アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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密行のマニューバ

「ようやく落ち着いてきた感じかな」

 

 クラスメイトたちの雰囲気を俯瞰して言うのは、『リーダー』である一之瀬だ。

 

「何より先に火種を避ける。考えてみれば当たり前だが、それを優先したのは正解だったな」

 

 Bクラスは試験に挑むどうこうよりも、まずはこの慣れない環境で生活の基盤を安定させることに焦点を当てた。

 クラスの戦いへの姿勢がまちまちであることは優に想像がついたし、無人島での生活が不慣れで相互扶助が必要になることは逆に共有できることだと考えたからだ。

 

「井戸の水がちゃんと使えそう……やっぱりこの島はある程度手入れされているのかな」

「向こうも不要なリスクは避けたいはずだ。現に俺たちは、誰も獣に遭遇していなければ怪我人もいない」

 

 そういうわけで、試験の方針についてはまだ全体で共有できていないのが現状だった。

 しかしベースキャンプを専有するために、キーカードには既に一人の生徒の名前が刻印されている。

 その管理者は――

 

「で、どうするんだ? アイツのことは」

「あぁ……金田君?」

 

 昨晩、探索から帰った生徒が一人の少年を連れてきた。

 金田悟と名乗るCクラスの彼は、頬に酷い殴られ跡をつけて道端に座り込んでいたと言う。

 彼曰く、クラスに反発して追い出されたと。

 彼曰く、こんな状況だから世話になろうなどとは思っていないと。

 それをじゃあ出て行ってくれと一蹴できたら、一之瀬は今こんなにもクラスメイトから慕われていなかっただろう。

 彼女の言葉に、反論は一切あがらなかった。

 ――そう、一切だ。

 

「……」

「どうしたの?」

「いや、すまん。…………一之瀬は、アイツがCクラスのスパイだという可能性は考えなかったのか?」

 

「私? 私は……」一之瀬は言い淀んだあと、しかし芯のある瞳で、「それでも信じたい。神崎の言いたいことはわかるけど、私にはそれが、ボロボロになっている目の前の人を突き放していい理由になるとは思えないんだ」

 

「……そうか」

 

 彼女の言い分はわかる。寧ろそうするだろうと思っていた。しかし、それが望ましかったかと言われたら別の話だ。

 警戒しろ、他クラスは敵だと意識しろ。とはもう言わない。言っても意味がない。一之瀬はそれを全て理解した(つもりであっても)上でその決断を曲げないはずだからだ。

 その程度の不満、抑えられないならとうに明かしている。神崎の懸念は、一之瀬自身のことではなかった。

 

「なあ一之瀬」

「うん?」

「どうして、()()()()()()()()()()()んだ?」

 

 核心に迫った疑問だとは思う。何らかの軋轢を生み出しかねない。その恐れはある。

 しかし、この場所で――ある種日常から隔絶された今でなければ、今後口にする機会はないのではないかと思ったのだ。

 

「本当にみんなは、お前のような気持ちで頷いたのか?」

「神崎、君……?」

「一之瀬を、金田を、自分の意思で信じるって決めたんだよな?」

「神崎君っ、何を……」

 

「だっておかしいだろッ」理性は維持している。他の生徒の耳には届いていない。「試験中に、拠点に他クラスを通したんだぞ。何の条件も無しにだ。そんな危険な真似は冒すべきじゃない。そう思ったのは、このクラスで本当に俺だけだったと言うのか……?」

 

 正直信じられなかった。あの瞬間が不気味だった。

 一之瀬が全体に賛否を求めた際、ほとんどの生徒は半ば即決で便乗したのだ。

 あたかも、自分は一之瀬と同じ考えで当然だと自己暗示しているようで……。

 

「……実は、だいぶ前から気になってたんだよね。みんなはあまり気付いてないみたいだったけど、神崎君、最近ちょっと様子が変だよ?」

「変、だと……?」

 

