アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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本当は二年生出したい話とかもあったんですけど、口調わからなすぎてやめました。桐山さんとか全然知らないっすよ。教えてくれる方いたら感想でお願いします。


遅延したブランチ

「浅川君、あまり無理はしない方が……」

 

 重症患者でも介抱するような深刻な表情で、王に言葉をかけられる。

 

「あっはは、問題な――うっ、ぷぅ。心配するほどのことぉん……っ」

「全然大丈夫には見えないけど!?」

「とりあえず横になってくださいあそこのベンチに!」

 

 同じく取り乱し気味な佐倉と井の頭に誘われて、顔面蒼白の浅川は大人しく言う通りにする。

 

「……あー、お日様ポッカポカぁ!」

「駄目です、心做しか幼児退行しています」

「どうして空は蒼いのか」

「いや、悟ってますねコレ」

 

 意識が天空へと吸い込まれるのを防ぐように、三人は覗き込む。

 

「三半規管の鍛え方を知りたい……」

「どうしてそんななのに歩き回っていたんですか」

「人を、探してて」

「今じゃなくても……」

「今が一番いい機会だからぁ」

「今にも吐きそうな状態が友達と会う好機とは思えないんですけれど」

 

 全部が全部反論される。うるさい、会いたかったんだもん。

 

「それに、折角だしって思ったんだよ。……船、初めてだったから」

「あ……なるほど。ましてこんな豪華客船ともなると、昂ぶってしまうのは仕方」

「両手を広げて後ろから抱きしめてもらいたいなって……」

「そっち!? しかも男女逆ですし!」

 

 内心驚いた。王にも声を荒げることはあるのかと。これはもしや逸材になるやもしれぬ。

 

「いいだろ別に。僕は抱くより抱かれたい派なんだ」

「そ、それはちょっと、卑猥……」

「ひ、卑猥? 何が」

「え……な、ななな何でもないです!」

 

 独りでに顔を赤らめる井の頭。

 

「今のは……」

「浅川君が悪い、かな……」

 

 酷い少女たちだ。寝込んでいる哀れな少年に罪を吹っ掛けようと言うのか。

 

「よくわからないけど、楽しみにしていたのは本当だよ。このあとの島暮らしにだって期待している」

「と思っていたら、なんと船上が弱かった、と?」

「飛行機は行けたんだけどねぇ」

 

 十時間超えの空の旅。顔色が悪かったのはむしろ愛しい兄弟の方だった。

 

「まあ僕のことはほっといて、三人で色々回っててくれ」

「そういうわけにも。心配なので」

「私はみんな以外で話せるの、櫛田さんくらいしかいないし……」

「私も、他だと綾小路君くらいしか……」

 

 櫛田は当然クラスメイトに集られ、綾小路は勉強会メンバーと談笑中。佐倉は頼めば輪に入れてもらえる見込みはあるだろうが、無理もない話だった。

 みーも意中の平田と話せる環境ではないし……。

 自分への説得を終えた浅川は、溜息をつくかわりに状況を甘受することにした。

 といっても、できる話なんて真面目なものしかないのだけど……。

 

「――結局、再開したんだなあ。グラブル」

「グラドルです。……さっきのに引っ張られました?」

 

 略称は苦手だ。若年向けなコンテンツにも疎い、良くないか。

 

「引退撤回を投稿する時は、辞めようとした時以上に緊張したけど、今はほとんどいつも通りです。私は」

「……ふーん」

 

 表に出す内容ではない、と佐倉は思ってそうだったので、特に言及はしない。

 仕事は元の形を取り戻しつつあるのだろう。しかしその産物を享受していた消費者たちはそうもいかない。きっと『色々』な声があったはずだ。

 それでも今は、特に心配する必要はない。本人が口にしなかったということは、問題は起こっていないということだ。今の佐倉は、それを独りで抱え込んでしまうような子ではない。

 何より、語る彼女の穏やかで晴れ晴れとした顔が、全てを物語っている。

 

「私……やっぱり始めて良かったなって思う。この仕事が、少しでも私のことを好きにさせてくれたから。一度離れて戻ってきて、改めて実感できた。あの時踏み留まったのは正しかったんだって。――引き止めてくれてありがとう。私が雫のことを受け入れられるって、信じてくれてありがとう」

 

