アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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今回はけっこうはっちゃけている、とだけ言っておきます。


スナップショット〜スマブラ〜

「ハア!? マジかよおおぉぉ!」

 

 春樹が悲痛な叫びをあげる。

 

「いいい今の一体どうやった綾小路!」

「え? どうって、お前らに教わった操作で戦っただけだけど」

「そんなコンボ教えてないって! くぅ、初心者いびりしてやろうと思ってたのにぃ……!」

 

 池も同じく、清隆のプレイスキルに衝撃を受けたようだ。

 

「最近のゲームはやたらハイスピードねぇ」

「浅川君はこういうの、あんまやらない?」

「専門は一昔前のやつかなあ、レトロってやつ? ――健は?」

「やると思うか?」

「須藤君はシューズとかにポイントかけてそうだね」

 

 珍しく、というより初めて、勉強会の男子勢は池の部屋に集合していた。現在はゲーム枠と雑談枠で分かれている。

 清隆はこういった娯楽は初めてだと無垢な目を輝かせていたが、池と春樹曰く『清い悪魔』が降臨したらしい。度々断末魔が聞こえてくる。

 一方僕は健と沖谷とベッドに腰を下ろし、適当な会話を嗜んでいた。

 

「なあ浅川。本当にいいのかよ? こんな感じで」

「メリハリというのはこれから先も重要になってくるステータスさあ。全力で休めなんて思わないけど、極限に休みなさい」

「浅川君らしい考え方かもね」

「でしょ?」

 

 再始動した勉強会。鈴音主導のメインラーニングに加え、先生に扮した僕のスパルタ復習会によって、赤点候補の三人と沖谷は着実に学力を伸ばしつつある。

 そうして上手い具合に軌道に乗ったと判断した僕が提案したのが、日曜日の羽休めだ。

 

「俺はさっきまでみたいに何も考えず走ってる方がまだ楽しいぜ」

「その爽快感は理解できるよ。とは言えまちまちさあ、僕なんかはこうして他愛もない会話をしているのが好きだし」

「僕も浅川君と同じかな」

 

 午前中は全員でかけっこやらボール遊びやら――トップ4でやってきたトレーニングをよりカジュアルな内容にした運動に取り組んでいた。一旦解散し各々シャワーと昼食を済ませ、この場に再集合している。

「ぐごぅおおおぉぉっ!」と池の擦り切れるような声が轟く。清隆にノーダメージで敗北したようだ。素人目からだと、清隆が上手いのか池が下手なのかわからない。

 

「お前強すぎだろ、イカサマ使ってたりしないよな?」

「どこにインチキを挟みこめる……」

「待てよ池。綾小路ならもしかしたら、アレを倒せるかもしれねえ」

「ま、まさか、アレを……?」

 

 二人が生唾をのむ音が聞こえる。

 

「やい綾小路! お前を見込んで、これからミッションを与える」

「ミッション?」

「おうよ。この『スマブラ』においてクリア者0.001%を下回ると目される究極の高難度クエストに挑戦してもらうぜ」

 

 正式名称は『スマイルブラザーズ』。「笑い合えたら、みんな兄弟だ」をキャッチコピーに、中高生を中心に絶大な人気を博している3Dアクションゲームだ。今ではその爆発的な勢いが収まりつつあるが、相変わらずこうして多くのユーザーをごっそり獲得しているらしい。

 そんな子供に親しまれるゲームに、二人曰く製作者の遊びだと豪語される難易度のソロ専用クエストがあるとのこと。

 流されるまま、清隆の手にコントローラーが託された。

 

「コイツをクリアすれば実績コンプなんだよ。望みはお前にかかっている!」

「最後の華くらいは弟子に譲ってやるってもんだぜ!」

「嘘吐くなってお前。あの時『無理ゲーだろこんなん!』って台パンしてたじゃん」

「ば、馬鹿! 能ある鷹は爪を隠すんだよ」

「お、知ってるんだなその言葉」

「舐め腐りすぎだろ!」

 

 賑やかな二人を尻目に、清隆は画面と向き合う。

 操作するキャラは、池と春樹の単純な性癖が込められた女性に作られている。端的に言って、胸と尻がデカい。こういうキャラメイクの自由さが、顧客を子供だけに留まらせない一因なのだとか。

