保健室の扉を開けると、もう随分見慣れた女性の姿が出迎えた。
「あれ、まだいたの? 神崎君」
Bクラスの担任であり保健医も担っている星乃宮が、フランクな態度で神崎に応対する。
「ええ、まあ。少し与太話を」
「さっき一緒に私を呼びに来てくれた子? えーっと、確か……」
「浅川です。浅川恭介ですよ」
「ああ、そうそう」一か月程度ではさすがに学年全員の名前と顔を一致させておくのは難しいようだ。平生から不真面目さを晒している彼女なら尚更覚えようとしないのだろう。
ついさっき言葉を交わした「彼」の名を告げると、どういうわけか彼女はむつかしい表情で悩む仕草を見せる。
「へー、浅川君ねぇ。ふーん……」
「何か気になることでも?」
「いやね、この前のことなんだけど――確か彼、サエちゃんから呼び出しくらってたでしょう?」
サエちゃん、というのは浅川の所属するDクラスの担任、茶柱佐枝のことだろうか。以前日本史の授業を受けたことがあるが、寡黙であまり社交的な印象は受けなかった。傍から見れば星乃宮の方が人気を集めそうだが、元々会話が得意ではない彼からすれば、どちらも接しやすさという観点ではどっこいどっこいに感じられる。
茶柱が浅川を呼び出したという件に関しては、よく覚えている。何せ校内アナウンスだったのだ。記憶が正しければ、確か『綾小路』という少年も一緒に呼ばれていたはずだ。
「それがどうかしたんですか?」
「あの時は上手くはぐらかされちゃったけど、何かあるんじゃないかなあって」
中身のない表現に首を傾げる。その「何か」の部分が重要であるというのに、教えてくれるつもりはないのだろうか。
疑問に思いながらも、妥当な意見を伝える。
「生活指導の一環では?」
「えー、まだ五月なのに? 何だかなあ」
確かに入学したばかりの高校生に早速生活指導というのもおかしな話だが、進学校という側面のあるここにおいて、将来に展望を持ち合わせていない生徒なら手厚く心配されても無理はないように思える。
浅川の背景について詳しく知っているわけでもないので何とでも言えるが、顔見知りに過ぎない神崎からすればそれが考え得る精々だった。
別に大した答えを望んではいなかったのだろう。彼の言葉に適当な相槌を打ち、星乃宮は話を切り替えた。
「まあいっか。それで、結局君は何用で来たの?」
「それは――」
彼は言葉に詰まり、星乃宮の右手側――カーテンで遮られたベッドの方を見る。
曇った表情に、彼女は呆れたように溜息を吐いた。
「
「……そうですか」
無論、神崎と同じBクラスの生徒である。浅川が発見した「泣いている少女」とは彼女のことだった。
「本当に心配性だね、神崎君は」
「……先生の方こそ、冷たいこと言わないでください。最近俺たちがどんな目に遭っているか、知らないわけではないでしょう?」
「それはそうだけどねぇ……」肩を竦める星乃宮だが、彼の怒気まで滲んだような表情を見て同情するあたり、思うところはあるようだ。
Sシステムの真実が明らかとなった五月一日。その翌日頃から、度々Bクラスの生徒がトラブルに巻き込まれるようになった。
被害にあった生徒の証言によると、相手は全てCクラス。意図的なものであることは疑う余地もない。
モラルを重んじ人徳を具えている彼が、それに対して決して小さくない苛立ちを抱くのも当然のことだった。
「話はできますか?」
「ひとしきり泣いた後だからね。本人さえ良ければ、問題ないよ」
浅川と、途中から会話に参加したCクラスの生徒――椎名と三人でやり取りを始めた頃には扉越しの嗚咽が止んでいたことに気付いていたので、あくまで形式的な確認を取った。
椎名、と言うと、彼女の存在は初対面ながら珍しく映ったものだ。
浅川も言っていたが、彼女からは全くと言っていい程敵対心や悪意が感じられなかった。かなり親し気だったので、恐らく二人は本当に今まで穏やかに仲良くやってきたのだろう。実際に話してみても、Bクラスのメンバーに引けを取らない誠実さが窺えた。
