彼らは事件が起きた場所を回りながら機械で何かを計測している様だった。事件現場が家の中の場合は調べることが出来ていないかったが、現場周辺や少し離れた場所などを地道に回って、あいつの痕跡を探しているようだ。
計測したデータをパソコンと言う機械に保存している。一件ずつ回って確認しているというのだからマメな事だ。会話や強化した視覚でパソコンを覗き見て文字に目を通して見てみたがやはり行方不明事件は全てトリオンで作られたあいつの仕業なのだろう。
『ゲート』という言葉、英語で門を意味する言葉だったはずだ。たぶんトリオンによって開かれた黒い穴の事では無いだろうか?向こうからの侵略と言う言葉から考えるに「こちら」と「あちら」を行き来するのには『ゲート』が必要なのだろう。
あいつは襲われた時の事から推測するにトリオンを目的としていると考えられる。さらに詳しく言えばトリオンと言うエネルギーを多く持っている人を集めているのだろう。その理由などは分かる訳も無いが迷惑でしかない。
そして調査は進んでいくと最後はあの家に辿り着いた。ここで暮らしてはいたが決して私の家だとは思えない。出て行く際は清々しかったが改めて訪れるとここまで苛つくものなのだろうかと首を捻る。
「ここも反応が残ってますね」
「一家族丸々連れ去られたという事か?」
「これは!?」
「どうした林藤?これは……」
比較的若い二人がこれまでと同じように機材を用いて計測しているが、計測を終えて映し出されたデータを見た途端にどちらの顔も驚きに染まった。
「おおっ!?でかいトリオン反応だな」
二人の反応をみてデータを覗き込んで来た有吾という人物も驚いている様子は見られないが何かに感心するかの様に興味の声を上げている。それも仕方がない。その場に残って、残留しているトリオン反応だけでもその場にいる全員のトリオン量の合計を軽く超えているのだから。
「このトリオンの持ち主がこちらの住人であっても向こうの住人であっても、少し面倒な事に成りそうだな」
「家の様子から見て攫われた可能性の方が高いがな」
攫われてなくて今も観察をしていることを知ったらどんな顔をしてくれるだろうか?中々新しい情報が手に入らないので退屈になっていた私はそんな詰まらない事を考えた。その後は噂程度の情報だが確認のためにと年長っぽい二人が近くの林に向かっていった。若手の二人は最上さんと言う人の所へ向かうそうだ。
ここで帰っても良かったのだが、もう少し観察しようと私は林の方へ入って行った二人の後を追った。こちらの二人の方が話しぶりからトリオンなどに詳しいと思っての行動だったが、目の前の現状を見ると付いてくるべきでは無かったと思った。
不要な物は分かれる際に預けたとはいえ、調査に必用な機材を持って林の中を探索するのは大変なようで、少々動きにくそうに見える。それでも木々の傷跡やパソコンの画面を照らし合わせて真剣な表情をしている。
「どうやら、ここで何度か出入りしてるようだ」
「薄暗くて、視界も悪い。注目するような場所でもないし、昼間に隠れてても見つからないかもな」
データの方は詳しくは分からないが周囲に付けられた木々の傷や地面の跡はトリオン兵とやらの物で間違いないようだ。そして有吾とやらが言う様に林の中心近くまで来ていたが外からここを捉えるのはまず無理だろう。そんな話に耳を澄ましていると突然、見覚えのある黒が空中に現れた。
「「「!?」」」
焦って声が出そうになるのを必死に抑え、ばれてしまう前に身体の震えを止める。ゲートからはその日に見たトリオン兵が3体まとめて降り立った。車より一回り小さく、2対の硬質な腕が備えられている。
「モールモッドか?いや、腕が3対じゃないな。それに基準より小さい」
「改造版だな。隠密行動用に弄ったタイプだろう」
