『運命の出会い』、という言葉がある。誰もが一度は聞いたことがあるであろうそれは、『運命のイタズラ』という名前の方が聞き馴染みのある人がいるかもしれない。
タイミングだけではなく、人や物の縁までありとあらゆる偶然が導く非科学的な現象。
ボクで言うなら、清隆と鈴音、椎名が対象だ。運命論者にでも転身すれば、健、沖谷、愛理もそうかもしれない。
ただ、忘れてはならない。それは必ずしも青い鳥のように幸せを運ぶわけではなく、時にこめかみを意地悪く打ち付けられるような、最悪のサプライズになることもあるのだということを。
例えば、そう――。
今まさに、ボクの身に降りかかった恐ろしい奇跡なんかが値するだろう。
『リトルガール』。
何の変哲もないその単語に、一体誰が憤慨すると想像できる?
別にボクはノロマだのマヌケだのと罵られても構わないし、タイムリーな小テスト0点事件のことを揶揄われてもどこ吹く風だ。
だからこそ、今目の前でコワーイ笑みを浮かべている彼女は間違いなく、ボクの思う中でとてつもない少数派なのだ。
だから、ボクは全く以て悪くない。
だから、決して謝ろうなんて思わない。
……だから、何で謝るべきムードが出来上がっているのか、ホント訳が分からない。
「今、私のことを何と呼びましたか?」
「利口ガール」
「嘘ですよね」
「理取るガール」
「嘘ですよね」
クソッタレが……!
二度目は発音は間違っていなかったと言うのに、何故気付けた。コイツ絶対にわかった上でもう一度呼ばせようとしているだろ。ドSここに極まれり。
いや、怒りの琴線に触れるようなことを何度も言わせるのは、いっそドМなんじゃないか? 上等だねえ。
兎にも角にも、彼女に会話の主導権を握らせてはいけない。手綱を委ねてしまったら最後、ボクは極めて合点のいかん目に遭うことになる気がする。
……。
「そ、それにしてもその杖とベレー帽、センスがいいな! 君の魅力を引き立てるのにぴったりだぜ」
「露骨に話を逸らさないでください」
「特にそのベレー帽! 画家でも意識してんのか? それとも起源に合わせて日よけか風よけ?」
「日本語通じてます?」
「後ろの三人は友達か? 随分と品が良さそうだな! ぜひ僕もお近づきになりたいもんだ」
「最初に質問したのは私なのですが……」
何故だ。今までのように流されてくれない。
こういう時に頼るべきなのは友だ。ボクは椎名に望みを掛ける。
「椎名、もうじき閉館の時間だな。とっとと身支度を済ませて帰ろうぜ」
「まだあと一時間は開いていますよ?」
「……職員もいい加減楽をしたいはず」
「さっきカウンターで爆睡していました」
「職務怠慢!?」
助け舟を求める相手を完全に間違えた。身内に追い詰められるなんて最悪な気分だよ。
四面楚歌のこの状況、万事休すか。これ以上抗う方が面倒臭そう。ボクのプライドなんて所詮は紙一枚の代物だ。
「……不快にさせたならすまん、悪気はなかったんだ。滅多に見ないような愛らしい姿だったから、思わず口に出しちまった」
「別に怒ってはいませんよ。悪意はなかったようですし」
嘘つけぶち切れてたやん。
「ほら。大人しく白状してやったんだから、君も僕の質問に答えてくれよ」
「あれはただの虚しい抵抗だったのでは?」
「折角だからいいじゃねえか。こっちも暇してたもんでね」
無慈悲に謝罪だけさせられて終わりなのは合点いかん。向こうから接してきたのだからこれくらいしてもらってもよかろう。
「君らも僕らと同じ一年生?」
「その通りです」
「ならこの話し方のまま行かせてもらうわ。その杖は……」
「くれぐれもファッションなどではありませんよ?」
「わかってるって。持病か何か?」
「はい。先天性心疾患を患っています。おかげで一人で歩くのも一苦労です」
「そっか」声音を変えることも、慰めや憐みの言葉を掛けることもしない。必要以上の気遣いはかえって相手を不快にし得る。彼女はそっちの部類だろうと判断した。
「すると後ろの三人は、ヘルパーさん?」
「そういうわけでは。三人は……真澄さん、あなたは私にとって何なのでしょう?」
「え、私に聞かないでよ」
「ふむ……『お友達』ですね」
……ボクは見逃さなかったからな。『お友達』というワードを聞いて後ろの少女がこの世の終わりを見たような顔になったのを。よくもそんなしっくりきたと言わんばかりな笑顔で答えられたものだ。
ボクは『お友達』と称された三人を見る。まだリトルガールとしか真面な会話をしていないが、この三人とも会話をしてみようか。
まずは手前の飄々とした容姿の少年に声を掛けてみる。同性だしコミュ力も高そうだ。
「よう」
「ん、俺か? 何だ」
「おう、君だ。君は……あれだ、その……金髪似合ってんな! カッコイイよ」
「……お、おう、サンキュー」
