アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

55 / 126
期末シーズンに追い詰められるほど逃げるように筆が進む。不思議。


ラストリゾート

「おかえり」

「ただいま戻りました」

 

 椎名を迎え入れると、僕はすぐに水を用意する。

 

「ありがとうございます。――あれ、今日は水なんですね」

「切らしてしまってね」

「それは、申し訳ないことをしてしまいました」

「気にしなさんなあ。なんて、態々言ってやらなくともわかってるかあ」

 

 彼女は何も言わず、ただ麗らかな微笑みを浮かべるだけだ。

 どうしてか、二人きりの空間にむず痒さを感じる。思わず目を逸らすと、それに乗じて椎名は部屋の壁を見回し始めた。

 

「それにしても……これは、触れてもいいのでしょうか?」

「堂々とぶら下げているくらいだからねえ。達筆だろう?」

 

「はい、すごく」そう言って興味深そうに、()()()()()()一つひとつを手に取り見つめる。

 

「内容も独特ですね。『帝王が言っていた、夢は掲げるものなのだ』、『権力よ、弁えろ』、『第一回月末定例教師研修』……大層なセンスをお持ちで」

「僕の感性は一点物だと、君は既に存じていたはずだが?」

 

「そうでした」たった一言で納得し、彼女は残りの二つも読み上げる。

 『異郷で気張っても気づかんわ』、『金の尊さ、身に沁みてます』、どちらも言うまでも無く僕が書いたものだ。

 

「いつか()と筆で書いた作品も見てみたいです」

()で満足しておくれ」

()まで気にしてしまう性分でして」

 

「おお!」気持ちの良い応酬に少々昂る。「そいつぁ()()ませんってね」

 

「またしても歪なインテリアが増えてしまいましたね」

「自作ともなれば仕方がないさあ。ロマンの源泉は(ここ)にあってこそだよ」

「ハンドメイドでもここまでの独創性は……」

「誰もが持っているものを皆形にしようとしないだけだろう」

 

 温和なムードのまま話が弾む。正直もうこのままでいい気もするが、本来開口一番こんな雑談をするつもりではなかった。

 彼女が次の句を継がないのを確認してから、僕は恐る恐る口を開く。

 

「……あ、あのさ、椎名」

「はい? 何でしょう」

 

 返事を受けて本題に触れる。――触れようとした。

 しかし、

 

「あ――え、えっと、あれ……?」

 

 言葉が、出ない。

 言語化ができない、という話ではない。言いたいことは決まっているし、台詞も頭の中で出来上がっている。なのにどうして……。

 …………恥ずかしい?

 体の熱が急激に上昇する。今まで素直な感情を届けることにこんな不思議な感覚を抱いたことなどなかった。

 

「どうしました?」

 

 椎名はその澄んだ双眸を以てこちらを正面から窺う。

 慈愛に満ちた瞳が安心感をもたらすと同時に胸の奥を高鳴らせる。

 

「あ……」

 

 瞬間、未知なる体験にぞっとする。

 脳裏に反芻する疑問と目の前の抱擁感を宿す女性に、どしようもなく意識が囚われて――、

 

「あ、あの、浅川君……?」

「――っ! な、何?」

「えっと、これは一体……」

 

「え?」珍しく動揺する彼女の視線を辿り――驚愕した。

 自分の胸に当てていた左手に対して、僕の右手は控えめに前へ出され小綺麗な彼女の指を握っていた。

 あまりに無意識だったために声も出せず、放すこともできず、呆然と接触する肌と肌を見る。

 

「ご、ごめん」

「い、いえ、構いませんけど」

 

 形だけでもと謝罪をするが、どうにもぎこちない。時間が止まったような、とは今のことを言うのだろうか。

 おかげでなおも、彼女に触れたままでいる。

 彼女とこの距離で見つめ合うのはこれで二度目だ。しかし、決定的に何かが違う。些細な変化が、僕の呼吸を乱してくる。

 今回は自分から触れに行ったから、なのだろうか?

