予定してたより間違えてくれなかったなあ恭介君。細部は清隆君に補強してもらいました。
さすがに日常パートの会話のほうが書きやすいですね。今回のも前半ら辺は間延びしてそうでしたし、頭脳戦は先が思いやられる……。
「おお、けっこう広い」
侘しくゴミ箱を直し、店員に謝罪を述べてから清隆と寮へ帰った僕は、自分の部屋のドアを開けて感嘆の声を漏らした。
まともな一人暮らしなど初めてだが、想像よりずっと広々としている。
早速コンビニで購入した日用品の設置、キッチンや浴室などの設備の確認を済ませてベッドに腰を下ろす。
椅子は少し硬かったから、もっと柔らかいのを買ったり座面に何か敷いたりしたいところだな。
今後長らくお世話になるであろう自室のレイアウトについてあれこれ考え、したいことや買いたいものをメモしていく。消費はなるだけ抑えたい、優先順位もきめておこう。
「〜♪」
登校初日で授業もなかった割にはかなり疲れた。バスでの揉め事からコンビニでの一件まで、衝撃的なものばかり。それでいて、刺激的だった。
賑やかだったなあ。
ここでなら、苦労は絶えずとも飽き飽きしない日々を送れるかもしれない。微かな期待を抱き、ベッドに
後ろの席に座る二人と親しくなれたのもよかった。どこか聡いところを感じる事なかれ主義の盟友。独りを好むクールビューティーもといクルーエルビューティーなその隣人。二人なら、僕のハイスクールライフに未知なる色をもたらしてくれるかもしれない。
『――オレにとって『初めて』の友達がこんなにも無下にされているのを、黙って見過ごせるほどオレは薄情じゃない』
『……はあ、許可すればいいんでしょう。あなたたちとやり合っているとため息も通り越して胃薬が欲しくなりそうね』
二人とも、なんだかんだ優しいなあ。
清隆とは三年間善き関係を続けられそうだし、鈴音は冷たい態度が鼻につくが、去り際には「また明日」だなんて言ってくれた。まずまずな結果だろう。
……あれ?
『明日考えを共有しましょう』
……そうだった。
うわ、くっそ。前向きな回想で悪魔の呟きまで思い出しちまったよちくしょう。
もし忘れたまま明日鈴音と顔を合わせていたらと思うと身の毛がよだつ。本来態々考えてやる道理はないが、暇つぶしに考えてやろう。
さて、集中集中――。
まずは焦点を定めよう――茶柱さんの発言だ。コンビニで立てた仮定に従えばあの人の言動は怪しい。
HRでの説明で、僕が最初に違和感を抱いたのはここだ。
『この学校は実力で生徒を測る。入学を果たした僕らには、十万ポイント支給されるだけの価値と可能性がある』
実力で測る……引っ掛かるのは表現のしかただ。僕らは実力を測ってもらい、認められて入学した。なのに「測った」ではなく「測る」。まるでまだ実力測定は終わっていないかのような言い回し。――僕らはこれからも測られ続ける?
だがこれは精々違和感程度の話だ。進学や就職の際、学校からの評価は確かに影響する。向こうは常に僕らの態度や成績を見て……。
いや、やはりおかしい。
この学校ではほぼ百パーセント希望する進路が認められる。態々あのセリフを強調する必要はないはずだ。
なら、学力や生活態度が重視される一般的な学校ではないのかもしれない。だったら一体、何をもってして「実力」になる?
名残惜しくはあるが、前半はここで詰みだ。後半はどうだろう。 入学した僕らには、十万ポイントの価値――。
もしかしてこれ、学校は
「……敷地内にあるものならなんでも購入可能、だったな」
十万ポイントが振り込まれたとき、僕らは確かに「敷地内」にいた。あのタイミングで支給されたのはこういうことだったのかもしれない。
待てよ。つまり僕らへの投資は既に済んでいることになる。なら、今後毎月の支給はどうなってくる?
