アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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接近するアウトキャスト

 ベースキャンプに帰るや否や、平田君から衝撃の一言を告げられる。

 

「櫛田さんを独りに?」

「ごめん……断れなかった」

「……っ、あなた、自分が何をしたかわかっているの?」

「落ち着け鈴音。まだ何かがあったわけじゃない」

 

 これが落ち着いてなんて……。最も裏切り者に近い存在を、他クラスに対してフリーにしたのよ。

 偵察の結果を伝えた報酬として得たのは、Bクラスのベースキャンプ情報と櫛田さんが単独行動に出たこと。前者は午後に行くことができるので旨い情報だが、後者は……体裁のために点呼に来ないなんて横暴には出ないだろうが、そういう問題ではない。

 

「こうなった以上、どのみち当てもなく櫛田を探すのは得策じゃない。これからどうするつもりだ?」

 

 綾小路君に急かされる日が来るとはね。

 確かに彼の言う通りで、実際今からやれること、やらなきゃいけないことはある。ただ、それより先に確認したいことがあった。

 

「浅川君は?」

「それが……」

 

 バツの悪そうな平田君に従いテントを覗く。

 

「まだ寝てるのか……?」

「体調不良も疑ったけど、特に呼吸の乱れはないし異常は見られない。周りの声もあって、一応放置しているんだ」

 

 周りの声?

 

「何人かね」

「……? そう」

 

 実のところおかしいことではない。私達が会合した時刻から、およそ10時間経つ。朝の点呼を終えてすぐに行動を開始した私達の方が、無理をしていると思われてしかたないのだ。

 ただ、これもまた、そういう話ではない。

 試験に消極的だったとしても、彼はバカンスを人一倍楽しみにしていた。念願の時間をテントの中で寝るだけで満たされるとは、とても思えなかった。

 これにはさすがの綾小路君も合点行かないようで、顎に手を当てている。

 

「寝込んでいる以上、無理強いをする事情もないしそっとしておきましょう」

「……ああ、そうだな」

 

 予想外のことで、対応に困ってしまっているのが本心だ。怠けているだけなら引っ張り出すのもやむなしだったが、これでは体調不良の可能性もある。変にリタイアを招くことは避けたい。

 仕方ない。私達だけでBクラスを見に行こう。そう綾小路君に切り出そうとすると、

 

「どうかした?」

「ん? 別に何も」

 

 ……気の所為、かしら。今、違和感があったような……。

 

「日が暮れる前に済ませよう。足を捻りでもしたらかなり響くぞ」

「言われなくてもわかっているわ」

 

 

 

 

「あれ? 堀北さん、綾小路君。よくここを見つけられたね」

 

 開口一番。一之瀬さんは瞠目してそう言った。

 

「驚くことではないでしょう。神崎君の方から教えてくれたんだから」

「神崎君が? 神崎君、Dクラスの拠点に行ってたの?」

「え?」

 

 どうにも話が噛み合っていない気がする。私は念のため根底から状況を確認することにした。

 

「今日の午前中に、神崎君と柴田君はDクラスのベースキャンプに顔を出して、そっちのベースキャンプの場所を教えてくれたのだけど、あなたはそれを認知していないのね?」

「うん。点呼を終えた後神崎君と少し話をして、暫く経ってから二人がいなくなっていることに気付いたの。今まで何の連絡もなしに動いたことなんてなかったんだけど……」

 

 私の目からも、神崎君が独断行動に出るような人には映っていなかった。しかもこんな、連絡の必要性の高い無人島で……。

 

「何か心当たりはないのか?」

「それは…………」

 

 口ごもる一之瀬さん。あるけど言いたくない、のが伝わってくる。

 

「答えられないなら無理にとは言えないわ。でも、何かあったら相談してちょうだい」

「堀北さん……ありがとう。とりあえず夜の点呼まで待ってみるよ」

「別に、これで何かマズいことが起きていたら、自分がみすみすそれを放置したことになるのが嫌なだけよ」

 

 何せ、私は訴えれば裁判沙汰にできるような目に遭っているから。

 