ちょっと待って。仕切り直しさせて。
今のは絶対にボクが悪い。無策に話しかけて絞り出した言葉が金髪イジリはさすがに酷い。
標的変更。今度は後ろに隠れてしまっている根暗そうな少年に声を掛ける。
「き、君!」
どうやら彼は見た目通り人見知りなようだ。無言で会釈を返してきた。
「君は……あれだ、その……長い髪だな! 切ったらどう?」
「……お前に言われたくない」
「……ハハッ! 確かに」
「髪しか見てねえのな」
違う、髪しか話を広げるタネが浮かばないだけだ。
少年二人から一遍にツッコミを受けてしまった。仕方がない、最後の一人に望みを掛けるか。
今度は「真澄」と呼ばれていた少女の方を向いた。
「何?」
不意に、先の苦労人さながらな表情が思い起こされた。
「君は……うん、あっはは」
「何で私だけ同情の目を向けられたの?」
ボクはこの四人と絶望的に相性が悪いのかもしれない。
ここまで会話に難儀を感じたのは高校ではおろか人生で初めてだ。
頭を抱えていると、四人が囲む机の上に置かれている物が目に留まった。
「それは……」
「『チェス』に興味がおありですか?」
「へえ! これがチェスってやつか。随分とシンプルな幾何学模様だな」
ボードゲームは明るくないが、いつぞや見たオセロの盤とそっくりだ。
興味深々といった風を装い、椎名を連れてチェス盤に近づいていく。
「名案を思い付いた! いっちょこれで語り合おうじゃねえか」
「チェスでですか?」
「駒を取る毎に質問をするんだ。いいゲームになりそうだろ?」
一期一会という言葉がある。隆二との一件があったことだし、今日は自分の運勢に身を任せて人と関わってみたい気分だ。
「いいのですか? 経験はほぼ皆無のようですけど」
「ルールだけなら把握している。何とかなるって」
少女は軽く思案する素振りを見せた後頷いた。
「確かに、一方的な質疑応答というのもぞっとしませんからね」
「お、乗り気だねえ。問答合戦と行こう」
交流を図るならこのほうが盛り上がるだろう。できれば少女の取り巻きも椎名も参加して欲しいものだが。
すると、少女は「ただし」と付け加えた。
「何か賭けるものがないと面白くありませんよね」
「つまり?」
「負けた方が勝った方に一つ、何でも言うことを聞くというのはどうでしょう?」
「……そいつは魅力的だな。――だってよ椎名、どうする?」
思いもよらない提案をされたボクは、逃げるように椎名に顔を向ける。
「え、どうして私に振るんですか」
「ボク負けて言うこと聞くの苦手だし。キミに任せたいなって」
「私だって嫌ですよ。それに、言い出しっぺは浅川君じゃないですか」
「こうなるなんて思わなかったんだ。同性で話を弾ませるチャンスを与えてやるってのに無下にする気?」
「もっといい条件であれば乗りましたけど、お断りします」
こうなってしまったらもう何を言っても無駄だろう。
ボクは渋面のまま目の前の少女に向き直った。
「しゃあねえな。だが、君のルールだけを通すのも不公平だ。僕からはいくつか条件を提示させてもらう」
そう言ってボクは左手の指を立てた。
「一つ、内容はその場で明確に定めなければならない。
二つ、あまりに道徳的でないと判断されれば内容を変えてもらうことは許される。
三つ、このゲーム全体の参加者はこの場に居合わせた者に限る。
これでどうだ?」
「二つ目の条件が疑問ですね。それでは罰ゲームの趣旨から逸れませんか?」
「そんなことはない。この場には裁定者が四人もいるんだぜ? 第三者に判定してもらった方がいいだろ。そこの三人が君に偏った采配をする程酷い人間には見えないしな」
「目敏いのですね。では、三つ目の条件の必要性は?」
「別にあったっていいだろ? 君は椎名に命令してもいいし、僕は君以外の三人に命令してもいい。二つ目の条件のおかげで、誰かがとばっちりで理不尽な目に遭うなんてことも起きない」
尤も、この少女はボクにしか命令するつもりはなさそうけど。
「……わかりました。それでいきましょう」
「質問には正直に答えろよ?」
「勿論です」
ボクと椎名は並んで彼女の向かいに座り、三人で盤を整え指定の位置に駒を並べた。
途中で椎名がボクの肩をツンツンとつつく。
彼女の方を向くと、なかなか不服そうな表情をしていた。小声で訴えかけてくる。
「
「そうしてくれるとありがたい」
ボクの肯定に彼女は渋々といった様子で理解を示してくれた。
悪いね。ボクだってちょっとくすぐったいと感じているんだ。辛抱しておくれ。
「先攻はお譲りしますよ」
にこやかに有栖が言った。確か先手側が有利と聞いたことがあるが……。
「余程自信があんだな。お言葉に甘えさせてもらうぜ」
強者の余裕というやつか。おお恐い。やはり相性が悪い相手なのかもしれないな。
