認し、そのまま保存する。読み解いていく途中で意図せずトリガーの機構を破損させてしまう可能性もあるので一工程ごとにトリガーの起動に問題が無いか確認する。

 

 地道な作業になってしまうが解析は一度済ませてしまえば余程機構が異ならない限りは行う必要がなくなるのに加え、どんな技術がいつ別の事で役立つか分からないので備えをしっかり作っておいて損は無い。トリガーと言うのは国を形作る技術であり、それを知ると言うのはそのまま力に繋がるのだから怠るのは馬鹿のすることだ。

 

 秘匿技術として扱われていた特有のトリガーは貴重なため、本来であれば完全に解析が完了し、自分の手で作り出す事が出来るようになってから改造などの作業は行うべきなのであるが、今回に限って言えば戦争の為に多数のトリガー使いが駆り出されていたため余分に確保できているので恐れることなく手を加えていける。壊さないに限るが最悪一個か二個は必要な犠牲だろう。

 

 とはいえ改造を効率よく行うためにはある程度の解析は必須となる。どのような改造を施す必要があるのか、大体の方向性の確認にもトリガーの原理を知っておく必要がある。装甲型のトリガーはトリオン消費が大きく、特殊な攻撃は少なく、遠距離の間合いも苦手とするが、近距離から中距離ではほぼ死角が無い。トリガーを纏う事でトリオン体そのものの損傷を防ぎ、大きく駆動能力を上げる。装甲から接触時に任意でトリオンを放出することで攻撃の威力を上げたり、瞬間的な加速を促すことが出来る。攻撃、防御、速度と非常にバランスが良いトリガーである事が分かる。

 

 改造する際には個人に合わせる前に全体的に性能のアップも出来る限り望むわけで、このトリガーの弱点とでも言えるような部分を上げていく。先ほど遠距離は苦手だとは言ったが、そもそも近距離専門のトリガーに砲台を載せたところであまり期待は出来ない。となると駆動能力を更に上げることが出来れば戦闘の幅が広がり遠距離相手にとれる手段も増える。その他に単純に思いつくのは攻撃力のアップや防御力のアップなどの基本的な部分、あとはトリオン効率を上げて、全体的な能力を落とした量産品なども視野には入れる。

 

 装甲型トリガーのトリオン効率を上げる方法として一つ別途で試してみたい形があったので個人用の分で試作した物は一応形にはなっている。元々装甲をトリオン体と一緒に構築した状態でトリガー内に保持させれば良いのだ。トリオン体が壊された際に再構築するのに掛かるトリオン量と時間が増えるが事前に充電して置けばその時に全力で使えると言う訳だ。

 

 このように個人的な調整であれば必要トリオン量は無視で能力の底上げをするだけなのだが、複数の技術を組み込んで効率化を図ると言うのは意外と難しい。まだ新しいギミックを組み込んでの魔改造の方が楽だし楽しいと言える。装甲を刃物にしたり、硬くして防ぐのではなく、壊れた部分を回復する形にしたり、事前に動きを組み込んでトリガー起動時に再生するなどパッと思いつくだけでもたくさんある。

 

「それでも基礎部分は出来てるし、今の状態でも元の六割の消費量かな」

[ブラックトリガーレベルの消費量から通常レベルまで押さえ込んだか]

 

 構築システムや能力発動システムのトリオン効率は限界とは言えないが合格点を貰えるだけの物にはなった。次に手を銜えるのだとしたら構築される装甲の機構自体を効率化できないかという所だろう。起動時の動きを変更しないと仮定しても、必要ない場所にトリオンを消費している節がある。

 

 トリオン伝達脳とトリオン供給器官を守ろうとしているのは理解できる。頭部と胸部の守りを固めて置く分には別に良いだろう。しかし、その二箇所を除いた他の個所は全体的にトリオン量を減らす事にした。防御重視と当たって上等と言うのは違う。静止した状態で攻撃を喰らいまくるか遠距離攻撃を喰らいまくるかを想定しない限りは二割削ってもトリオン体への被害は出ない。行動補助機能があって戦闘中に動きまくっているのが前提なのだからトリオンの密度を上げれば薄くても弾くことは出来る。

 

「これで全体的に今までの半分以下にトリオン消費を抑えられる。これを基本にして後は弄っていけばいい」

[動作値に異常なし、相変わらず手際が良いな]

「基礎技術の解読が出来てたから後は応用と照らし合わせに時間が掛かるだけで作業自体は単純だから。さて後は手に入れたデータに目を通そうかな」

 

 謙遜はするが実際に私レベルの技術者となると国に1人居るか居ないかレベルだというのは再三注意されて来たので理解はしている。だが、レプリカの様な自立型のトリオン兵が進化していけば技術者の要らない世界、SFのロボットの支配する世界も在り得ると思う。

 

 実際、私もぎりぎり……たぶん人間なのでレプリカに負けている部分は多い。AIの進化とは違うがトリオン兵の進化によって機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)ならぬトリオン仕掛けの神なら作れるかもしれない。実際にマザートリガーなんていう代物に取り込まれた()もあるのだし、トリガーが、いやトリオンが人を支配するのも十分あり得る未来だ。

 

 既にトリオンと言うエネルギーが無ければ存在できない文化、国は多い。というよりも玄界(ミデン)を除く国々はトリガーの上に成り立つ世界なのだから、トリオンが無くなればそもそも存在できないだろう。いや、そうかトリオンの消失による玄界の安全確保か……近界消失理論(ネイバーフッド・ロスト)とか言う論文をどこかのマッドサイエンティストが書いていたっけ。今度目を通すのも悪くないかも知れないが、今は医療技術データに目を通すとしよう。残り七カ月は何かを付き進めるのではなく、全体的に押し上げていく方向性で研究を進めよう。

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