慌てて荷物を仕舞い、放り投げると二人とも懐から何かを取り出して構える。が一番近くにいたモールモッドが正宗と呼ばれていた男のそれを身体ごと吹き飛ばした叩き飛ばした。飛ばされた衝撃で体と腕を抑えつつもなんとか立ち上がろうとするがモールモッドの方が早い。
「トリガー
慌ててフォローに入る形で間に入り、次の攻撃を受け止める。有吾と呼ばれた男の身体はトリオンで作られた別物へと変化し、彼の手元には武器の形を取ったトリオンが握られていた。
「こいつら小さいし手数は普通のモールモッドと比べりゃ少ないがその分硬くて速いな」
「す、すまないトリガーが」
「後で探せばいい、こんな事になるなら自前の物を持って来るべきだったな」
三対一と言う状況だけでもその辛さは伝わるだろう。一撃が鋭いにもかかわらずそれを一人で打ち返しているという事実に驚くが、硬い身体と腕は生半可な攻撃ではびくともせず、厳しい戦いを強いられている。
囲まれない様に相手の周りをまわりながら攻撃を受け止め続ける。もう一人が帰ってくるまでの時間稼ぎだろう。しかし、少し後ろから攻撃していたモールモッドとやらが3本の曲がった腕を伸ばした勢いで身体を押し出すように動かし、残った一本で流れる様に一撃を入れる。刃で受け止めても衝撃までは防げない。
「ぐっ、とおりゃぁ!!」
弾き飛ばされはしないが、地面に後を残しながら大きく後ろに後退してしまう。体勢を崩されたが向こうの陣形も崩れた。一人突出してしまったモールモッドの関節部分に対して攻撃を入れ、胴体から切り離すと流れる様に相手の目を切り裂いた。
到底あれが生物である訳がなく、目と言ってもそう見えるだけのパーツの事で、トリオン兵だからかもモールモッドだからかは分からないが目が弱点のようだ。これで2対1となり、余裕が出るかと言われればそうでもない。
だが使い慣れない物を使っているかのように零していたにも関わらず、乱戦の中でチャンスを逃さずに敵を倒して見せたその動きには目を見張るものがあった。だがそれでも楽観視することは出来なかった。
なんとなくではあったがあれは私を狙っていたかのように思えた。もちろん私のトリオンの隠蔽は彼らが私を見失ったという実績から問題ないと思える。ただ、今だってトリオン兵はこちらに気付いていない。だがそう感じれてしまったのだ。
私がトリオンを表に出したところで攻撃のスピードから見て囮にすらなる事は出来ないだろう。だから私は目を凝らして初めに飛んで行った『トリガー』と言う物を探した。あれも間違いなくトリオンで作られており、私の視界ですぐに捉えることが出来た。
隠れながら音を立てずにそれを拾って、いざ戦いの音へ振り返ると、体が止まってしまった。持って行って、彼らは助かるのかも分からない。だけど手の中の物があれば何かが変わるかもしれない。でも私の日常も変わってしまうだろう。
それが恐ろしく思えた。結局は自分には関係のない事だ。向こうが狙って来ただけ、それに巻き込まれただけ、私はそれを見てただけ、それで終わりでいいじゃないか。だが震える身体は目の前の光景から離れようと行動することは無い。
情報収集とは言え、興味を持ってしまった。無関心ではいられなかった。それだけで十分関係はあったのだ。画面の向こうの誰かであれば、放って置けたのかもしれないが、私は既に彼らの戦いの傍観者と言う役で入り込んでしまった。
モールモッドとやらに気付かれるのは不味いと思い、静かな全速力で木に寄りかかる様に倒れている正宗と言う人物に近寄る。どれだけ動いても疲れる事はない煩わしいこの身体だが、今この時はあって良かったと思えた。
「君は!?ここは危ない。早く帰るんだ!!」
いきなり目の前に子供が現れたとなれば驚くのもしょうがない。だが声を荒げると向こうの注意を引く可能性があるのでやめて欲しいなと冷たい反応を心の中で返した。私は持っていたトリガーを差し出すと、彼の眼はいよいよ見開かれた。それもしょうがないだろう。
「飛ばされたの、見つけてきた」
「ずっと、見ていたのか?!」
ボロボロで裸足と言う姿にも驚かされたことだろうが
