一陣の風が、二人の間を吹き抜ける。
何も言わない時間は、永遠に感じられる程重かった。
「……私の杞憂だったようね」
黒いロングの髪をはためかせる少女が、沈黙を破る。
「大層元気が有り余っているようで安心したわ」
相対する藁色の髪の少女に、例の物を投げ渡した。
「忘れ物よ。気を付けなさい」
反応を待たずしてその場を去ろうとする。
しかし、彼女がそれを許すはすがない。「待って」
「何かしら?」
「見たの?」
「何を?」
「だから! ……さっき、私がやっていたこと、見てたの?」
櫛田は鬼気迫る表情で問い詰める。
「ええ」それに対し、堀北は何食わぬ顔で簡潔かつ明確な返答をする。「見たわよ?」
「――っ」
「それがどうかした? 私があなたのそのおぞましい本性を把握していることくらい、既に知っているでしょう」
「それは……そういう問題じゃない。まさかクラスに言いふらしたりなんかしないよね?」
「言ったところで誰も信じないわ。メリットもないもの」
「少なからず疑いを持つ人は出てくる。その可能性があるってだけで、あんたと敵対する理由が生まれるんだよ」
嘘偽りない敵意を前に、堀北の中である疑惑が生まれた。
「敵対…………櫛田さん、あなた、テストで何か企てたりした?」
「は? 何のことを言ってるの。あんたに面倒なことに付き合わされたあの日以外何もないけど」
「……そう」どうやらアテは外れたようだ。自分を嫌う彼女ならその周囲にいる人間のことも狙うかもしれない、そう考えたのだが。
「とにかく、この際だから言っとくよ。私はあんたをこのまま自由にさせるつもりはない。私の過去を知っているあんたをね」
「だから私に近づいたのね。綾小路君と浅川君にも度々コンタクトを取っていたのは、少しずつ私との物理的な距離を縮めるため。そういうこと?」
さすがに二人が気の毒だと思わざるを得ない。櫛田の私怨に巻き込まれてしまったということなのだから。
「かつて一つの学級を崩壊させた少女が、再びその引き金を握ってしまうとはね」
「人間なんて所詮そんなものだよ。この人は優しい、だから信じられる。そうやって簡単に心を開いて弱さを見せるんだから。――例外はいるけどね」
例外。堀北は勿論、綾小路と浅川、加えて佐倉たち日陰者と王のような表裏がほとんどない者たちのことだろう。
しかし思春期を迎える中高生では、寧ろそちらの方が少数派だ。どこかで拗らせ、後ろめたいとわかっているはずのものを膨らませる。
わかっているのだ。実際は堀北も同じようなものだった。兄への憧れという鎖が自身を縛っていたのだから。
そして、歪んでしまった舵を正常に戻してくれた少年がいた。
「あなた、人の善意を無下に扱うつもり?」
「共感も慰めもしてあげてるよ? だからみんな私を信じて疑わなくなっていくわけだし」
「でも、そこに本心はないのでしょう」
「本心? あはは、他人を受け入れたことのないあんたが言う? ――ううん、取り繕わないあんただから言えるのかな」
小馬鹿にするような口調で、櫛田は言う。
「……わからないわ。どうしてそこまでして人に好かれようとするのか」
「……わかるわけないよ。わかってもらおうとも思ってない」
「だからって、はいそうですかとあきらめるわけにはいかないのよ」
予想外の返しだったのか、彼女は目を丸くする。
「あなたをこのまま放置すれば、いずれクラスを蝕み腐らせる。毒は回れば回る程厄介になるわ」
今はまだ、彼女が実害を与えてくる可能性は低い。中心人物としての立ち回りは、ただの一人でさえ陥れる余裕を許さないものにする。
しかし、『もしも』はいついかなる時にも起こり得る。彼女の地位が絶対的なものとなれば――例えば平田や軽井沢を圧倒的に凌ぐ信頼を獲得すれば、もはや誰も疑いの目など向けなくなるだろう。あるいは追い詰められやけくそにでもなれば、迅速かつ徹底的に結束を壊しにかかるだろう。
ちょうど、堀北の母校で起きた悲劇のように。
櫛田と同様、こちらにも火元の狭間に導火線が引かれているのだ。
「毒、ね。じゃあ何、あんたがしたいのは私の排除、つまりは解毒ってわけ?」
「…………私は」
今までなら即答で肯定していた質問。
なのに、何故か詰まってしまった。何かが思いとどまらせた。
ふと、疑問に思ってしまったのだ。
もし、だ。もし、目の前の少女が秘める裏切りの危険性を排除したとして――
その時、彼女はどうなってしまうのだろう?