 相手に聞こえかねない確かな鼓動を感じながら、僕はやっとの思いで話を再開する。

 

「……この前の件だけど、ありがとう。上手く行ったよ」

「浅川君の気持ち、受け止めてもらえたんですね」

「うん、君のおかげだ」

「大したことはしていません。最後に動いたのは、浅川君自身なんですから」

 

 ありあまる優しさが伝わり、弱々しい手にキュッと力が入る。

 

「ううん、君がいなければ、僕はその最後を踏めなかった。君という安らぎを認められたから、前を向けたんだよ」

 

 気が動転しているものの、理性で己を冷却し事実だけを口にした。 

 

「…………ごめん。もっとたくさん、言いたいこと、あったんだけど……感謝だけは伝えなきゃって」

 

 情けない。ここまで必死に捻っても言葉を紡げないなんて、いつもの『僕』らしくない。

 力なく、項垂れた。

 そして――やはり、彼女は慈しみを以て、

 

「――――大丈夫ですよ、浅川君」

 

 僕を躊躇わずに包むのだ。

 

「あなたの努力は、私が見ています。あなたがどれだけ自分のことを迷ったとしても、私は待ちますし、離れません」

 

 接続が途切れようとしていた指先が、柔らかく温かい(たなごころ)に覆われる。

 

「それが、私なりなあなたへの『誠意』です」

 

 もう、彼女の瞳の機微など頭になかった。

 彼女が何を考えているのか、どうでも良かった。

 彼女の言葉だけが、今僕が向き合える全てだった。

 

「………………うん」

 

 刹那葛藤を経て、また一つ、信頼の一線を越える。

 心を委ね、徐に体を傾ける。

 僕は――――。

 

「っ!」

 

 突如意識の中に飛び込んできた足音で我に還り体が跳ねる。

 忘れていた、今がどういう時間か。これから予定されている時間のことなど、寸前まで考える余裕がなかったのだから仕方がない。

 僕は椎名の様子を意に介すこともなく慌てて身一つ距離を空け姿勢を正す。

 間もなく、軽快な音を立てて扉が開いた。

 

「ただいま」

「おかえり。早かったね」

「……? いつも通りだと思うが」

「あ、ああ、そうかもね」

 

「椎名ももう来ていたか」隆二は僕の態度に違和感を覚えることなく定位置に座る。何気なく交わされる挨拶も平生と変わらない。この場において、僕だけが取り乱している。

 大体ホワイトルームに集まる四人の順番は決まっている。僕は清隆と鈴音と行動を共にしない日は速攻寮に向かうし、椎名も放課後に与太話をする相手がいない。隆二は恐らく多少クラス内での会話に興じているのだろう。真澄は、多分、有栖から寵愛を受けているはずだ。可哀想に。

 ……そう、いつも通りだ。その、はずだ。

 そうあるべき、はずなんだ。

 いつの間にか準備を終えていた隆二に倣い、僕も椎名も追い掛けるように勉強を開始した。

 

 

 

 

 

 火照った体は、気が付けばもう元通りになっていた。

 椎名と二人きりでないから? それとも、さっきのような会話をしていないから? 結局理由はわからずじまいだ。

 

「なんか、気持ち悪くない?」

「そうか? 俺はユニークでいいと思う」

「感性ぶっ壊れてるの?」

「えぇ……」

 

 隆二と真澄が五つの掛け軸を眺め各々の感想を零す。真澄さん、まるで陰口のように僕の前でディスらないで。

 この四人の関係もだいぶ深まってきた。初め勉強会という縁で出会い、取るに足らない話、或いは足る話を合間合間にするに限っていたが最近は違う。もう少し距離の近い、身近なことに関する雑談をも楽しむ仲になってきた。こういった休憩時間でも今のような会話が起こったり、心を許し合う故の脱力した独り作業がなされたりした。

 本を黙読する椎名を傍目に、興味本位でみんなの学習の痕跡を覗く。

 ……うーむ、意外にも個性が出るものなのだろうか。筆跡のみならず、三冊とも別の人間が書いたものだとわかりやすかった。

 

「ん――?」

 

 と、そこで僕はある違和感を抱く。

 

「ねえみんな」

 

 僕の呟きにも聞こえる呼びかけに、三人一斉に視線を向ける。

 

「君らもテスト範囲外を勉強する趣味だったのかい?」

「え?」

 

 何の気なしの質問に、何故か三者三葉の目に変わる。椎名は純粋な疑問、隆二は動揺、真澄は軽蔑だ。

 

