(五話:『連絡先「堀北鈴音」の入手』を追加 十話:二人目の連絡先→三人目の連絡先)
※章タイトル変更しました。
最初は展開の遅さを気にしていましたけど、ここまでなのは今までなかったよなって思ってからは、まあ新しくてアリなのかなってことで、この調子で続けることにしました。気長に楽しんでくれると嬉しいです。
「浅川君……酷い目をしているわね」
開口一番、そんなことを言われる。……僕、そんなヤバい目になってるの? 清隆が鋭いというだけではなかったのか。
確かに夜更かし自体初めてだったけれど、存外僕の肌には合わなかったようだ。ちょっとした背徳感があって楽しい気持ちもあったのだが、これからはなるだけ控えよう。
「最近の目まぐるしい日々に疲れちゃったかなあ」
「大して忙しくないでしょう。まだ三日目じゃない」
「新生活に慣れてないってことよ」
雑談はほどほどに、早速本題に移らせてもらおうか。
「昨日は何があったんだい? 清隆から軽く聞いたぞ」
「聞いたのなら私の口から話すことは何もないわ」
「詳しくは教えてくれなかったんだよね」
事実を述べると、鈴音は清隆の方をキッと睨んだ。おお、ヤンキーのガン飛ばしすら生温く感じそうだ。
「綾小路君……」
「酷いよなあホント。言われてるぞ清隆」
「べ、別に悪戯心があったわけじゃない」
ならば一体どんな意図があるというのか。悪気はないとは思っているけど。
「オレが恭介に全部話してしまったら、お前たちは気まずいままになってしまうかもしれないと思ったんだ。一度しっかりと話をするべきだろう」
「いやそれは――まあ、確かに、そうかもしれなくもなきにしも非ずだね」
そんなことはないと言いたかったが、彼の言うことは一理ある。清隆なりな気遣いだったと納得しておこう。
「そういう話らしいから、できれば教えてほしいな、鈴音」
「……昨日、綾小路君から電話があったのよ」
「電話? 一体全体どんな話を」
「それは――」
続きを促すと、鈴音は昨晩のあらましを語り始めた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
耳元で響く無機質な呼出音。六回目の途中でそれは途絶えた。
「もしもし、鈴音」
『……』
「鈴音?」
『…………』
「えーっと………………」
早速沈黙が流れた。つい先程の虚しい音色でさえ若干恋しくなる。
「あー、悪かった。あの時は、その、少し熱くなってしまったんだ。変なことを言ってすまなかった」
『……用件は』
「え?」
『用件は何? 手短に』
ぶっきら棒な応答。やはりまだ不機嫌は治まっていないようだ。出直すべきかとも考えたが、思い立ったが吉日。話を続けることにした。
「Sシステムのことについてだ。オレの考えを話したい」
『面倒だから動かないのでしょう? あなたたちの腐った性根はもうわかったから』
「あれは御託を並べていただけだ。建設的な理由はある」
『後付けの言い訳?』
「後でも前でも大して変わらないだろう。――とにかく、説明をさせてくれ」
いつものように簡単にへたれて退くわけにはいかない。やっと踏み出せた一歩を大事にしたい一心で、綾小路は食らいつく。
『……一応聞くわ』
一時の間を置いて、了解が示された。
僅かでも自分たちのことを認めてくれているのだろうか。昨夜の浅川との議論が、少しでも実を結んだのかもしれない。
堀北の考えが変わらない内に話してしまおう。
「まず――」
『待って』
と思ったが、口を開いたところで遮られてしまう。
「まだ何かあるのか?」
『どうせなら、会って話しましょう。長くなるかもしれないから』
……真面目なやつだ。
自分に関心のあることなら正面から向き合おうとするその姿勢は、綾小路も尊敬していた。機嫌が悪くとも根はブレない彼女に顔が緩む。
「わかった。そんなに会いたいのなら会ってやる」
『馬鹿ね。あなたが途中で逃げ出さないようにするためよ』
こういう可愛くないところもブレないのは考え物だが。
「結論として、オレは平田にも櫛田にもこの件を伝える必要がないと思っている」
「怠慢、ではないのよね?」
「ああ」
寮から少し離れたベンチで、二人は落ち合った。