「お手柔らかに頼むぜ。えーっと……」
「ふふっ、自己紹介がまだでしたね。私は
「浅川恭介、Dクラス。よろしくな、有栖」
最高位とド底辺。あまりにミスマッチな対戦表だ。
正直勝負は目に見えているが、できるだけ質問できるように相手の駒を倒すことだけにこだわろうか。
こうして、ポケットの中に収まってしまうような小さな戦争が幕を開けた。
……椎名、「名前呼び……」と名残惜しそうに呟くんじゃない。
「――あー、まずはー、コレだ」
右から二番めのポーンを二つ前に進める。
有栖はそれに応えるように無言で自分の駒を動かす。
「次はー、コレ」
「適当に動かしていませんか?」
「そりゃな。何がいい手かなんてわかんねえし」
二ターン目が過ぎる。
「それに、今はまだそこまで悩むことでもないんじゃねえの? 知らんけど」
キングサイドのビショップを右上の限界まで運ぶ。
相手は別のポーンを進軍させた。
ボクはキングを二つ右へ、キングサイドのルークを二つ左へ移動させた。
「キャスリングですか。一応ご存じなようですね」
「初心者あるあるってやつだな。特殊な行動にはついつい手を出したくなっちまう」
「ですが有効にはなり得ますよ。一概に侮れる一手ではありません」
そう言いつつも有栖は何食わぬ顔でナイトを前に進めた。恐らく自分の型が出来上がっているのだろう。
「よし。早速一つ目だ」
ボクは躊躇うことなく黒のポーンをどかし、そこに白のポーンを置いた。
「三人の名前を教えてくれ」
「そんなことでいいのですか?」
「初回なんてそんなもんだろ」
彼女は一人ずつ指しながら答えた。五本指全て伸ばして指しているあたり、椎名以上に丁寧な敬語も踏まえるとやはり育ちがいいのかもしれない。
「サイドテールの彼女が
「……ユニークな回答をどうも」
有栖はクスリと笑った。良い性格をしているなホント。決して髪フェチなどではないつもりだ。
「では、次は私から」
ボクと同じようにして、有栖が白のポーンを倒した。
「お連れの方について教えてください」
「Cクラスの椎名ひよりと言います。趣味は読書です」
椎名が自ら回答して応じた。
「違うクラスだったのですね。どのような経緯でお知り合いに?」
「質問は一つずつだろ?」
「あら、そうでした」楽しそうに笑う有栖を傍目にしながら、ボクは駒を動かした。
数手経ち、今度は再びボクの質問。
「椎名。キミは何か聞くか?」
「いいんですか?」
「いいのが浮かばなかったからキミに譲ってやるよ」
やれやれといった顔で彼女は了承した。小さな気遣いだということくらいバレてしまうか。
「四人の中で本が好きな人いますか?」
「私は偶に嗜む程度には読みますね。日によっては真澄さんにも付き添ってもらって一緒に過ごします」
「彼女は嫌がったりしねぇんだな。あんまし読書と縁のあるようには見えねえけど」
「満更でもなさそうにしていますよ」
「なるほど、素直になれないってわけだ」
「私に対する認識おかしくない?」
所謂『ツンデレ』というやつなのだろう。普段は嫌そうなツラをしておいていざその時には少し嬉しそうに口元を緩ませる。俗に言う『ギャップ萌え』の一種だ。
「同性で二人も同志が見つかってよかったな」
「はい。これからも仲良くできたら嬉しいです」
若干目を輝かせる椎名を微笑ましく見つめ、ボクはすぐに盤上へと意識を戻した。
続けてもう一つ相手の駒を取り質問を重ねた。
「それぞれの出会いは? ――あー、どう思っているかでも構わねえぜ」
「随分と利益のないことを尋ねるのですね」
「初対面の子と仲良くなろうとする心意気ってそんなに無価値かね?」
有栖は肯定も否定もせずうっすらと笑みを浮かべる。思わず言い返してしまったが、今のは
「……真澄さんは、私のお気に入りです。手癖の悪いところもありますが、そこもまた可愛らしいんですよ」
「へえ、愛されてんねえ」
チラッと真澄の方を一瞥すると、彼女は怪訝な表情で見つめ返してくる。滅茶苦茶不服そうだけど、ボクには勿論有栖にもあまり親しみを覚えていないみたいだ。
「君は有栖のことをどう思ってる?」
「質問は一つずつじゃないの?」
「誰が誰をどう思っているのかを聞きたいのか、明言した覚えはねえぞ」
甘いな。口先だけの勝負でボクが遅れを取るわけなかろう。
彼女はわざとらしく溜息を吐いてから答えた。
「……ちょっと事情があって、泣く泣く一緒にいるの」
「ふーん」
「聞いてきた割には追及しないのね」
「僕の質問は出会いか印象かのどちらかだけだ。何より、今掘り下げようとしても君がいい思いをしないだろ」
「変なとこで律儀なんだ……」
弱みか何かを握られているのだろうというところまでは予想できるが、そこまでだ。どんなものだったのか、彼女自身が有栖のことを本当はどう思っているのか。無理矢理答えてもらうマネはできない。