「Bクラスは総じて、上手い具合に生活できているようだな」

 

 淀んだ空気を払拭すべく、綾小路君が話を切り替える。ハンモックや井戸の水を使うことで、少しでもポイント消費を抑えているようだった。

 

「キャンプ経験者が何人か知恵を貸してくれたおかげかな。今回の試験、自分の非力さを度々痛感しちゃうよ」

 

 ……彼女もそういう感情を抱く事があるのね。底抜けの前向きさを、勝手に解釈していたけど。

 

「他クラスから訪問者はいなかった?」

 

「いたよ」遠回しに聞くと、予想していた答えが返ってきた。「Cクラスの金田君。リーダーに酷い目に遭わされた挙げ句追い出されたって。匿うことにしたよ」

 

「Dクラスも、伊吹ってやつを同じように置いている。二人はCクラスが潜り込ませたスパイの可能性が高い」

 

 根拠も忘れずに伝えておく。

 

「やっぱりそうなんだ……。Dクラスは何か対策を考えているの?」

「保留という形になっている。一応厳重に監視は敷いてあるけどな」

 

 時間に余裕があるわけでもない。そろそろ本題に入ろう。

 

「一之瀬さん。私たちがここに来た一番の目的は、今回の試験における関係について」

「どういう、こと?」

「神崎君は平田君に、『協力の余地を残してほしい』と言っていたわ。私としては、今のDクラスは三クラス同時に相手にする力を持っていない。かと言ってこれ以上利益を分け与えたくない。だから、不干渉が理想だと思っていたのだけど、どう思う?」

 

 簡潔に自分の意見を伝えると、またしても一之瀬さんは微妙な顔をする。

 

「神崎君がそう言ったの?」

「え、ええ。もしかして、それも共有していなかったの?」

 

 どうしてしまったのだろう。これほどの認識違いを、しかもリーダー格の二人がきたしているのは、はっきり言ってBクラスらしくない。

 

「……私も、本当は堀北さんと同意見だよ。けど、彼がそう言う気持ちもわからなくはない」

「メリットも十分理解しているようだったらしいしね」

「だから……保留、になっちゃうかな。意見が分かれたまま判断は下せないっていう、ちゃんとした理由でね」

 

 協力か不干渉か。これは似ているようで全く状況の変わる問題だ。

 協力すれば、単純に総合力の高いクラスが味方になるが、いざというときにBクラスとのポイント差の縮小は期待できない。

 不干渉はと言うと、こちらで何か問題があった際に一番頼りやすいクラスを頼れない。ただ、こちらが獲得した利益をBクラスに横流しする必要性は全くなくなる。

 ただ、どちらにも共通しているのは、Bクラスからの詮索を警戒するリソースが要らなくなるということだ。

 

「わかったわ。とりあえず、今はBクラスに深入りはしないでおく。Bクラスがこちらに来たときも、話には応じるけどそれ以上は拒ませてもらう。これでいいかしら?」

「ごめんね。私達の方で決まったことがあれば、なるだけ伝えるよ」

 

 Bクラスの現状、想像していたよりも芳しくないようね。

 重い空気に当てられながら私達はその場を後にした。

 

 

 

 

 足元の視界が覚束なくなってきたところで、ベースキャンプにたどり着いた。

 綾小路君は早めの夕食をとって睡眠まで一直線のようだ。浅川君は、驚くことに結局丸一日起きなかった。

 私もさすがに疲労が蓄積していたため、残すはテントに潜るのみというところまで済ませたが、まだ二つやっておきたいことがあった。

 

「伊吹さん。あなたの知りたいことについて、少しだけ得た情報があるわ」

「なんだって? ひよりのことか?」

 

「ええ」昨夜のように彼女の隣に座る。「その前に、あなたについて聞かせて」

 

「私のこと?」

「あなた、椎名さんとはどういう関係なの?」

「ど、どうでもいいだろ。そんなこと」

「隠すことでもないなら、知る権利くらいあると思うわ」

 

 元を辿れば先に話題をだしたのは彼女のほうだ。これくらいのことは許されるだろう。

 

