アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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思惑韜晦のポストトーテム(B)

 時を同じくして、Bクラスもまた、全員が集合し今回の試験を振り返っていた。

 Aクラスと同様途絶えを知らない喧騒。しかしその性質は、どう見ても喜色に偏っていた。

 

「ねえねえ一之瀬さん。どうして私達、あんなにポイントもらえたの?」

「そうだぜ。三位とはいえ、もっと酷い結果だと思って諦めてたのにさ!」

 

 三位、Bクラス。上位クラスとしてはいささか不足した結果ではあるが、元々期待値が低かった皆にとって、実際の点数は驚きのものだった。

 

「う、うーん。それは……」

 

 なんで?

 本当にわからない。少なくとも、一之瀬の仕業ではなかった。

 最後の点呼時、初期ポイントは200を残していた。しかし、匿っていた金田が忽然と姿を消したことから、Bクラスのリーダーを悟られたことを察した。

 これは全員で共有したこと。自分の選択によって減点を免れなくなった不動の事実を一之瀬は謝罪したが、クラスメイトたちは特に非難もせずに受け止めてくれた。寧ろ、しっかりと情報を守り通せなかったのは全員に非があるのだと庇ってくれた。

 当時は皆の温かさに感動し感謝の念を抱いていたが……

 

「リーダーを当てた……って、ことだよね。千尋ちゃん」

 

 視線が一斉に、ひ弱な少女に向けられる。

 150ポイントの予想が外れて200ポイント。ボーナスポイントが剥奪されていることを考えると、やはりリーダーが当てられていたのは事実。

 だとすれば、この誤算はBクラスがリーダー当てに成功していたのだと考えるしかない。

 まさか白波が? そんな考えが過ったが、的外れであることはすぐに明らかとなる。

 

「わ、私じゃなくて、その……」

「代わりに俺が回答したんだ」

 

 白波を庇うようにして前に出たのは神崎、その後に柴田も続く。

 

「俺が保証するよ。ずっと側で手伝ってたんだけど、神崎は頑張って他クラスのリーダーを探し当ててくれたんだ」

 

 歓声混じりなざわめきが巻き起こる。

 

「マジかよ神崎、すげぇじゃん!」

「神崎君がいなかったら、最下位は私達になっちゃうところだったよ」

 

 Bクラスにとって、今回神崎はヒーローのような立ち回りだったと言える。敗色濃厚だった状況から一矢報いてみせたのだから。

 

「……みんな、聞いてくれ」

 

 神崎は、拙いながらも全員に呼びかけた。

 

「この試験、過酷な環境での共同生活を、クラスの結束を固めたまま乗り越えられたのは、間違いなく一之瀬のおかげだ。だが俺は、みんなにも一之瀬に負けないくらいの力が具わっているいると思っている」

 

 自分の目標を達成するために、一之瀬の株を落とさないように前置きをする。

 

「俺は金田がいなくなったタイミングでリーダーがバレてしまったことを確信した。だから自分の頭で考えて、どう動けばクラスに貢献できるのか答えを出した。――みんなも、俺と同じようなことができるはずなんだ」

 

 そして、今最も訴えたいことを。期待を、放つ。

 

「俺たちがAクラスにあがるためには、全員が力を合わせなければならない。そのためには、一人ひとりが自分の考えを持ち、伝え合うことが不可欠だ。一之瀬だけに選択を委ねて、背負わせてはいけない。――どんな反論も異論も、俺たちの委員長はきっと受け止めてくれる。そうだろう?」

 

 彼の短くも情熱的な力説は、その珍しさも相まって多くのクラスメイトの心を揺らした。

 

「みんな、やってやろうぜ。一之瀬の足りない部分を俺たちで補えたら、Bクラスはもっといいクラスになる!」

「そうだね……うん、私達も頑張らなきゃ!」

「ありがとな神崎、俺も負けてらんねぇ!」

 

 柴田の明るい賛同に続いて、次々とあがる活気な声。

 Bクラスの協調性が再び、しかしほんの少しだけ形を変えて、皆を繋いだ瞬間だった。

 

 

 

 

 

 最高潮な雰囲気のまま解散し、一之瀬は神崎の背を追いかける。

 人の気配がないところまで来て、彼の名前を呼んだ。

 

「……一之瀬」

「教えてくれないかな。どうやってリーダーを当てたの?」

「……知る必要はないんじゃないか? お前は、お前にできることを最大限やった。その結果、こうしてクラスは一層の団結を得た。それでいいじゃないか」

 