自販機で選んだのが揃って無料のミネラルウォーターだったので「なんだかオレたち気が合うね」と冗談をかまそうかとも思ったが、今回は彼女の御機嫌取りを優先することにした。
「お前の目標は、Aクラスとしての評価を得ることなんだよな?」
「そうよ。私たちの推測が正しいのなら……きっと実力順でクラス分けがされている」
言葉が語尾につれて弱々しくなっていった。
学年ごとのクラス分けがないことや、クラスメイトが他クラスよりも態度が悪いことから、自分たちDクラスが底辺であるというのは堀北の中でも事実として定まりつつあるはずだ。
過去の彼女を知っているわけではない。ただ、今までとは異なるお粗末な評価をもらったことが認めがたい。そんな心の声が漏れ出ていた。
「恐らく、定期的にクラス変動が起こるはずだ。クラス分けがないのはそれが理由だろう。差し詰め、クラス対抗戦といったところか」
「そうね。だからこそ早くに手を打って――」
「鈴音、
割って入るような発言に堀北は目を丸くする。
「この戦いは三年間も続く。今勝ったところで、うちのクラスは勢いづくより有頂天になる可能性の方が高い。負けたところで、楽観的思考に逃げてしまうはずだ。『最初は良かったのだから、次は上手くいくだろう』、ってな。現にDクラスには、あのシステムに疑問を抱いている生徒すら真面にいなかった」
能天気でないのは精々クラスのリーダー格である平田や、真面目で学力も高そうな幸村辺りだけだろう。彼らでさえ、答えを見出せずに「疑問を疑問のままにしてしまっている」。
綾小路は、今よりずっと先の「結末」を見据えた見解を鈴音に伝える。
「最後だ。最後にオレたちが勝者であるために、最初に勝つことは推奨できない」
彼の結論に、堀北は顎に手を当てて考える。
「……あなたの言いたいことは分かった。でも、ヒントを与えるくらいならしてもいいのではないかしら」
「……」
「平田君にお願いする時に、Sシステムのことを隠して注意してもらうのよ。それで変われたならよし。変われなかったとしても、平田君はよりリーダーとして認められるし、彼の中で私たちの信頼も上がる。違う?」
堀北の意見もまた、筋が通っていることは理解していた。しかし、それを容認するわけにはいかない。
綾小路の真の目的は、
「確実性がない。平田の性格からして、勝手なお節介で全部話してしまうかもしれない。オレたちとあいつとの関係はまだ薄いんだ。何をしだすかわからないぞ。……それに、これは憶測だが、手遅れになるまで平田は危機感を抱かないんじゃないか?」
「どういうこと?」
「今知らせても、平田自身が事の重大さを理解できない可能性もあるということだ」
過剰な平和主義と言うべきか。彼は盲目的に身内を信じようとする傾向がある。それがどうにも引っかかっていた。
「見ず知らずのオレたちからの警告なんだ。下手したら、ポイントの支給がゼロになるまで厳格な注意をしないかもしれない。そういう意味でも、態々今動くメリットは少ない」
一番の利益になるはずのポイントさえ大して獲得できないのであれば、恩恵は激減する。
様子見のメリットを唱えるのでなく、動くメリットがないことを主張することで、彼女の説得を試みた。
堀北は何も言わない。彼の言葉を一つひとつ噛み砕いているようだ。
その様子を横目に、綾小路はダメ押しに掛かる。
「小遣いのない生活は辛いものがあるだろうが、ホームレスじゃないんだ。最低限の生活は学校側が保証してくれるはずだ。平田にリーダーとしてより重い責任感を持ってもらうためにも、この腕試しで惨敗を喫しなければ、曲者揃いのDクラスは一つになれない。オレたちは必ずどこかで崩壊して――負ける」
「負ける」。その言葉を最後に、長い沈黙が流れた。目を閉じて思考を巡らす堀北に、綾小路は生唾を飲み込む。
一分程が経過しただろうか。いや、本当は十秒程度だったのかもしれない。それだけ思わせるような緊張感の中、彼女は遂に口を開いた。
「……あなたは、意外と人を信じていないのね。平田君のことも」
「会話の一つもしていない相手をどう信じろと?」
「私も同じよ。クラス対抗でもなければ、死んでも他人を頼ろうだなんて言い出さないわ」
「辛辣だな……意外、というわけでもないか。お前の場合は」