「橋本は?」
「俺は坂柳を信じているからこうしてるんだ」
「お、言い切るねえ」
短い回答からは何だか大事な内容を隠しているように感じられた。あまり『信じる』という言葉が似合わなそうな男に見えるが、純粋な信頼だったら申し訳ないな。清隆が口にした方が鵜呑みにできそうなのが正直なところだが、親交の深さの問題だろうか。
「鬼頭は?」
「俺は……自分にできるやり方で坂柳を支える。それだけだ」
「ハハッ! 見上げた忠誠心だ」
今時一高校生が異性の高校生にここまで信頼を寄せる趣旨の言葉を発するだろうか。ますます橋本の『信じる』が疑わしくなってきた。……ごめんな橋本。
とは言え、一通り話を伺って感じたことは一つだ。
「何だかんだで団結力はありそうだな」
「何だかんだと言ってしまったら失礼なのでは?」
「自分のクラスを見た上でそう言えんのか?」
「……仲は良さそうですね」
彼女がCクラスだったからこそできた論破だろう。結果オーライだ。
とはいえDクラスの南東トリオ程の仲はそうそうないはず。あ、Bクラスの方が雰囲気良いのかな。気が向いたら今度見に行ってみるのもいいかしら。
「私の番ですね」
有栖がボクの駒を取った。これで二つ目か。
「お二人はどういったご関係で?」
「ただの友達です」
「この手のことについてはいつも食い気味に否定するのな」
もしかして思っていたより好感度低い? だとしたら悲しい。
「浅川君だと余計な冗談であらぬ誤解を招きかねないので」
「まるでボクがホラ吹きかのような言い回しをしないでくれよ」
「そう見えますけど?」
「バレやすい嘘も得意ですよね」
「なあ、面と向かって言うなら否定できる悪口にしてくれる?」
キミら二人からボクがどう映っているのか、未体験な不安を覚えたんだけど。
いや、椎名の場合は冗談と嘘の境界線を朧気ながら理解しているだけマシか。
「にしても、有栖も結局生産性のないことを聞いてきたじゃねえか」
「『仲良し』になりたいのでしょう? ならば私も興味本位な質問をしてみようかと」
殊勝な心掛けだな。しかし――程々にしてほしい、というのは過ぎた願いだろうか。
「もう少し、あなたのことを聞いてみましょうか」
獰猛な笑みを浮かべてクイーンを持つな。本当に嫌な予感がする。
「……なあ有栖」
「何でしょう」
「君、けっこう強いって言われね?」
数十分後。
ボクの駒の数は見事に半分を下っていた。
「多少の自負はありますよ」と答えた有栖だが、時に弄び時に怒涛の強襲を仕掛ける彼女のプレイングはまさしく猛者のそれだ。
「お手柔らかにと言ったのを忘れたか?」
「それはただの社交辞令でしょう」
「決めつけはよくねえよ。僕は本心で口にしたってのに」
一方的な質疑応答は面白くないって言ったのは誰だよ。あと問答合戦やろうとか言ってたやつ。
「――ここは名高い進学校ですが、あなたはどこからやってきたのですか?」
「練馬」
「微妙に距離がありますね。――この学校へ来た動機は?」
「一番は進学率と就職率だな」
「なら残念ですね。Aクラスを目指して頑張ってください」
さっきからずっと矢継ぎ早な質問攻めを浴びている。
このままだとボクの情報があんなことやこんなことまで丸裸にされてしまう。勘弁してくれ。
「僕と仲良くする気、ないだろ?」
「そんなことはありません。こんなにも積極的にお尋ねしているではありませんか」
「相手が及び腰なのをわかった上で執拗に問い詰めることを仲良しとは言わねえんだがな」
念のため弁明すると鈴音の件は別だ。彼女のことを知ろうとしたのは一定の段階を踏んで最低限の理解がされていたからだ。こんな初対面からガッツリ内面を土足で荒らされて、許容できる心の広さを持っている人はそういない。
すると、有栖は顎に手を当て何かを考える素振りを見せた。
「そうですか。では――」
ボクの駒がまた一つ失われた。
そして、空気が揺れた。
「少し遠回りをしてみましょう」
ボクは息を呑み、冷や汗を掻く。
「Dクラスは、小テストで何人か赤点候補者が出ていたそうですね。中間テストはどのようにして乗り越えるおつもりですか?」
「……!」
驚愕と困惑の表情を浮かべる。
「きゅ、急に質問の流れを変えてきたな」
予想していなかったわけではない。他クラスどうしで嘘を許さない質問のチャンス。情報を得ようとすることは寧ろ当然と言える。
故に……故に――。
「……予見されていたのではないですか?」
「予見? あ、ああ、まあ考えてなくはなかったわ、うん」
「詳しいことは聞いてねえけど、残り二週間になったら勉強会を始めるっぽい。あ、予備軍たちはまた別で開催するかもって言っていたな」
ボクの回答に、有栖は懐疑的な眼差しを向ける。
