アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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話数も長さも閲覧数も気にせず書き続けられてる度胸と根性だけが誇りです。


余力あるトリアージ

「それが、あなたの選択なのですか?」

 

 自分がこれからどう動くのかを語ると、相手は妙に胡乱な目をしてそう聞いてきた。

 

「確かに私情だし、勝手なことだという自覚はある。だが、これはチャンスなんだ」

「第三者の介入の余地が、完全にないからですね」

 

 話が早い。しかし、それでも彼女は納得しない。

 

「あなたらしくもない。もしも綾小路君の推測通りなら侮れない手合いです。依然姿をくらませているということは、炙り出すのには相応の労力と時間が必要になるはず」

 

 時期尚早。と言いたいらしい。

 

「お父様を信じてください。きっと有益な情報を、」

「信用していないわけじゃない。オレはただ、この目で見たいだけなんだ。オレが外を渇望するきっかけ、かもしれなかったやつがここにいるなら。聞きたいことが山ほどある」

 

 視線が交錯する。譲る気はない。無茶はしない。決意と慰撫を出来る限り込めた瞳を、どうやら察してくれたようだ。

 

「……全く、妬ましい限りですね。あなたにそこまで『会いたい』などと言わせるとは」

「……? お前とは会いたい時に会えるだろう」

 

 意表を突かれたのか、彼女は途端に目を丸くする。ほんのりと赤みがさしたような気がした。

 

「そう、ですね。……ええ、はい。私たちは最も近しい距離にいます」

「お、おう」

「寄り添い合おうとすれば、いつまでも時間を共にできる。わかりやすいことでしたね」

 

 一体何の確認だ? 今更認識の共有でもしたいのだろうか。だとすれば、たった今すれ違いがないことは確認できた。彼女は一つとして間違いは語っていない。

 

「あなたの考えを尊重しましょう。ただし無理は禁物です。あなたに良からぬことがあった時、悲しむ人がいるということを忘れないように」

「……ああ、承知の上だ」

 

 激励と気遣いを口にしただけなのだろう。しかしその言葉は、綾小路の胸中を強打した。

 故に誤魔化した。『承知の上』という言葉が、言い条を理解しているという趣旨を逸脱していないことに、彼女は果たして気付かない。

 じんわりと広がる苦い感覚に嘆いていると、突然足場が揺らぐ。

 呆気なく体勢を崩した小さな身体を、綾小路は難なく受け止めた。

 

「……どうして船になんて乗ったんだ。()()

 

 彼女は加虐的な笑みを向ける。今回は何故か、妙にあどけない小悪魔に見えた。

 

「慕う殿方とのクルーズには、少々憧れがありましたので」

 

 ああ、こういう時はどうも敵いそうにない。

 自分を想う故の意趣返しに、綾小路は珍しく愛らしさを覚えた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「な、何を言い出すの?」

 

 浅川君の突拍子もない提案に、私は動揺を露わにする。

 

「そんなことをしたら、配布されたポイントは完全に失われるのよ?」

「でもここで無理をすれば、致命的な後遺症が残る可能性がある」

 

 浅川君は至って真面目な顔で譲らない姿勢を見せる。

 

「今はみんな何てことのないように見えるけど、無意識に無理をしている可能性がある。試験を続けてそれが祟ったり、急増した炭素の影響で体調が悪化したりすれば、悲惨な形でのリタイアラッシュが起こり得る。それが最悪のシナリオだ」

 

 異変が起こってから考えれば、とは返せない。それでは遅いという意味も込めた発言だとわかったからだ。

 

「大丈夫、清隆が存分に手に入れてくれたボーナスポイントと、上振れのリーダー当て加点を踏まえれば、絶望的な差は生まれない」

「しかも少数なら隠密行動を取りやすい。弱点はあるが、確かなメリットもあるな」

 

 綾小路君は納得した様子で補足を加える。思えばこの試験で彼が浅川君に同調したのは、これが初めてかもしれない。

 

「他の三人は?」

「みんなが安全に試験を終えられるなら、一考の余地はあると思うよ」

「教師が口出しする範疇ではない」

 

 二人も拒否するつもりはないようだ。

 それではもう、私が首を横に振ったところで何もならないじゃない。

 今の私に、何かを変える力なんて……

 

