アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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※あらすじ・タグを四章仕様に更新しました

最近色んなよう実二次の更新頻度が高くなっていますね。2期効果なのでしょうか。自語するとお恥ずかしい話、2期どころかアニメ全般見なくなってきているのですが。

閑話休題。さて、始めはオリ主の立志、次に綾小路君の原作との差異を、それぞれ一人称視点で描いてきました。では今度は……?ということで、四章始めていきましょう。


孤島のギャザリング

 ふと、名前を呼ばれた気がして目を開ける。見えたのは、ずっと敬愛してきた、ずっと見てきた兄さんの背中だった。

 

「兄、さん?」

 

 当然追いかける。しかし突然、不可視の壁に遮られた。

 どうしたものかと考えている間に、兄さんはどんどん遠ざかっていく。

 待って、兄さん。置いてかないで。

 すると、どこからともなくひらひらと、一枚の紙片が舞い落ちてきた。手に取ると、小学生レベルの問題が一問、記されていた。

 これを、解けば……?

 添えられていたペンを持ち、早々と正解を書く。再び壁の方へ手を伸ばすと――

 

「……! 兄さんっ」

 

 ひたすらに兄さんのもとへ急ぐ。暫くして、また別の壁。これも小学生レベルだ。

 同じように答えて突破し、少し進んで阻まれ、突破し、延々と繰り返す。

 徐々に問題は難しくなっていったが、支障はなかった。中学生、高校生と、私は努力を重ねてきた。その自負があった。

 でも、

 

「っ、早く、早くしないと」

 

 遠のいていく。見えなくなっていく。絶望的な現実に打ちひしがれ始めた。

 そしていつの間にか、ペンを握る手も止まってしまった。

 ああ、どうして、報われないの。私が何をしたっていうの。ただ、憧れていた兄さんに追いつきたかっただけなのに。

 

「鈴音」

 

 また、名前を呼ばれた。

 縋り付くように振り向くと、二人の少年の姿があった。

 

「あやの、こうじ君? 浅川君も」

 

 表情まではよく見えなかったが、風貌から二人だとわかった。

 

「努力は認めるよ。でも方向が間違ってるんだ」

「お前は変われている。お前の望みに協力しよう」

 

 そう言って、二人はさっきまでの私とは別の方角へと進み始めた。宛のなかった私は慌てて追いかける。

 歩いて、歩いて、歩いて。壁や問題が立ちはだかることはなく、ただ進んでいく。

 段々と、二人のペースが早くなっていく。いや、私が遅くなっている? 疲れてきたから?

 荒くなってきた呼吸は聞こえているはずだ。いつもなら二人は、それで待ってくれるはずなのに、今回はお構いなしに進んでいく。

 待って、お願い。今見失ったら――。

 気づけば二人の向かう先には、得体の知れない空間が広がっていた。形容しがたい、無か、暗闇に似た何か。

 私にはそれが何だかとても恐ろしく感じて、踏み込む資格も力も足りないような気がして、足が止まってしまった。

 しかしそんな中にも、二人は躊躇うことなく歩み寄り、そして――ゆっくりと吸い込まれていった。

 何なのだ。何だというのだ。変に期待させて、変に連れ回して、結局置いてけぼりにして。

 ……いや、違う。本当はわかっている。私には欠けているものが多すぎる。だから、二人と同じところにいけない。二人は私に歩幅を合わせてくれていただけで、その気になればいつでもこうして見放せたのだ。

 ……でも、あんまりだ。そこまで酷いことをされる道理はあるのだろうか。

 どうして、置いていくの? 私はそんなにも未熟なの?

 ――あなたたちまで、私を置いていくの?

 暗闇に手を伸ばす。何の意味もないのに、無力を振りかざすようにして。

 そんな私を煽りながら、その闇は縮んでいき、消えた。

 残ったのは、真っ白な世界と項垂れる私だけ。

 何が得られたというのだろう。兄さんを追いかけて、歩く向きを変えて、二人についていって。

 全部失った。失って、私はここで一人きり。

 二人に置いてかれてしまったことに、大きな寂寥感を覚える。

 涙なんてものは流れない。深い諦めに苛まれ、拳を握る。

 そこでようやく気付いた。

 途中から、色々なものがすり替わっていたことに。私が自覚している以上に、私が無意識に変わっていたことに。

 二人を追いかける中で、私は――

 あたりを、呆然と見回す。

 もう、追いかけていた背中は一切見えなくなっていた。あの――『大好き』だったはずの。

 それこそが、私の中で変わってしまっていたものの正体だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 うっすらと、意識が覚醒する。