 歯切れが悪い。しかし、明確な拒否に聞こえ、そんなことは初めてだった。

 

「ポイント差を考えると、CクラスとDクラスはボーナスポイントを失っていない。だから多分、当てたのはAクラス。でも、どうやってあの鉄壁を破ったの?」

 

 黙秘。どうやら答える気はないらしい。否定する根拠がないからだろうか。

 ただ、方法がやはりわからない。クラスは団結して当然と考える一之瀬にとって、派閥争いのために自分のクラスを陥れるなどという大胆な行動は想像の範疇を超えるものだった。

 

「一之瀬。俺は、もう後悔をしたくないんだ」

 

 神崎の返事は、一種の独白だった。

 

「Bクラスはお前に依存している。俺はそれを、見過ごしていいことだとは思えなかった」

「私はただ、」

「わかってる、お前は悪くない。一之瀬は一之瀬の正しいと思うやり方を貫くんだ。それが一番クラスのためになる」

 

 本心からの言葉だろう。神崎は振り返らないが、口調はとても穏やかだった。

 

「だから俺も、俺のやり方でBクラスを支える。相手を信じて良心に期待するだけでは勝てないのなら、多少の汚れ仕事は俺が引き受ける。お前はこれからも、みんなを導く光であって欲しい」

 

 優しさ、なのだろう。どこか冷たさを感じながらも、神崎の言葉は確かに一之瀬を肯定し、仲間を想う故なのだと伝わってきた。

 こんな矛盾した激励のされ方は初めてだ。どう返すのが正解かわからない。

 

「そんなこと言われても……このまま隠し事をされたら、私は神崎君とどう接すればいいのかわかんないよ。神崎君は私を信じてくれているんだよね? だったら、教えて欲しい」

 

 せめて、理由は知りたかった。彼がどうして変わったのか。胸中に秘めている思いは何なのか。信頼し合う仲間として、後ろめたいことは無しでいたかった。

 しかし、

 

「どれだけ善いことをしても、いかに善人を志しても。それ以前の誤りは消えることがない。人の善行には理由があって、それは大抵碌でもない後悔からくる。みんなも――一之瀬も、同じだろう?」

 

 見透かされたような拒絶に、一之瀬は愕然とする。

 自分が他人に手を差し伸べる理由。いくら善行を重ね、善人だともてはやされても認めない、本当の理由。

 知られたくない過去から始まった一之瀬の偽善は、今の神崎に近いものなのかもしれない。

 だとすれば、権利などなかったのだ。彼を引き留めることはおろか、心の底にしまっているものを掘り出すことさえ。

 哀れな贖いに苛まれている者どうしだと言うのに、その蓋を引き剥がすことが自分にのみ許される道理など、あるはずがない。

 

「神崎君……」

 

 小さくなっていく背中を、もう引き留めるつもりでは呼ばなかった。

 私に、彼は救えない……。

 無力感が重くのしかかる。クラスの活気さに、今は合わせられる気がしなかった。

 表面的には変わらないであろう二人の関係は、きっと見えない膜に隔てられたのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 客室に入ると、打ち合わせ通り柴田の姿が見えた。他のクラスメイトよりも一足早く安寧に立ち返る。

 

「良かったのか? みんなと一緒にいなくて」

「今を逃せば二度とないってわけでもないからな。寧ろお前のことの方が心配だよ」

 

 確かに言い出しっぺは柴田だったが、今更付き合わせてしまった罪悪感がよぎる。それを察したのか「俺はお前の意見にすすんで賛成するくらししかやってないし」とフォローされた。

 

「……ありがとう。独りか二人かでは大きな違いだ」

「そういうもんかね。――それで? 教えてくれよ。お前がどうやって成果をあげたのか」

「それは、……」

「大丈夫だって。お前の考えは十分わかってるつもりだ。多少のことには文句はつけない」

 

 と、言われても。神崎とて全てを説明できるわけではない。

 

「……本当は、Bクラスは250pになるはずだったんだ」

「え? それって……神崎にとって想定外のことが起きたってことか?」

「ああ。この50pの誤差は、恐らくリーダーを当てられたせいだ。Cクラス以外の……」

 

 AクラスかDクラスか。Dクラスとは結果的に不干渉という結論になっていたはずだ。つまり消去法でAクラス。しかし、経路が謎だ。

 Aクラスからリーダー当ての兆候は見られなかった。Dクラスが情報を流した可能性も考えたが、それにしても方法が判然としない。

 すると、柴田は新たな疑問を提示する。

 