僕らの実力が期待以上なら投資額が増え、期待外れなら減る、あるいは違約金として生徒が払わされる、みたいな感じか。
確か茶柱さんは、毎月十万ポイントが支給されるとは明言していなかった。理不尽な話だ。教師が生徒を騙すマネをするなど……。
――それが狙いだったとしたら?
明確な意志を持って彼女が僕らを騙そうとしているのだとしたら、それはすなわち「図る」ということ。
あの言葉は測定するという意味だけでなく、「この学校は(我々の)実力で生徒を『図る』(から気をつけろ)」ということでもあったのか? こんなの程度の低い言葉遊びじゃないか。もしこれが本当だとしたら……。
点と点が、線で次々に繋がっていく。
結論が出るまでに、そう長くはかからなかった。
――――――――――――――――――――――――
時刻は8時半。いくら何でも高校生が寝るには早い時間だ。
寝支度を整え、僕は連絡先の交換を終えていた盟友に電話をかけることにした。
「おう、どうした?」
え、出るの早くない? ワンコールで出やがったぞ。ちょうどいじっていたのだろうか。
「今日、コンビニでSシステムについて考えるよう言われただろう? 僕なりに考えてみたから、意見交換をしておこうと思って」
「……あ」
「あ?」
大体わかった。君も僕と同類だったな? 命拾いしたね、明日の君は僕が救ってやったぞ。
「ま、まあオレとて少しも考えていなかったわけではない。とりあえずお前の見解から聞かせてくれ」
「案外ズルいなあ君も」
「……事なかれ主義だからな」
「関係ないぜそれ」
僕が意見を伝えて清隆が修正するというやり方にすれば、然程問題はないか。
「じゃあ、僕の答えから―――」
かくかくしかじか、清隆に出来立てほやほやの回答を伝えた。
「……なるほど、学校が生徒を「図る」か。面白い考えだな。それで、どうなるんだ?」
「茶柱さんの言葉や僕らの先入観と常識を疑うなら、いくつか推測が立つ。
一つ、クラス替えは学年ごとではなく別の基準で行われる。
二つ、進路は必ずしも叶うわけではなく一定の条件がある。
三つ、ポイントで購入できるものには権利や意思といった不可視で概念的なものまで含まれる。
四つ、支給は毎月ではない、あるいは平等ではない。
五つ、ポイントの現金化は何らかの形であれば可能。
そして六つ、学校が視る『実力』は総合的なもの。
こんなところかなあ」
「筋は通っていそうだな。だが、そもそも教育機関で働いている公務員が、生徒にそんな重大な隠し事を許されるのか?」
「さあ。でも当の学校が先生に指令をだしているのなら、問題以前の話だ。あくまで教師は組織の一員としての働きをしているに過ぎない」
僕も最初はまさかと思ったが、政府運営であるなら大なり小なり思惑があっても容認される可能性は否定できない。度が過ぎればもうなんでもありになってしまうが、理に適っている範囲なら許容され得る。
「そうか。……ところで、外部との接触ができないってことについてはどう思う?」
「それは本当なんじゃない? 僕の推測が正しいなら、この学校は賛否両論な手法を取っている。外部に漏れたら間違いなく物議を醸すよ。これまでそんな話題を小耳に挟んだことすらなかったし、今まさにシステムにどっぷり浸かっている子が管轄下から出ようものなら、向こうも気が気じゃないさ」
他にも、茶柱さんの語った「財布の残高など、ポイント以外を媒介にはできない」や「いじめ問題に敏感である」などは、恐らく学校の秩序や倫理に関わるものなので、そこに嘘や詭弁を挟むわけにはいかないはずだ。
にしても清隆のやつ、外部との接触を気にするなんて、余程会いたい人か、会いたくない人がいるのだろうか。
「なら、そこは安心してよさそうか……。あ、そうそう、実はオレも引っかかっていたことがあってな」
「おお、言ってみ」
僕は君の洞察力を高く買っているからな。一体全体何に気付いたのか、聞かせてもらおう。
「お前がSシステムの成り立ちについて質問した時の先生の答え、覚えているか?」