「……異論はないわ」

「……よし、決まりだ」

 

 浅川君の顔は、見れなかった。

 

「Dクラスは、一部を残して全員リタイアする――」

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 試験六日目、午前八時。

 慣れてきたはずの点呼が、今回は全員ソワソワしている様子だった。

 原因は言わずもがな、昨夜起きた事件だろう。Bクラスのベースキャンプにこれといった影響はなかったが、大きな破裂音と共にあがった炎は、生徒たちにとって衝撃的なものだった。

 教え子たちを安心させるためか、いつもより努めて穏やかに聞こえる星乃宮先生の通達を、皆静かに聞き入れる。

 

「昨日の爆発についてだけど、大怪我をした子はいなかったみたい。入念な確認を終えて、試験は再開するそうよ」

「ほ、本当に大丈夫なんですか……?」

「気持ちはわかるよ。でも、どうか信じて欲しい。あともう少しで試験も終わる、踏ん張りどころだよ!」

 

 彼女の発破には少なくとも効果はあったらしく、わずかだが生徒たちの表情は明るいものに変わった。

 解散直後、一之瀬は、そそくさと森の中へ消えようとする影を見逃さなかった。

 

「神崎君っ」

「……何だ?」

 

 袖を掴まれた腕は微動だにせず、低い返事だけが返ってきた。

 顔は見えない。

 

「今度は、何をしようとしているの?」

「気にするな。ただの気分転換だ」

 

 馬鹿な質問だったとすぐに後悔する。自分にすら予め連絡しなかったくらいだ。彼が正直に答える道理など、あるはずがなかった。

 

「わかんないよ……神崎君の考えていること、今は全然わかんない」

「……俺は元々、顔に出ない性格だ」

 

 そんことはない。神崎は顔に出にくいだけで、一之瀬からすればむしろわかりやすい人だった。喜怒哀楽のどれにしても、これまで神崎は自分に素直だった。

 なのに今は、こうしてあからさまに隠し事をしている。

 同時に、だからこそ彼が答える気のないことも、簡単に知れてしまう。一之瀬にとっては、至極辛いことだった。

 その心中を察したのか、抑揚の小さい声が継がれる。

 

「一之瀬、俺は、Bクラスを裏切るつもりなんてない」

「……」

「これは必要なことなんだ。だから、頼む」

 

 ああ、この男はこんなにもズルかったか。

 そんな顔で、そんな風に言われて、自分が引き留め続けられるわけがないと、わかっているだろうに。

 一之瀬に残された選択肢は、二人を繋ぐ強固な糸を模した手を、そっと放すことだけだった。

 重く遮られた日陰の奥へと飲まれていく。その姿を、拭えない不安のまま見送った。

 

「神崎君……」

「一之瀬さん。ちょっと」

 

 入れ替わるように白波から声が掛かる。神崎のことは気掛かりだが、立場上ここを離れるわけにはいかない。優先順位を悩むことはなかった。

 それに、彼女の後ろに続いている少年は、

 

「あ、浅川君」

「おは」

 

 最短の挨拶だ。

 

「調子はどう?」

「うーん……これといったことは特にないかな」

 

 神崎のことを話そうか逡巡したが、これはBクラスの問題だ。そっとしまっておこう。

 しかし、

 

「……? ……」

 

 こちらの魂胆を見抜いたのか、彼は懐疑的な目をし、熟考を始めた。

 

「……隆二……、共有していない……交換か? いや、目的……」

「えっと、浅川君?」

「……! Cクラスッ……」

 

 気になる単語が出たが文脈がなっていない。その脳内を外から覗き見ることは叶わなかった。

 ただ、つい先程までよりほんの少し、浅川の表情が硬くなった気がする。

 

「息災なら何よりだ。こっちは昨日、一悶着あったからねー」

「昨日って、あの火事のこと?」

 

 彼は相も変わらず穏やかな顔だったが、Dクラスがまさしく被害者であったことや火災は二か所で発生していたことなど、衝撃的なあらましを語った。

 

「クラスの人たちは、大丈夫だったの……?」

「幸い軽症者しかいなかったよ。ただ、あと二日間もあることを考えると厳しいものがあってさ……」

 

 二の句が出てこないが、察するにほとんどリタイアしたのだろう。要はCクラスと同種の策。

 しかし、浅川自身がこうして残っていることを踏まえると、

 

「リーダー当ては、諦めてないんだね」

「やっぱりわかっちゃうかー」

 

 数人が島に残るメリットなどそれくらいなものだ。他クラスのリーダーを当てる、その算段はついているのだろうか。あるいは、既に看破している?