 真剣な眼差しで言われる。俺がか? 変なのは、一体どっちなんだ。

 

「ちょうど浅川君との協力が終わった頃。お疲れ様会の時には、片鱗があった」

「……っ」

「教えて、もらえないかな。何があったのか」

 

 とてつもなく、迷う選択だった。

 彼女は相談相手として信用はできるほうだが、ここまで深刻な問題は部外者には重すぎる。

 何より、神崎はクラスとしての問題も予感していた。

 

「お前たちに迷惑はかけないから、心配しなくていい。今はこの試験をどう乗り越えるかが重要だ」

「…………そっか。そうだね」

 

 頼られなかったことを悲しんでいるのだろうか。自己解決を待とうと身を引いてくれたのだろうか。

 わからない。

 

「体調が悪くなったりしたら、遠慮せず言ってね。無理は禁物だよ」

 

 気遣いなのか、長居はせず一之瀬は去った。

 人知れず、神崎は歯ぎしりする。

 この試験において、クラスで協力し合う必要性は確かに存在するはずだ。しかしそれだけなら、歪さを覚えるルールがいくつかある。

 その筆頭が、リーダー当て。

 他クラスのリーダーを看破することに、複数人での協調が求められるとはとても思えない。ならば何が必要かと言われると難しいが、一つだけ言えることがある。

 このまま無人島生活に励むだけでは、絶対にリーダー当ては不可能だ。

 それが今、神崎の心を乱す一因に他ならなかった。

 目的のために動かなければならない。全員でではなく、誰かが行動を取らなければ。

 その意識が、あの時の不甲斐なさを誘発する。

 何もできなかった。一つの絆が崩壊するその瞬間を、ただ黙って見つめることしかできなかった。

 あんな思いは、二度と繰り返したくない。

 動かなければならない。そのためには考えなければならない。そのことを大いに痛感した神崎は、幸か不幸か敏感になっていた。

 何故、敵を疑わないのか?

 何故、一之瀬に盲目的に従うのか?

 何故、そもそもその現状に誰も違和感を抱かないのか?

 どれをクラスのみんなに問いかけても、きっとほとんど変わらない。変わるとすれば、それもやはり自分が形として示さなければならない。

 反発したいわけではない。クーデターなどもってのほかだ。

 ただ簡単な話、議論や話し合いが反論ありきで煮詰まっていくのと同じこと。まして信じることに偏りが垣間見える一之瀬には、対となる「疑問を疑問のままにせず提示する」役割が必要なはずだ。

 何とか……何とかしないと。

 焦りを自覚しつつ、この先どう動くべきかを孤独に思考する。

 あくまで冷静さを失ってはならない。わかっている。独りで何かを成せるほどこの広大なフィールドは甘くない。今までだって誰かと手を取り合って戦ってきた。

 しかしクラスのほとんどは一之瀬のイエスマンだ。強引に引き離すことまでは(後に響くことも考慮すると)考えていない神崎は別案を求める。

 自ずと、選べる手段は限られていた。

 最初にやるべきことは、協力者の確保――。

 こうして、Bクラスに一つ。どう転ぶかわからない新たな種が生まれる。

 その芯は確かに、静かな決意と後悔で燃えていた。

――――――――――――――――――――――――――――

 

「あ、あれ? みーちゃん?」

 

 テントを開けると、予想だにしない人物の姿があった。

 

「ひゃあっ、く、櫛田さん!?」

「ど、どうして――あ、もしかして、お邪魔だった……?」

「へ? い、いやいや、いやいや待ってください誤解です!」

 

 何となくわかってはいたが、からかってやると面白い反応が返ってくる。あー、これで素なの? 腹立つ。

 

「櫛田さんこそどうして……男子が使っているテントだよ?」

「それはー、目的は同じなんじゃないかな」

 

「あぁ……」微妙な顔で彼女が見下ろすのは、少年の寝顔だった。「やっぱり心配ですよね」

 