 何を言うより先に、王と井の頭の表情を盗み見る。

 浅川はやはり、三人の関係を見ているのが好きだった。自然で、普通で、それでいて鮮やかな色が見える。単純かつ理想的な形が。

 こういう関係が、一番強いのだろう。そう直感する。

 佐倉愛里は、雫に変身してみんなに元気を届ける、優しい女の子。

 二人のその理解が、思いが、佐倉に届いた。だから佐倉は信じることができた。今の雫は、そんな絆の結晶なのだ。

 何とか『狙っていた通り』になった。やはりあの件は、()()()()()()()()()()()()

 彼女の様子を見て、浅川はそう確信する。

 すると突然、話の区切りと言わんばかりにアナウンスが流れた。

 

「――デッキの方へ行った方がいいってことですよね?」

「でも、それだと浅川君が……」

「いや、行こうっ」

 

 よろよろと立ち上がる浅川を、三人共狼狽えながら止める。

 

「体調が悪化すれば、折角のバカンスなのに辛い思い出になっちゃいますよ?」

「言ったろう。楽しみにしてたって」

 

 所詮は空元気だ。だが、それで十分。

 

()()()()()()()()()()()()。僕はこのバカンスを満喫しに来たんだ」

 

 浅川の退かない意思表示に、溜息で最初に反応したのは王だった。

 

「いいけど、一つだけ条件があります。誰かに必ず支えてもらってください」

「みー……」

「とりあえず今は、私達が支えるから」

 

 そうだね。こういうとき、いつも君は率先して動いてくれる。

 王は行動にも移してくれる。波長が合うように感じる一因にはそれもあるのかもしれない。

 

「……じゃ、見守ってて」

 

 何かとこの三人とは付き合いが多くなりそう。そんな予感があった。

 あわよくば、島で羽根を伸ばす合間にも。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「はぁ……」

「あー……おい浅川、どうするんだコレ」

 

 こっちが聞きたい。

 

「……みー、そんなしょげないで」

「でも……」

「言いたいことはわかるけども」

 

 現在仮拠点で待機している平田。王はきっと、想い人の近くに少しでもいたかったはずだ。

 しかし悲劇は起こった。

 面子が誰でも良かった浅川は気分に身を任せて余りものグループを狙ったところ、同じくクラスで孤立気味だった長谷部と三宅がやってきた。どうやら長谷部が探検気分で三宅を巻き込んだらしい。

 さて、これで三人。全グループ四人を宣言した平田は周りを見回す。

 ……そうして偶々目が合ってしまったのが、お察しの通り彼女だった。

 

「こうなった以上、できるだけ貢献するのが吉だ。わかるだろう?」

「……はい」

 

 友人でもない他人に恋路を知られることもない。この場で平田の名前を出すわけにはいかなかった。

 

「すまんね、うちのみーが」

「その言い方はおかしいと思うが……別にいい。迷惑ってわけでもないし、心配だっただけだ」

 

 三宅とは船内で数度会話している。親しげとまではいかないが、ペースはできあがっている調子だ。

 

「てっきり二人共待機かと思ってたけど」

「お前も見てたはずだ、あいつに強引に引っ張られたんだよ」

「振り解けよ」

「できるか、相手は女なんだぞ」

 

 輪に溶け込んでいないわりには、会話に不便がない。ぶっきらぼうという点では、少し堀北に似ているだろうか。

 

「君ら確か、学校でけっこう話してるよね? あんま徒党は組まない質どうし、意気投合した?」

「いや俺はそんな気はなかったんたが、長谷部が――」

「波瑠加」

 

 突然、先頭を往く長谷部が遮った。三宅とともに視線を移すと、大人びた顔がこちらを向いていた。

 

「下の名前かあだ名、でしょ? みやっち」

「…………波瑠加が話しかけてきたのがきっかけだ」

「えーっと……?」

 

 とりあえず、みやっちというのは長谷部の言うあだ名ということか。

 

「長谷部ってあだ名とか使うんだね」

「なに、意外だった?」

「そういうの馬鹿にしちゃうものかと」

「偏見だねぇ。私、友達は大事にするよ」

「ごめん」

 

 確かに良くない先入観だった。素直に謝罪する。

 

「浅川はわりと分け隔てないって印象があるな。王とも仲良いだろ」

「そうだなあ。それに尊敬もしている。――みー?」

 

 そういえば全く会話に参加していなかった王を呼ぶ。彼女は心ここにあらずな様子だった。

 

「は、はい」

「いつまでも拗ねてないで。いつもの気概はどうしたんだい」

「うぅ……」

「キツイこと言いたくないけど、別に待機で良かったんじゃないかい? 平田も止めなかったと思うよ」

 