 全然馴染んでいない天井が見え、遅れて今自分の置かれている状況を思い出す。

 のそのそと立ち上がり大きく伸びをする。あぁ、よく寝たわ。……最近呑気にしすぎかしら。時刻を確認すると、いつもなら活動しているはずの頃合いだった。

 部屋から出て、微動する床に気をつけながら外へと向かう。辿り着いたのは甲板だった。

 

「あ、噂をすれば」

 

 真っ先に話しかけてきたのは、学校で最も私を敵視しているであろう少女。

 

「櫛田さん。噂って?」

「今綾小路君に、堀北さんはどこにいるのかって聞いてたところなんだ」

 

 それを知ったところで何になると言うの……。

 彼女の隣で露骨に存在感を消そうとする男に、挨拶代わりの視線をぶつける。

 

「寝ると聞いていたから、そっとしといてやれって言っていたんだがな」

「どうかしら。鼻の下が伸びているわよ」

 

 全く、櫛田さんの本性を知っておきながら、よくもまあ平気で惚けていられるわね。その精神力だけは見習う余地があるわ。

 

「おはよう鈴音。よく眠れたかい?」

 

 すると、ひょこっと綾小路君の背後から藍色の髪が覗き込む。どうやらずっと死角に隠れてしまっていたらしい。

 

「そうね。おかげであんな喧騒に飲まれることにならなくて良かったわ」

 

 私に倣い、三人の視線が動く。須藤君、沖谷君、池君、山内君の四人が戯れているのが見える。

 

「無理もないよ。贅の限りを尽くした豪華客船のクルーズ。高校生の私達が興奮せずにはいられないと思うよ」

「二週間だっけ? その間島のペンションやら、ここでのシアターやらスパやら、豪勢なレストランまで楽しめるんだから――うっぷ」

 

 何てことなく広がっていた会話に危険な音が混ざる。

 

「無理するなよ。お前も鈴音みたいに部屋で寝ていろ」

「い、いや、折角の機会だからやっぱ楽しみた……う、あがっ、ちょやっぱキツイかも……」

 

 そう言うなり浅川君は一目散に端の方までかけていく。

 

「……もしかして彼」

「お前が来る前はもっと酷かった。心配させたくなくて取り繕っていたんだろうが、あんなんじゃ逆効果だな」

 

 船酔いはどうしようもない。思わぬところで彼の弱点を知った。

 

「逆に堀北さんは元気そうだね。顔色も良さそう」

「朝5時からずっと溌剌に過ごしているあなたたちには負けるわ」

 

 クルージングだとか充実した設備だとかは兎も角、集合時間が早すぎる。浅川君なんかは毎朝一番乗りで登校しているから、ここが船の上でなければ問題無かったのだろうけど。だからバスに乗っている間東京湾にたそがれることもしなかったし、こうして朝食後にもう一眠りしていたのだ。

 

「ここのところ、健康にも気を遣っていたもんな」

「……所謂オカンを錯覚したわ」

 

 理由は二つだ。一つは浅川君のお節介。「夏風が怖いぞぉ」などと言って私と綾小路君は執拗に体調管理を迫られた。

 そしてもう一つは……、以前巻き込まれた事件についてだ。

 病院にいる期間は、意図せず心身を休ませる良い機会となっていた。あれから多少は身体が軽い。

 それに、睡眠することの楽さを知ってしまった。寝ている時は、色々なことを考えなくて済むから。最近睡眠が多いのはそのせいだ。

 だと言うのに、随分と奇天烈な夢を見てしまった。身の毛がよだつというか、悪寒がす

 

「悪寒だけにオカンってか。――いってぇ!」

「ほ、堀北さん!?」

 

 本当ムカつく男ね。まるで気が合うかのように。反射的に浅川君も言いそうだと感じてしまった自分まで嫌になるわ。

 

『生徒の皆様へお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義のある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 突如船内にアナウンスが流される。櫛田さんや遠目に見える男子たちは気にした様子もなく楽しみにしているようだった。既にデッキにいるのだから当然だろう。

 しかし彼は、

 

「綾小路君……?」

「――ん、どうした?」

 