 今になって協力関係を選ばなかったことが惜しい。ここでその質問をするのは不干渉の域を逸脱してしまう。今更協調に賛同しようにも、この時点で相応の対価を提示できないため向こうの利益がない。

 

「Bはー……あっはは、誰もが予想してた通りかな」良くも悪くも、という枕詞が見え隠れしている。自覚はあるため不快には思わない。

「結果的に、クラス全体の結束が大きく損なわれることにはならなかった。私から言わせてもらえば、及第点かな」

「ふーん……ボーナスポイントを失うことになっても?」

 

 ドキッとした。やはり気付いていたか、金田がいなくなっていることに。

 

「ごめん、ちょっと意地悪だった。確かにうちのクラスは何度も仲間割れをしていたし、君の言うことは当たらずも遠からずなんだろうね」

「浅川君の気持ちもわかるよ。BクラスやAクラスはポイントがある分守りに入る余裕があるけど、CクラスとDクラスにとってはここが差を埋める絶好の機会なんだもん」

 

 突き詰めた話、一方が間違っているわけではない。何故ならこの試験のテーマは『自由』なのだから。

 

「そろそろ行くよ。お互い、最後まで好いヴァカンスを過ごそう」

「――うん」

 

 火事に巻き込まれた身で、好いバカンスも何もないような……。

 他愛もない疑問を抱えながら見送りを終えると思われた時、浅川は振り向いた。

 

「……一つだけ、お願いがあるんだけどいいかな?」

 

 随分と重い表情だった。

 

「話したい相手がいる」

 

 

 

 

 

「よっし、こんなもんか」

 

 須藤は満足げというわけではなく、特に不満もなさそうに呟いた。

 

「大丈夫か? 寛治」

「ん? あー、疲れてないって言ったら嘘になるけど、これくらいどうってことないって」

「そうか。頼むぜ、あいつらは俺らのことを信じて任せてくれたんだ」

「わかってるわかってる」

 

 しゃがんでいる池の顔色は悪くない。昨日の件で憂いもあったが、残りの試験中は持つだろう。僅かに足りない分は、漢のド根性で補える。

 二人が行っているのは食料調達。他にも数名同じ行動を取っているが、須藤は運動能力、池は地形の慣れを理由に即決で選ばれた。

 

「どうしたんだよお前。何か元気ねえな。やっぱ体調悪いのか?」

「いや、俺なりに考えてみたんだけどさ。みんな悩みながら頑張ってんだなと思って」

 

 こちらは本当に気遣い、相手もしかつめらしい表情で答える。我ながら、珍しい瞬間だ。

 だからこそ、真摯に聞き遂げる気になった。

 

「俺たちなりに恩返ししようなんて浮かれたこと言ってたけど、堀北ちゃんは試験が始まってからずっと元気がなさそうだったし」

「……」

「清隆は、けっこう一人でいなくなってることが多かったよな。俺にはわかんない事情とかあるのかもしれないけど、誰の助けもないっていうのは大変なことだと思う」

 

 な? と同意を求められ、当然頷いた。自分たちは、誰の助けもなければ最初の試練すら乗り越えられなかった人間だ。

 結果的に、自分は気づかない振りをしていたのだろう。あまり難しいことがわからなくて、考えることが苦手で、足りない頭では言語化できなかった違和感をなおざりにした。でも友情がそれを許せなくて、だからあの時、堀北を誘うことに賛同した。

 燻ぶっていたものの答えが、池のおかげで少しだけ明確になった。三馬鹿と時に揶揄される自分たちの中で、彼だけはなまじ視野が広いことを密かに認めていた須藤は、改めて今ある関係のありがたみを感じた。

 傍ら、物憂げな顔をする少年を、友人として宥める。

 