「いいえ」
迷っている間に、答えが出ていた。
矛盾とも取れる不可思議な回答に、櫛田も訝し気だ。
しかし、仕方がなかった。
「私、は、そんなこと、しない」
自分の憧れを、目指すべきものを確かめた今、
「仲間は、見捨てない」
あの人ならばと考えたら、もう止まるわけにはいかなかった。
「は、はぁ? な、何バカなこと言ってんの」
「あなたは他の人には真似できない能力を持っている。平田君がみんなを纏めているように、須藤君が運動が得意なように、綾小路君や浅川君が悪知恵を働かせられるように、あなたにはあなたの価値がある」
竹の割れ目から現れたかぐや姫のような突発的な意思を、どうにか理性と言葉で形として成り立たせる。
「私はあなたを、止めたいだけよ」
人によっては――それこそ綾小路が聞けば「生温い」と一蹴されかねない一言が最後だった。
故に、櫛田がそれを真に受けることはない。
「……はっ、はは」
意表を突かれた顔を元に戻し、彼女は余裕を持って堀北に近づく。
「そんなことできるわけないよ。私はみんなにとっての『一番』なんだから」
あっという間に彼女は懐まで踏み込み、その距離は鼻と鼻が触れる寸前まで縮まった。
かつて、エドワード・ホールが提唱した四種の対人距離の一つ。
人を拒むことで知られている堀北に、当てつけの如く密接距離――ごく親しい者のみが許される距離に接近してみせた。
「あんたに私は葬れない」
近い将来に向けた宣戦布告、文字通り眼前に突き付けられた。
しかし堀北は、動揺も憤怒も示さなかった。
対人距離、その分類には別解がある。
エドワード・ホールは、密接距離の一歩手前である個体距離を相手の表情が読み取れる範囲と定義した。
その個体距離までを全て『排他域』として括り、絶対的に他人の侵入を忌避し会話を望まない距離と捉えた人物がいる。
その者は、日本人だった。
「そうかもしれないわね。でも、私の望みはあなたが思っているものとは違う」
人の深淵が覗く距離、それでもなお退かない。
決して屈さず、そして相手の闇を受け止めるという意志表示だ。
「私は、あなたを救うのよ」
対峙する二人は微動だにせず、夜を映す目を瞬かせる。
人知れず、郷を共にする少女たちの間に迸る火花が散った。
「…………あは、あっはははははは!」
他を寄せ付けない間合いを解いたのは、櫛田だ。
「あんたに救われるなんてまっぴらごめん。一番そんなことされたくない人だもん」
「それに」と続け、彼女は一度背を向ける。
「私に救いなんて要らないよ、堀北さん」
振り向いた表情は、誰がどう見ても『エガオ』だった。
「今のままで、私は十分幸せだから!」
澄ました顔で、舗装された道の端を往く。
かつて心通わせた二人の少年が並んだ道。堀北は反対の結末を携えて歩いていた。
小走りで先に帰ってしまった櫛田のことを思い浮かべる。
――人間なんて所詮そんなものだよ。この人は優しい、だから信じられる。そうやって簡単に心を開いて弱さを見せるんだから。
――共感も慰めもしてあげてるよ? だからみんな私を信じて疑わなくなっていくわけだし。
――わかるわけないよ。わかってもらおうとも思ってない。
彼女は結局、一貫して自分とは解り合おうとしない、対立の姿勢を取り続けた。
しかし、どうにも納得できない。
この二か月、辿って来た軌跡を振り返れば、自ずと違和感は見えてくる。
時には優しさや温かさを呼び起こす良心、それを利用する彼女は「弱さ」だと称したが……。
――――あなたも、
いずれにせよ、今何を言っても徒労に終わるのは目に見えている。自分がこうして思考を巡らす間にも、櫛田はエレベーターに乗り込んでいるのだろう。
自分の端末を開くと、だいぶ時間が経過していたことに気付く。綾小路と浅川には当然何も言わずに出て行ってしまった。彼らのことだから心配しているかもしれない。
……丸くなったものね。こんなにも当たり前に他人のことを考えるなんて。
何かを思うことはない。喜ぶつもりもないし、かといって忌み嫌うつもりもない。強いて言えば、善い結果が生まれた事実に安堵するくらいだ。
そうして寮のすぐ側までたどり着いたところで、ふと違和感に気付く。
誰か、いる……?
