アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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更新遅くなるとか言っておきながら、現実から逃げるように執筆に走ってしまう今日この頃。嫌なことから逃げ出して、何が悪いんだよ!(某シンジ風)

なんて言い張ってますけど、書き終わっていた話が一度消えてしまってめっさ心抉られました……。

まあ一応完璧こじ付けな理由をあげますと、実はこの作品、けっこう後の方で明かされるような伏線が既に張られてまして、その中身を忘れてしまいそうなんですよね。まあだいたい二章までで一区切りつくんですけど、自分のペースだと時間がかかりそうですし。


セカンダリ(後編)

「――ところで、浅川君」

 

 今度は椎名が徐に口を開いた。

 嫌な予感がしたボクは恐る恐る応答する。「な、なんだい?」

 

「私は今、甚だ不満に思っていることがあります。わかりますか?」

「……やだなあ。いくらボクの見た目が中性的でもキミ程の美貌は――」

「全然違います」

 

 平生の彼女とは違った強い圧で詰め寄ってくる。

 冷や汗が噴き出るが、それこそがボクの予想をより一層確定づけていた。

 

「神室さんも、名前呼びなんですね」

「……だって呼びやすいんだもの」

 

 隆二だけならまだしも、同じ女子である真澄まで名前呼びされたことで我慢の緒が緩んでしまったようだ。ホワイトルームのメンバーで唯一苗字で呼ばれているという事実も彼女の感情を嵩増しさせる要因となったのかもしれない。

 

「ねえ、呼びやすいってどういうこと?」

 

 ボクの性をまだこれっぽっちも知らない真澄が問う。隆二が代わりに答えた。

 

「浅川は、どちらが呼びやすいかで名前呼びか苗字呼びかを決めているんだ」

「ああ、変に距離感近いなって思ってたけど、そういうことだったのね」

 

 どうやら彼女も名前呼びには精神的な近さを感じてしまうらしい。地元の母校ではそういう人はいなかったのだが、都会と田舎のギャップだとでも言うのだろうか。

 

「椎名がそこまで言っているんだし、もう名前で呼んであげればいいじゃない」

「うーん、でもなあ。そう簡単な話でもないのよねえ」

 

 わけがわからないといった感じで首を傾げる真澄。しかしこれは本当の話だ。

 四月の頭の初対面の時点で、ボクはいつか自分の意思で椎名を名前呼びすると本人に向かって宣言している。

 「うう、そうですよね……」それを覚えていないわけでもない椎名は肩をすくめるしかなかった。

 

「今ここで呼んでもらえても、それは望んだ形ではありませんもの」

「そういうこと。無意味になってしまう」

 

 やはりちゃんとわかってくれてはいるようだ。彼女の要請に折れて「ひより」と呼んだとしても、そこに親しみや情愛の意味が含まれなくなってしまう。椎名にとってもボクにとっても、それは全く以て救われない。

 

「いつまでも待っていますからね、浅川君」

「ん。今年中には頑張ってみるよ」

 

 こういう抱擁感のある彼女の温かさは好きだ。普通の人ならどれ程簡単なことなのかは知らないが、少なくとも今までの自分からは逸脱した行為。それを何とかしてやろうと言うのだから、椎名の寛容さはありがたかった。

 すると、その様子を眺めていた真澄が口を挟んだ。

 

「……やっぱりあんたたちって、仲が良いのね」

「お。そう見える?」

「前見た時から思っていたわ。二人して物腰柔らかくて腑抜けてそうなイメージがあるけど、何だかんだ解り合っているような気がするから」

 

 それはどうなのだろう。椎名の天然さ加減にはボクも置いていかれそうになることがあるのだけど。

 まあ、『仲良し』と言われて悪い気はしない。

 それは椎名も同じようだ。

 

「ふふ、ありがとうございます。――ですが、それは神室さんも同じですよ」

「え?」

「私は、神室さんも神崎君も、かけがえのない友人だと思っています」

 

 愚直な言葉と共に笑う彼女を前に、真澄は照れくさそうに目を逸らし「そう」とだけ応えた。隆二は穏やかな表情で彼女の告白を受け止めている。

 ボクは――椎名らしいなと思った。こう言うとまたお得意な駄洒落になりかねないが、他に言いようがない。心を開いた相手には素直に好意を伝える。Cクラスの面子に埋もれてしまっているのが勿体無いくらいな魅力だ。

 本当に、勿体ない……。

 