 かれこれ数時間経つが、一向に目を覚ます気配がない浅川。余程疲れていたのだろうか。正午が近づいているというのに。

 

「体調良くないのに、自分より浅川君が心配?」

「い!? そ、そういうわけじゃないけど……約束していたから」

「約束?」

 

「はい」なぜだか少し得意げな顔で、「この時間は、私達で浅川君を支えるんですっ」

 

 私達、というのは佐倉と井の頭も含めているのだろう。

 

「偉いね、浅川君なら気持ちだけでも喜んでくれそうなのに」

「まぁ、そうかも……。でも、それだと公平じゃないんです」

「公平じゃない、って?」

「浅川君は、私を()()助けてくれました。一回はお返しができたみたいだけど、もう一回は多分まだだから」

 

 驚きを隠せない。純情にも程がある。一々誰が誰を何回助けたかなんて覚えているものだろうか。

 しかし、この少女に限らず浅川もそういう律儀なことをしそうだと、反射的に思ってしまった。

 

「それに、今私にできるのはこれくらいだから。他には、料理とか?」

「昨日頑張ってたもんね。今日もやれそうなの?」

「任せてください!」

 

 あどけない笑顔だ。今の自分には、意識しなければつくれないだろう。

 

「――ッ、痛てて……」

「だ、大丈夫!?」

 

 突然王がお腹を抑える。やはり、多少の無理はしていたようだ。

 

「ダメだよみーちゃん。やっぱり自分のテントに戻ったほうがいいよ」

「でも……」

「浅川君は私に任せて。具合が悪くなったって知ったら心配しちゃうだろうし、また借りをつくることになっちゃうよ」

 

 彼女は逡巡するも、櫛田が見てくれるならと思ったのだろう。渋々うなずき出ていった。

 一人、いや、二人になった空間で、深い溜息が溢れる。

 

「……本当に君は。君みたいな人を、人たらしって言うんだよ、きっと。私よりよっぽど質が悪いよね、自覚もなさそうだし」

 

 櫛田は暫く、可愛らしい穏やかな顔を眺めていた。

 浅川への評価は本心だった。綾小路よりずっと社交的で、言葉選びも豊かで、持ち前のユーモアは確かにコミュニケーションを弾ませる武器なのだと。そういう嫉妬はある。

 

「この学校にきてから、何かおかしいんだ。君達と会ってから、なのかな。――二人そろって。責任くらい取ってよね」

 

 左手を彼の頬に触れる。

 

「……! ……もう」

 

 嬉しそうに手を重ねられた。突然のことにドキッとしてしまう。この可愛らしさで男なのだから、わけがわからない。

 櫛田の中で浅川への意識が芽生えたのは、3ヶ月ほど前にまで遡る。

 思えば、あの時から既に色々なものが動き出していたような気がする。

 

「……どうすればいいのかな、私。私は……」

 

 時々、全てを投げ出したくなる。

 意味もなく惑うのが億劫で、過去を疑っているように感じてきて、頭を振って目を背ける。

 ――君になら、わかるのかな……。

 

「オイオイ随分しけた生活してんだなぁ。Dクラスさんはよお」

 

 しんみりとした空気が広がる折、嘲る声が届く。

 見えもしないテントの向こうを振り向く驚きは、すぐに安寧に水を差された苛立ちに塗り替わる。

 その瞋恚を全て押し殺して、櫛田は瞳に光を戻しつつ外に出た。

 

「あ? おい。小宮と近藤じゃねえか。何の用だ」

 

 須藤が毅然と前に立ったと思えば、彼の言うとおり来訪者はDクラスとゆかりのある二人だった。

 

「ねえ櫛田さん、あれ誰?」

「えっと、須藤君と同じバスケ部の人だね。話題になってた事件も、元はあの二人が訴えてきたの」

 

 松下に説明しているうちに、向こうで動きがあった。

 