櫛田だろうか。訝し気に思いながら近づくと、
「え?」
意外な人物だった。
「綾小路君……?」
「……鈴音か」
歩きづらそうにする綾小路と――
「悪いが、手伝ってくれないか?」
その背で苦悶の表情を浮かべながら眠る浅川の姿が、そこにあった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
数十分前。
「お前、過去問を他クラスに渡したな?」
波を打つような静けさが訪れた。
彼の目に、僕を咎めるような意思は感じられない。あくまで知りたいというだけのようだった。
それを悟ると共に安堵するが、敢えて認めてやらないことにした。
……無論、向こうも既に察しているようだが。
「冗談きついぜ? 理由がないって」
「わかりやすい利益があるだろう。考えられるのは二つ」
彼はピースサインを作る。僕も真似る。
「利己的な人間であれば、過去問を提供するかわりにポイントを要求する。――だがこれはあまり賢くない。折角貸しをつくれるならとっておくべきだ」
「おまけに僕はそんなにあくどい人間ではないしね。鈴音に協力するという意志に反するつもりはないよ」
「ああ。だからお前は、クラス間での協力関係を要求したんだ」
確信を持って彼は告げる。僕は二本指をくいくいと曲げ伸ばしする。
「大したものだ。この時点で他クラスと手を結ぶなんてな」
「いやいや勝手に話を進めないでね。認めてないから」
概ね彼の言う通り。僕は帆波に過去問を渡すことで、
「大事な問題があるだろう? いくら理由を見出せたとしても、実行できなければ机上の空論さ」
「いくつか考えられる。その前に、お前の連絡帳を見せてくれ」
言われるがまま、僕は彼に端末を渡す。
登録されているのは勉強会のメンバー、平田、愛理、みー、ホワイトルームのメンバー、他には有栖の名前が記載されている。
一通り眺め、清隆は顔を顰める。
「……羨ましい。オレは同クラス以外に連絡先を持っていないのに」
「あっはは、有栖くらいなら許されるんじゃないか? 時が来たら、椎名たちのも渡したげるよ」
ホワイトルームのメンバーならきっと清隆とも馬が合うはず。悪い関係にはならないだろう。
彼は落胆を抑えて本題に戻る。
「……てっきり連絡先を持っていると思ったんだが」
「何のことか見当もつかないけど、残念だったねえ」
「白々しいことを言う」
べーっと舌を出してやったが意にも介さない。冷たいな。
「となると…………………!」
暫し悩む素振りを見せていたが、すぐに考えは纏まったようだ。
「あの時か」
「どの時?」
「図書館だ」
図書館で起こったCクラスの生徒とのいざこざ。あの場には確かに帆波もいた。
「お前、別れ際に握手したろう。メモか何かを忍ばせたんだ」
ほぼ正解だ。
僕はそのタイミングで帆波にメモを渡すことで、その後のコンタクトの機会を得た。
ただし、書かれていた内容は連絡先ではない。
「ならどうしてここに帆波の名前がない?」
「答えは簡単だ。連絡先ではなく待ち合わせの時間と場所を書いたんだ」
これも正解。
しかしまだ疑問は解消されないはずだ。
「連絡先にしなかった理由は?」
「それは……オレたちに知られないようにするためじゃないか?」
「あっはは、どうだろうね」
半分正解、と言ったところだ。
今からそれを証明する。
「ならこうしよう。君のいるこの場だけなら認めてやってもいい」
「ただし外では絶対に否定する?」
僕は頷いた。これで誰にも知られたくないという線は消える。
暫く見守っていると、彼は結論を定めたようだ。
「……データが足りない、か」
「降参かい?」
「生憎情報不足でな。他クラスの事情が絡んでいるんだろう。だからオレには隠すメリットがないわけだ」
「君は、本当に賢いなあ」
さすがだ。確かに今彼が把握している情報だけで完答するのは不可能だ。寧ろ他クラス絡みというところまで行きつく思考力が伊達ではないと思えるくらいだ。
「AクラスやCクラスに取引をしなかった理由は?」
「無法地帯に首を突っ込む勇気はないよ」
「それもそうか」
仕方のないことだ。情報がなければ分析も推測もできない。
「鈴音が知ったら、何て言うだろうな」
「証拠はないからねえ。バレる頃には効果が証明された時さあ。万が一咎められたら、『チョーさん』とのことを打ち明けるよ」
「まあそれで溜飲も下がるか」