「ま、これだけの時間狭い部屋で共に過ごせば、気の許せる友人くらいなれるものさあ」

「そうだな。最初はどうなるものかと心配しないわけでもなかったが、今ではけっこう気に入っている」

 

 男子二人で口を揃える。それ程までに、ここには確かな温もり――『色』があった。

 嗚呼。やはりホワイトルーム(真っ白なキャンバス)の上でこそ、人の紡ぐ(物語)が際立つ。改めて、三人を誘って良かったと実感する。

 和やかなムードと視界に映る表情を見て、人知れず息を漏らす。

 他人が自分の懐に優しく踏み入ってくれている。その感覚がこそばゆく、心を委ねたくなる程に愛おしかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 黄昏。茜色の空はほとんどその灼熱を潜め、間もなく長き昏さに包まれようとしていた。

 

「で、話って?」

 

 既に椎名と隆二は各々の部屋に帰った。残っている客はただ一人――。

 

「わかってるでしょ。何あれ? 色々びっくりしたんだけど」

「なかなかいい出来栄えだったろう。折り干支」

「違うって。――あ、でもそれもそう。私はあの時鶏しか見てなかったから」

 

 真澄は話があるとだけ言って、片付けもせずこの場を去ろうとはしなかった。

 あの時、というのは椎名との帰り道でのことだろう。

 

「いやあ、落し物を探している最中にばったりでくわすなんてなあ」

「まさかあんな迂闊なことで尾行がバレるなんてね」

「有栖の差し金かい?」

「他にあると思う?」

 

 失踪した我が相棒、ペーパーチキンを捜索すべく、椎名と元来た道を引き返していたところ、真澄と曲がり角でぶつかってしまったのだ。

 幸いにも彼女が見つけてくれていたため、事件はすぐさま解決した。彼女を勉強会に誘ったのはその時だ。

 

「彼女に目を付けられるようなことをした覚えはないんだけどなあ」

「わからないけど、坂柳があんたを特別視していたようには見えなかった。でも、端末を落とした時の顔は、見たことなかったから驚いたわ」

 

 有栖のお眼鏡に適う存在などと自惚れるわけではないが、彼女はたとえ相手が劣っていようと娯楽(おもちゃ)としての価値を見いだせれば興味を持ってしまう少女だ。万が一が起こってしまったかと危惧していたが、真澄の言葉を信じるなら問題はないだろう。

 ただ、すると次に疑問となるのが、有栖が真澄を差し向けてきた理由だ。

 ボクと連絡先を交換している仲で、彼女にああも情けない顔を晒させられる人物……。

 

「……なあ、真澄」

「なに?」

「もしかしてキミ、こう頼まれているんじゃないか? 『清隆という少年の情報を手に入れろ』って」

 

 ボクの唐突な指摘に、彼女はあからさまに動揺した。「何でわかったの?」

 

「えー、勘?」

「それだけ……?」

「あいつ一番仲いいし」

 

 厳密に言えば、一番凄いやつだと思っているからだ。彼が有栖と対峙してどちらの方が優れているかなど知るわけないし興味もないが、もし彼女が関心を抱くのだとしたら、清隆が最も可能性があると踏んだだけのこと。

 …………いや、だがしかし、そうなるとどうにも()()()()()な。

 一人になったら少し考えてみるか。

 

「じゃあ最初からこっちの魂胆は全部お見通しだったってわけね。残念」

「ん、何が残念なんだ? さっきまで一緒に過ごしていた仲なんだし、普通に聞けばいいじゃないかあ」

「いいの?」

「やぶさかではない」

 

 友達のよしみ、ということにしておくが、実際ここで拒否するメリットはゼロだ。有栖が清隆を認識してしまった時点で、遅かれ早かれ二人の邂逅は免れない。強いて言えばボクが考えなしに端末を貸してしまったことが失態だが、ボクが二人の関係を知る由もないので、客観的に見て責められることではない。

 ボクは真澄に、清隆の性格や人となり、鈴音の勉強会に参加していることなどをかいつまんで説明した。

 

「――こんなところだなあ」

「ん、ありがと」

「もう聞きたいことはないなあ」

「うん。――って、そんなわけないでしょ」

 

 お、いいじゃん、ノリツッコミ。ボクの冗談に対する新たなリアクション担当の発掘だな。

 

「最初はあんたのこと、勉強ができるだけで驕ってるお調子者程度にしか思ってなかった。でも今日の浅川は全くの別人。口調も仕草も、語彙まで変わっていて違和感が凄かった」