「本当に詳しくは知らないんですね?」
「僕をクラスのリーダーか何かと勘違いしているようなら悪いが、そんな大それた人材じゃないんだ。それに、約束したろ? 嘘偽りなく答えるってな」
「……そうでした。ですが、私が聞きたいのはあなたのことですよ。浅川君」
「どういうことだ?」
「あなた自身はどうするおつもりなのですか?」
先程ボクがしたのと同じことだ。ボク個人のことを聞いているのだから、クラスのことを知ったところで質問の権利は消えていない。
「個別で勉強するよ。ちょうど椎名とも一緒に勉強する算段を立てようと話しているんだ。あ、有栖も一緒にどう? 両手に花でやる勉強会って楽しそうだ」
「折角ですけど遠慮しておきます。先約があるので」
「マジかよー。残念だなぁ」
見定めるような有栖の瞳に、ボクは目を逸らす。
彼女はゆっくりと盤面に手を伸ばし、ついにボクのクイーンを下した。
「チェック」
無音の空間に響いた澄んだ声。残る駒は五つだけ。また一歩、追い詰められたことを実感する。
「小テストの点数をお伺いしても?」
「ゼロ」
「あのテストで0点ですか。変に勘繰りたくなってしまいますね」
張り詰めた空気が収まる気配はない。まるで濃密な蜘蛛の糸に絡まってしまったように、ボクは身体を動かさない。
「入学試験の点数は?」
「学力には自信があるんだ。二位だったらしいぜ」
「なんと、意外にも実力がおありのようですね。小テストは手を抜いていたということでしょうか」
一人くらい頭よさそうとか言ってくれないかな。取り巻きの三人も今までで一番びっくりしているし、小テスト0点という事実の方が疑問視されない自分が不憫だ。
「まあねぇ。ホント、何で僕がDクラスなのか理解に苦しむぜ」
「自分の配属されたクラスが不服ですか?」
「当たり前だろ。学力社会のご時勢なんだぜ?」
余裕綽々に思ってもいないことを口にするが、実際のゲームは終盤。間もなくボクの敗北だ。
一通りやることを終えたのか、先程までの雰囲気に戻った有栖は、どこか退屈そうな眼をしているように見えた。
「そろそろ終幕といったところですね。寄り道はもう十分でしょう」
「お、また僕自身のことを聞いてくれるのか?」
「ええ、もっと仲良くなりたいので」
あまり熱の感じない響きで有栖は言う。
「―――しかし、どうやらあなたは
「は? いやいや、どうしてそう思うんだよ」
不意を突く一言。ここはあからさまな動揺も飄々とした態度も適切ではない。心外だと言いたげな反応をアピールする。
「気づかないとでも思いましたか? 簡単な話です。途中からはほぼ私のワンサイドゲームでした。しかしその最中、あなたも質問をする機会がなかったわけではない。にも関わらず、あなたは数少ないチャンスを全て
「おいおい、急に饒舌になるじゃねえか」
「ここまで言わないとあなたは半端なこじ付けで言い逃れをするでしょう?」
実の所彼女の言う通りだ。ボクがこれまでにした質問は有栖以外の三人や学校全体についてのことばかり。事前に教えてもらったフルネームとクラス以外、今握っている坂柳有栖についての情報は一つもなかった。
それにしても恐れいった。この一ゲームの中でそこまで見透かされてしまったとは。想定していなかったわけではないものの、正直驚いた。
「ハッ、答えて欲しいなら盤上の白い精鋭たちを仕留めてからにしたらどうだ?」
せめてもの皮肉を返すと有栖は迷わずボクの駒を殺した。
「どうぞ?」
「……oh」
もう第一線は潔く退いた方がいいだろう。面倒くさい。
「『嫌い』、だな」
「フフッ、そうですか」
ボクの回答に、何故か有栖は堪えられないとでも言うように昏く笑った。彼女が本当に笑って見えたのはこれが初めてかもしれない。
「やけに嬉しそうにするんだな。ドМ根性か?」
「まさか。愉快だっただけですよ。あなた、誰かに真っ向から嫌悪を訴えたことがないでしょう?」
「ねえ? 浅川君」とこちらの表情を窺う有栖。SとMは紙一重。彼女は今、ボクの中の『何か』を探すために、自分が嫌われることを厭わないでいる。知的好奇心万歳といったところか。
しかし――いや、だからこそ、ボクが取るべき態度は変わらない。
「嫌いな相手も嫌われる相手もいて当たり前だろ。可愛い子とは仲良くなっとくに越したことはないと思って隠していたんだが、バレちまったかあ」
ただの一般論を述べる。有栖は何も返さなかったが、依然ボクを試すような表情で見つめている。
ボクは抗うようにして、相手のポーンを取った。
「君にはいないのか? 情動を向ける相手が。家族、友人、想い人、誰だっていいぞ」
「私ですか? ……いるにはいますよ」
「珍しく歯切れが悪いじゃん」
「一度しか目にする機会がなかったので、素直に答えて善いものか憚れただけです」
一度しか?