 できるだけ優しく諭すと、長谷部が反応する。

 

「みーって言うのは、王さんのあだ名?」

「え? そ、そうですね。友達にはみーちゃんって呼んでもらいたいなって」

「へー、面白いセンスしてるね」

「お前が言うのか……」

 

 三宅に同意だ。普通は下の名前をとってアッキーとかにするのではないだろうか。

 

「長谷部だったらなんて付ける?」

「うーん……ユンユン、とか?」

「お、パンダみたいだね」

「確かに。じゃあかわいい感じになったってことだね」

「なるほど! すげえなあだ名って」

「は?」

 

 存在を知っている程度だったが、存外可能性を秘めているのかもしれない。

 僕も極めてみよっかな、あだ名。

 

「では、浅川君だとどうですか?」

「浅川、恭介……え、けっこう難しいかも」

 

 何をもって難易度を判断しているのか知れないが、深く考え込んでいる。

 

「あさっちがいいかなって思うけど、みやっちと被るからなぁ……あ、きょっすーとかどう?」

「えーやだ」

「あらら、お気に召さなかったか」

「書くのメンドイ」

「そこ!?」

 

 お、ようやっと数刻前の調子に戻ってきたな。

 

「ははーん、浅川君にも何かと呼び方にポリシーがあるわけね」

「御名答。だからあだ名も面白いなって思ったのさあ」

 

 みーという前例がある。上も下も呼びにくい子には内心手を焼いていたのだ。それこそが浅川の見出した可能性である。

 

「子音がダルいんだよなぁ」

「俺を見ながら言うな。――だからお前、俺の呼び方おかしかったのか」

 

 あくまで彼の苗字を呼ぶつもりだが、どうにも端折って『みゃけ』となってしまう。何なら綾小路でさえ度々『きょたか』になることがあるくらいだ。

 実は最難関は堀北だったりする。上下どちらも呼びにくい上、その手がイマイチ通用しない。

 

「長谷部なんてハセとかハルとかでいいんじゃない? 自分だってわかるでしょ」

「じゃあ私は浅川君をきょっすーって呼ぶよ?」

「……やめとく」

「だよね。顔顰めたの、案外わかるものだよ」

 

 目ざとい。水泳の初日の一悶着での態度を顧みるに、そういった機微には敏感なようだ。

 

「でも君は、呼び方を気にする相手とは友達になれないってわけじゃないだろう?」

「まあね。そこまで拘って嫌がられてもいいことないし。――あれ、もしかして不安だった? ホッ、なんて」

 

 そりゃそうだ。世の中リトルと言われるだけでブチ切れる高校一年生の才女がいるのだから。

 

「難儀なものだねえ、呼び方ってのも」

「何でもいいだろ。一々気にすることじゃない」

 

 三宅のドライな性格は、恐らく長谷部と摩擦を生まないのだろう。端的に言って、相性がいい。浅川なりの、浅はかな分析だった。

 

「――ねえ、さっきから気になってたんだけど。何か変じゃね?」

「変、ですか?」

 

 小首を傾げる王。

 

「無人島ってわりには歩きやすいっていうか。獣道みたいに舗装されてるっていうか」

「うーん、言われてみれば……?」

 

 いくら学校側による選定だったとしても、元来手の施されていない島にこんないかにも「ここをお通りください」な通路が開けているだろうか。

 少なくとも、()()()()()もっと圧倒的に無法的で、長く生え散らかした草花が途切れる空間などほんの僅かだった。

 

「……」

 

 自分には疑念だけで精一杯だ。『彼』なら、より確信めいたものを抱いているかもしれない。

 

「……! おい、待て」

 

 突然三宅が声を荒げる。というより、必死さの滲む抑えた声だ。

 彼の言い条を察した浅川は――胸の内で謝罪しつつ、狼狽える王の手を引き木の幹の裏へ隠れた。

 動揺の声を漏らさせないよう口元も念の為塞ぐ。

 

「んごぅごんんっ!?(浅川君っ!?)」

「しっ」

 

 三宅と長谷部はすぐ側の茂みに潜ったらしい。長谷部が「大胆」と口笛を吹くが、気にしている場合ではない。

 

「あの奥進んだらお宝眠ってたりしない?」

「そんなわけないだろ。だが……スポットはあるかもしれないな」

「よく見ると中が少し舗装されてるみたい。入口付近だけで見辛いけど」

 

 四人でじっと見つめる先には、異様に高い山頂を被った洞窟。その大穴から、二人の影が覗いた。

 康平……?