「あれくらいの演技お手の物さあ」

 

 要らぬ誤解を隆二に与えぬよう努めていたようだったが、ボクの第一声を聞いた時の、真澄の呆気に取られた顔は面白かった。

 

「坂柳でさえ出し抜く技術。あんたの実力ってどれ程の物なの?」

「偶々得意分野だっただけだよ。実際チェスはボロ負けだったろう」

「じゃあ、将棋なら勝てる?」

「どうだろうなあ。まあ『得意』とだけ言っておくよ」

 

 有栖の将棋のお手前を知っているわけではないので、断言するのは気が引ける。ただ、恐らく勝てるだろうという自信がある。チェスとの決定的な違いが、大きな差異をもたらすはずだ。

 真澄は疑うような眼差しを向けている。どうやらはぐらかされたとでも思われたらしい。

 これ以上の追究は無駄だと判断したようで、彼女は話題を切り替えた。

 

「それと、この伽藍堂な部屋はどういうわけ?」

「片付いてるよなあ」

「0ポイントなんじゃなかった?」

「物を買ったなんて一度も言っていないぞ」

 

 部屋に招き入れているのだし、隠し立てする内容でもなかったので、ボクの十万ポイントの行方を手短に話した。

 

「……あんた、変わってるね。普通全額渡そうとなんてしないわよ」

 

 あり得ないといった表情で真澄は言った。あの常識人の領域である沖谷にまで言われているのだから、やはりおかしな行為なのだろう。

 しかし、次に彼女が見せたのは少し物憂げな顔だった。

 

「それだけ綾小路って人たちのこと、信頼してるってこと?」

「まあそう捉えることもできるなあ」

「ふーん。ちょっと凄いかも」

 

 『凄い』、か。曖昧だが、悪い感情を抱いていないことだけは確かだ。自分の有栖たちとの関係と比較しているのだろうか。一目見た時から、一般の友達付き合いとはズレを感じてはいたが。

 

「……キミは、どうして有栖と一緒にいるんだい?」

 

 以前と同じ問いをする。しかし今回は、前とは違い神室真澄という人間への興味から出たものだった。

 ボクは、真澄は有栖に何かしらの弱みを握られているためにこうして嫌々ながらも協力しているのだと見ている。その事情とやらが、単純に気になった。

「それは」ただ、彼女にとってそれは相当後ろめたいものらしい。「……言いたくない」

 

「……そうか。まあ気長に待っているよ。キミが自分自身のことを語ってくれる日をね」

 

 ありきたりな言葉を返す。

 誰でも言えるようなことだけ言って会話を切るのは、あまり好きじゃない。物足りなさを感じたボクは、何か他に掛ける言葉がないか模索する。

 そうして脳裏に浮かんだのは、勉強会を通して生まれた取っ掛かりだった。

 

「また来なよ。今度は情報収集とか、有栖の指示とか抜きにさあ」

 

 俯きがちになっていた顔を彼女は上げる。こうやって間近で真っ直ぐ向き合うのは初めてだが、思いの外瞳は澄んでいた。

 

「少しは楽しかったろう? 気の置けない仲どうしで過ごす時間って、気がついたら馴染んでしまっているものなんだよ。それはとても幸せなことだ」

「でも――」

「椎名と隆二も歓迎していた。二人共キミを必要としているのさあ。自分の幸せのために……。だから、今度はキミ自身の心の穴を満たすため――自分の幸せのために、ここにおいで」

 

 真澄は「スリル」という単語に反応を示していた。やはり心のどこかで、平らな人生に刺激を求めている節があるのだろう。

 なら、その空白をどう埋めるのか。簡単な話、自分独りで補えないのなら他人にそれを求めても罪はない。

 押しつけがましいとは思わない。他人に関心を持たない人間は、その価値に気付く上で結局他人を必要とするしかないのだから。鈴音がいい例だ。ボクと清隆がいなければ、今頃勉強会なんてクソくらえな状況だっただろう。

 真澄は一瞬目を見開いた後、暫し虚空に視線をやりむつかしい表情をしていたが、やがてこちらを見つめ直しぶっきらぼうに答えた。

 

「…………まあ、気が向いたら」

「おう、どーんと構えておくよ。『おかえり』って言って出迎えてやらあ」

「……それも気になってたんだけど、どうしておかえりなの?」

 

 彼女の前で椎名に対しても使っていた挨拶だ。

 どうしてと言われても、至極単純な理由だ。

 