一度きりの対面で感情を一番強く向ける相手に成り得るものなのだろうか。興味深いが……やはり、嫌いな彼女にこれ以上聞く気は起きない。
次に有栖がボクのビショップを下した。
「私のどこがお嫌いですか?」
「そんなに珍しかったか? 確かに君の美貌には目を見張るものがあるけれど、普通は誰かしらから嫌われるもんだろ」
「御託は要りません。ただ質問に答えてください」
鈴音といい、こういう人種はいつも容姿を褒めたところで意に介さない。言われ慣れているのだろうか。贅沢な悩みだ。
「うーん――大体全部?」
「フフッ、正直にありがとうございます」
もう為す術はない。ボクは最後の足掻きに彼女のビショップを取った。
「気まぐれから始まった勝負だったけど、楽しかった?」
「ええ、それはもう」
有栖は目を細めこちらに笑いかけて、答えた。
「
ボクの最後の守り人が殉職した。
「
「聞かなくてもわかるだろ?
戦いが終わってからも暫く静寂は続いた。次に言葉を発するべきなのは、目の前の少女だ。
沈黙は十数秒程で終わりを迎えた。
「さて、それでは何をお願いしましょうか」
「無理難題はやめてくれよ」
嫌な笑みを浮かべながら有栖は考える。引き伸ばされた時間が、何を命じられるのだろうという不安を増大させる。
「……決めました。私があなた方にお願いするのは」
彼女はゆっくりとこちらを指差した。
「『連絡先』の交換です」
「……え、そんなことでいいのか?」
「はい。あなたの連絡帳に嫌いな私の名前が登録されるだけでも、それなりな嫌がらせになるでしょう?」
「案外器の小せぇことをするんだな」
「なら更に酷な内容に変えましょうか」
今のタイミングで皮肉を言っても通じないか。ここは黙って彼女の言うことを聞いておくが吉だ。
「ソイツは勘弁。椎名は問題ない?」
「私は大丈夫ですよ。連絡先を交換している相手も全くいないので寧ろありがたいです」
椎名の了承を得て、ボクら二人は躊躇いもなく端末を有栖に貸した。
「プライバシーに関して無防備が過ぎるのでは?」
「機械に疎くてな。そこまでの個人情報を詰めてはいないつもりだ」
僅かに不審に思いながらも、有栖はボクらの端末を受け取った。
「いやー、敗けちまったなあ」
「その割には悔しそうではありませんね」
「あそこまで差があっちゃな。椎名はボードゲームとかやんないの?」
「私も浅川君と同じで、ルールを把握している程度ですね」
「マジか。じゃあ今度やってみようぜ」
「つまらなかったのでは?」
「別にチェス自体を否定したつもりはねえよ?」
待っている間、椎名と暫し雑談に興じていると――ガシャン、と何かが落ちる音がした。
見回すと、音の発信源は有栖の足元だった。
「有栖?」
彼女の顔を見ると、未だ見たことのない驚愕を浮かべて固まっていた。こっちには心当たりがない。椎名の方に何かあったのかな?
「え、ええ。取り乱してしまってすみません」
有栖は慌てて落とした端末を拾い上げる。一瞬、何の変哲もないボクの連絡帳が映っているのが確認できた。ボクと高円寺のように旧知の仲の名前でも見つけたのかもしれない。
「お返しします。ありがとうございました」
「おう。――っと、そろそろ閉館の時間になっちまうな。後片付け手伝おうか?」
「お気になさらず。椎名さんと仲良く帰路を往ってください」
こうして、ボクと彼女の最悪の出会いは、虚しい余韻を残して幕を閉じた。
「よーし椎名、帰ろうぜ」
「はい。あ、待ってください。本を返却していませんでした」
「おお、それやってから行くか」
ボクらは荷物を持ち颯爽とカウンターへ向かって行く。
姿を消す直前で、ボクは有栖の方を振り向いた。
「またいつか再戦しよう。できれば『将棋』がいいな」
―――――――――――――――――――――――――――――――
数分後の図書館。
坂柳は、先刻体験した稲妻の迸るような衝撃を思い返していた。
浅川恭介の連絡帳の一番上――何気なく登録されていた、一人の少年の名前。
――綾小路、清隆君。あなたもいるというのですか……? この高校に。
晴天の霹靂な可能性に、さすがの彼女も実感が追い付かず困惑が拭えない。
作られた天才の象徴である彼がここにいるのだとしたら、ぜひ会いたいものだ。
そして、必ず自らの才能を以て打ち砕く。己自身に課した使命と、父への誓いに則って。
この高校は恐らく、その舞台に相応しい場所だ。
そこまで思いを巡らして、ようやく溢れんばかりの情熱が込み上げ胸の中を満たし火照らせた。
「珍しかったな。姫様があんな表情を晒すなんて」
水を差すように橋本に声を掛けられ、坂柳はハッと我に返る。
「そういう風に見えましたか?」
「端末を落とした時なんか、神室も目を見開いてたぜ。何かびっくりすることでもあったのか?」
「……そうですね。値千金な情報を得られました」
今の彼女にとって、彼が近くにいるという事実だけでも文字通り値千金なことだった。
しかし、橋本の話はそこで終わらなかった。
「でもそれだけじゃない。浅川恭介、アイツのことがそんなに気に食わなかったか? ただのありふれたDクラスの生徒って印象だったが」
「……さあ、どうしてでしょう。自分でもよくわかりません」