 気の所為だろうか。にわかに普通のそれとは違う反応をしていたような。

 訝しげに思っていると、彼は観念したように溜息をつき、こちらにアイコンタクトを送ってきた。

 後で話す、ということかしら。

 

「おい邪魔だ。どけよ不良品ども」

 

 続々とやってくる生徒でごった返す甲板。最も島の景色が見やすい位置に先着していた私達を押しのいて横暴な言葉を吐く生徒が現れた。

 彼は見せしめと言わんばかりに綾小路君の肩を突き飛ばした。

 

「いい気味ね」

「お前、オレと同じクラスだよな?」

「私は不良品と呼ばれた覚えがないもの」

「屁理屈か」

「事実よ」

 

 慌てて手すりにしがみつくその滑稽さ。お似合いな格好ね。

 そうこうしている間に、状況は悪化しているようだ。須藤君たちが即座に威圧で返し言い争いに発展している。

 

「実力主義の学校でDクラスごときに人権なんてないんだよ。こっちはAクラス様だぞ」

「どうだかな。うちのクラスにだってすげぇやつはいっぱいいんだよ。逆にAクラスには雑魚が紛れてるかもしれねえぞ。お前とかな」

「あ? ふざけやがって、お前の方がいかにもゴリラみたいな、」

「やーひこ」

 

 割って入った声は何とも間延びていて、しかし怒気が滲んでいる。

 事態を傍観していた生徒たちの視線が一斉に集まった。

 

「げっ、あ、浅川……」

「彼……僕の、友達なんだ。あんま……虐めないで、やっておくれよ」

 

 まるで死闘を越えたかのように息を荒げている。佐倉さんと王さんに肩を支えられ井の頭さんにあわあわと見守られている原因が船酔いだと思うと、何だかやるせないわね。

 

「それはできない約束だな。そもそもお前が、馴れ馴れしく名前で呼ぶなというこちらの頼みを聞かないじゃないか」

「君が慕う……康平は何も言って、こなかったけど。もし守れないなら……このこと報告するし、何より――」

「な、何より……?」

「僕のゲロリウム光線を浴びることになるぞ……うぅぶっ」

「ぎゃぁぁあやめろっ、おい来るな! 汚いから!」

「三分でケリつけてやるっ! ごっ、ぐぅんっ……ぼっ」

「助けてください葛城さぁん!」

 

 ……惨めなおいかけっこに、周囲は思わず吹き出してしまった。

 

「あいつ、Aクラスのやつとも仲良いんだな」

「あれは仲が良いというより、一方的に絡まれているように見えるわ」

 

 佐倉さんたちともいつの間にか親しくなっているし、わからないけど。

 

「あはは、賑やかそうだね」

 

 遅れてやってきた平田君がそう言う。近くにいた山内君たちが話しかけた。

 

「なあ洋介。お前軽井沢とはどこまでいったんだよ」

「折角の旅行なんだし、もっとイチャつくチャンスだぜ?」

 

 言い方は兎も角、全く理解できないわけではない。二人の付き合いはプラトニックと評するには些か距離がありすぎる、ような気がする。経験の無い私が意見を出せた口ではないけれど。

 それに、平田君がそうしない気持ちも、何となく理解できる。何せ彼は、総じて女子からの信頼が厚いのだから。

 

「僕らには僕らのペースがあるからね。ごめん、三宅君が困っているみたいだからそっちに行くよ」

「あ、おい! 何だよアイツ、こんな時にまでクラスメイトの心配かって」

 

 三宅君は確か、宿泊部屋のグループ分けで浅川君と同じグループになっていたわね。

 人気者の宿命を理解できない山内君がブツブツと文句を垂れる。

 

「難しいところなんじゃないか? 変に距離を縮めようとしてかえって相手を不快にさせてしまうことも、あるかもしれない」

「ああ……確かに、そうかも。友達と恋人って絶対違うだろうし」

「告白するだけで関係が変わっちまうってのも、偶に聞くもんな。なるほどな、清隆の言うことも一理あるわ」

 

 各々、綾小路君のフォローに理解を示す。まるで『心当たり』があるように頷いているのは、多分気の所為ではないわね。

 

「そういやよ。堀北」

 

 すると何か思い出したように、須藤君がこちらに会話を振る。

 

「ずっと気になってたんたが、お前と櫛田って誰これ構わず苗字で呼ぶよな」

 