「気持ちはわかるけどよ、じゃあどうすんだって話だぜ。俺らがそんなことまで考えたって仕方ねぇんだ」

「でもよ……」

 

 そもそも『誰かの施しに報いたい』という良心自体が、これまでの二人にはなかったことで、須藤は自分のそんな変化を自覚していたものの、慣れてしまったがためにそれを池に指摘してあげるには至らなかった。

 しかし、自分なりな言葉だけでも。

 

「自分に見合った努力ってのがあんだよ。俺らには上のクラスを倒す方法なんざとても思いつかねぇけど、それを手伝うことくらいならできる。堀北だってそう言ってたろ」

 

 思い起こされたのは、沖谷の姿だった。

 綾小路と浅川と違い、彼はお世辞にもバスケが上手いとは言えなかった。初心者なのだから当然なのだが、ひたむきに練習し綾小路にも助言を受けることで大きな成長を遂げることができた。須藤との差はなおも歴然なものの、そんな沖谷に今以上を強いる気は更々ない。

 あるいは、須藤たちの力も必要になると言ってくれた堀北もそれに近い教訓を以てのことだったのかもしれない。

 

「だから、俺たちが堀北にしたことはきっと正しかったんだ。それに、俺らは今まさにあいつらの助けになることをやってる最中だぜ。頭より体動かせっての」

 

 池は、納得したように深く頷き重そうな腰を上げた。

 

「……あーわかったよ。ったく、お前の場合体を動かすくらいしか能がないだけだろ」

「あぁ? 言ったなてめぇ、そっちは頭も体もへっぽこじゃねえか」

「お、俺はお前と違って? すぐに暴力なんかやらかさないし?」

「だからあれはCクラスの罠で、殴ってなんかねぇって! ……初めの方は、ちょっとやんちゃはしたけどよ」

 

 これ以上続けても埒があかない。弁舌は嫌いだし得意ではない。

「ほら、行くぞ」と、彼は強引に池の手を引く。「休憩はもう十分だろ」

 何が嬉しかったのか、池は気味の悪い笑みを浮かべて応えた。

 

「あいよ。清隆と洋介に負けてらんないからな!」

 

 

  

 

 

 

 雲は晴れない。視界も晴れない。

 須藤と池から離れ、いまだ森の中。より狭窄した空間を、綾小路と平田は歩いていた。

 

「だ、大丈夫なのかい? そんな積極的に占有をして」

「鈴音にも言われた。オレの力を以てすれば、こんな人気のない場所で監視に気付かないことはまずないさ」

「あはは……君が言うと妙に説得力があるね。信じるよ」

「え……お、おう」

 

 冗談として受け取ってもらえなかったことにショックを受ける。クソ、またジョークを失敗したか。

 綾小路は会話の片手間に、通りかかったスポットの装置にカードを通す。

 

「どのみち、リーダーを当てられる可能性は極めて低い」

「君の言う通り、二分の一にまで絞れたところでマイナス50ポイントのリスクはなくならない。加えて須藤君と池君がデコイとしても働き得る。僕が恐れているほど、占有する際の危険は気にしなくてもよさそうだ」

 

 外せば50ポイントの損失、当てれば50ポイントの利益と他クラスが50ポイントの減点かつボーナスポイントの剥奪。当てた際の影響の方が大きいものの、確率が低すぎる。

 さらに、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて、もはやこの試験のリーダー当てのシステムは機能していないも同然なんじゃないかな?」

 

 浅川が打ち明けた、リーダーに関するルールの盲点。堀北と平田は驚いていたが、綾小路は説明を受けた段階からその存在を当たり前のものとして認識していた。

 しかし、態々他人に知らせる必要はなかったのではないかというのが、綾小路の本音だ。下手に広まれば、平田の言うリーダー当ての実質不可能が現実味を帯びる。

 ただ、

 

「そうとは限らない。予めリーダーを知っているなら、そいつが乗船するかどうかを監視しておけばいい」

「船の見張り、か。でも、もしリーダーが交代したとわかっても、次のリーダーがわからないんじゃ……」

「全員が候補なら、そうなってしまうだろうな」

 

 平田が目を見開く。ここですぐに察せるあたり、Dクラスを引っ張る聡明さが感じられる。

 