『暴力的』という噂が独り歩きして初めはCクラス全体に憤怒を向けていたが、もしかしたら一枚岩というわけでもないのかもしれない。神崎は相手のクラスへの認識をほんの少しだけ改めることにした。
とは言え、今まで起こった悪行が消えるわけではない。今回も勿論、咎められるべき事例の一つだ。
拭えない静かな怒りを抑えながら、彼はカーテン越しに「入るぞ」と呼び掛け、返事を受けてからゆっくりと開けた。
「具合はどうだ?」
「えっと、大丈夫、です……」
白波はやや俯きがちに応答する。
確か彼女は異性が苦手だ。いくら神崎が人格者とて、早々肩から緊張は抜けないだろう。
ただ、同性ともなれば話は別らしい。クラスで『委員長』として皆を引っ張る
「そうか。……あー、落ち着いて早々悪いんだが――」
「…………」
「……安心してくれ。もうじき一之瀬も到着する」
こういう時、どういう気遣いを施すのが正解なのか。全く慣れる見込みがないのが、我ながら非常に残念なことである。
気休めになるかはわからないが、彼女が最も信を置いているであろう一之瀬の名前を挙げ、どうにか気を鎮めてもらう。
「ゆっくりでいい。何があったか、聞かせてくれないか?」
「……はい」
急かすつもりがないことは察してくれたようで、一つ深呼吸をしてから白波は口を開いた。
「部活が終わって、帰る途中でした。そしたら、向かいから三人組の女子が歩いてきて、すれ違いざまに呼び止められたんです」
話しぶりからして、やはり面識のある相手ではなかったようだ。となると、白波を呼び止めたのは完全に向こうの特殊な事情――つまりは、
「……傷つけるため、か」
浮かない表情のまま、白波はコクリと頷く。
「一体、どんなことを?」
「それは……うぅ……」
当時の状況を思い出してしまったのだろう。感情が再度湧き起こり、彼女の口から嗚咽が漏れる。
むせびを何とか堪え、彼女は説明を再開した。
「一之瀬さんのことを、バカにしたんです。仲良しごっこしたいだけの偽善者だとか、頭の中がお花畑だとか……最初は何度か言い返したんですけど、途中から囲んで悪口言われたり、どつかれたりもして、私、悔しくて……」
質が悪い。
真っ先に浮かんだ感想だ。白波のようなあまり自己肯定感の高くない人間は、敬愛する人間を貶されることを自分自身が悪く言われること以上に嫌う。先程も述べたが、白波はクラス内でも特に一之瀬に対する距離が近い。普段内気な彼女にとって一之瀬の悪口は一層許せないものだったに違いない。
しかし、神崎の思考はそこで途切れなかった。
「……他は?」
「ほ、他……?」
「あっ……す、すまない。ただ、とても重要なことなんだ。頼む」
話を急ぎ過ぎてしまったようだ。詰め寄る態度に目を潤ませた彼女に弁明する。
が、嘘というわけでもない。考察を進める上で、彼にとって確かに重要な問いかけなのだ。
「…………他は、特になかったです」
「容姿や細かい人間関係については、何も言われなかったんだな?」
「……はい」
確認を終え、神崎は顎に手を当てて考える。
今の問答でわかったのは、恐らく相手――今回もCクラスと見て間違いないはずだ――は極論
これまでの証言でもそうだった。痕の残らないような接触はともかくそれに伴って行われる悪口は、どれも「中身がない」。廊下から窺い知れる程度の教室の雰囲気に纏わるものばかりだ。
一之瀬の名前は生徒会の件でも噂になっているだけあって、クラスの内情を把握しているには値しない。それもあって、Bクラスをターゲットにするのが意図だと捉えてしまうとどうも辻褄が合わないのだ。
ならば目的は一体何のかというのも、それを逆に考えてみれば推測できる。要は、上っ面の悪口でも十分事足りるのだ。
わかりやすく言い換えると、
これで浅川が安直に導き出した逆恨みという線はほぼ潰えた。しかし、どうせなら彼の予想通りであって欲しかった、というのが正直な意見だ。
簡単な話、余計に気味悪く感じてしまう。
いくら暴力的といっても(自分とは相反する倫理観故に理解できないのかもしれないが)、暴力自体を目的に突っかかる生徒などいるのだろうか。まして本当にいるのだとしたら、それこそもっと過激なものになるはずだ。