 ピタッと、私は表情を強張らせる。櫛田さんの方を窺うと彼女も図星を突かれていたようで、固まってしまっていた。

 

「それの何が問題なの?」

「い、いや、俺ら男子――洋介も含めてみんな下の名前で呼ぶようになったろ? 小せぇことだけど、勉強会グループで二人だけ妙に距離感じるようなのも、なんかアレだろ」

 

 ……別に、私からすれば全員大差ないつもりなのだけど。

 

「名案だぜ健! あ……でもまあ、無理にとは言わないよ。二人とも嫌だったら」

 

 池君は控えめながらも賛成なようだ。

 でも、

 

「意味を感じないわ」

 

 そこまで馴れ馴れしくして何かが善い方に向かうとは思えない。

 

「堀北さん、清隆君と浅川君にも同じ感じだもんね。それじゃあしょうがないよ」

「あー、二人にもそうだったらそりゃ無理だ」

 

 沖谷君と山内君が口を揃える。待ったをかけたくなる発言だ。

 

「どうして二人が取りあげられなきゃならないの?」

「どうしてってそりゃ、なあ?」

 

 顔を見合わせ頷き合うメンバーたち。解せないわ。

 

「櫛田ちゃんは、どう?」

「わ、私? 私は、ええと……」

 

 櫛田さんは不意を突かれたように考えあぐねる。

 

「……うーん、ごめんね。仲良しとか関係なく、私はみんなとは苗字で呼び合おうって思ってるの」

「バカッ、寛治お前。櫛田ちゃんはみんなのアイドルなんだぞ。一人抜け駆けしようたってそうはいかねえよ」

「違うって。本当にただ友達として、親睦ってやつを深めたくてだな」

 

 じゃれ合う池君と山内君だが、二人とも大したショックを受けているようには見えない。もともとあまり期待していなかったのだろう。

 それにしても、少し意外だった。いつもの櫛田さんなら、今のお願いは許可していても可笑しくないはずだが……私には思い当たりようのない理屈でもあるのだろうか。

 馬鹿馬鹿しい思案に耽っていると、途端に周囲が騒ぎだす。どうやら島が肉眼ではっきり見えるようになったらしい。

 船はそのまま距離を詰め、島につけられるのかと思ったが、桟橋をスルーし島の周りを回り始めた。標高230m、面積0.5k㎡の広大な島を遠目から一望させようと言うのだろうけど、やけに律儀なものね。奔放な人ならそんなことをせずとも勝手に散策するでしょうに、不自然……と思ってしまうのは、この学校に毒されてしまっている証拠なのかしら。

 

「凄く神秘的な光景だね! 堀北さんもそう思うでしょ?」

「山ね」

「山だな」

「山だねー」

「君たち仲良いね!?」

 

 ふざけないで。私の意見に二人が勝手に合わせてきただけでしょう。櫛田さんは本当に私のことが嫌いみたいね。

 

「睨むなって。オレたちも本当に同じこと思ってたんだ」

「少なくとも神秘は感じないかな。僕は」

 

 二人の戯言を聞き流していると、再びアナウンスが流れた。

 

『これより上陸いたします。生徒は三十分後、全員ジャージに着替え所定の鞄と荷物を確認し、携帯を忘れずにデッキへ集合してください。他の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また、暫くお手洗いに行けない可能性もございますので、きちんと済ませておいてください』

 

 最後の一言が妙にひっかかった。

 

「お手洗いに行けない……?」

「島だしな」

「別に行きたい時に船へ戻れば済む話でしょう」

「船遠かったら漏らしちゃうかもよ?」

 

 男二人は特に気に留めていないらしい。

 

「僕トイレ。誰か行きたい人ー」

「あ、待ってくれ。俺も行く」

 

 浅川君と須藤君はアナウンスの助言に従うようだ。

 私を含め他のみんなはそのまま部屋へ戻り、着替えを済ませてデッキに再び顔を出した。その頃には既に、船はもう止まるところだった。

 

「Aクラスの生徒から順に降りてもらう。島への携帯の持込は禁止だ。担任の先生にあずけてから下船するように」

 

 持ってこさせた携帯を預けさせる? やたら回りくどいことをするのね。

 いよいよただ休めるだけのバカンスなどとは到底信じられなくなってきた。あの二人は相変わらず浮かれているようだから、せめて私だけでも身構えておかないといけないわね。

 