「ど、どうしたの?」

「い、いや、何というか」

 

 隆二は一度二人の少女と顔を見合わせてから、告げた。

 

「テスト範囲なら、今日変更されたぞ?」

「…………ふぇ?」

 

 微塵も考慮していなかった可能性に困惑する。

 

「あんたのところも今日だったんだ」

「平等に全クラス同じタイミングの発表だと思いますよ」

「なんだびっくりした……内のクラスだけ先生の意地悪を喰らったのかと思ったぞ」

 

 僕を蚊帳の外に会話が流れる。

 先生の意地悪……もしや、それを喰らったのは僕らの方では?

 何てこった。

 

「テスト範囲が、変わったって――?」

「先生の話はちゃんと聞いておけ」

「あんたが忘れてただけでしょ」

「もう物忘れの年頃なのでしょうか……」

「…………酷くない?」

 

 ここぞとばかりに貶すなよ。特に椎名、本気で心配するんじゃない。怒るにも怒りきれないだろ。

 いや、そんなことはどうでもいい。……どうでもよくはないが、まずは情報を共有すべきだ。

 すぐさま端末を起動し鈴音に電話を掛ける。が、不在着信。律儀なやつだ、恐らく向こうの勉強会で通知を切っている。

 清隆に相手を変えると、長いコールを経て繋がった。「もしもし?」

 

「清隆、鈴音に代われるか? 伝言を頼まれてもいい」

 

 急を要する案件であることを察した彼は待ってろとだけ言って物音を立てる。やがて「何かしら」

 

「単刀直入に伝える。テスト範囲が変わった」

「何ですって?」

 

 予想だにしなかった情報に彼女の声が一回り大きくなる。図書館にいる生徒から視線を集めたことだろう。

 

「今日の話らしい。僕も至急そっちへ向かうから、茶柱さんに確認しに行こう」

 

 相手の返事を待たずに通話を切る。

 

「悪い、ちょっと行ってくる」

 

 三人の頷きをもらい、その場を後にしようとする。しかしその足は玄関で止まった。

 

「あ……ごめんな三人とも」

「何がだ?」

 

 代表して隆二から意図を問われる。

 

「この関係はクラスの戦いとは無縁だって言いだしたのは僕なのに、こんなことになって……」

 

 図らずも僕らDクラスは彼らに救われたことになる。この場がなければ平田やその他部活動などで話が挙がらない限り大きく後手に回ることになってしまっていたかもしれない。

 

「気にするな、お前にそういう狙いがあったわけじゃないのはわかっている」

 

 しかし、それを必要以上に咎めないから、その人徳さが周りに認められているらしい。

 

「こういう時は、謝罪よりも感謝ですよ」

 

 椎名はいつしか僕が放った言葉で慰める。場面は違うが、その通りかもしれない。

 

「と言うかDクラスだけってなると、先生の伝達ミスってこともあるんじゃない? だったらこれくらい大したことじゃないと思うけど」

 

 真澄も真澄なりに気を遣ってくれるようだ。

 

「――ありがとな、三人とも」

 

 温かい関係に破顔し、礼を述べる。

 ようやく部屋を抜け出し、道中平田にも連絡をして職員室へと向かった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 職員室に着くと、既に一際目立つ集団が出来上がっていた。

 阿鼻叫喚なご様子の小童三人を宥め、鈴音を先頭に職員室へとなだれ込む。直前、彼らがこちらを怯えるような目でチラ見してきたのは気のせいだろう。

 件の問題を問い詰めると、茶柱さんは事も無げに自分の不手際を認めた。

 取ってつけたような謝罪だったこともあり、何とか鎮まったはずの健たちは再び声を荒げてしまったが、何をしたところで無に帰すと判断した鈴音が強引に制し、三人を連れて図書館で待っているよう櫛田と沖谷に頼んだ。

 

「他のクラスメイトには伝わっているのね?」

「平田に連絡済み、何とかしてくれるさあ」

 

 茶柱さんとのやり取りを終え、職員室を出るや否や議論が始まる。

 