何かしらの思惑があってそうしているが、正体だけがわからない。この燻ぶりの増していく疑問が、何とももどかしい。
いずれにせよ、碌でもない計画に巻き込まれているクラスメイトが不憫でならないという事実は根幹に残っている。その時点で看過できることではないし、これからも厳重に注意しなければならない。
随分と捻りのない対策かもしれないが、現段階ではそれが精一杯だ。して、その旗振り役を買って出てくれる存在は、やはり――
「千尋ちゃん!」
と、時機良く脳裏に過った姿が目の前に現れた。
普段は快活な、しかし今は少し焦燥の感じ取れる声を聞き、次の瞬間白波は喜色を浮かべた。
「一之瀬さん!」
「千尋ちゃん、大丈夫? どこか怪我は……」
「ううん、平気だよ。心配してくれてありがとう」
「当然だよ。寧ろ肝心な時に一緒にいてあげられなくて、ごめんね……」
「そ、そんなことないよ。こうやって来てくれただけでも、凄く嬉しい」
クラスのリーダーにして信頼に足る人物のご登場に、彼女は先よりもあからさまに明るい声に変わる。
……なるほど、これが正解だったのか。
自分の足りない配慮を今まさにそのまま証明してもらった気分だった。他人行儀な挨拶を一言交わしすぐさま本題に入ろうとした自分とは雲泥の差だ。
白波の性格を考慮すれば、神崎が一之瀬と同じアクションをしたところで効果は薄いものかもしれないが、これから友人を励ましたり慰めたりする機会があれば彼女のアプローチの仕方は大いに参考になる。処世術の一端として弁えておくことにした。
「神崎君、何か事情を聞いていたりする?」
すると、会話を一段落つけた一之瀬が自分に事実確認を求めてきた。恐らく白波をそこはかとなく気遣っているのと、状況から既に神崎が証言を取っていることを察したからであろう。
彼はついさっき聞き遂げた情報と、それを基にした考察を簡潔に伝えた。
「……そっか。懲りないね、Cクラスも」
浮かない表情からは、神崎と同じCクラスへの敵意と仲間の心情を憂う気持ちが読み取れた。彼と比べると、若干後者の方に偏りが窺える。
「やつらは何らかの明確な目的があってそうしているように思える。一之瀬、お前は何か考えつくことはないか?」
「うーん――手がかりがあるわけでもないから、難しいところだね」
情報統制、なのだろうか。向こうがこちらの詳細を把握できていないのと同様、Cクラスの実情はあまり定かではない。
ただ、裏を返せばそれだけ迅速な行動かつ全体で一貫した行動を取っているということ。それは一連の動きを取り纏める統率者がいるということと同意義で、単に無法者の集いではないという裏付けになる。なるほど、やはり一筋縄ではいかないものが潜んでいるらしい。
そこまでは神崎自身もおよそ理解できていることだ。一之瀬は別の角度から見解を語る。
「でも、Bクラスを狙ったことに意味を見出すなら、わかることもある」
神崎が思考の始点として切り捨てた「Bクラスを
「私たちが平和主義なのは既に知られている。多少のイタズラ程度じゃ無理に訴えられることはないないだろうと踏んで、的を絞ったんじゃないかな」
「狙いやすかった、ということか」
「多分ね」神妙な面持ちのまま、彼女は頷く。
憶測の域を出ないとしても、現に手を出したり事を荒立てたりしたら相手の思うツボだということで忍耐という手段を取っているため、その意見には説得力があった。
しかし、素直に同意できない部分はある。
「それだけでBクラス一点に狙いを定めるものか? Aクラスはともかく、Dクラスには付け入る隙があると考えても何ら可笑しいことではないと思うが」
あまり他人を下に見る発言はしたくないものだが、名目上BクラスはCクラスより「格上」、一方のDクラスはやつらにとって「格下」である。今月のクラスポイントが0だったことから授業態度や生活態度などが根本的に悪かったと考えるのは容易であるため、そんな「ボンクラ集団」を差し置いてBクラスがターゲッティングされるのは、少々合点がいかなかった。