「そうか……Cクラスはほとんどの生徒がリタイアしている、だったね。それが清隆君の考えだったわけだ」

 

 偵察の際に無線機を発見したこと、伊吹や金田がスパイであることなど、根拠は粗方話してある。

 クラスの性質上、指導者である龍園が島に残っている可能性は非常に高い。しかし綾小路には安心できない材料が一つだけあった。

 故に、龍園を探すという名目で、こうして平田とスポット占有兼リーダー捜索を行っているのである。

 

「龍園君の居場所に心当たりは?」

「確信にまでは至っていない。ただ、自ずと範囲は絞られる。他クラスのベースキャンプは論外、散策や調達に使われる開けた道、海岸、そして昨日の火災で環境が侵されたスペースも潰される」

 

 単に体調面の問題だけではない。広範囲にわたり火の手が伸びた以上、その跡地に人の影があれば目立ち過ぎる。身を隠せる程の茂みも残っていない。

 

「……船に戻ったという可能性は?」

「否定はできない。それならお手上げだな」

 

 嘘だ。綾小路は既に龍園が島に残っていることを確認している。

 本来なら平田に隠さなければならない状況にはなっていなかったのだ。しかし、第一のプランによる確認が不可能となったために、ここで可能性を否定すると自分の首を絞めかねない縄がかけられてしまった。

 

「心配は要らない。きっと上手くいくさ」

 

 今更不安を煽るような言葉を連ねる必要はない。全く適当な慰めをかけた。

 それがよくなかった。

 

「……それは、君が裏で独り動いているから?」

 

 思わず彼の顔を見る。

 

「何が、言いたいんだ?」

「堀北さんとも話していたんだ。今の君は、何だか少しおかしい」

「抽象的なことを言われてもわからないな」

 

 棘の刺さる感覚に蝕まれながら返す。

 

「これまでの君なら、もっと仲間のことを頼っていたはずだ。中間テストのときも健君のときも、一方的ではなく君自身が助けてもらうことを求めていたし、それが叶うことを喜んでいた」

「……」

「否定、しないんだね……ううん、できないんだ。だって、君は望んでそうしていたから」

 

 全く以てその通りだ。自分に嘘はつけない。しかし、今はそんな懐古に耽ってる場合ではない。

 

「今しなきゃいけない話か?」

「うん。僕にだって事情が、理由があるんだ」

 

 ここまで譲らない意思を見せる平田は初めてで、綾小路は内心冷たい溜息を漏らす。

 

「今回は偶々、単独行動が理に適っていただけだ。実際今はこうしてお前といるし、恭介たちだって動いてる」

「君は……何でそうやって誤魔化すんだ……」悲観的な表情だ。「それは浅川君の提案で、健君たちが進んでやっていることだよ。清隆君は、本当にそれを望んでいたのかい? 何より――」

 

 張り詰めた空気の中、平田は核心に触れる一言を放った。

 

「君は一度も、この試験で自分の考えを共有していないじゃないか」

「……」

「あんなにも能動的に動いていたのに、その内容も目的も明かさない。堀北さんにまで意図を隠して……僕は、今君が何を考えているのか、怖くすらある」

 

 暗い沈黙が降りる。久しぶりに、何と返せばいいのか、すぐに答えが浮かばなかった。

 やがて、一つの手段に辿り着く。

 

「……悪い、考えが足りなかった。残り僅かな時間だが、洋介のことを頼らせてくれ」

 

 思っても無いことを口にする。果たしてどう受け取ったのか。平田もこちらを測りかねている様子だった。

 

「じゃあ、具体的にどうするつもりだい? 特に、龍園君を見つけられた後のことだ」

 

 つくづく、今回は先手を打っておいて良かった。でなければ渋々でもこれからの動きを彼に教え、行動を共にする選択は取れなかったことだろう。

 龍園に持ちかけるつもりの()()は一人で済ませる予定だったが、下手な口を挟まない平田なら、付き添わせたところで支障は生まれない。そう判断する。

 やがて。綾小路の確信通り、二人はCクラスの王を探し当てることに成功した。

 

 そして、来る最終日。

 クラスの垣根すらも超え複雑に絡み合う思惑と感情は、結果という数値に明確に反映されることになる。

 

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