「坂柳でもそういうことあるんだな」意外そうな表情をする橋本を傍目に、彼女は浅川のことを思い起こす。
五月のこの段階ではあまりにソースが少ない、正確な分析ができているかは怪しいところだが……。
期待外れ。それが正直な感想だった。
突然の来訪者に、最初こそ自分の退屈を紛らわしてくれるかもしれないと予感したものの、蓋を開けてみれば橋本の言う通り、視野の狭い三枚目あるいはひょうきん者程度の人間に感じられた。
チェスも彼自身が宣言していた通り確かに初心者の手つき。実力を隠していたようでもなければ、光るセンスが見えたわけでもない。
入学試験二位というステータスも、そもそも学年一位であった彼女からすれば取るに足らないことだ。
故に――僅かに引っ掛かる。
確かに、少々の『疑問』があることは事実だ。入学試験から小テストへの落差、端末に映っていた0ppの表示、去り際に零したセリフなど、気掛かりな点はいくつか挙げられる。しかし、それら全ては能天気な彼の気まぐれやただの偶然として片付けることができる。そもそもの話、そこに思惑や策略を差し込める程の人間がああもずさんな手の内の隠し方をしない。
そんな中、唯一坂柳の中に疑惑を持たせたのは自分自身の『見る目』だ。
彼女は観察眼にある程度の自負がある。そのスカウターは
ただ、『ような気がする』という表現から察せる通り、それ以降の彼からは一瞬たりともそのような仕草も気配も感じられなかった。
自分の思い過ごしだろうか。綾小路という存在を認識したことで多少敏感になりすぎているだけなのかもしれない。
万が一にも彼に何か秘めているものがあるのだとしたら、それは『待ちわびる情報』と共に
今はただ、あの少年の存在に幸福を感じていたい。そう、願った。
いずれにせよ、決して浅川恭介に遅れを取ることはない。坂柳はそう暫定した。
「しがない男です。実に面白くない」
「――とか思っているんだろうなあ今頃」
「何とかなりましたね」
帰り道。ある種の一仕事を終えたボクは、椎名に労いの言葉を掛けられた。
「意図せずこんなにも精神的にくる午後になるとはなあ」
「運は山あり谷ありなので仕方のないことですよ」
ここまで角度の急な山も谷も、実在したら堪ったものではない。願わくばあんな場面に二度と出くわしたくはないものだ。
ボクは大きく伸びをしながら欠伸をする。空が昏くなってきたのもあって、少し眠気が主張を極め始めている。
「それにしても驚きました。本当に他の『演技』も得意だったんですね。てっきりこの前のようにユーモラスを気取ることしかできないものだと」
「様になってたろう? 間抜けなチンピラって感じで」
「初対面の人はまず間違いなく騙されてしまうでしょうね」
親しい仲ならとっくに違和感を感じていたであろう。ボクはあの四人の様子を見てからずっと生意気なお調子者に成り代わっていた。言葉や口調までもを切り替えて。動揺する素振りや緊張する仕草なんてハリウッド級だったろうね。
一つだけ椎名に否定しておきたいことがあるとすれば、ボクは厳密には『演技』をしていたわけではない。似て非なるものなのだが……そこは個人の認識に依るところが大きいから咎めないでおこう。ネチネチ細かいやつとでも思われたら癪だ。
「言われた通り合わせておきましたけど、どうして態々あんなマネを?」
「彼女、絶対クラスのリーダー格だろう」
「風格は感じましたね」
風格だけではない。あんな凸凹な四人組が祝日の午後を図書館で過ごそうなんて無理がある。裏があるとすればやはり中間テストやクラス対抗戦のことについてだろうか。
「有栖に至っては性格噛み合わなそうだったし、変に目を付けられることはしたくなかったんだ」
「だから当たり障りのない質問ばかりだったんですね」
その通り。
もっと突き詰めたことも聞いてみたかったが、それを口走ってしまうと僅かでも頭の回る男として興味を引いてしまう可能性があったので、その芽は潰しておきたかった。まだこの時期なら分析するソースも少ないだろうから、考えが筒抜けだったなんてことにはなっていないだろう。本当はAクラスのことを探ろうかとも考えていたが、向こうがDクラスのことを聞いてくるまで我慢しようなんて思っていたらそんな余裕がなくなってしまったというオチだ。
とは言え、ボクが有栖以外のことを聞いていたのにも
ただ、ボクが有栖を嫌っていたのがバレたのは素直に驚いた。あれでボクの中の彼女に対するメンターは大分跳ね上がった。
そのことを椎名は察していたのだろう。彼女は疑問を発した。
「でも、どうして最後にあんなセリフを吐いたんですか?」
「あれは、その……ミスった」
「ふふっ、思わず言ってしまったんですね」
「ご名答。皮肉と願望のダブルミーニングってやつさあ」
さすがは椎名。ボクの愛すべきポンコツ属性を理解してくれているようだ。
ボクが去り際にあの一言を放ってしまった理由は、二つある。
一つ目は鈴音と言い合ったときとほとんど同じだ。ボクは有栖の態度や性格に対する不快感を抑えることができず、暗に仄めかす形でそれをぶつけた。余程博識でなければ『隠された意味』を気付かれることはないだろうから、あまり心配することではないだろう。と、言いたいが、有栖のことを思うと少し不安だな。