彼女がこちらのことを意外だと言うのは、浅川といる時の姿しか見てこなかったからだ。綾小路自身、他人を簡単に信じるような質ではないという自覚がある。だが、彼女の言葉に大きな反応を示すことはしなかった。
「正直な意見ね。コンパス、持ってくれば良かったわ」
「今は取り繕うべきではないと思っただけだ。誠実さに免じて許してくれ」
「そうね。私も綾小路君のことを心底毛嫌いしているもの。お互い様ね」
「今の発言に何一つ納得できる部分はなかったんだが」
意趣返しのような罵倒も上から目線な態度も気に食わないが、こういった気の遣わない会話を、近頃は悪くないと感じていた。決してマゾフィスト的な考えではないが、それが二日間での感想だった。
「一か月よ」
「……」
「一か月、あなたの言葉に乗せられてあげる。だから、
堀北の真剣な眼差しを見て理解する。
あなたの言う通りにするから協力しなさい。そう言いたいのだと。
「仲良く」という部分を強調していたのは、この戦いにお前も参加しろという意味を含んでいるのに他ならない。
その命令は、事なかれ主義である彼ならば即断っているはずの勧誘だ。
しかし今は、主義よりも優先したい「意志」がある。
―――目的は達成された。
「仲良く、だぞ。決して踏み台にはしないでくれ」
「時と場合によるわね。足元をうろついていたら、誤って踏んでしまうかもしれないわ」
「随分と行儀の悪い足なんだな」
軽い応酬を行ってから、堀北が立ち上がった。
「夜は冷えるわね、とっとと帰りましょう」
「ああ、そうだな」
彼女に倣ってベンチを離れる。
顔を上げると、何故か怪訝な顔で見つめられていた。
「どうした?」
「……気持ち悪いわね。今度は何が面白かったのかしら」
「え」
間抜けな顔になっていると、彼女は溜息を零して振り返る。
「あなたがそんな顔をするのが、少し意外だっただけよ。放課後も急に怒りだしていたから」
思わず自分の顔に触れる。僅かだが、口角の上がっている感触があった、ような気がした。
放課後の櫛田との会話は、どうやら間違っていなかったのかもしれない。
「……あの時はやはり、怒っていたんだな、オレは」
「自我の芽生えたロボットみたいね」
「面白いジョークだな。案外的を射ているかもしれん」
自分の変化に少し気分の上がった綾小路は、堀北の軽口に言い返すことはしなかった。
その後は、二人黙って寮へと向かって行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
「じゃあ清隆。君は、」
「ああ、鈴音に協力することにした。積極的に動くわけではないが、頼まれたら無理に拒否はしないつもりだ」
これはたまげた。一番乗り気でなかったはずの清隆が、まさか急に旗色を変えるとは。
「……清隆、昨日は何があった?」
「え、いや今鈴音が説明し――」
「違う、その前だ。君はどうして、鈴音を説得しようと思った? やはり、櫛田か?」
二人の間であったことの大筋は理解できた。しかし、そもそも清隆が彼女の説得に動き始めた動機が判然としない。きっかけになりそうなのは、謎に包まれている櫛田との会話だ。鈴音に関わること以外にも何か話していたのかもしれない。
「綾小路君、あなた櫛田さんと関わっていたの?」
「話しかけられたんだ。お前と別れた後に」
「……何か唆されたりしたのかしら」
清隆に疑いの目が向く。
彼女が信用していない少女と、二人きりで密会していたのだ。清隆が仲介役として近づいてきた可能性を想像したのだろう。
「確かに言われた。お前と友達になりたいから、力を貸してほしいってな」
「そう、だったの……」
鈴音はどこか悔しそうに俯いた。
一度でも心を許してしまったことか。まんまと櫛田にパイプを作られてしまったことか。或いは……。
「――だが、」
しかし清隆は、それでも言葉を紡ぎ続けた。
「そんなことよりもオレは、本当に思っていたことをお前に伝えた。自分の意志で、お前に協力しようと決めた。櫛田が教えてくれたことをしっかりと考えて、俺は、選んだんだ」
盟友の真剣な表情に呆気に取られ、僕は何も言えなくなってしまった。
僅かだが、無機質だったはずの瞳に何かを感じた。一瞬、彼の瞳は、確かに灰色ではなかった。明るさや情熱ではない、でも冷たくもない。濁っている……?