僕らには鈴音に打ち明けていない努力が
これで、今のところ可能な清隆との情報共有は完了だ。
……さて、ここでいよいよ気になってきていることがある。
清隆の顔を窺うと、ちょうど彼も同じことを考えていたらしい。
「遅くね……?」
「……ああ」
端末を取り出し鈴音の端末のGPSを辿る。
「寮の外だと?」
「僕らが前話してたとこに向かってるね」
「行ってみるか」
櫛田と一緒でない場合、夜中に女子が一人というのも危険だ。どっかの会長の時のように襲われるかもしれない。
特に迷うことなく、足早に部屋を出た。
「忘れ物よ。気を付けなさい」
そう言って端末を櫛田に投げつける鈴音の姿。僕らは茂みに隠れて微妙な顔のまま見つめていた。
探していた人を見つけたと思ったら何やら真面目腐った表情で誰かと向かい合っていて、その誰かが櫛田ともなれば思わず隠れてしまうものだろう。
「清隆、念のため――」
「もうやってる」
僕が頼むまでもなく彼は既にカメラの機能をつけていた。ここにたどり着く少し前に届いていた大声や今の櫛田の様子からして、恐らく何かが見れるはずだ。
「――私がやっていたこと、見てたの?」
「ええ、見たわよ? それがどうかした? ――」
「――まさかクラスに言いふらしたりなんかしないよね?」
「言ったところで誰も信じないわ」
やはり櫛田の本性に関わる話のようだ。
心の中で頷く間にも二人の会話は続く。
「――この際だから言っとくよ。私はあんたをこのまま自由にさせるつもりはない。私の過去を知っているあんたをね」
「――かつて一つの学級を崩壊させた少女が、再びその引き金を握ってしまうとはね」
「人間なんて所詮そんなものだよ。この人は優しい、だから信じられる。そうやって簡単に心を開いて弱さを見せるんだから。――例外はいるけどね」
だいぶ込み入った話をしている。彼女の忌まわしい過去にまで触れ、今後の敵対関係についても示唆されていた。
そして、佳境に入る。
「――私はあなたを、止めたいだけよ」
はっきりと、自分に誓うように放った言葉を、櫛田は一蹴する。
「はは、そんなことできるわけないよ。私はみんなにとっての『一番』なんだから」
そう言いながら、一歩ずつ鈴音のすぐ側まで近づいていく。
その物怖じ気のない様子――躊躇いなく深淵に踏み込もうとする姿。
それを眺めている内に、僕の中で嫌な感情が沸々と込みあがってきた。
「…………はぁ、はあ」
「……? 恭介?」
清隆が呼吸の乱れに気付き訝し気にこちらを見てくる。
「……いい、から――そのまま、続け、て……ハア、ハァ…………」
努めて意識を保ち、二人の少女のやり取りに目を配る。
5メートル、4メートルと、着実にその距離は埋められていく。
「ハア………うっ、ハァ、あぁっ……」
3メートル。思いがけぬ吐き気と頭痛に襲われる。
2メートル。脳が、この瞳が写すものとは別の視界を映し始める。
1メートル。眼前に、意を逸らしがたい懐かしい幻想が浮かび上がる。
そして――
「あんたに私は葬れない」
一線を越えた。
――やっぱり言った通り。これでも嫌がらないのは、それが本当の願いだから。
――何も考えなくていい。私に委ねて。どうせ拒めない。
――僕と君は、一緒だよ。
鮮明な情景がありありと映し出される。
「おい恭介……! しっかりしろ」
清隆の必死な呼びかけが微かに届く。鈴音と櫛田の方からも怒鳴るような声が聞こえている気がするが、意識を回す余裕が無かった。
目の前で両手を伸ばし、僕の頬を包み込むその人は、僕をいつまでも虜にする。
「それで、幸せでしょ……?」
その幻聴を最後に、体から力が抜けた。
倒れる寸前、何かに支えられる。清隆で間違いないだろう。
「ちっ……」
惜しむような、哀しむような表情が、僅かに見えた。
意識が暗転する、直前の光景だった。
―――――――――――――――――――――――――――
「うぅっ……んぁ」
目が覚めると、寮室だった。
一瞬清隆の部屋で夢でも見ていたのかと思ったが、身を起こすと同時に頭痛が走りそうではないことを悟る。
「体調はどうだ?」
傍らから声が掛かる。清隆が心配そうな目で見守ってくれていた。
「あぁ……二日酔いってこういう感じなんだなと」
「飲んだこともないくせに、良く言うわ」
「この無遠慮な台詞、鈴音かい?」
「判断の仕方が遺憾ね」
振り返ると鈴音の姿も確認できた。