「……友人だ。お互いクラスに馴染めなくて、なかば意気投合した延長みたいな感じ」

「そう……あなたとだけは相性がよかったのね」

「いや、そういうわけじゃ……わからないけど、私とは似ても似つかないタイプだよ。時々何考えているかわからなくて、能天気に感じる部分もある危なっかしいやつだ」

 

 どことなく、浅川君に似ている。

 

「まさかあんたからそんな風に会話を切り出されるとは思わなかったな。――で? 私は答えたぞ。何を知ったんだ?」

 

 小恥ずかしそうに目を逸らし、伊吹さんは本題に戻す。

 

「あなたを連れてきた綾小路君。彼が椎名さんと知り合いだったみたい。龍園君といがみ合っているときに名前を出してた」

「アイツがか? ……怪しいな」

 

 案の定、難しい顔をしている。怪しいという言葉の意図は?

 

「そもそもあなた、どうして椎名さんの交友関係を探ろうと?」

「……最近妙に元気がなくて。何もしてやれることがなかったとしても、モヤモヤしたままなのは嫌だったんだ」

 

 ……なるほどね。ほんの少しだけど、その気持ちはわからなくない。

 

「それがちょうど、例の事件のころからだった」

「功労者である綾小路君が、何かしら関わっているのかもしれない。そう言いたいの?」

「他の心当たりでもあれば、話は変わるけど」

 

 接点がある時点で全く無関係とは言い難いけど、その真偽は定かではないか。

 彼がもっと普段からプライベートな話題を出していたら。などという考えをすぐに打ち消す。そこまで親しい関係を望んでいるわけじゃない。

 

「私には尚更踏み込む意味のないことのようだし、また椎名さんの知り合いを見つけたら連絡程度はしておくわ」

「ああ、それだけでいい。……ありがとな」

 

 言い慣れてない謝辞を受けるとこそばゆい。あの時の櫛田さん、こんな気分だったのね。

 別に、理由もないのに突っぱねる気にはならなかっただけだ。悩み事のようだったし。

 私はそこで思考を打ち切り、別の人物のもとへ向かう。どちらかというと、こっちが本命だった。

 

「ちょっといい? ――小野寺さん」

 

 名前を呼ばれた少女は振り返ると、人当たりのいい表情で応えた。

 

「どうしたの? 堀北さん」

「実は――」

 

 経緯も含めて、頼み事を伝える。

 

「それで私に白羽の矢が立ったんだね」

「お願いできるかしら?」

「いいよ。真っ先に頼ってくれたってことだよね? 悪い気はしないし、喜んで」

 

 小野寺さんにお願いしたのは伊吹さんの監視だ。私は早々に、トップバッターはこの人だと決めていた。運動能力と体力の高さ、綾小路君から聞いていた良心的な性格が決め手だった。

 あまり面識のない人を頼ろうとするのはどうにも緊張してしまうが、印象に違わず了承してくれたことに安堵する。

 因みに翌日についても目星はついている。信用、あるいは信頼に足る人物だ。

 これで暫くは、特にやることはなさそうだ。

 一気に押し寄せてきた脱力感に抗うことなく、私は一日を終えることにした。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 翌朝、私が真っ先に行ったのは、小野寺さんへの確認だった。

 

「特になにもなかったよ」

「そう。……」

 

 たまには邪推してみよう。聞き方を変える。

 

「綾小路君と浅川君に動きはなかった?」

「い、いや、それもなかったけど……Dクラスの人も気になるの?」

「ええ、まあ」

 

「それなら」小野寺さんは思案の後、「何人かトイレに行ってたよ」

 

「何人か……メンバーは?」

「篠原さん、佐藤さん、松下さん。大体一緒にいる面子だよね。真っ暗でもたついてたけど、美容ケア用品とかを持ち出してたのかな? 私そういうのはあまり精通していないけど……多分そんな感じ」

 

 参考になった? と聞かれるが、さすがにそれはわからない。

 少なくとも、あの二人に目立った動きはなかったようだ。

 

 

 