気付いた時にはもう見えなくなってしまっていた。しかしそれで、清隆の心に大きな変化があったのだと察する。
「そもそも、既に一度断っているからな。心配要らない」
「……わかった。柄ではないけど、とりあえず今は信じることにする」
「信じる」、普段の彼女からは想像もつかない言葉を聞いて、鈴音もまた考えを改めたのだと悟る。
二人共、確実に変わった。前進、と称することができるような変化だ。
「――浅川君。あなたも協力してくれないかしら」
「は? な、なんで……」
「あなたたちは、初日からSシステムに違和感を向けられていたわ。他のクラスメイトの様子を見る限り、一人でも多く真面な人材が欲しいと思うのは当然でしょう?」
なるほど鈴音が清隆の意見に耳を傾けたのも、僕らに対する姿勢が和らいだのも、多少なりとも認めてくれていたからなのか。
……いや、買い被りすぎだ。清隆は兎も角、僕にそんな優秀さはない。所詮は
個人戦じゃない。クラスごとということは、僕らだけの問題ではないということなんだぞ。
僕には、「それ」を背負う勇気も資格もない。
「そこまで言うなら、考えてみるよ」
「おう、じっくりと決めてくれ」
僕の強張った顔に清隆は気付く素振りを見せたが、確証を得られなかったのか、追及はしてこなかった。
「そろそろHRか、ちょいとトイレにでも行ってくるよ。清隆は?」
「……オレも念のため行っておこう」
彼はアイコンタクトにも反応し、僕らはトイレに向かう。
「心の準備ができてないのよ。僕、マイペースだから」
盟友に何かを言わせる前に、誤魔化しの言葉で制した。
僕個人の問題であって彼は何も間違ったことはしていない。勇敢な一歩を無下にしたくないし、余計な心配をかけたくない。
それに今話したかったのは、目下に生まれてしまった問題についてだ。
「ダブルブッキング、どうする?」
「櫛田の件か」
今の清隆は板挟みと言えなくもない状況だ。鈴音との仲介を求める櫛田と櫛田を嫌う鈴音。二人同時に寄り添うのは難しい。
誰が悪いという話ではない。清隆は僕らのために鈴音との一件を隠していた。僕も鈴音のことを知るために櫛田からのお願いを承ったのだ。
幸いだったのは、清隆がまだ嘘を言っていないことだ。先の会話、彼は櫛田からの頼みを「一度断っている」とは言っていたが、二回目以降どうしたかは言っていない。櫛田の件も――こちらは偶然かもしれないが――清隆自身が協力するとは約束していない。彼女が勝手に話の流れから解釈したに過ぎない。
「僕がやるかあ」
「大丈夫なのか?」
「さあね。でも、やるしかないっしょ」
僕一人でやったことにすれば、鈴音も櫛田も裏切られたという感覚は薄まるはずだ。これが最適解だろう。
「……わかった。櫛田の件はお前に任せる」
「おう、任されたあ」
「ただ――」
その続きは予想できていた。でもやめろなんて言えない。君は、優しい人だから。
僕は、その善意を踏みにじられる程醜くなることすらできなかった。
「オレは、お前とも一緒に協力出来たら良いなと思っているぞ」
「……そっか、ありがとう」
―――――――――――――――
「タンポポって知っているか?」
「何よ突然。新手の侮辱?」
寮へ向かう途中、どこまでも続く沈黙に我慢できなくなった綾小路は唐突に尋ねた。
「いや、さっき隅で咲いていたのが見えて」
「同族が見つかって嬉しかったのね。良かったじゃない」
「誰が惨めな陰キャだ」
「誰もそこまで言ってないわ、本質が顔を出したわね」
「馬鹿にする意図はあっただろう。なめるなよ、タンポポ」
「そっちを庇うのね……」
――これが青春か!