「えーと、確か……」
『――学校側としては、紙幣を持たせないことで生徒間の金銭トラブルを未然に防いだり、ポイントの消費具合を確認することで消費癖に目を光らせたり、といった意図も含んでいる』
「あのとき先生は、トラブル防止や消費監視の意図『も』含んでいる、という言い方をした。まるで他にも目的があると言いたげじゃないか?」
あの時は何となく自分の中で納得して済ませてしまったが、どこか「隠したい意図」が潜んでいるかもしれない。
「どうして態々違和感を与えるような言い方をしたんだろう。最初から含みのある表現なんかしなきゃ、感づかれることもなかったのに」
「理由は二つ考えられる。一つ目はお前の推測を借りるが、オレたちを試したんだろうな。わずかな違和感や言葉の綾に気付くことができるのか、さしずめ腕試しといったところだ。揚げ足取りだなんて呼ばれるかもしれないが、事実を正確に見抜く能力は紛れもなく測る価値のある『実力』の一つだろう」
「敢えて濁したってことねぇ。二つ目は?」
「申し訳程度の誠意ってやつだ。出鼻の説明から嘘八百であっては、そこで過ごす生徒からの信用なんてとても得られたものじゃない。あくまで教育機関。教師と生徒の間に生まれる溝は、最小限に留めておきたいはずだ」
「今の僕らのしていること、もう微塵も信用していないやつのそれだけど……」
疑うことになるきっかけを作ったのは鈴音だから、あの子が黒幕ということにしておこう。
「もし誠意があるのなら、僕の『図る』説はやっぱ無理があるか」
「的外れってわけじゃない。嘘とブラフは違うが、騙そうとしているのは疑いようがないだろうな」
相手に間違った解釈を誘導したり、話して問題ないことだけ話して隠したいことを隠したり、嘘を用いないやり方はいくらでもある。僕も偶にお世話になっている手法だ。
「そういえば、コンビニの前で赤髪ヤンキーと言い合ってた人たちもおかしなことを言っていたね」
「それはオレも気になっていたんだ。『惨めな不良品』、『Dクラスは地獄を見る』。素直に受け取るなら、Dクラスに配属されたオレたちは学年の中で格下で、今後何らかの不利益を被るということだな」
「だからうちのクラスは三枚目みたいなやつらが多かったのかな。ここまでくると、クラス替えの予想は益々信憑性が高まってきたなあ。個別かクラス毎かはともかく、定期的に実力順で入れ替わるってところか」
「惨め」だの「地獄」だのと表現するくらいだから、余程痛い目に遭うのだろう。しかし一切の説明もなく「お前ら不良品って評価されたから三年間地獄みたいな生活送れよ」なんて鬼畜なことをさすがの我が校も言わないと信じたい。テストや行事などの節目には査定を控えているはずだ。
大方結論はまとまったようだ。一番のミソは、この学校は実力至上主義であり、それによって境遇の変化が起こるということ。境遇というのは恐らく支給ポイントの量や受けられるサービスの質だろう。
しかし、疑問が綺麗さっぱりなくなったわけではない。
「Dクラスが落ちこぼれだとしたら、平田や櫛田はどうなる? 教室での様子からして、性格に難ありってことはなさそうだけど」
「そこまではわからないな。ただ、あの手のタイプはストレスが溜まりやすいと聞く。それが祟って何か問題行動を起こした可能性はあるだろうな」
やはり根からの善人はいないというわけか。そりゃそうだ、何かを取り繕ったところで、必ずいつかどこかで綻びは出る。
そうして、演じることに疲れていくんだ。よくもまあ、僕らはそんな面倒な生き方を進んで選ぶ。
「もしもし、恭介?」
「ごめん、己との闘いに没頭していたんだ。そういえば、不良品扱いだと知って君は動揺の一つもしてなさそうだね。不満とかはないのかい?」
「逆にあると思うか? オレがこれといった取り柄のない平凡で地味な高校生なのは、今日一日だけでも理解できただろう」
「万が一そうだったとしても、底辺かもしれないとなれば多少はショックを受けるものじゃない?」