 

「何で女々しい見た目にすんだよ。強え感じにすりゃいいのに」

「他人のロマンを理解するのも大変なのさあ」

「二人共、女子のことになるとわりとコワイよね……」

 

 三者三葉意見を発する。過去に教室で堂々と女子の胸の大きさで賭けをしようと仕切っただけのことはある。

 そんな呑気なことを言っている間にも、清隆は順調にクエストを進めているようだ。

 

「おお、中ボス倒した! まだMPも残ってんじゃん」

「ここまでの時点でもう表のラスボスよりムズいんだよなぁ」

「その表とやらをオレは見たことすらないんだけどな……」

 

 微妙な顔はしているものの、キャラを操る指の踊りは、心做しか楽しそうだ。

 そうしていると、

 

「――!」

 

 途端にムービーが差し込まれた。

 

『よもやここまで辿り着くとは……。いいでしょう、きみたち兄弟の絆とやらを、私に証明してみなさい』

 

 ……誰?

 

「出た出たついにお出ましだぜ、コイツが例のチート野郎だ」

「チート野郎って……何か顔がリアル過ぎないか? 実写みたいだ」

「当たり前よ。これ製作者の顔なんだから」

 

 清隆は多分グラフィックの凄さに触れていたのだろうが、春樹がそんことを言う。へー、イマドキのゲームって制作陣も参戦するのか。映像がリアルになったからこそできる、確かに遊び心だ。

 

「……」

 

 悪戦苦闘し、段々と表情に余裕がなくなってきた清隆を傍目に、僕ら観客は変わらず適当に過ごす。

 

「健、そのチョコちょーだい」

「お前チョコ好きだよな、食い過ぎじゃねえか?」

「いいのいいの、中年過ぎたおじいちゃんだって職場に忍ばせるくらいだから」

「おじいちゃん?」

「僕じゃないよ」

「知ってるよ……」

 

 あの人元気かな。人柄けっこう好きだったけど一、二回しか話したことがなかったっけ。先生が苦手意識を持つ理由がよくわからない。

 

「二人は何か食べる?」

「え? ああ、ツリップくれよ。――あんがとな」

「俺はカットキット」

「浅川が全部食べちまったわ」

「へ!? 嘘だろ、二袋あったろ」

「飴ちゃん舐める?」

「浅川ぁぁあああ!」

 

 やっぱ彼らはこういう扱いをしていた方が輝くかもしれない。

 他愛もない談義に興じていると、清隆が唐突にコントローラーを置いた。

 

「ま、負けた……」

「マジか、綾小路をもってしても……!」

「いやでもHP半分まで削ってるじゃん、次は行けるって!」

 

 あれ、何だろう、二人が良き戦友のように見えてきた。どうやら娯楽への熱意は真っ当かつ純粋なものらしい。

 声援を受けた清隆は再び顔を上げ、リベンジを試みる。

 

「……大丈夫だ、パターンはほとんど覚えた。次は勝つ」

 

 鋭い目だ。何が何でも勝利を手にして見せるという、頑なな執念が、珍しく、彼の瞳を爛々と輝かせている。

 ……おい、それでいいのか清隆。その色をこんなところで発してしまって。

 僕の内なるツッコミに気づくはずもなく、清隆は先よりも余裕のある状態でボスにたどり着く。――チェックポイントがないというのも、このクエストの鬼畜要素のようだ。

 

「……」

「あ、あいつ、あんなキリッとした顔しやがって。この前のバスケの時の比じゃねえな」

「頑張れ綾小路君……!」

 

 傍らの二人が呆気にとられながらも、戦士を応援し始めた。

 

「いける! あと少しだぜ綾小路!」

「油断すんなよ! このまま押し切れ!」

 

 懸かっているものがあるだけあって、池と春樹も自分の戦いのように叫びだす。なかなかに熱い展開――。

 ……なんコレ。

 

「……!」

 

 すると突然、画面に動きが起こった。ボスの身体が七色に発光する。

 

「何が来る……?」

「い、いや知らねえ。何だよこれ?」

「ある程度削るとこうなるんじゃね?」

 

 画面の前に座る三人の動揺。清隆は緊張の面持ちで身構える。

 次の瞬間、

 

