アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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いつから次がtipsだと錯覚していた?(昨日)

よく考えてみると、まだ過去編だすのはさすがに早いですよね。出さないかもって言っといてよかった……。

まあ別の理由として、最後にアンケートがあるので答えてほしいです。前のより結果がだいぶ今作に影響すると思います。


餞別・混迷・胎動

 朝の匂いだ。

 学生寮の一室で、男は覚醒する。目覚ましをセットせずとも、毎朝この時間に自然と目が開く。朝寝坊などという低俗な過ちは勿論、万が一への備えすら似合わない。そもそも、何かに縛られる生活を善しとしない。

 尻込みせずにベッドを抜け洗面台へ向かう。長時間の美容ケア、髪のセットは欠かせない。一連のルーティンは、常に自分が最も美しい存在であるためだ。

 居間に戻ると、部屋を見回す。入学直後にして自身の必要とする物が全て揃った根城に、満足げに頷いた。自分の地位をひけらかせばこれからの財源の算段は整う、困ることもない。

 本来であれば、このまま荷物を(こしら)えて鼻歌交じりに往路へとつく。――しかし、今日は珍しく、本当に珍しく、突発的な感情に誘われて部屋の奥へ歩んだ。

 手に取ったのは、一つの写真立て。

 フレームに収まる五人の影。その全員が穏やかな笑みを浮かべている。そこには勿論、自分もいて。

 

『最強で最高の自由人か。なに、邪魔はしないさ。ただ、君を学び、君に教えたいだけだよ』

 

『えへへ、やっぱり六君は面白いなぁ。一緒にいるとね、すごく楽しいの!』

 

『唯我独尊、皆等しく尊き人類。いやぁいい言葉じゃないか、がーっはっは!』

 

 在りし日々は青々と心を撫でる。彼にとって大きな価値を持つ言葉の数々が、昨日のことのように甦る。

 ずっと独りでも良かった。完璧と美徳を追求し続ける彼にとって、あらゆる点で劣り切っていた他人と関わる時間は、無感情や嫌悪感を呼び起こすだけのはずだった。

 しかし少年は、彼らと出会った。

 隔たりをもろともせず、排他的な態度すらも受け容れてくれる。それでいて自分に近しく優秀であった彼らは、有象無象などという言葉では決して括ることのできない、確かな「友」だった。

 もう還ることはない遺産に思いを馳せ、最も親しかった()の名を呟いた。

 

「――恭介……」

 

 懐古か諦観か、男はフッと微笑み写真を戻す。

 そして、発起と哀愁を乗せた大きな背中を向けた。

 

 ――唯一無二、最強で最高な私を、今日もご覧に入れようではないか。

 

 その雄姿の送り先は、現在(いま)に非ず。

 彼は今日も、「唯我独尊」であり続ける。

 

――――――――――――――――――――――――――

 翌日。約束通り清隆と共に登校した僕は、鈴音が教室に入ってくるや否や昨日の結論をありのまま伝えた。

 

「そんな……」

「根も葉もないけどなあ。鈴音はどう見ているんだい?」

 

 今の彼女にどんな言葉をかけても癇癪を引き起こすだけだ。彼女の答えが気になっているのも事実なので、無理にでも続けさせてもらう。

 

「……大体はあなたたちと一緒よ。だけど、実力順でクラスが決まっているなんて、簡単に認められるわけがないわ」

「本当に憶測でしかないからな? オレたちが特殊な環境下で神経質になっているだけで、実は何もなかったなんてこともあるかもしれない」

 

 清隆の気持ちはよくわかる。もしこれが当たっていたら相当面倒くさそうだ。よもやそうであってくれと儚い願いを抱いてしまうのも無理はない。

 鈴音の口ぶりからして、彼女もこの可能性には行きついていたようだ。感情が容認できないという具合か。

 彼女は一人でそこまで考えを巡らせられたと見える。見た目や言葉の節々から感じ取れる通り、頭脳明晰なようだ。

 だが昨日の天然っぷりは頂けない。ギャップ萌えを狙うなら他人に迷惑をかけない程度で――

 

「浅川君?」

「いかがなさいましたでございましょうか」

 

 ええい、我らが姫のセンサーは化け物か……! 彼女の前では心中であってもふざけてはならんか。

 

「いずれにせよ、何らかの査定によって毎月の支給額が変化するというのは確実と見ていいわね」

「い、いや、まだそうとも言い切れないんじゃ……」

「往生際が悪いわね。あなた、単に認めたくないだけでしょう?」

「……はい」

 

