アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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お久しぶりです。

なんか、歌詞使用のガイドラインに抵触していたって話らしいんですけど、良くわからなくてとりあえずその回は一旦消して作り直しています。

あのガイドラインって著作権切れてる歌も対象になるんですか?間違いなく著作権は失われているので大丈夫だと思っていたんですが。

できるだけストックしとこうと思ってたらなかなか纏まらなくて、結局断念してプロローグだけ載せときます。ちょっと長くて申し訳ない。


二章・親指姫のワルツ
クオリア


 ある日、独り暮らしの女性は願いました。可愛い子供が欲しいと。

 

 それを聞き入れた魔法使いのおばあさんは、お金を対価に魔法の種を渡しました。

 

 女性がそれを植えると、間もなく赤と金に彩られたつぼみが顔を出しました。

 

 その美しさに魅了された女性が愛情を込めてキスをすると、チューリップの花が開きました。

 

 そこには小さな小さな女の子が一人、ちょこんと座っていました。

 

 『親指姫』と名付けられたその少女は、甲斐甲斐しいお世話を受けましたが、その優美な姿故に、波乱に溢れた顛末を迎えます。

 

 ヒキガエル、メダカ、モンシロチョウ、コガネムシ、ネズミ、モグラ、ツバメ、そして、花の妖精の王子様。

 

 苛まれては逃げ苛まれては逃げ。休みの無い数多の出会いと別れを重ねて、ついに哀れな子供は幸せを手に入れたのでした。

 

 

 ――この時までは、幸せなのだと信じていました。

 

 

 ところが数年後、親指姫は自室で人知れず泣いていました。

 

 尤も、そこはある種の鳥籠のようなものでした。

 

 不当な境遇を与えられていた、というわけではありません。

 

 寧ろ王子様の愛情は、衰えることを知りませんでした。ただ、あまりに過保護だったのです。

 

 親指姫の経緯を知ってからというもの、王子様は彼女が常に自分の目の届く範囲にいることを強要しました。

 

 お食事も、一流の料理人が二人に毎日健康に気を遣ったフルコースを提供しました。

 

 お召し物も、選りすぐりの技巧派たちによって優良のを当てがわれました。

 

 初めの方は、それは大変心地の良いことでした。危なげな動物たちに遭遇することもなく、恵まれた環境に身を置くことの幸せを噛み締めていました。

 

 しかし、どうしてでしょう。人の情緒や知識は自然と身についてしまうものです。

 

 ある時、窓の外にお洒落に並び往く比翼を見かけました。優雅な自然との戯れに憧れた少女は王子様に申し立てますが、またおぞましい害虫に襲われてしまうよと宥められてしまいます。

 

 またある時は、偶々手に取った本に、感謝の念を伝えるには手料理や編み物をプレゼントするのが良いとありました。こんな自分を選んでくれた王子様に少しでも想いを伝えたいと、厨房や仕立て屋へ赴きますが、恐れ多くてとてもできませんと断られてしまいます。

 

 来る日も来る日も、自分のささやかな願いでさえ、叶う兆しは見えませんでした。その時初めて、親指姫は幸せだと思い込んできた安寧に、疑問を抱くようになりました。

 

 井の中の蛙が大海を知らなかったように、王子様が親指姫の意志を知らなかったように、親指姫は『識る』ということを知らなかったのです。

 

 ――どうしてわかってくれないの?

 

 ――私の中身は理解してくれないの?

 

 ――この外見だけが、王子様にとっての価値だったの?

 

 一度愛したはずの男への疑惑。もっと自分の気持ちを理解してから判断して欲しいと願ったときでした。

 

 ――私は、どうだった?

 

 そう。彼女はようやく、あの冒険での自分の業と向き合いました。

 

 ヒキガエルに攫われ、親子を一目見て湧いてきたのは気味悪さでした。しかしそれは、未知の人外の姿と鳴き声を知覚した際に直感したものであって、本当にあの親子が邪な本質を具えていたとは限りません。

 

 コガネムシに攫われた時、自分を運ぶ小さな葉っぱに、チョウを括りつけたまま置いていってしまいました。今頃、川の水流や滝の落差に巻き込まれて取り返しのつかないことになってしまっているかもしれません。

 

 自分を匿ってくれたはずのネズミに何もお返しをすることなく、モグラから逃げ出したい一心で、ツバメに乗って家を抜け出してしまいました。優しいネズミは酷く悲しんでいるでしょうし、モグラは盲目にも関わらず、自分の歌声に最初に気を向けてくれた稀有な存在でした。他の者がわかっていなかったことも、もしかしたら気づいてくれたかもしれません。

 

 ――私こそ、あまりに自分勝手だった。

 

 彼女の美貌に唆された動物たちにも多少の非はあるかもしれません。しかし、今の彼女にとって、そんなことはどうでも良かったのです。

 

 自分の意志を優先して、他人を同じ道に巻き込んだ。その事実だけが、彼女の中で重くのしかかりました。

 

 僅かでもみんなの感情と向き合っていれば、幾分か救いのある旅路になっていたかもしれない。辿る場所が同じでも、それぞれに与える結末は、変わっていたかもしれないのに。

 

 償いようのない罪の意識が、少女を襲います。

 

 そして、他にも犯してしまったことはないかと記憶を辿り、その壮大な物語の最後の最後、彼女は気づいてしまったのです。

 

 ――ツバメの、別れ際の涙に。

 

 思えば、最も長らく旅のお供でいてくれたのはツバメでした。

 

 お日様が最も綺麗に見えたのも、ツバメと空を共にしていた時のことでした。

 

 追憶を終えた少女は、ツバメが自分を愛してくれていたことを知りました。

 

 愛していた故に、自分と王子様の仲を誰よりも祝っていたことを知りました。

 

 そこで遂に、彼女は大粒の涙を零しました。

 

 不細工な嗚咽は、誰の耳にも届きません。

 

 ただ、愚かな自分自身への糾弾と、ツバメや今まで巡り会ってきた動物たちに対する懺悔を胸いっぱいに広げ。

 

 哀れな子供は、誰にも明かすことなく、ひたすらに泣きわめくのでした。

 

 

 

 

 

 かつて、外を歩けなかった親指姫は、全てを書物のみで理解することに期待しました。それは彼女の現実との乖離を深めます。

 

 ふと、彼女は『名前』というものについて興味を持ちました。言葉の意味が記されたページを黙々と繰ると、『親指』と『姫』の欄を見つけました。

 

 

 ――『親指』は、『男』を意味する。

 

 

 その文字列は、不思議と彼女の妄想を掻き立てました。

 

 もし、自分が少年だったらどうなっていただろう、と。

 

 しかし、その他愛もない思考は、シャボン玉の如くあっという間に弾けました。

 

 意味のない仮定だから、というのもありましたが、それだけではありません。

 

 どちらにせよ当時の身勝手な本質が変わらなければ、きっと同じ結末になると理解できたからです。

 

 

 

 なぜならこの物語は、自分の外面(うつくしさ)に呪われた生き物によって紡がれたわけなのですから。

 

 

 

オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)

  • 止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
  • ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
  • 止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
  • ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
  • ムーリー(前後編以内でまとめて)
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