「――! 馬鹿な……」

 

 池らが再三謳っていた「弾幕ゲー」だという文句。その本領発揮といったところか。

 立体的なフィールドに余すことなく気弾が放出され埋め尽くす。

 当然主人公は対処する間もなく、一気に大ダメージを喰らい沈黙した。

 

「おいおい、冗談キツイって……」

「クリアしたやつはどうやったんだよこれ……!」

 

 二人の落胆の声を最後に、物悲しげな空気が流れる。圧倒的戦力差を前に、誰も言葉が出ない。

 ……いや、ホントなんコレ。

 

「あんなのクリアできる気がしないよ……」

「そもそもクリアさせる気がないんじゃねえか? クリアしたやつらも結局チートとか使ってたんだろ」

 

 当のプレイヤーは地面に手をつき顔を俯かせている。

 ――が、その目はまだ燃えていた。

 

「いや、何かあるはずだ……。絶対に、何か――」

「清隆」

 

 気付けば僕は、震える彼の背中に声を投げかけていた。

 

「恭介……?」

「フレコンとかサガセターンとか、昔のゲームはそういう鬼畜なやつが多かったんだけど、」

 

 今では小さいお子様に対象を合わせ親切なガイドやルートが用意されていたり難易度も抑えられたりするゲームが多いが、かつてはそんな設計はされておらず子供泣かせな難易度が序盤から立ちはだかることも珍しくなかった。

 その要因はグラフィックの粗さやバグの問題、単純な敵の強さだけではない。

 

「こういうのは敵のデータを伏せてくるのが定石だ」

「データ……そうか。オレとしたことが、またしても情報に振り回されたってわけか」

 

 さっきの攻撃はどう見ても逃げる隙間――安置のない弾幕だった。ならば突破の方法が隠されているはずだ。

 

「有効な武器やアイテム、探してみな。僕の知ってるゲームの醍醐味ってやつは、そういう試行錯誤の賜物さあ」

 

 何が敵の弱点なのか。どこに秘密が隠されているのか。攻略本なんてものはどこにもない。未開の領域に松明を道標に置いていくようにして、手探りで発見に至るのもまた面白いところだ。

 

「……ありがとう。お前の助言、必ず活かしてみせる」

「君ならやれるさ。何たって、ブレイバーなんだから」

「フッ…………ああ、そうだな」

 

 信頼を受け取った彼は、勇気の御旗を掲げ前を向く。

 ええい、ままよ。ここまで場が温まってしまったのなら、僕もその船に乗ってやる。老いぼれの知識が如何程の役に立つかはわからんが。

 

「浅川君、さっきまで遠目にしか見てなかったのに、どうして……」

「さあな。熱気に当てられちまったのかな――」

 

 さあ行け清隆。この場にいる全員が、君の勝利を待ち侘びているぞ。

 

「……」

 

 もはや道中に彼を阻む壁はない。あっという間にボス戦だ。

 

「まさか……そうか、そういうことか」

「な、何かわかったのか?」

「ああ。コイツは戦う前から、勝利へのヒントを与えてくれていたんだ」

「どういうことだよ」

 

「まあ見てろ」彼は慣れた手つきでインベントリを開き、装備変更の画面に切り替える。「こういうことだ」

 

「なっ、御守りだと!? 最強の装備を外してまで入れるのがそれだって言うのか?」

「……いや、池。こいつはもしかすると、ビンゴかもしれねえ」

「山内……? もしかして、お前……」

「俺にはわかったぜ。綾小路の考えていることがなあ!」

 

 僕にもわかった。一瞬見えた御守りの詳細文。そこに答えは隠されていた。

 戦闘に戻るとすぐ、ボスが覚醒する瞬間が訪れる。

 

「だ、大丈夫なのか? あれが来るぞ!」

「心配すんな、このゲームのストーリーを思い出すんだよ。笑い合えればみんな兄弟、その最初の『同胞』だって言われていたのは?」

「実の、弟……あ! そうか、ストーリーの始まりから終わりまで主人公が肌身離さず持っていた御守り、これはそいつが丹精込めて自作した一点物だ」

「そういうこと。だからちゃんと見せつけてやるのさ。俺たち兄弟の――」

 