 折返しに突入するということで、平田君の提案で今日と明日、つまり三日目と四日目にわたり休息日を設けることとなった。

 二日間もか、という声もあったが、休息は半々で交代するらしい。昨日までにやっていたことを全員ぱたりととやめてしまっては困るというのは誰もが同意できることだった。

 とはいえ例外はいる。まず綾小路君はリーダーということもあって、合間に休みつつも適度に行動するらしい。スポットの占有もしておきたいのだろう。やる気があって何よりだ。

 私は、明日は兎も角今日は午前で休むつもりだ。理由は二つ。一つは警戒対象の一人である櫛田さんが動いていないこと。そしてもう一つは、

 

「……さすがに心配ね」

「だ、だだ大丈夫だと思いますよ! いつも、のんびりしているじゃないですかっ」

 

 井の頭さんが、私と浅川君を交互に見ながら言う。

 10時半を過ぎても一向に目を開かない。平田君の言っていた通り体調に問題はなさそうだが……本当は人目を掻い潜って行動しているのではないだろうか。

 しかし、誰の目にも触れないタイミングなどあるはずもなく、その考えは潰れざるを得ない。

 

「もし起きたら伝えておきます。堀北さんがすごく心配してたって」

「……! やめて」

「な、なんでですか?」

「少なくとも、『すごく』ではないわ」

 

 気が気でないような言い方は語弊がある。試験に支障がでるかどうかの話に過ぎない。

 因みに点呼は相変わらずだ。茶柱先生は溜息をついていたが、一応目的である監督責任に害は与えていないことが加味され、ペナルティは無しとのことだった。

 井の頭さんはきょとんとした顔の後、わずかに綻ばせる。

 

「じゃあ、ちょっとだけ心配してたって言っておきます」

「…………ええ、ちょっとだけよ」

 

 否定するだけ無駄だと判断する。

 今日の見守り役と自称する彼女と浅川君を置き去りに、テントを出る。

 

「お疲れ様、堀北さん」

「あなた……昨日は何をしていたの?」

 

 態々話しかけてきた櫛田さんに懐疑的な眼差しを向けるが、彼女はけろっと答えた。

 

「単独行動だよ?」

「それで私が、健気にお疲れ様って労うと思う?」

「えー、労ってくれてもいいじゃんつ」

 

 どの口が、と言おうとしたその時。

 突然彼女は一歩近づき、声量を落とした。

 

「あなた、誰か使ってる?」

「なっ……」

「それとも、使われてる?」

 

 隠されているものを無理矢理掘り起こそうとするような剣幕にたじろいでいると、櫛田さんはふっと悪意を消し、若干冷めた声を出す。

 

「やっぱ外れだったか。――急にごめんね。堀北さん」

 

 呆れが、混ざっているような気がした。

 社交辞令を投げて去る彼女を見て、何かが水面下で起きているのを感じる。

 しかし、そんな途方もない場所に私が踏み込めるのか。拭えない不安が心地悪かった。

 

 

 

 

 

 

「これくらいでいいんじゃない?」

 

 怠惰な声音で軽井沢さんが言う。

 

「……そうね。もうそろそろ、採れなくなってくる頃だろうし」

「他のクラスも同じことやってるはずだもんね。Cクラスがリタイアしてくれなかったら、もっとヤバかったのかな」

 

 ヤバいって何よ。

 あまり動きたくないが動かないのは興が乗らない。そう思った私はベースキャンプの付近で簡易な探索を行うことにした。今までとは趣向を変え、景観にも着目してみる。

 それを見かねた平田君が同行者に当てたのが、軽井沢さんだった。何を考えているのかしら……。

 

「堀北さん、景色とかにも興味あるんだ。意外」

「私だって、所在なく物思いに耽ることくらいあるわ。――あなたの方こそ、最近は特に大人しいじゃない。意外ね」

「は? 何それ」

 

 先に仕掛けたのはあなたでしょう。

 ただ、彼女に抱いている印象に嘘はなかった。

 

