悔恨を抱え、彼はかの実力至上主義の教室へと踏み入れる。
今日も彼は、程々な幸福を求めて奔走もとい逃走する。
いつどこでどんな不幸に遭ったとしても、傷つかず、傷つけず、受け止められるように。
その姿は、時に前向き、時に後ろ向き。
彼が目指すのは、安寧なる生と死。満たされるのなら、他人は疎か、自分の身さえどうでもいい。
彼は案外欲張りである。
影巣食う、人の幸
「人は平等であるか否か」
なかなかに哲学的かつ形而上的な問いだが―――これに答えを求めるのは無意味である。
生産性がないからだ。
仮に平等であったとしよう。大抵の人々は「どれだけ努力しても無駄だね」だの「どれだけ手抜きでも問題ないね」だのとぼやくに違いない。怠惰で満ちた世界の訪れである。
では不平等だとしたら? それすなわち、強者と弱者の証明。には留まらない。その先に待ち受ける理不尽にたどり着いた者たちは気づいてしまう。ならば自分は、やはりどこまでもあの人に劣っているのだと。常人であれば「自分は決して一番ではない」という負の固定観念が付きまとう。窮屈な世界の予感である。
嗚呼、面倒くさいことこの上ない。無駄もいいところだ。
ただ、それでもなお回答を求めるならば―――人は間違いなく「平等」だ。
人が他人との優劣を測るとき、多くは『幸福度』を基準にする。人は短い生で幾度となく満たされ、渇き、一喜一憂するのだ。
―――そしてその差は、最終的に「死」をもって清算される。
多くの幸福を勝ち取ってきた者たちは、積み上げてきた財産に執着する。死を恐れ、不幸だと忌み嫌う。一方不幸にまみれた人生を強いられた者たちは、生き地獄からの解放を求める。死を望み、幸福だと賛美する。
幸福な生には無慈悲な死を、不幸な生には安寧な死を。人は、そのつり合いの中で一生を終える。
いかなる人生であろうと、平等性は維持される。
現世から冥界に至るまでに、過不足は調整される。
どれだけ愉悦であろうと残酷であろうと……諦めざるを得ない。安心せざるを得ない。
なんて虚しく儚い。これではウジ虫のように足掻くのも面倒だ。
僕らは既に、
―――ということで、ここからが本題だ。最初の問いは無意味だと言っただろう?
では、次の問いだ。
「かのアンデルセンの死は、幸か不幸か」
ハンス・クリスチャン・アンデルセンは、デンマークの有名な作家だ。
彼は貧しい家の出身であったが、合理主義な父親と、働き者で情の深い母親にこよなく愛され、想像力に富む子供だった。
ある日、アンデルセンの父はお金と引き換えに、近所の家庭の子供に代わり従軍へ出ることになった。しかしまもなく国の財政が破綻し、支払われるはずだった給金を得られず、彼は失意の内に亡くなってしまった。父方の祖父も発狂死してしまっていたため、アンデルセンは自分も同じ末路をたどるのではないかと、心底怯えていたそうだ。
その後山あり谷ありで、結局彼は死を迎えるまでに数多の童話を発表し続け、七十歳に癌で亡くなった。
ここで、問いについて考えてみよう。
実のところ、彼の恐怖心は度が過ぎている。不気味な噂話に感化され、毎晩枕元に「死んでいません」という書置きを残してしまう程だと言えば、容易に理解いただけるだろう。
また、彼の作品は初期のものを中心に、主人公が悲惨な末路を遂げるきらいがある。これは、死以外に幸福となる術を持たない者たちの嘆きを、筆に乗せた産物なのではないかと言われている。出世作となった『即興詩人』が発表されたときの彼はおよそ三十歳。父が亡くなった歳とほとんど同じであることと関連が窺える。
極めつけに、彼の恋路は失敗の連続。容姿の醜さ故に孤独な人生を送っており、苦い初恋について書き連ねた自伝を送るという変人よろしくな癖まであったそうな。
貧しくも真っ直ぐな愛を与えられて育った幼少時代と、父の享年と近しい齢にして、孤独に苦痛を味わいながらも出世を果たした作家時代、彼にとってどちらのほうが幸せだったのだろうか。
晩年のアンデルセンは初期に比べて悲劇的な結末を迎えるものは減っていた。彼が死以外の幸せを見出せたからなのだろうか。それとも、死以外の幸せを望めなかった彼の描いた空想に過ぎなかったのだろうか。
答えは勿論本人にしかわからない。考えずにはいられない。人の義、人の夢、人の幸。そのすべてを。
人は何よりも、まずは考え続けることが大切なのだから。
ああ、そうだ、最後に一つ。
「神は自分たちと同じ人間で、悪魔は自分の胸の中にいる以外にない」
これはアンデルセンの父が生前口にしていた言葉だ。
アンデルセンを可愛がっていた一人である父方の祖母には病的な虚言癖があった。アンデルセン自身もその悪癖を抱えており、その血はしっかりと受け継がれている。
ここでまた一つ、疑問が浮かぶ。
では、アンデルセンにとって、神とは一体誰のことだったのか。
そして、本当に悪魔は自分の中にしか宿らないというのなら、
彼の中の悪魔は、一体いつから、
あ、ほら
君にもちゃんと憑いているよ、『
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