「まずいわね……」

「そんなにか? 勉強会ならだいぶ改善されたと思うが」

「今だけじゃなくてこれからが恐いってことだろう? 精神的に堪えるやつがいるかもしれないしなあ。学習意欲に響かなきゃいいけど」

「初めよりマシ、というだけだもの。まだ不安定で安全圏とは言えないこの段階では、痛い情報だわ」

 

 せめてもの救いは変更されたテスト範囲の一部が学習済みだったことだろう。それがなければ絶望的だった。

 しかし、かなり危険な状態であることは目を背けようのない事実。となると、そこで欲しくなってくるのが、

 

「何かないの、打開策は……」

「そこまで焦るほどのことじゃないさあ。自分の腕を信じてみ」

「わかってる。私たちが無理矢理彼らを勉強漬けさせれば、きっと問題はない。……きっとね」

「しかしより強固にする『武器』が欲しい、か」

 

 清隆の発言に頷き、鈴音は深く思案する。

 

「……」

 

 僕らはその様子をただ見つめていた。

 

「……須藤たちの意識は改善された。お前もお前なりな努力を重ねている。参考書まで買った。他に何ができるって言うんだ?」

「茶柱さんに泣き寝入りでもしてみるかい?」

「そんな馬鹿なことするわけないでしょう」

「ダメ元でやってみるのもいいかもな。今月の初めのように『良い報せ』をしてくれるかもしれない」

「あの人の言葉なんてアテにならないわよ。全く………………いえ、待って」

 

 ついに呆れ果てて毒づこうとしたの彼女の口が、止まった。

 

「綾小路君、今何て言った?」

「え、今月の初めみたいに良い報せをくれるかもって」

 

 彼の返答を受け、彼女はより一層悩ましい表情になる。

 

「今月の初め――先生がしたのはSシステムの話だけじゃないわ」

「テストについても触れていたな」

 

 当時は意識の矛先が散漫だったため記憶がぼんやりしているが、Sシステムの衝撃的な正体にクラスが騒然とする中、茶柱さんはほとぼりが冷めるのも待たずに小テスト、中間テストの話もしていたはずだ。

 

「あの時、何か引っかかる言葉があった気がする。……そう、確か、『赤点を回避する方法があることを私は確信している』って」

「へー、そんなことを。でもそんなもの本当にあるのかい?」

「い、いや、さすがに現実的ではないわ……」

 

 疑問を投げかけるとすぐに顔に影が差す。普通はそんな言葉はまやかし、あるいは冗談か比喩と捉えるものだが。

 

「だろうな。小テストと同じ問題が出るというなら、可能性はあるが」

「そんな馬鹿な話……そういえば、あの時最後の三問について話し合ったわよね」

「――? ああ」

「思えばそれ、今の私たちと同じ状況じゃない?」

「どういうことだ?」

「『学習していない箇所が出題される』ということよ」

 

 多少無理はあるが、類似点と見ることは可能だ。

 常識外れな出題にどう対応するか。確か僕の中で浮かんだ考えは、

 

「『普通ではない解き方』か『解く以外の方法』があるのか」

「それは最近やったことじゃないか?」

 

 前者は僕が小テストでやったことだ。どうやら学校側の思惑とは噛み合わなかったらしいが。

 そして後者は――清隆の言うように――『どうぐ』という手段を実行済みだ。

 

「八方ふさがり、か」

「何か、何かあと一つだけピースが足りない……そんな気がするわ」

「僕にはさっぱりだよ。君らが買った参考書のすぐ側に答えも並んでいた、なんてこともないだろうし」

 

 せめてもの極論を、軽い冗談のように吐く。それこそ現実的ではない、馬鹿げた考えだ。

 

「書店にそんなもの売っているわけないでしょう。誰だって高得点を、取れ、る……」

 

 しかし予想どおり反論が飛ぶと思われた途中、自分の台詞に何かを気付かされたように鈴音は目を見開く。

 

「『書店』…………? 誰でも、『高得点』を取れる……」

 

 僕らそっちのけで独り思考の沼に沈み、

 

「………………!」

 

 そして、這い上がった。

 

「上級生にコンタクトを取りましょう」

「上級生? 何でまた」

 

 その疑問に、彼女は悠然と答えた。

 

「『過去問』を入手するの。それが私たちの最後の『武器(どうぐ)』よ」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そっちの方はどんな調子かな」