「帰る場所で誰かが待っててくれているって、とても素晴らしいことだとは思わないかい?」

 

 独りで生活している人は決して少なくない。ただ、『おかえり』と微笑んでくれたり『ただいま』と伝えられる相手がいるというのは、きっと誰であれ望ましいと感じることだろう。

 ボクが本心でそう言ったことを悟った彼女は、そっと表情を緩めた。

 

「悪い気は、しないかもね」

「はっはは、だろう?」

 

 聞きたいことは全て聞き終えたようで、僅かな余韻を経て真澄は帰り支度を始めた。

 初めは鈴音と似て堅物なのかと思っていたが、そんなことはなかった。真澄は他人を拒絶しているのではなく、触れ合い方を知らないあるいは積極的でないだけなのだろう。先までの彼女の様子を見て、ぼんやりとそう思った。

 ふと、彼女は手の動きを止め、こちらを見る。

 

「そういえば、良かったの? 私が坂柳に言われてここにいるって知ってたなら、あんたの演技や人付き合いがバレちゃうっていうのも想像できたと思うけど」

「ああ、それかあ」

 

 現に勉強会に誘うまでは、彼女に対して同じ演技を再び行っていた。にも関わらず今日は終始普段通りの態度で彼女に接したことに、疑問を抱くのはおかしいことではない。

 ただ、ボクからすれば、何ら矛盾のないことだった。

 

「確かに有栖に色々知られるのは痛いけど、それが他人と交流を深めること以上に大切なことだとは思わないよ」

「天秤にかけた結果ってこと?」

「言い方は好きじゃないけど、間違ってはいないなあ」

 

 他の子らがどう考えるのかはわからないが、ボクは前者より後者を優先する人間だったというだけのことだ。そもそも、ボクが有栖を騙したことがバレようと正直もう()()()()()()()()()()なので、あの時真澄を誘わない方が後悔するだろうと思いこういう選択をしたのだ。

 真澄はボクの回答にこれまた不思議そうに首を傾げていた。

 

「あんた、やっぱり変わってる。他人と関わるために隠し事を諦めるなんて」

「そこまでー?」

「うん。前会った時のあんたの方がまだ常人らしかった」

「辛辣な褒め言葉をどうも」

 

 因みにあの演技の土台は健だ。それも、人情を抜き取った健。すなわち残念な不良だ。

 真澄は残り僅かとなっている片付けを再開し、その傍ら口を開いた。

 

「でも、どちらかって言うと今のあんたの方が好きよ」

「愛してくれてありがとう」

「話してて気疲れしないから」

 

 あ、スルーされた。

 ネタだとわかっているのならもう少し慈悲のある返しをしておくれ。ノリツッコミ枠として期待しているのに。

 にしても、今の方が話しやすい、か。この子は気付いているのだろうか。遠回しに「自分は変人の方が話しやすいです」と言ってしまっていることに。

 まあここでそれを言ってやる程ボクは無粋な男ではない。

 

「ボクは元々、あの四人の中ではキミが一番好きだったよ」

「は、なんで?」

「さあ、何ででしょう?」

 

 両手を広げておどけてみせると、彼女は溜息を吐くだけで何も返さなかった。少なくとも、ボクも恋愛感情を込めて言ったわけではないということはわかってくれているはずだ。

 間もなく真澄は荷物を持って立ち上がり、部屋の境界線を挟みボクと対峙する。

 聞くまでもないのかもしれないが、一応伺ってみようか。

 

「今日、どうだった?」

「普通」

 

 わかりきっていたやり取りに、思わず笑みが零れる。真澄も同じ気持ちだったのか、若干口角が上がっているように見えた。

 彼女ならきっとそう答えるだろうと思っていた。

 だからボクは、敢えてこの言葉を送るのだ。

 

「そっか。じゃあ――()()()()、真澄」

「……うん、()()

 

 ゆっくりと閉まる扉で少女の姿が見えなくなるまで、ボクは両手を小さく振り続けた。

 そして――側の壁にもたれかかる。

 何とも楽しい時間だった。隆二に続いて、真澄も期待していた通りの人物だった。

 あの日四人の中で、真澄と最も交流をしたかったのは紛れもない事実だ。

 彼女が具えていた要素は、三つ。

 『Aクラス』であること。『女性』であること。そして、()()()()()()()()()()()()()こと。

 三つ目に至っては正直賭けだったが、今日の様子を見る限り問題はなさそうだ。

 故に、一つだけ冷や汗のでることがあったのだ。

 有栖は何故あのタイミングで真澄をボクに差し向けてきたのか?