 よく見知った顔だ。側近の戸塚も一緒にいる。

 何やら話し込んでいるようだが、生憎遠すぎて聞き取れない。興奮気味な戸塚が坂柳の名前を口にするのだけが聞こえた。

 会話を終えその場を離れようとする二人だったが、何かに気づいたようで進路を変える。

 一瞬こちらの存在がバレたかと思ったが、幸いなことに90°方角が違う。

 しかしその行く先を悟った時、浅川はすぐに別の焦りを覚えた。

 き、清隆……!?

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「んーいいねぇ。実にいい。この豊かな大自然で悠然と佇む私の美しさと言ったら……!」

 

 トップ4での朝トレを続けてきて良かったと、綾小路は心底実感した。

 灼熱の密林地帯を歩むのは、予め慣れがなければかなり険しいものになっていただろう。

 

「佐倉、大丈夫そうか?」

「う、うん。何とか」

 

 傍らの佐倉も決して少なくない汗をかいているが、顔色を見るに大事はないようだ。

 

「私も……小野寺さんみたいに運動ができたら、みんなに迷惑かけなくて済むのになぁ……」

 

 彼女は自分の数歩先を歩く小野寺を見る。

 小野寺かや乃。水泳部の生徒だ、と櫛田から聞いたことがある。その実力は眉唾ではなく、水泳開きにあった競争でも、彼女は見事女子一位を勝ち取っていた。

 すると、高円寺と小野寺、あの時抜きん出た運動能力を披露した男女が奇しくも同じグループに居合わせたことになる。綾小路はともかく、逆に体力からっきしな佐倉には確かに厳しいことだろう。

 

「泳ぎも含めて得意っていうなら、今回の試験は活躍できそうだな」

「どうだろうね。でも体力には自信があるから、正直他の女子よりはたくさん働けると思うよ」

 

 須藤と違って運動バカという印象はなく、受け答えも落ち着いていて理性的な部分を感じる。活発さを強調するショートカットの髪は、可愛いより格好いいという感想の方が多くなりそうだ。

 

「悪いな。こまめに気にしてもらって」

「全然構わないよ。けど、高円寺君が……」

 

 綾小路たちと高円寺との距離は既に大きく開いている。互いを見失わないよう中継を張ってくれているのが小野寺だった。

 

「高円寺君、もう少しペースを落とすことって、できないかな?」

「ハハ、無益な相談だね。目指す場所が定まっていながら足踏みに耽るような趣味ではない。私にはずっと聞こえているよ。この地で最も私の美しさを万全に映してくれる、絶景の招く声がね!」

 

 高らかに笑う高円寺。今はその気力が羨ましい。

 

「うーん……ごめんね二人共。やっぱ無理みたい」

「仕方ないさ。あいつを制御できる人間なんていない」

「わ、私もそう思う」

 

 作品の一つ一つを吟味するように、ふむふむと辺りを見回しながら進む高円寺は、確かにこちらのことなど一切気にしていないようだ。

 佐倉の表情を窺うと、やはり申し訳なさそうにしていた。

 少々露骨かもしれないが、彼女に余計な罪悪感を与えまいと、話を切り替えることにした。

 

「再開、したんだってな」

「――うん。私は誰も見てないところで人知れず変身して、みんなに元気を届けるの。それが今の雫」

「……かっこいいな」

「えへへ、浅川君も同じこと言ってた」

 

 あいつらしい。変身ヒーローみたいとでも思ったのだろう。

 

「お前の世を忍ぶ仮の姿を認知しているのは、一体何人なんだ?」

「えっと――綾小路君と浅川君と、みーちゃん心ちゃん。櫛田さんにも言おうかは、まだ迷っているところ」

 

 つまり、佐倉=雫の等式までしか、櫛田は把握していないということか。

 いずれにせよ、下手に公開しないのはいいことだ。特に男子なんかは、またよからぬ下心を持つ輩が出てくるに違いない。

 雫を見る色眼鏡をかけたまま接してほしいわけではない。ありのままの自分を見てもらうことを望む佐倉には、その選択が適している。

 

「……偉いな、佐倉は」

「そう、かな? でも今は、こうして足を引っ張っちゃって――」

「そこから成長しようと努力しているだろう。誰だって初めから全部上手くいくわけじゃない。それで滅気ないのは、凄いことだと思う」

 