「ぼちぼちかなあ。鈴音のおかげだよ」

 

「良かった!」その日の夜、僕はいつしかのように自室で平田と通話をしていた。

 

「堀北さん()()には助けてもらってばかりだ」

「過去問の提供かい?」

「うん。アドバイス通り、本番の三日前を目処に全体で共有するつもりだよ」

 

 鈴音は発案したその日に行動し、先輩から過去問を手に入れることに成功したらしい。

 その際小テストの問題も授かり僕らが受けたものと照らし合わせたところ、ほとんどの問題が一致したそうだ。

 彼女はそれをただちに平田へと報告した。今の彼女にはもう、随一のカリスマ性を誇る彼を頼ることに躊躇いはないようだ。

 三日後、という指示はクラスメイトの学習意欲を損なわないためだろう。実質解答を知っているという状況は、どうしても自分の中に甘えを生んでしまうものだ。

 

「中間テストも去年と同じ問題になるとは限らない。でも、きっとこれは大きな武器になると思うんだ。先生の言葉を信じるならね」

 

 先生の言葉、とは鈴音が言っていたのと同じものだろう。彼も違和感を抱いていたとは、その優秀さはリーダーシップに留まらないというわけか。

 

「それにしても意外だったな。まさか堀北さんが()()()()と協力するなんて」

「君の目にも、そう映ったかい」

「陽の目を浴びて目立つ人とは、あまり関わらない人だと思っていたからね」

 

 ここで割って入ってくる要素が、鈴音が櫛田を連れて実行に移したことだ。

 

「……まあ、彼女なりに考えを改めたんだろうさあ」

「この調子でクラスのみんなともっと仲良くなってくれたら嬉しいんだけど……」

「思春期を見守る老いぼれのつもりで待っているといいよ。気長にね」

 

 変わろうという意志を持つ今の鈴音なら大丈夫だ。下手に横槍を挟むべきではないだろう。

 

「それと……浅川君は、どうかな」

「ん、無問題さあ。期待していなよ」

 

 憂慮のこもった声で訊かれるが、以前とは既に違った考えになっている自分はそう答えた。嬉しそうに安堵の言葉を零している。

 

「安心したよ。この前はかなり自信なさげだったから」

「そんなにかあ」

「堀北さんの努力の賜物かな」

「そうかもなあ」

 

 あれから僕の学力については触れていなかった。いつか鈴音の勉強会に参加するメンバーと認識の齟齬が露わになるかもしれないが、正直気に掛けるようなことではないので適当に流しておいた。

 

「結構話し込んじゃったなあ。そろそろ寝るよ」

「あ――もうこんな時間か。いつも遅くに掛けてしまってごめんね」

「人と話すのは嫌いじゃない。いつでもどうぞ」

「ありがとう。浅川君も、何か相談したいことがあったら力になるから、いつでも頼って欲しい」

「ん。……あ、じゃあ早速一つ良い?」

 

 そう気を遣われてしまっては、寧ろ何かしら持ち掛けてこその誠意。思いつきを平田に提案する。

 

「今度、一緒にご飯でも食べようよ」

「え! いいのかい?」

「うん、男どうし、ささやかにね。清隆とかも一緒でいい?」

「勿論だよ! わかった。ならテスト明けに慰労会を開こう。約束だよ」

「あっはは、約束なあ」

 

 約束。恐らくそこにはテスト結果への祈願も込められているのだろう。

 平田は主に女子からの支持は高いが、男子には一部反抗勢力がいる。その二つの要素が相まって、彼は会食のほとんどを大勢の女子と過ごしていた。僕はそんな彼の時折垣間見えた寂しそうな表情に、同性だけで肩の力を抜いて過ごす時間を求めているのではないかと感じたのだ。

 最低限善い(ツラ)をしなければならない異性に囲まれて、ストレスの溜まらない人間なんていないのだから。

 近い未来の希望を語り合い、僕らは互いの顔が見えない会話を終了した。

 

どこまでやる?

  • 船上試験&原作4.5巻分
  • 体育祭(ここまでの構想は概ねできてる)
  • ペーパーシャッフル
  • クリスマス(原作7.5巻分)
  • 混合合宿or一之瀬潰し
  • クラス内投票
  • 選抜種目試験~一年生編完結

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。