 

 

 

「――これより、本年度最初の特別試験を行う」

 

 島に上がり点呼を終えた後、設置された壇上で真島先生がそう宣言した。

 聞いたことのない単語に呆然とする者、試験という言葉に動揺を隠せない者、顔を強張らせる者。各々が何らかの反応を示す。

 ……こんなことで動じてなるものですか。兄さんなら眉一つ動かさずに続く説明を待つはず。

 

「期間は本日の正午から、一週間後の八月七日正午。その間君達にはこの無人島で集団生活をしてもらう」

 

 一週間……長丁場になりそうね。この暑さだと尚更身を削りそう。

 

「試験中の乗船は正当な理由がない限り認められない。ここでの生活に備え、君達にはクラスごとにテントを二つ、懐中電灯二つ、マッチ箱一つを支給する。また、歯ブラシは一人一つ、日焼け止めは制限なく配布する。女子については生理用品も無制限だ。その他、寝床や食糧の確保等はすべて君達自身で考え取り組むように」

 

 と言うことは、限りなく正真正銘に近い、

 

「サバイバル……」

 

 吟味の呟きが漏れると同時、池君が同じ内容を場に沿わず叫ぶ。恥ずかしいことこの上ない。この学校でそんな文句、聞き流されるのが常だろうに。

 

「最低限のアイテムがあるとはいえ、過酷な生活を強いることは重々承知している。だが、私達の『君達をバカンスに連れていく』という約束は全面的に嘘というわけではない。今回の試験において、君達がこの一週間をいかにして過ごすかは完全に『自由』だ」

 

 状況を飲み込み始めていた生徒たちは、ここで再び愁眉をつくる。試験というしかつめらし響きとは正反対な情報だからだろう。

 

「試験開始と同時に、各クラスには本試験専用のポイントが三百、支給される。それを消費することで様々な恩恵が得られるわけだ」

 

 そう言って、真島先生は冊子を掲げる。どうやら『恩恵』とやらはそこにマニュアル化されているようだ。各クラス一冊ずつ。再発行の際にはポイントを消費する必要がある。

 飲料食料は尚のこと、意外にも派手な娯楽道具まで内包されているらしい。話を聞いている感じ、そんなものにポイントを使うメリットを感じないが。

 そして、と、次に先生の語った事実は、多くの生徒に衝撃を与えた。

 

 ――最終的に残ったポイントは、夏休み明けのクラスポイントに加算される。

 

 ……急にポイントなんて言うから、まさかとは思っていたけど。これは……朗報かつ悲報だ。

 

「改めて言おう。本試験のテーマは『自由』だ。難しいものなんて何もない。今後の悪影響も一切存在しない。与えられたルールの中でなら遊ぶことも休むことも、あらゆる生活が保障されている」

 

 一通りの説明は終了。後は各クラス担任からの補足があるそうだ。

 クラッと、ありもしない目眩を感じる。間違いなく、暑さや体調のせいではなかった。

 

「それでは、各々の『バカンス』を心ゆくまで愉しむように」

 

 色々不満はあるけど、少なくともバカンスなんて冗談じゃない。

 箱庭という狭い枠を超えてお膳立てされた、第三者不在の戦場――。

 私に与えられた『自由』なんて、『戦う』以外にあり得ない。

 




あらすじやタグの時点で予想というか期待という危惧というか、していた方もいるでしょう。本章は堀北鈴音視点です。夏休みの試験から急速に複雑化していくのは周知の事実でしょうが、それと本作の性質とを踏まえると、これが最も自然で書きやすい形かなあと思います。

こんな格好つけた始め方しといて、いつも通りこれからの展開は白紙です。誰がどう動くのか全く決まっていません。堀北はどう動くのか、綾小路は協調するのか暗躍に走るのか、オリ主は堀北に従うのか否か、ぜーんぶのーぷらん。
そもそも原作の時点で、夏休みの試験は最大級かつ初めて全クラスの思惑が交わるものだったというのです。入れときたい場面はいくつかあるんですけど、難儀なものですね。

番外編第一弾(題はナイショ)

  • 六月下旬(1章~暴力事件)
  • 七月下旬(期末テ⦅暴力事件⦆~三巻)
  • 八月中旬(四.五巻前後)
  • 夏休み以降の時系列がいい
  • やらない
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