「ちょっと待ってくれ。てことは、神崎、お前は100pの加点を見込んでいたのか?」

 

 その通り。

 神崎の予定では、Cクラスにリーダーを当てられた時点で150p。その後100ポイントがプラスされる見込みだった。

 

「Aクラス以外に、リーダーの心当たりがあったのか?」

「いや。この50pは、他クラスからのポイント譲渡によるものだ」

 

 思いもよらなかった単語に、柴田は眉を寄せる。

 

「譲渡? どういうことだ?」

「契約だ。契約によって、Bクラスは50pを手に入れたんだ」

 

 彼は瞠目し、困惑を表情に浮かべる。

 

「契約……同盟って意味だと、やっぱりDクラス?」

「違う。Dクラスは、Aクラスと取引をしていた」

「なっ――なんで神崎がそれを知ってるんだよ」

「……大事なのはそこじゃないだろう」

 

 話を無理矢理軌道修正する。さすがに疑われてしまうかもしれない。

 神崎はAクラスとDクラスが取引をしたことも、それによってDクラスがAクラスのベースキャンプに合流したことも知っていた。彼がAクラスのリーダー情報を手に入れたのも、それが関わっている。

 

「じゃあ、お前が契約を結んだ相手っていうのは……」

 

 自ずと導き出された答えに、柴田は衝撃を受ける。

 確かにこれは賭けだった。それゆえにいくつかの誤算や失敗はあったが、悪くない結果には収まった。

 

「ああ。俺はCクラスと、龍園と契約を結んだんだ」

 

 

 

 

 

 試験二日目。

 行動を開始した神崎は、最初にDクラスのベースキャンプを見つけた。そこでAクラスとCクラスのベースキャンプを知り、探索を続行した。

 柴田とは手分けをすることになり、神崎はCクラスが居座っているという浜辺にたどり着いた。

 こちらに気付いた一人の生徒が、神崎に威圧的な態度で話しかける。

 

「なんだお前は?」

「Bクラスの神崎隆二だ。龍園と話がしたい」

「龍園さんと? ……ちょっと待ってろ」

 

 何だか裏社会の門戸を叩くような奇妙な感覚だ。警戒心を強めて待機していると、やがて先の男子生徒から案内される。

 

「お前は……」

「随分と楽しそうだな、龍園」

 

 試験など関係ないと言わんばかりにくつろいでいるCクラスの王は、休息とは無縁な表情になる。

 

「……金魚の糞が何の用だ」

「糞と会話してくれるとは、見かけによらずお人好しなんだな」

「そりゃそうさ。何せこうして、クラスの仲間に至福の一時ってやつを提供してやってんだぜ?」

 

 あからさまに険悪な空気。性格上、二人が志をともにすることなどありえないし、神崎自身あってはならないと思っていた。

 

「そのわりには、露骨な仲間外れがいるみたいだな」

「仲間外れ? 何のことだ」

「金田悟。手荒な調教を受けたようだが、お前の差し金だな?」

 

 龍園はつまらなそうに姿勢を変える。

 

「歯向かう手下なんざ不要だ。信頼なんてのはクソくらえだが、最低限の統率ってもんがある」

「だから追い出した、と?」

「ああそうさ。それで? あの馬鹿がどうかしたのか?」

 

 さすがに尻尾は出さないか。金田がBクラスに居候していることを、向こうから触れてくれるのを望んでいたが。

 

「……あいつはBクラスのベースキャンプに匿っている。そして同じ時間、Dクラスにも一人、来客があったようだ。伊吹澪、Cクラスの生徒。――偶然か?」

「偶然だな。大方、惨めに追い出されて船に戻るのを、ちんけなプライドが許さなかったんだろ。そこにお人好しなお前らが通りかかった。考えてもみろ。もし俺からのスパイだったとして、どこで待っていれば拾ってもらえるかなんて推測のしようがねぇ」

 

 狂言だ。あの時間帯は探索や調達で多くの生徒があらゆる場所に行き交う。細かな推測などなくとも、他クラスと引き合わせるのは難しくない。

 証拠はない。が、ここは強く出てもいい場面だと判断する。

 

「惚けるのは勝手だが、主導権はこちらにあるということを忘れていないか?」

「ほう……何が言いたい?」

「簡単な話だ。金田を追い出すのも孤立させるのも、対応は俺たちの自由。お前にとって望ましくない結果になるだろうな」

 

 龍園は気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「ハッ、もしお前の妄想が真実だったとして、それはおかしな話だぜ。追い出すことも孤立させることもできないから、まだ匿ったままなんだろ? その現状に困り果てて、俺に八つ当たりしているのが今のお前だ」