 くそ、特大ブーメランだぞ。さっき君も酷いショックを受けていたってのに。写真にでも撮っておきたいくらいだと思っていたが、本当に撮っておけばよかった。

 

「次に考えるのは、どう対処するか。ということか?」

「正解よ。推測できたのだから、今のうちに動かない手はないわ」

「と言われても、僕らだけで何ができる? クラス別となれば、Dクラス全員に忠告を届かせなきゃならん」

「それに、カーストに溶け込めていないオレたちの言葉は聞き流されやすい。Dクラスはどうやら能天気なやつらが多いようだから、事の重大さを理解してもらえなきゃ意味ないぞ」

 

 個別ならポイントを無駄遣いしない、授業や生活の中での態度に気を付けるなど、凡事徹底をするくらいでいいのだが……問題だらけ、前途多難だな。

 無益な会議になるよりはと、僕はどうにか助け船を出すことにした。

 

「僕らにできることがないなら、できることがあるやつに任せればいいんじゃない?」

「……」

 

 イマイチ要領を得ていないようだ。鈴音の性格からしてなかなか思いつく案でもないだろうから仕方ない。清隆はわかっているみたいだな。

 

「一番の問題は、どうすればクラスメイトが話を聞いてくれるかだろう? ただ、現状どう足掻いても僕らが支持を集めるのは無理だ。万が一できたとしても、その頃には恐らく最初の変動は起こっていて、支給ポイントは大幅ダウン。やっと全員が真実を突き付けられても手遅れだね」

「そこまではわかるわ。それで?」

「僕らは人気者になる方法は知らないけど、人気者が誰かは知っている」

「……平田君と櫛田さんね」

「二人のどっちか、あるいは両方を経由してみんなに連絡してもらえば、ある程度は変わるんじゃない? 僕の中じゃこれが精一杯」

 

 不利な環境下においてはこれが最善手だろう。自分に掛かる負担が少ないし、早急な先手を狙うなら纏め役になりつつある二人に任せてしまうのが一番手っ取り早い。

 僕としては、櫛田を推薦する。平田は彼女と違い、一部の同姓から反感を買ってしまっているからだ。

 かてて加えて、清隆の言う「能天気なやつ」は男子に多かった。櫛田の発言は彼らにとって鶴の一声となるだろうし、反感を抱く女子も同調圧力に屈して渋々頷いてくれるはずだ。

 両方に任せる案も好ましくない。二人の忠告が正しいものだと証明されると、互いに同等の発言力を得ることになる。すると、それぞれを中心とした派閥が生まれ拮抗する恐れがある。

 船頭多くして船山に上る。頭は二つも必要ない。

 しかし、鈴音の答えは、僕の考えとは相反するものだった。

 

「任せるしかないというのなら、平田君にしましょう」

「ほうほう……その心は?」

「二人とも、櫛田さんの様子を見て何か思うことはない?」

「うーん、清隆は?」

「いや、オレは特に」

「……そう」

 

 何やら思いつめた表情をする鈴音。本当、そういう仕草は様になっているよな。

 僕としては自分から何かしようとは思わないし、鈴音がそう言うのならそうすればいい。

 

「君の中で理由があるのなら僕は尊重するよ。ほら、行ってきな」

「は? 何か勘違いしていないかしら。行くのはあなたたちよ」

「ふぇ?」

「え、オレもか?」

 

 なんてこったい、とんだ解釈違いだ。というか清隆、君こっそりフェードアウトしようとしていただろう。まさか君のメンターも振り切れてしまったというのかい?

 

「やだよ。君が行けばいいじゃないか。巻き込まないでおくれ」

「そもそも昨日も議論する義務はなかったんだけどな……。さすがにオレたちがそこまでしてやる道理はないぞ」

「普通なら同性であるあなたたちが行ったほうが話を進めやすいはずでしょう。普通ならね」

「変に煽んなって。今後のことを思えば、君が直に言いに行ったほうがいいでしょうに」

 

 君の意見も一理あるが、僕らは例外だ。自分で言っておいて悲しくなるが、性別が同じなだけで仲良くできるものなら僕も清隆も友達百人できている。

 

「私自身の発言力を稼いでおく、ということ?」

「わかってるなら話は早い」

 

 リーダーに信頼されるためのチャンスだということは承知しているらしい。

 

「というわけで。はい、勇気を出して、レッツラゴー」

「あやすような言い方が癪に障るわね……。わかったわ」

 