「なんだよ。他のクラスが無事に生活できているか心配で、様子を見に来てやったってのに」

「ハッ、てめぇらに気を遣われるほどヤワじゃねえよ」

「そうだぜ! また前の時みたいに可哀想な目に合っちまうぞ」

 

 馬鹿だなあ。

 敵陣に土足で踏み込んだらこうなることくらい予見できないものか。

 一方で、それなりな理由があるのかもしれないとも思った。

 

「龍園さんから伝言だ。バカンスを満喫したいなら西岸の浜辺に来い。夢のような時間ってやつをおすそわけしてやる。とさ」

「どういうことだ……」

「今可哀想なのはお前らだってことだ。どうせこういうのだって惜しんでせっせと木の実やら魚やらとってんだろ?」

 

 バン、と、無造作に投げつけられたのはポテトチップスの袋。

 それを一瞥した須藤は眉間に皺を寄せる。

 

「テメェ……」

 

 一触即発の空気、と呼ぶべきだろうか。兎に角、険悪な空気が蔓延し、クラスメイト一同表情を強張らせる。

 このままでは面白くない。大抵負の流れは引きずられるもの、重い空気が残るのは避けたいところだが、この挑発を受け流せるのは浅川、と精々綾小路くらいだ。

 なまじ真面目で、そのくせ直情さの目立つクラスメイトたちにげんなりする。認めるのは癪だが、堀北がいるだけでも状況はマシだったかもしれない。

 

「持って帰れや」

「なんでだよ?」

「お前らにそんなもんもらっても余計なお世話だっつってんだよ」

 

 クラスの不機嫌を代表するように須藤が言い放つ。ここまで自制し声を荒げることも我慢できているのは、彼の成長と言えた。

 だが、いくらそれでもそろそろ限界だ。

 

「おうおう、負け犬がほざいてら。俺らはとことんお前らを嗤うだけだぜ」

「何だと?」

「だって――あそこにうちから追い出された負け犬も居座ってんだぜ? まさしく溜まり場じゃねえか」

 

 不意に伊吹も巻き込んで愚弄され、須藤の堪忍袋の緒が切れた。

 

「オイ巫山戯んな! 関係ねえやつまで馬鹿にしやがって」

「おっといいのか? 殴るなら今度こそ処分だぞ。折角助けてくれたお仲間さんの努力が無駄になってもいいのかよ」

「ぐっ……っ、クソッ!」

 

 小宮の胸倉を掴むも、握り拳は震えたまま振り下ろされることはない。彼の言葉以上に、綾小路と交わした約束が抑止力になっているのだろう。

 どんどん悪化する空気に、しかし櫛田は動かない。自分の立場を最優先にするなら、ここはどう動いても善い方向には進まないからだ。いっそ暴漢どもの戯れに怯えてみせた方がいいまであった。

 そんなわけで睥睨していると、状況は一気に変わる。

 

「――もらえるものはもらっておけ。この島で食べ物は貴重だ」

 

 冷たいとまで感じられる落ち着いた声音で、少年は現れた。

 

「……っ! お前は確か」

「かっかすることはない。コイツらは頭が足りないから、物の値打ちも理解せずに慈悲を与えてきたんだ。得をしたと笑っておけばいい」

 

 彼の傍らにいた少年が袋を拾い須藤に差し出す。「お、おう」

と答えるので精一杯だったようだ。 

 

「お、お前……確か前の審議で邪魔しにきた」

「邪魔? 邪魔だったのはお前たちの方だろ。忘れもしない、5月になってからの約ニヶ月。散々うちのクラスメイトを可愛がってくれたよな?」

「……神崎ッ」

 

 冷や汗を浮かべた近藤がその名前を呼ぶ。

 間に割って入った神崎は、どこか暗い雰囲気を纏っているようだった。静かな、怒りのような。

 