 暴力的にまで放たれる光弾に、清隆は臆することなく突っ込んでいく。

 そして、剣を振り上げた。

 

「『絆』ってやつをよお!」

 

 次に映ったのは――――道が切り拓かれた瞬間だ。

 

「よっしゃぁあ綾小路! このままトドメだ!」

「チャンスだぜ、仕留めろっ!」

「頑張れ!」

「やっちまえ!」

 

 仲間の声が彼の背中を押し、最後の一撃へと駆り立てる。

 静観するはずだった僕も、はは、思わず拳に力が入ってしまうな。

 

「清隆……!」

「これで終わりだ……!」

 

 鳴り響く、終焉を告げる鈍い音。

 時が、止まった。

 全員が固まったまま、きっと同じ一点を見つめている。

 敵のHPバーが消滅した、その様子を。

 

『ハハハ、これがきみたちの……! なんて温かい……私の見たかったものを今、ようやく見ることができました。ありがとう。本当に、ありがとう……』

 

 遅れて、ボスの影も光の粒となって消えていった。

 

「……や、やった」

 

 最初に声を漏らしたのは、春樹だ。

 

「やったぞおおおぉぉおお!」

「うおおおおおおぉぉぉ!」

 

 四人の歓声が室内を埋め尽くす。僕は一気に解けた緊張に脱力し、止まっていた呼吸を再開させる。

 なるほど、最近のゲームは、なかなかどうして……手に汗握る大迫力だな。

 

「お前ならできるって信じてたぜ!」

「……あー、ありが、とう?」

 

 純粋な言葉に、清隆はたじろぎながらも返事をする。

 

「……へー、良いもんだねぇ」

「浅川君?」

「いやね、やっぱこれも青春の形なんだなと」

「わかるぜ浅川。この昂ぶる感じ、悪くねえ。ゲームって自分がやるでなくてもこんな熱くなれんだな」

「チョコ食べる?」

「嘘だろお前」

 

 うーん鋭いツッコミ、調子良いねえ。思わずカラカラと笑ってしまう。

 

「清隆、楽しかったかい?」

 

 薄い表情の彼に訊く。

 返っきたのは、大変望ましい答えだった。

 

「――ああ、このカタルシスがゲームの醍醐味なんだな」

「あっはは、自分のも買ってみたらどうだい?」

「ありだな」

「え」

 

 冗談のつもりだったのだけど、普通に肯定されてしまった。気分が高まっているのか、本気で考え込んでいる。

 

「冗談だ」

「…………こりゃやられた」

「でも、それくらい楽しかったよ。多分お前らが見ていてくれたからだな」

 

 全く、この男は。

 だが、彼の言う通りだ。今日で僕らの心の距離はぐっと縮まった気がする。やはり男どうしだからこそ通い合えるシンパシーはあるということだ。

 ……狙い通りの結果だった。けど、その先で触れた感情は少しだけ――。

 

「どうしたんだよ浅川」

「――いや、息抜き後の指導について早速ね」

「おいおい、そんな堅っ苦しいことは」

「山内君……?」

「ひ、ひぃっ!」

「おっかねぇ、マジでおっかねえよこのドS教師!」

「ドSのSはスパルタのS!」

「え、サディストのSだろう?」

「あはは、まあ綾小路君が正しいんだけどね」

 

 やれやれ、自分に対して照れ隠しをするのも、随分と慣れたものだ。

 




まあギャグ回に見えますけど(何ならほぼギャグ回のつもりで書きました)、言うて一般男子のインドアの遊びってこんな感じじゃねっていうのを誇張気味に書いてみました。何でだろう、よう実だとそんな一コマが新鮮に……。

一つだけ含めている意味があるとすれば、勉強会の男性陣が仲良くなる過程をちょっとでも描きたかった、ですかね。恐らくみなさん察しているであろう『(特にきよぽんが)原作より仲が深まっている』ことの根拠とでも思っていただければ。これもオリ主の提案による変化ですね。

どこまでやる?

  • 船上試験&原作4.5巻分
  • 体育祭(ここまでの構想は概ねできてる)
  • ペーパーシャッフル
  • クリスマス(原作7.5巻分)
  • 混合合宿or一之瀬潰し
  • クラス内投票
  • 選抜種目試験~一年生編完結
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