 

 一々こちらの琴線に触れるような言い方をしてくる。神崎は眉間にしわを寄せた。

 

「今は一之瀬の方針に従っているだけだ。その気になれば、何をしてでもうちのリーダーを守り抜く」

「オイオイ虚勢を張られても困るなぁ。一之瀬に頼り切りなカス共の一介がそんな真似、」

「やるぞ、俺は」言わせるものか。それを変えるために、こうして動き出したのだ。「絶対にやってみせる」

「……クク、クハハ! こいつぁとんだ懐刀がいたもんだ。まさかBにそんな目ができるやつがいるとはな。優しさなんてものを盾に腑抜けを正当化することをやめた獰猛な目。大きなきっかけがなければそうはならねぇ。一体てめぇにはどんな物語があるんだろうなぁ?」

 

 初めて、彼は嗤った。まるで同じ世界に来たのを歓迎する野蛮人のようで、神崎は嫌悪感から身震いする。

 

「まぁいい、答える気がないってことくらいはわかる。用件があるのはお前の方だ。そうだろ?」

「……」

 

 舌打ちが零れた。スパイに情報は渡さない、そんな対立宣言をしに来たわけではないと、龍園はわかったらしい。

 もっとも、これはここに向かう間、いや、着いてから思いついた策だ。

 

「俺たちの立場は対等だ。だから……取引をしよう」

 

 本当は、こんなことはしたくない。

 しかし現状、Aクラスは沈黙。Dクラスは、不干渉の協定だけは破ってはいけない。あれは一之瀬と、堀北が起点となっているからだ。

 途端、龍園は鋭い視線を向ける。場の空気が変わった。

 

「取引……内容は?」

「お互いのリーダー情報の交換だ」

「ハッ!」強く吐き捨てた。「話にならねぇな。お前らに一方的な得があるだけじゃねぇか」

「どこが、」

「二つある。まず、主導権があるのは俺たちの方だ。リーダーを当てられる危険性を抱えているのはBクラス。それが皆無な俺の方が立場は上だ」

「なら俺が力づくで金田を追放するだけだ」

「ズレたこと言ってんじゃねぇ。クク、俺は自分の仲間を信頼してんだぜ? 命じた仕事は必ず遂行してくれると信じてる」

 

 全く似合わないことを言う。しかし痛いところを突かれた。金田の役割の結果など確信できるわけがない。神崎の言い分が通るなら、龍園の言い分も通ってしまう。

 

「そして、リーダー当てがもたらす影響は100pの差だけじゃねぇ。こっちはボーナスポイントまで剥奪される。どのみち切り捨てるものが釣り合ってねぇし、そもそもリーダー情報の交換自体メリットが見当たらない」

 

 そこで、龍園は何かに気付いた。

 

「……? ああ、そういうことか。クク、読めたぜ。テメェの考えていることが」

「……!」

「神崎、面白いことを考えたな。お前は『成果』だけが欲しかったわけか」

 

 まさか、今の短い時間でその答えにたどり着いたというのか。

 一見互いのメリットがないという点で、確かに疑念を植え付ける部分はあっただろうが、目的まで見透かされるとは思っていなかった。

 

「ずっとおかしいと思っていたんだ。本気で金田を追い出すつもりがあるなら、そもそもこんな取引を持ち出す必要がねぇ。ボーナスポイントだって失われるんだからな。お前にとっては、『自分がリーダーを当てた』という事実が重要だったってわけだ」

「……それがお前の回答に何か影響を与えるのか?」

「ああ、ああ十分に与えるとも。そうだな、俺から一つ条件を追加しよう」

 

 嫌な予感がした。自分の思惑が弱味として扱われそうな。

 

「俺たちは今日をもって全員リタイアする。本来ならそれでCクラスの持ちポイントはゼロになるわけだが、一つだけノーリスクでそれを実行する方法がある」

「それは……」

「ポイントの譲渡だ。Cクラスは現在残っている200pをBクラスに渡す。そして試験終了直前に返す」

「そんなことが可能なのか?」

「坂上から言質は取れてる。一回のみという条件つきだがな」

 

 それはそうだ。何度でも可能なら各クラスに300pずつ配られる意味が完全に失われる。龍園のように戦略として使うために、一回きりとしたのだろう。

 

「どうする? これでwin-winだ。なんなら俺が書面に記してやるよ」

 