 そう言うと鈴音は渋々といった様子で立ち上がり、平田の席に向か――う途中でこちらを振り返った。

 

「ねえ、その……さっきの口ぶりからして、あなたたちは一連の件には不干渉を貫くということなのよね?」

「ああ。そのつもりだけど」

「……そう」

 

 なんだ? らしくもない、変に口籠って。

 

「何か心配事か?」

 

 清隆も疑問に感じたようで鈴音に問う。

 

「い、いえ、何でもないわ。それじゃ―――」

 

 行ってくるわ、とでも言おうとしたのだろう。しかし、その言葉は始業のチャイムによって遮られた。

 

「ああ、焦ることはないよ。放課後にでも言えばいいんじゃない?」

「確かに。助言無しでみんながどんな態度で授業に臨むのか、気になるところではある」

「……そうね。また後にしましょう」

 

 僕と清隆がフォローし、鈴音は僕らの提案に従う。紛れもない本心からの言葉だ。

 しかし、一瞬彼女が見せた表情が気にかかる。清隆もきっと気付いたはずだ。

 別に忘れていたわけじゃない。僕から見る彼女の人間像は、孤独で、冷酷で、賢くて、どこか抜けていて――怯えている。

 僕はそれに気付かないフリをした。踏み込むことへの恐怖が、僕を逃げへと追いやった。

 心は許しているはずなのに、どこか一歩、遠くにいる。きっと届かないと不安になって、微妙な距離に甘んじる。

 他人という関係の延長線。これを面倒な関係と呼ぶのだろう。

 そっと、二人の顔色を窺う。

 いつも浮き沈みの小さい表情であるが、彼らも僕と同じなのだと、今はとてもわかりやすかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 時所変わり、春芽吹く某日、東京某所。

 

 下界を照らす暖かな光は既に東へ、同時に暗闇の監視者はうっすらと西の空で顕わとなる。

 帰路を往く子供たちの姿も疎らになった黄昏時、とある一軒家に影法師が四つ。

 その内、()()活動を続ける少女は、自身の置かれた状況に全く沿わない晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 右手に握られた硝子の欠片。そこから滴り落ちる禍々しい鮮血は、夥しい真っ赤な水溜まりに淡々と吸い込まれていく。

 少女はその淀んだ双眸を一人の少年へ向けた。正常な呼吸を刻むも反応の一つも示さない様子を窺い、一瞬表情を曇らせる。

 しかしそれは、雪崩れるように押し寄せる愉悦によって塗り潰される。

 何かに解放されたような清々しさに身を委ね、二人の亡骸へと視線を移し、嗤った。

 今度は口角だけでは足りない。甘美な気色が、壊れた笑声となって溢れ出す。

 少女の可愛らしい顔立ちには似合わないヒステリックな音色は、まさしく魂の咆哮だった。

 近隣の住民が通報したのだろうか。無機質なサイレンが近づいてくる。

 しかし少女は、慌てる素振りを見せるどころか一層けたたましい笑みを深めていく。

 まるで、この幸福に水を差すな、ここは今自分の歌い踊る独壇場なのだ。そう主張するように。

 相反する感情はどちらも脆弱な心に傷をつけ、その口から儚き血糊が流れ出るが如く、頬に湿った道を垂らす。

 昏い痛みに飲まれた彼女は、もう歔欷に身を任すことでしか、己の像を保てなかった。

 

 

 

 哀れな少女は地に堕ちる。

 焦がれ、追いかけ、迷い、失い、それでも諦めずもがき続けた末路。

 内なる悪魔()に魅入られた者がまた一人。彼女に許されるのは、欠陥に塗れた狂気のみ。

 救いの希望たり得る()は、もうどこにもいない。

 




今回ある原作キャラ(皆さんお察しですけど敢えて名前は伏せます)がオリキャラとの関連を匂わせる描写があったと思うんですけど、ぶっちゃけオリキャラだけで掘り下げられます。
一応予定としては今後原作との致命的な矛盾は生じることはないような繋がりに抑えるつもりなんですが、原作に思い入れのある方とかだと「オリ設定で原作キャラの設定変えんでや」って思うかもなんで、教えてください。ちなみに関わらせる予定なのは彼だけです。

オリ主の過去話について(どれになっても他の小話もやるよ)

  • 止まるんじゃねぞ(予定通り,10話超)
  • ちょっと立ち止まって(せめて10話以内)
  • 止まれ止まれ止まれ…!(オリだけ約5話)
  • ちょ待てよ(オリキャラだけ,3話)
  • ムーリー(前後編以内でまとめて)
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