 ある種努力とは無縁とも親縁とも言える自分が口にするのも、おかしな話だが。

 ただ、自分の志ありきな努力というのは、過去の綾小路にはなかった経験だ。それはきっと尊いものなのだろう。

 だから、きっと、

 

「恭介と今の関係を続けようとするのにも、勇気が必要だったんじゃないか?」

「浅川、君……」

 

 踏み込みすぎな質問だとは思う。しかし彼女なら反抗せず答えてくれると高を括っていた綾小路は、その優しさに甘えることにした。

 

「今までの時間はなくならないから」

「……そうか」

「好きかどうかって気持ちと、仲良くなりたいって気持ちは、一緒じゃないんだよ。……多分」

 

 佐倉の言いたいことは、何となく伝わった。

 表面と内面の差異。ある者には好き好んで接近し、ある者には嫌嫌状況に従い接触する。好きだけど遠目に見ているどけで十分と言う人もいるだろう。

 だから、合わなくても絆を深めたいという意思だってあって当然だ。社会的な事情ではなく、「この人といると良いことがありそう」という漠然ととした楽観的で希望的な観測だけで、人は人に歩み寄ることができる。

 他でもない佐倉がそれを語るのだから、他人を避けがちだった彼女の明らかな変化が窺えた。

 それに対して綾小路は、羨望に近い感情を抱くと同時に今の自分の憐憫を嘆くばかりだった。

 

「――つかぬことを聞こうか、諸君」

 

 先程までこちらに無関心だった高円寺が不意に話を振った。

 

「君達にはこの場所がどんな風に見える?」

「ど、どういうこと……?」

 

 佐倉は今一つ要領を得ないようだが、小野寺は思案顔になる。

 

「どうって言われても曖昧だけど……ちょっと変だなって思ってた」

「変?」

「何ていうか、歩きやすさ? みたいのを感じる。ここが本当にただの無人島なら――佐倉さんなんかは特に――消耗がもっと激しかったと思うよ」

 

 ……なるほど。そういうものなのか。

 綾小路は島や野生というものは、当然知識でしか知らなかった。

 陸を踏んでいるからこそわかる違いや、気付ける違和感もあるようだ。

 そしてもし、小野寺の言う通りなのだとしたら、

 

「――フッ、どうやら気付いたようだね」

「……、何故ヒントを与えた。やはり気まぐれか?」

「君には理解できないことだよ。情報不足だ」

 

 勝手に話に見切りをつけ、高円寺はあろうことか大木を登り始めた。

 軽やかな身のこなしで、あっという間に枝の上に立つ。「えぇっ!?」と驚く佐倉の声。

 

「こ、高円寺君っ、危ないよ?」

「ノープロブレムだよ、スイマーガール。私は一刻も早く彼の地へ赴かなければならないのでねぇ。――それでは、オ・ルボワール」

 

 ズンズンと躊躇いなく飛び渡っていく彼の強かさに、内心舌を巻いた。自分とてあれほどの芸当には慣れが必要だ。未知数という言葉が良く似合う男だこと。

 

「どうしよっか……」

「……小野寺、佐倉の面倒を見てもらってもいいか?」

 

「え!?」小野寺は目を鱗にする。「もしかして、アレを追い掛けるの?」

 

「土地勘もマトモにない孤島の上だ。万一あいつが合流できなくなるようなことがあっちゃいけない」

 

 それに、()()()()()

 

「難しそうならそのまま仮拠点に戻っても、平田なら怒りはしないだろ」

「わかった、佐倉さんのことは任せて。綾小路君も気を付けてね」

 

 すぐにでも全速力で追っても構わないが、可能なら驚かせるようなことはしたくない。二人の視界を逃れるまでは、小走りにしよう。

 

「あ、綾小路君。ごめんね」

「いや、あれは独断行動をした高円寺が悪い。謝ることじゃないぞ。水分もすぐには取れないだろうから、できるだけ温存しておくんだ」

「うん。ありがとう」

 

 そうして綾小路は高円寺の後を追う。

 ――久しぶりに、頑張るか。




嫌な予感がします。情報が膨大なだけあって、とんでもない話数になりそう。

番外編第一弾(題はナイショ)

  • 六月下旬(1章~暴力事件)
  • 七月下旬(期末テ⦅暴力事件⦆~三巻)
  • 八月中旬(四.五巻前後)
  • 夏休み以降の時系列がいい
  • やらない
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