「伝言は済んだ。煽りも十分だろう。もうお前たちがここに残る理由はないはずだが?」

「……ああ。ああそうだな」

 

 2クラス相手は分が悪いと感じたのか、二人は先程までのように粘着せず、すぐに身を引く決断をしたようだ。度を超えた揉め事はクラスの王の目に留まると恐れてのことかもしれない。

 二人の背中を、神崎は鼻を鳴らして見送った。

 そこに、平田が話しかける。

 

「助かったよ神崎君。それに柴田君も。7月の事件以来かな」

「そうだ。――気にしなくていい。偶々通りかかっただけだし、あれは俺も見過ごせなかったからな」

 

 フッ、と張り詰めていた空気が霧散する。神崎も矛を収め途端にいつもの「根暗だが良いやつ」に戻っていた。

 

「見たところ、Dクラスのベースキャンプはここなのか。川がある……水源を確保できたのは僥倖だったな」

「二人は偵察に?」

「そんなところだ。変に荒らそうってつもりはないし、お互い出過ぎた真似をしない条件ならこちらのベースキャンプの場所も教えよう」

 

 提示した条件からして、本当に不要な争いは求めていないようだ。Cクラスが来た先とは違い、クラスメイトたちも特に警戒心を見せていない。偵察であることを隠さなかったのも、寧ろ後ろめたさがないという意味で働いたのだろう。

 

「…………浅川は?」

「ごめん。それが、疲れているみたいでずっと寝てるんだ。どうしてもって言うなら、起こすけど?」

「……いや、必要ない」

 

 硬い表情だった。

 

「にしても、Cクラスの彼らが言っていたことは本当なのかな」

「夢のような時間、と言っていた。ポイントを惜しまず使っているのかもしれないな」

「そんなことが……」

「あっても問題ないんだろう。この試験のテーマは自由なんだから」

 

 動揺が走る。こちらが何とか共同生活に勤しんでいる他所で、そんな悠々自適な暮らしをしているのだと知れば戸惑いも無理はない。

 

「あれが神崎君か……」

「松下さん?」

「いや、さっきから上手いやり取りをしているなと思ってさ」

 

 上手い、か。言いたいことはわかる。

 特に登場してすぐの――態度はともかく――言葉選びの飄々とした感じは、どことなく……。

 思い立った櫛田は、彼らのもとへ歩む。

 

「こんにちは、二人とも」

「ん? 確か、櫛田。さん、だっけ?」

 

 先に柴田が反応する。

 

「神崎君もしかして、浅川君と仲良いの?」

「え……あぁ、まあな」

 

 言い淀むか……。本当は大した仲でないのか、今はしこりがあるのか。

 

「少しだけ浅川君と似ているかなって思ったんだけど、違ったのかな……」

「似ている? 俺とアイツが……?」

 

 急に険しい表情をされた。

 

「う、うん」

「……そんなことはない。その、あまりそういうことは言わないでほしい」

 

 え、地雷だったの?

 予想外だった。意外な場面で失敗を経験する。

 ……失敗というと、()()()()()()()()()()()()()()()

 神崎が彼と面識がないとは思えない。……浅川が絡むと、どうにも安易に分析できなくなる。

 

「平田。一つ確認したいんだが、俺たちのクラス関係は今回どうなっている?」

「関係……うーん、Bクラスどのやり取りは堀北さんや一之瀬さんが多かったから何とも言えないけど。前は不干渉が望ましいと言っていたよ」

「不干渉か。……」

 

 神崎は暫しの思案のあと、

 

「わかった、今はそれでいい。敵対はなしだ。――だが場合によっては、協力の余地は残してもらえないか?」

「ぐ、具体的には?」

「他クラス――A、Cのリーダー情報を手に入れた際の共有なんかは、お前たちの上位クラスへのダメージが増える点でメリットがある。他に何か問題が発生したときも、知恵を出し合うことで解決策が見いだせるかもしれない」