 即日決行の時点でだいぶ事を急いていたのはまず間違いない。恐らく清隆に対して並々ならぬ思い抱いていたのだろう。どんな感情かは置いておく。

 だが、ボクが疑問を抱いたのは、そもそも何故『尾行』という手段だったのかということだ。

 もしボクが真澄の尾行に気付かなかったとして、それで清隆に関する情報をそこまで多く掴めるだろうか。正確性は勿論早急性にも欠ける。寧ろ、ボクと進んでコンタクトを取り悟られずに情報を聞き取る方がやりやすい。

 ――まさに、今日の勉強会のような状況だ。

 ここで一つ恐ろしい推測が浮き上がる。有栖は真澄の尾行がバレ、ボクが勉強会に誘い、そこで清隆のことを教えるという段取りを全て見据えた上で、真澄に『尾行』の任を与えたのではないだろうか。

 根拠はないが、そのロジックを組み立てるためのパーツは確かに存在していた。

 ボクは彼女に、椎名と勉強会を開くという情報を与えた。その際、隆二が参加する可能性があることは伝えていない。そして更に、有栖も参加してみないかというお誘いした。極め付きには、「両手に花の時間を過ごしたい」とも騙った。

 おまけに、ボクは純粋にあの四人の中で真澄と積極的にコミュニケーションを取ろうとしていた。

 以上を踏まえると、有栖が「浅川恭介は女子が自身の勉強会に参加することを拒まない」ことと「真澄が最も受け入れられやすい」ことを推理するのは全く不可能ではないのだ。

 ただ、そうなるとまた一つ新たな疑問が浮かぶ。そもそものきっかけとなる箇所だ。

 どういう風に説明を受けていたのかまでは聞けていないが、真澄は恐らく本気でボクらを尾行していたのだろう。すると、ボクが彼女に気付ける程の察知能力を持っていなければ有栖の計画は始まることすらない。

 ――有栖はボクが演技していたことを見抜いていたのか?

 真澄が言うには、有栖はボクに興味を持っていないらしい。だが、ボクの演技に気付いた上でそれを取るに足らないと判断していた場合、矛盾は発生しない。

 確定づける材料がないため、これが的を射ているのか深読みなのかを断定することは不可能だ。できれば後者であって欲しいものだ。

 いや、もし前者だったとしても特に問題はない。それでも有栖は二つ間違いを犯しているからだ。

 一つ目は、真澄が差し向けられたことで得られる利益は有栖よりも()()()の方が圧倒的に大きいこと。そして二つ目は、()()()()()()()()ということだ。

 そのことについて整理を終えたボクはようやく集中を解き、ゆっくりと目を閉じる。壁に備えられた時計の秒針が嫌にけたたましく刻まれている。

 そういえば、あの人数で時を過ごすのはトップ4を除いて経験したことがなかった。今回は寮と言う密室だったのもあって、余計に濃密に感じられた。

 幸せだった。本当に。

 あんな時間がずっと続けばいいのに。何度もそう願った。

 体の中を温かいものが駆け巡る。それは決して、不健康な血の流れだけが原因ではないはずだ。

 目を閉じれば、心が安らぎ、喜色で満たされていくような感覚に陥る。

 大丈夫だと信じている。幸せなのだと噛み締める。

 ……しかし、そのどれもが、自分にそう言い聞かせているような気がしてならなかった。自分自身を疑わずにはいられなかった。

 どこか心の片隅で、埋めることのできない隙間がある。

 その存在も、正体も、本当はもうとっくに気付いていた。

 ――こんな時間も、きっと長くは続かない。そう悟る自分が消えることは、決してなかった。

 




いやー、我ながら、オリ主と坂柳のすれ違いが酷いっすねー(他人事)。偶然が重なっただけでここまで無駄な推測をするなんて。以前の描写の通り、あの男に夢中な彼女は特にオリ主のことを考えていません。そもそも、『取るに足らない』と思っているならまず君のために刺客なんて送らないでしょ、という矛盾にオリ主は気づけていませんしね。それも、滅法気に入っている人材を。

今の所の目標は、100話までにバカンスへ旅立つことです。え、無理?いやいやそんなまさか……ありえそう。頭脳戦はちゃんとするつもりだから許して……。

オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)

  • 止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
  • ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
  • 止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
  • ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
  • ムーリー(前後編以内でまとめて)
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