「自分の技量がどの程度なのかはわかっているつもりだ。己を知らざれば戦う毎に必ず危うしと言うくらいだからな」
まさか論語を持ち出してくるとは。孔子様の教え、意外と響く言葉があって好きだったな。
「そういうお前こそ、当然のように受け止めていなかったか?」
「僕はどちらかと言うと興味がないって感じ。進路が通るかわからなくなったのは痛いけど、逆に言えばそれくらいかもしれないってことだし」
僕らの想定している害は精々進路とポイント程度。他の点で他校との違いはない。
うちの高校の評価基準が特殊だったとしても、最終的に合否を決めるのは大学や企業だ。過程がお陀仏にでもならない限り、最後の最後で結果を出せば特別心配することはないだろう。
ポイントの支給が0になったとしても、救済措置であろう無料商品で乗り越えられるはずだ。後日確かめるつもりだが、食堂の方にも無料で食べられるものがあるに違いない。生存権は万人が持つものだ。
困窮した生活になろうとある程度は耐えていける自信がある。
ただ、僕らなんかよりも気に掛けるべきやつがいる。
「懸念すべきは鈴音か」
「あいつはプライドが人に化けた女の子だからな。伝えていいものか迷うところだ」
クルーエルビューティー最大の特徴にして致命的な短所たるあの傲慢さ。他人を人として見ているかも怪しい言動の数々。無自覚かはさておき、彼女の自意識が異常なまでに高いのは理解に難くない。
そんな彼女に「僕らの予想だとお前不良品だぜ(笑)」なんて言ったらどんな顔をされることやら。どれだけオブラートに包んだとしても、眉間の皺が深まることは不可避だろう。
「だけど……言うべき、なんだろうなあ」
「他に筋の通るでっち上げは、できそうもない」
逃げ道無し、
それに、彼女の数少ない交友相手としてできるだけ誠実でありたいという気持ちもある。隠さなくていいものを隠すのはあまり賢くない選択だ。
「あいつの性格には困ったものだな。高校生活初日から人様の御機嫌取りを考えなければならなくなるとは思わなかったぞ」
「あっはは……ちょっと度の強めな反抗期と思えば、可愛いく見えてくさ。きっとあの子は素直になれないだけだよ」
僕は教室での彼女との会話で「取り付く島もない」と感じたわけだが、何も冷たい態度だけでそう判断したわけではない。
「取り付く島もない」の語源は、航海中に立ち寄れる島がなく怯んで困り果ててしまっている状況からきている。頼れるものがないということだ。
鈴音を見ていると、どこか孤独で怯えているように感じるのだ。僕なんかに同情されるのは癪かもしれないが、可哀想に思った。
かつての彼女には心から尊敬したり頼ったりすることのできる人がいたのではないだろうか。今の彼女が周りを見ようとしないのはその反動なのだと思う。見えなくなってしまった、のかもしれないが。
「骨が折れそうだな……物理的にも」
「否定しきれないのが恐いところだけど……人間関係なんて行き当たりばったりなものさ。誰にだって成功や失敗とか、結果の良し悪しというのはある。少なくとも、僕らなら程々に上手くやっていける。そんな気がする」
鈴音が誰かに歩み寄れるようになるために必要なのは、目的地となる島、帆、そして羅針盤だ。
島は僕では力不足だ。面識も浅いし、そこまで出来た人間じゃない。
帆にも向いていない。壊れないことに定評があるが、不安定だ。
となると、僕がなれるのは、
「きっと、大丈夫さ」
小さなきっかけくらいなら与えられるかもしれない。僕にとって最も面倒なのは、それにさえ逃げてしまうことだ。
今はまだ、前向きな期待を抱けている。それが善い方向へ繋がることを、密かに願った。
次回はもしかしたらtipsを出すかもしれません。恭介君の出生辺りの掘り下げをするかも、しないかも。投稿は一週間以内が目標です。
オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)
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