「須藤君を助けることに賛成したり、すすんで川の水を試そうとしたりするようなお人好しだとは、思っていなかったというだけよ」

「…………まぁ、言いたいことはわかるけどね。でもさ。心当たりっていうか、同情みたいな気持ちって、嘘つくのは難しいじゃん。私なりに考えていることだってあるの」

 

 考えていること――芯、なのかしらね。

 そんな風に言われると、妙に印象とズレた行動にも、何だか説得力があるように思えてくる。

 クラスに害をなさないのであれば、とりあえずそれでいいだろう。

 

「あんたさ、浅川君から何か聞いていたりする?」

「目的語がないとわからないわ」

「ほら、何か重めな話みたいの」

「…………なくはないけど、具体的な事情は何も」

 

「そっか」彼女の今回の行動のきっかけ、またしても浅川君だとでも言うのかしら。

 

「おっとと! 危なっ。今日はよく滑るねぇ」

「湿度が高いのかしら。油断すると簡単に転んでしまうわ」

 

 見上げると飲み込むような曇天。明日ごろには、危ういかも。

 場所によってまちまちなのか、ここ一帯もやはり地面が滑りやすくなっている。

 これ以上無理に歩くこともない。そう判断し、私達はベースキャンプへと戻った。

 

 

 

 三日目の終わり。

 就寝前だった私は次の監視係の当てを当たる。

 次の候補は小野寺さんと違いある程度の面識がある。その分、彼女ならきっと問題なく役割を果たしてくれると信頼に足る。

 

「ちょっといいかしら」

 

 今度は、私から話しかけることになったわね。

 

「――佐倉さん」

「あれ、どうかしたの? 堀北さん」

 

 彼女は、もう物怖じした様子もなく反応した。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

「なあおい、本当に大丈夫なのかよ?」

 

 中身の判然としない、憂慮の声が届く。

 

「そんなに私のことを間抜けだと思ってるの?」

「いや、そういうわけじゃねえよ? ただ、俺だって伊達にお前や鬼頭とつるんでないんだ。我らが姫様のおかげでな」

 

 要は「俺とお前の仲だ」と言いたいようだ。

 たかが半年にも満たない付き合いで何を言うか。それに、どちらかと言うとそっちの方が打算的だろうに。

 

「心配しなくても、やれって言われたことを手抜きしないわ。下手こいたら、あんたの崇拝するお姫様の顔が真っ赤になる」

「真っ赤になるくらいならかわいいもんだな。愉快な『お仕置き』が待ってるかもしれないぜ」

 

 ケラケラと、今まさに愉快げに笑う男。生きるのに苦労しなさそうだ。

 きっと、良くも悪くもドライなのだろう。ただ無愛想にしている自分より余程。

 そんな彼の、気楽の仮面で隠した能面を、少し羨ましく思う。……思ってしまった。

 

「まぁ簡単なお仕事だし。特に坂柳から言われてることは気にしてないさ。けど俺が心配しているのは、言われていないことについてだ」

「……っ」

「言ってんだろって。伊達に顔見てないんだよこっちは」

 

 我ながら不便な劣悪ポーカーフェイスだ。意味のない自責と、どこからきたかもわからない後悔が湧き上がる。

 それを誤魔化すように、彼女は背を向けた。

 

 

「――じゃ、行くから」

「おう、気をつけろよ。――お前もなんか言ってやれよ」

「………………ファイッ」

「ん、お? お、オー。…………俺が滑ったみたいじゃん」

 

 滑っている。実際。

 こんな男にどうして一瞬でも羨望を抱いてしまったのだろう。瞬間最汚点記録だ。

 数日ぶりの外の空気。葛城はよくもまあこんな狭っ苦しいところを拠点にしたものだ。

 ようやく島を歩き回れる。純粋な高揚、緊張。試験への不安。色々な感情が去来する。そして勿論――――。

 大きく伸びをする。身体が重い、しかしすぐに慣れるだろう。慣れてもらわねば困る。

 言われたことと、『言われていないこと』のために。彼女はゆっくりと歩み始めた。 

 

 

番外編時系列投票ver2

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  • 船上試験後、4.5巻前
  • 4.5巻後、夏休み中
  • 夏休み後
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