俗に言う「良い感じな雰囲気」というのはこういうことを言うのかもしれない。
少しズレた認識が定着しつつある綾小路だったが、隣を歩くのは恋愛とは無縁の堅物女。哀しいかな、修正してくれる存在はこの場にいなかった。
とは言え、タンポポの話題を切り出したのは、何も会話を繋げるためだけではない。
「タンポポは何度踏み倒されてもしぶとく起き上がる。根さえ残っていれば、何度引きちぎられても息を吹き返す。そんな強かな花が、入学に合わせて咲き誇るというのは、不思議な因果だよな」
「キザなフリしても似合わないわよ。……花が好きなの?」
「まあ、ちょっと知っているんだ」
知った事情を話すつもりはないので、適当にはぐらかしておく。
「……因みに、花言葉は?」
「『誠実』と『別離』だ。『幸福』というのもある」
「まるで関連が無いわね。二つ目は、少し身に覚えがあるかもしれないけど」
堀北は少しと声のトーンを落とし、俯いた。最近のことを憂いているのだろう。
オレたち三人のことか、将又……。
浮かんだ二つの可能性。判断材料はなかったため、早々に考えを打ち切った。
「他にもあるの?」
「ある――が、それは自分で調べると良い。兎も角、オレは一つ目と三つ目を信じてみたいんだがな」
「今度はロマンチストのつもり?」
「知らなかったのか? オレはロマンチストなんだ」
奇しくも盟友と似通ったセリフを吐いた綾小路だが、そんなことは露知らず話を続ける。
「誠実に向き合い続ければ、幸せに貪欲であり続ければ、いつかは手に入るんじゃないかって思ったんだ。お前と今日こうして話そうと思ったのは、それが理由だ」
切り捨てようかとも思った。諦めようとも思った。憧れと期待を胸に飛び出した世界で、苦しむ自分が哀れに感じられた。
しかし、それさえも知らなかった。二人と出会い、可憐な少女と出会い、未知なる経験に触れた彼は、そんな哀しみも愛したいと思ったのだ。
――良いものだな、「春」は。
無駄にしてはいけない、一度きりの高校生活。普通とは程遠い学校ではあったが、目指す場所は定まった。
「浅川君、でしょう?」
「何の話だ?」
「珍しくわかりやすいのね。彼が考える時間を作るために、態々あんなことを言い出したのでしょう」
反応は最小限に抑えたつもりだったが、驚きを隠しきれなかったようだ。思いの外鋭かった堀北への評価を改める。
「わかっていたのなら、どうして何も言わなかった?」
「言ったわよ、『乗せられてあげる』って。彼を気にして、あなたが動けなかったら話にならないもの」
「……恩に着る。――あいつは、一緒に来てくれると思うか?」
「彼次第ね。今度私の方からも提案してみるけど」
素直にありがたいと思った。浅川はどこか理由を欲しがっているようにも感じられたからだ。彼女自身からの誘いは、彼が踏み出す理由の一つとなるだろう。自分が堀北に協力の姿勢を見せたのもそのためだった。
――まさかここまで影響されるとは。
自分の像が壊されていく。あるいは、空っぽの像に中身が埋まり始めていく感覚が、少し嬉しかった。
「オレは、来ると思う。あいつはきっと、最後には来てくれる。オレたちならできると思うんだ。オレたちが、良いんだ」
「根拠は――あるわけないわね」
「ああ。これは、オレたち三人の『信託』なんだ」
見つかった居場所の中で、確かに結びついていく絆がある。
そんな予感が、今はある。
「全く困ったものね。ウジウジしている男は嫌われるらしいわよ」
「あいつも自分の納得出来る道を選ぼうと必死なんだ。オレや、お前と同じようにな」
「……ふん」
再び無言の時間が続く。さっきと違い、あまり気まずくは感じない。
花言葉、か。
自分から切り出したタンポポの話を思い出す。
タンポポは英名で「ダンディライオン」と呼ぶらしい。ギザギザした葉をライオンの歯に見立てたのだそうだ。
美しくも強かな意味が込められているその花に、人知れず敬意を表する。
――見ているか。お前が作り上げた傑作は、こんなにも脆く絆されようとしているぞ。
自分は本当に変われるのかしれない。それが紛うことなき希望となる。
堀北には教えなかった、タンポポの別の花言葉。彼女がこの後調べるのかはわからないが、彼は自分の願いをそこに乗せた。
寮に辿り着くまで、二人は黙ったまま、それでも並んで歩き続けた。
清隆が最後に思い浮かべた花言葉、一応本文にわかりやすく書いたつもりですけど、もしわからなかったら調べてみてください。それですぐにわかると思います。
今回は鈴音の変化について説明させてもらうんですけど、これもやはり、原作で認知していなかった存在が本作では初期からいてくれたというのが大きいんですよね。オリ主もそうですし、清隆も原作よりは苦悩や思考をしています。本文でも若干語られていますけど、考察が早くに進展したのもあって、彼らへの信頼も自分がDクラスになったという自覚も少しだけ芽生えているって感じです。まあ、やっぱりまだまだ認められないんですけどね。堅物なプライドの塊は伊達じゃないということです。
あと三話、いや、保険かけて五話くらいで五月に入る予定です。tips更新は別枠扱いですけど。「くらい」なのでもしかしたら少しオーバーするかもしれません。
オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)
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止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
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ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
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止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
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ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
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ムーリー(前後編以内でまとめて)