「これで、何とかなる?」
「……ああ、何とかする!!」
私は黙って差し出し続けていたトリガーを押し付け、一人で戦っている有吾と言う人物の方へ促す。造り物の身体で戦っている様子から見て怪我は関係ないと信じたい。渡された物と私の顔をまじまじと見ると、力強い声で返事が返ってきた。
「トリガー
受け取ったトリガーを起動するとそのまま素早い動きで戦いに混じる。やはり、トリオンで作られた身体に変わる際に肉体の怪我は反映されていない様だ。せっかく探し出して、顔を合わせる勇気を出して無理ですと言われなかった事を素直に喜んでおこう。
2対1が2対2になったことと倒れていた仲間への配慮が要らなくなったことにより、戦況は一気に入れ変わった。受けるだけでなく、攻撃を仕掛ける余裕が生まれれば、どれだけ硬くとも少しずつダメージを与えていき、相手の身体はボロボロになり、トリオンが少し漏れ出ている。
機械に近い物なのだろうがあれだけの損失が出来ていれば動きも鈍るようで、そこからは一方的に対処するだけで、戦闘と言うよりも手慣れた駆除を見ている様だった。戦闘が終わると、周囲の安全を確認してから二人は変身を解いた。
投げ出した荷物の中から通信機器を取り出すとそれぞれが連絡を取っている。耳に集中して聞き取ると、片方は別れた仲間への報告でもう片方は倒したモールモッドの回収を依頼するものだった。そして一通りやり取りが終わると揃ってこちらへと向かって来た。
いや、仲間への連絡をしていた正宗と言う男の通信機器はいまも繋がったままのようだ。詳しい説明は後ですると言っているようだが、向こうからの声がそれを許してくれない様だ。まあ、それは私には関係のない事だし、戦闘があった、負傷したが無事、子供に助けられた、その子供とこれから話す、という短い業務連絡で納得しろと言うのは厳しいだろう。
戦闘を見届けて逃げてしまっても問題は無かっただろう。私の能力をもってすれば逃げるのは勿論、隠れ続ける頃だって可能だ。そうしなかった理由は自分でもよくわからなかった。目の前に来て、先ほどまで戦い続けていた有吾と言う男がこちらへ手を伸ばす。
「ありがとうな。おかげで助かった」
「????」
どうなるんだろうと考え込んで不安を感じていた所にいきなり頭を豪快に撫でられと言うのはあまりにも予想だにしていない状況であって、私はされるがままに身体を揺らしていた。慌てて隣にいた男が止めてくれたから良かったが、反応を窺うために五感を鋭くしていた分、酔う事は無かったがふらついていたので助かった。
「それでよぉ。ちゃんとお礼もしたいし、色々と訊きたい事もあるんだ。何でかは分かるよな?」
「……」
私は黙って頷いた。助けたという実績があるから何もされていないだけなのだ。ずっと後ろを着いてきて、危険に陥るまで姿さえ見せなかったという明らかに普通じゃない子供、下手をしなくても八百長の犯人と思われてしょうがない。
「って事で、俺達がこれから使う予定の建物の手続きが終わったらしいからそっちへ向かうぞ。何か食いたいものはあるか?忍田と林藤に買いに行かせるから遠慮しなくて良いぞ。聞こえてたかお前ら?」
『空閑さん。聞こえてはいましたがそちらの状況が理解できていません。詳しい説明をお願いできませんか?』
「いきなりひったくるな。それと勝手に使い走りさせてやるな。とは言え礼をするのに菓子と飲み物ぐらいは必要か」
「おい人数分の飲み物と菓子とプラスで子供向けの物も用意しといてくれ」
『……はあ、分かりました。用意はしますので合流したらお話を伺わせていただきますよ』
何がどうしてこうなっているのかは分からないが、酷い扱いを受ける心配はなさそうだとだけ判断して流れに身を任せることにした。彼らの雰囲気に飲みこまれてしまったという自覚はあるが、それでも微かに自分の口角が上がっているの気が付き、誤魔化すようにため息を吐いて彼らの後ろを着いて行った。