どうやら二人で僕をここまで運んできてくれたらしい。
「……ごめんな、急に倒れちゃって。多分貧血だ」
「無理がたたったってことか?」
いまいち合点いかんようだが、呑んでもらうしかない。他に説明のしようがないのだから。
「安静にしてなさい。最悪、明日は休んだ方がいいわ」
「そういうわけにはいかないよ。大勢でわんさかやった挙句、翌日には患者さんにジョブチェンジ? 過保護を注文した覚えはないね」
僕は平衡感覚が曖昧なのを誤魔化しながらベッドを下りる。四肢の筋肉の伸縮を、まるで手に入れたばかりの肉体の質感を確かめるかのように試す。やはり力がうまく入らない。回復までは暫くかかりそうだ。
「……そう。でも無理はしないで。より悪化するかもしれないから」
「嬉しいねえ。これからも献身的にお世話しておくれよ」
「あなたなんか一生ここでくたばってればいいわ」
「そんなに怒る?」
おかげで意識が覚醒してしまった。出会って以降一番過激な暴言だったろう。
「……目覚めが悪いだけよ。時間をかけ過ぎてしまった私にも責任がないわけじゃないから」
「――ありがとな」
「……どういたしまして」
僕は冗談は言うが他人の厚意を踏みにじることはしない。素直に礼を述べると、瞳の揺れ動きから恥ずかしさを悟らせないためか目を閉じて返事をされた。
そのまま話は本題へ移っていく。
「それで、全部見てたのよね?」
僕が眠っている間に、清隆の方から彼女に暴露があったのだろう。コクリと頷く。
「櫛田の裏切り、もし形になれば、今のDクラスは間違いなく崩壊するな」
「ごめんなさい。私、彼女に火を点けてしまったかも……」
「いや、あの状態じゃ大した時差は生まれなかっただろう。強いて言えば、君に行かせるべきじゃなかったね」
本当に鈴音との先刻のやり取りが櫛田の気を逸らせる原因になったとするなら、恐らく鈴音が何を言おうと結果は変わらない。つまりは彼女に忘れ物を届けさせたことが失態になる。
……いや、もしかすると、
「それに、こうなる予感がしたから名乗り出たんだろう?」
「……お見通しと言うわけね」
浮上した可能性が清隆の口によって告げられ、首肯を受ける。避けがたい櫛田との対立。それをはっきりさせる行動は、何とも鈴音らしい。
「まあいいさ。君の勇気によって得られたものは、確かにあるからね」
「得られたもの?」
「だろ、清隆」
「ああ」僕らが例の動画を見せてやると、鈴音は目を見開き唖然とする。
「ま、全く気付かなかったわ……」
「そりゃ誰かに見られているかなんて普通気にしないって」
アニメやドラマでよくある展開だが、外出中に気配だけで「いるんだろう」と確信できる人間の察知能力など明らかにぶっ飛んでいる。
「……これで脅して、彼女を抑えこむってこと?」
「んー……まあ、それでもいいけどなあ」
煮え切れない反応であることはすぐにわかったようだ。首を傾げ続きを待っている。
その前に、確認しなければならないことがある。
清隆が代わりに口を開いた。
「鈴音、お前は、櫛田を見捨てるつもりはないんだな?」
これも一つの決断、分岐点だ。
勿論途中で迷いが過るだろう。挫折や絶望を味わう可能性だってある。
しかし、聞かないわけにはいかなかった。
「君の
この『どうぐ』を、敵を殺す刃とするのか。将又、絆すための依り代とするのか。
全ては、彼女が決めること。
現時点での回答を、鈴音は真っ直ぐな目で告げた。
「ええ、私は櫛田さんを救ってみせる」
その決意を、僕らは穏やかに受け取った。
「わかった」
どこまでやる?
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船上試験&原作4.5巻分
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体育祭(ここまでの構想は概ねできてる)
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ペーパーシャッフル
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クリスマス(原作7.5巻分)
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混合合宿or一之瀬潰し
-
クラス内投票
-
選抜種目試験~一年生編完結