「なるほど……。少し時間をくれないかな。明日までに答えは用意しておくよ」

「ああ。気長に待っている」

 

 大方、堀北あたりに意見を求めたいのだろう。確かに今までBクラス、特に一之瀬との建設的なやりとりはほとんど堀北や綾小路ばかりだったとはいえ、櫛田にとっては不快なことに変わりなかった。

 せめて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だけは幸いだ。

 

「俺はこれからCクラスの方に行ってみようと思う」

「Cクラスは、今綾小路君と堀北さんが向かっているよ。伊吹さんから聞き出したみたいでね」

「そう、なのか。――Aクラスの場所に心当たりは?」

「わからないけど、北の方なんじゃないかって綾小路君が。昨日洞窟のあたりを探索していたのを見つけたんだって」

「洞窟か……。教えてくれてありがとな」

「これくらいはね」

 

 どうやら残りのクラスの偵察にも行くらしい。

 ……。

 Bクラスの二人が去るや否や、櫛田は平田に言った。

 

「平田君。私も少し、単独行動に出てもいいかな?」

「えっ。な、なんでまた急に……」

「他クラスの様子を見ておきたいっていうのが一番の理由かな」

「容認しかねるよ。正直君が抜けてる間に問題が起きたら、上手く収まる気がしない」

 

 信頼されているのはいい気分だ。しかし、である。

 

「だからこそだよ。私や平田君抜きで、クラス一人ひとりが協力して纏まれるようになるためには、今がとても良い機会だと思うの」

「それは……、確かにそうかもしれないけど」

 

 表向きな理由で、平田は納得寸前のようだ。

 

「私の心配はしなくてもいいよ。油断はしませんっ」

「…………本当はすごく同意したくないんだけどなぁ」

 

 拒否する理由をことごとく潰され、首を横に振れなくなったと悟った平田は重い溜息をつく。寸分、未だ未熟な高校生の影が見えた気がした。

 

「何かあったら助けを呼ぶか、無理なら腕時計のボタンを押すんだ。これだけは絶対に守って欲しい」

「わかった、約束する」

 

 非常用のボタン。こんなものを使う機会などくるものだろうか。

 あくまで自分にとっては、だが。

 了承をもらった櫛田はすぐさま出発の準備をする。

 最低限の荷物、川からくんだ補給用の水、それから――

 

「あれ?」

「どうしたの? 櫛田さん」

 

 女子用テントの近くにいた篠原に声をかけられる。

 

「日焼け止め、こんなに必要だった?」

「え? ――わかんないけど、念のため多めに頼んだんじゃない?」

「誰が?」

「誰って……そんなの一々確かめてないよ」

 

 小首を傾げるが、当然解はでない。あるいは、と一つの可能性が浮かぶが、確証はなかった。後に()()しよう。

 さて。

 人目から外れた幹の間から、櫛田は慎重に出る。

 ちょうど正午だ。昼飯を食べ終えて溜まった腹の中を消化しがてら、念願の独り歩きと行こう。

 ――いくつか気になることも、あるからね。

 

 こうして。

 現在Dクラスのベースキャンプには、35人の生徒が残っている。

 




さてさて、無人島試験も段々と原作から外れてきましたね。今回はついに他クラスで歪みが発生しました。

元々この試験は擬似的な無法地帯であり密会にも適している関係上、色んな人の思惑が浮き彫りになり交錯しやすい場だなと思っていました。二日目にして、各々が目的に向かって動いていますね。今のところオリ主が一番だらけてるわ。

長くなってでも裏で起きたことを描くべきか、伝わらない可能性があっても濁して考察の余地を与えるか、迷うところです。
今話でもけっこう「ん?」って思わせる部分があったと思いますが。

番外編時系列投票ver2

  • 一章後、二章前
  • 二章後、夏休み前
  • 夏休み中、無人島前
  • 船上試験後、4.5巻前
  • 4.5巻後、夏休み中
  • 夏休み後
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