もう一つの理由というのは、ボク自身と有栖自身のことについてだ。彼女がどう思っているかは別として、あのゲームにおいてボクらは一度も
実は他にもいくつかボクのプランから逸れた言動をしてしまった。例えば有栖の提案したルールに待ったをかけて出した条件。命令権を後に引きずるなんて恐ろしいことは避けたかったために致し方なかったとはいえ、有栖に違和感を与える鍵になってしまったことだろう。
ただ、それもまた一種の間抜けと判断される材料になってくれるだろうと考えた結果、集中ぜずにユルーくタノシーく役者を熟すことを善しとしたのだ。あ、その点だと確かに『演技』の領域に収まるか。
「そもそも、目を付けられないことが目的ならそのままで良かったのでは?」
「え?」
「浅川君の外見は『間抜け』なので」
「……メンタルブレイク」
笑顔で言われた……そんな酷い言われようある? 仮にも一ヶ月仲良くしているのに。
あ、いや、一ヶ月も一緒にいるからここまで言えるのか。それなら悪い気はしない……?
「……まあ、それでも意味のあることだったと思うよ」
「そうなんですか?」
「ボク、
少なくとも今回の邂逅で、有栖は
『深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている』、か。強ち間違いではないのかもしれないな。
「それなら、恐らくあの四人には悟られていなかったと思いますよ」
「そう願っておくことにしよう。ボク自身、及第点は超えられたと思っているからね。今回のボクは――」
本当に今日は、『コイツ』にお世話になりっぱなしだな。
「ツリーチキン、だったってことだなあ」
「言い得て妙ですね」
答え合わせはしなかったが、ボクが何を言っているのかは彼女にちゃんと伝わったようだ。
今日だけで二クラスの人間と出会ってしまった。これで全クラスの誰かと真面な会話をしたことになる。そう考えると随分と刺激的な一日だった。
……折り紙、一緒にやってよかったな。
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親し気に会話をしながら並んで歩く男女を、背後からひっそりと見つめる影が、一つ。
こんなこと、本当は望んでしているわけではないのだが、事情がある故この指令に従う他なかった。
酷な人使いに人知れず溜息を吐くが、それでも与えられた任務を熟さなくてはと、彼女は二人の姿を追う。
曲がり角で姿が隠れてしまった二人を追いつくべく、電柱の側を通りすぎようとした、その時――。
クシャリと、何かを踏んだ音がした。彼女は訝しく思いながらもそれを拾い上げる。
……折り紙?
そう、折り紙だ。それも一目で何を折ったのかがわかる程によくできた、鶏の顔をした折り紙だ。鶏冠が印象的だった。
政府運営のこの敷地内に自分ら以上の若年層はいない。とすると、自分と同じ生徒の代物だろうか。
刹那の思考の後、すぐに自分の目的を思い出した彼女は、ポイ捨ての如く折り紙を軽く放り投げて再び歩き出す。
見失っていないだろうかという一抹の不安を抱えながら曲がり角を曲がる。すると――、
「おっと」
頑丈な体と鉢合わせになり、正面からぶつかってしまった。
「大丈夫か?」
声の正体は――なんとターゲットの少年だった。
「お怪我はありませんか?」と近寄ってくる少女が、彼女の顔を見て目を丸くし、その名前を呼んだ。
「神室さん……?」
名前だけでオリ主の魂胆をアシストする清隆くん。さすがは公式チート(?)。
坂柳がオリ主に騙されるオチが意外だと感じた方もいると思うんですけど、彼女が清隆病発症中だったからなのは勿論、実は今回オリ主がやっていたことは彼の『得意分野』の一つだったんですよね。
さて、超絶消化不良となった二人の勝負でしたが、今後の二人の関わりや清隆くんを巡る争い(?)はどうなっていくのか、お楽しみに。
オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)
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止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
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ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
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止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
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ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
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ムーリー(前後編以内でまとめて)