 返事を促された。

 これは、重要な選択だ。Cクラスに多分な利益を与えるかわりに自分の目的を達成するか、諦めて金田の追放に専念するか。

 ……そんなものは決まっている。手段を選んでいる時間はない。

 

「わかった。ただし、一方に内容の誤認があった場合、もう一度だけ擦り合わせをすることも条件に追加しろ。お前がいつどこで出し抜こうとするか、わかったものではないからな」

「は? なら書面に残す意味がねぇだろ」

「契約の中身自体はな。大事なのは、お前がこの契約の存在を俺のクラスメイトに暴露することがないよう口止めすることだ。それがなければ寧ろ口頭にすべきだと思っていた。契約の履行の最終的な決定権はこちらにあるんだからな」

「ハッ、隙だらけってわけじゃねぇってことか。メリットとデメリットを理解してやがる。いいぜ」

 

 向こうも無下にはできないはずだ。成立すれば200pが確約される。

 こうして、悪魔の契約が結ばれた。

 

①CクラスはBクラスに持ちポイントを譲渡する。また、試験最終日、Bクラスは譲渡されたポイントをCクラスに返還する。

②BクラスはCクラスに、CクラスはBクラスに現在のリーダー情報を開示する。

③締結者の間に重大な認識の齟齬があった場合、一度のみ契約内容の擦り合わせ、変更が認められる。

④締結者はこの契約の存在を周知させる行為をしてはならない。

⑤契約の履行不能となった場合、責のある者が他方に賠償を行う。内容は適宜取り決めとする。

 

 

 

 

 

「マジ、かよ……お前、本当にあの龍園と契約を?」

「やっぱり、認め難いよな」

「いや、なんていうか、肝が据わってるよ、お前」

 

 経緯を聞き終えた柴田は冷や汗をかいている。

 

「あれ? でも、これ俺に言ってよかったのか?」

「それを困りたくなくて、周知しないという表現にした。お前もクラスのみんなには……」

「ああ、わかったよ」

 

 柴田なりに考えているようだ。彼はうーんと首を唸らせる。

 

「じゃあ、Cクラスのポイントがあんなに多かったのは、お前との契約が原因なのか」

「そうだ。……ただ、」

「ん?」

「……いや、お前には感謝しなければなと思ってな」

 

 契約を結ぶ時からずっと気になっていることがある。しかし、それを柴田にぶつけても意味がない。今は情報の共有を優先する。

 

「正当な理由があればリーダーは変更できる。あの時お前が気づいてくれなかったら、俺は大失態を犯すところだった」

 

 柴田はどこか複雑そうに、無理矢理納得した顔をする。

 六日目の夕方、柴田から伝えられたのは、ルールの盲点というあまりに重大な情報だった。マニュアルをよく読んで考えれば簡単に気づけるようなことだったため、自分の頭の堅さを呪ってしまったものだ。

 契約締結当時のリーダーを教えたのち、リーダーを変更すれば、龍園は自クラスの負担をゼロのまま、Bクラスに利益どころか50pの損失を与えることになっていた。

 

「最終日の朝、俺は龍園のもとへ直接出向き、契約の再検討を行った。その際いろいろあったが……Cクラスに返還する予定だった200pのうち50pをBクラスに残すことが決まった」

 

 少し言葉を濁した。本当はそれだけではなかったが、今はこれだけ伝えておけば足りるだろう。

 

「なるほどな……Cクラスは神崎との契約で150p、Bクラスのリーダーを当てて50p、あとはボーナスポイントで58p。結果は258pってことか」

 

 神崎は何も言わなかった。それは決して肯定を意味してはいない。

 一見柴田の言ったことは変哲のない真実に見える。しかし、神崎はCクラスのボーナスポイントが本当は108pであることを知っている。

 CクラスはAクラスのリーダー当てに失敗するという予言を、既に聞いていたからだ。

 別段追求するような話でもない。最低限のことだけ語っておけばいいと、神崎は判断した。

 ただ、彼の中で一つ、拭えない疑問があった。

 試験終盤、島に残っていたCクラスの生徒は三人だったはずだ。司令塔である龍園とスパイの二人。スパイはほとんどの時間を他クラスのベースキャンプで過ごし、龍園は人の目に触れないよう潜伏していた。

 なら……それほどのボーナスポイントを、一体どうやって獲得したんだ?

 答えの出しようがないと理性がわかっていても、困惑が頭の中にこびりつき、神崎は表情を曇らせる。

 それを、目の前の少年が気づいているのか。一体どんな顔をしているのか。当然そんな簡単なことにも、今の彼には気が回らなかった。

 

番外編時系列投票ver2

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