彼の疑問は想定済みだったのか、一之瀬は淀みなく答えた。
「
「逆?」
「Dクラスはそれほどまでに向こう見ずな人たちだって判断したから、手を出すわけにはいかなかったんだよ」
それを聞いて真っ先に浮かんだのが、『須藤』という名の生徒の良くない噂だった。
学校初日からクラスのムードを壊した。学年問わず喧嘩を売る。敷地内の施設でも大人に対して失礼な態度を取る。――挙げればキリがないほど、彼の素行は悪いらしい。
本人を観察したことはないため耳寄りな情報のみだが、五月を迎えた今Dクラスの落ちこぼれ具合を認めるには十分な要素だ。
そんな連中がちょっかいを出されたら、穏便の「お」の字も過ることはないだろう。
つまり、お構いなしに学校側へ訴えようとするわけだ。
今までのCクラスの悪事はどれも物理的な被害は出ていない。安直に理由を推測するなら、それは向こうも
Cクラスからすれば、Dクラスの欠陥品故の不確定要素は計画の邪魔に成り得るのかもしれない。
「……なまじお人好しなのが、災いしたのか」
「もし私たちが強硬策にでも出ていたものなら、ここまで長引いてはいなかったかもしれないね……」
「いや、そうとは限らないさ。もうじき中間テストだ。今揉め事を肥大化させれば、皆の集中力が削られるかもしれない。それにCクラスだって、いつまでもこんなことをしてはいられないはずだ。退学が懸かっているんだからな」
そう、条件は同じ。こちらへ攻撃することに夢中になってクラスから退学者を出すなど本末転倒。粘っていればさすがに身を引いてくれるだろうという期待が、神崎にはあった。
「でも、今まで被害を受けた人たちの傷は、しばらく残るよ……」
彼の意見は認めるも、一之瀬の愁眉が開くことはない。それは偏に彼女の善良な性格からくるものだが、残念ながらこの場においてその憂いの意味は薄い。
「……過ぎたことはどうしようもない。時間が解決してくれるものもある」
「……そう、かもね」
自分の感情が現状に何の意味も持たないことは、重々承知しているはずだ。クラスのムードメーカーでもある一之瀬と理性的な神崎、二人が早くもクラスの代表的立ち位置となっているのは、双方の性格のバランス故でもある。
「Aクラスだけが特権を得る、玉座の争奪戦。それがこんな惨状を巻き起こすなんて、困ったなぁ」
「Sシステムなんてきな臭い単語が出てきた時点で疑わしかったが、混乱する生徒も多いだろうな」
二人は飲み込みが早く適応力もあるためこうしていられるが、今までとは一変した生活を送らされるとわかり落胆したり憤慨したりする生徒も決して少なくない。Bクラスでさえ何人も度肝を抜かれた顔をしていたのだ。DクラスやCクラスはさぞ大騒ぎだったに違いない。
そう思ったところで、神崎の中で二人の姿が浮かんだ。
「クラスというと、そういえば学校はどういう基準で生徒を振り分けているんだろうな」
「え? それは、単純に考えれば学力とかじゃないのかな」
確かに試験内容は学力測定と面接のみだったので、そう捉えるのが普通だ。
しかし、引っ掛かったのは先刻会話した浅川と椎名の存在。
浅川は間の抜けたポンコツといった印象であったが、椎名からは隠し切れない知的さが感じられ、その落ち着き払った態度は愚鈍とはまるで異なっていた。そんな彼女が好んで一緒にいるのだから、恐らく浅川にも見た目とは裏腹な優秀さが潜んでいるのだろう。
更に、Bクラス内には以前行われた小テストで高得点を取っている生徒もいる。試験本番で力を出せなかった可能性を鑑みても、逆に点数の芳しくなかったメンバーとの差が激しいことが気がかりだ。
そこから察するに、
「……総合力、なのかもしれないな」
「総合力?」
「運動神経とか社交性とか、そういったものも評価の対象だと考えれば、日頃の態度がクラスポイントに影響することやCクラスの生徒がこぞって暴力的であることも合点がいく」
大方、椎名の場合は運動があまりできないのだろう。振り返ってみると、図書館からここに来た際に僅かに疲弊していたような気もする。
Bクラスで学力の高い生徒の中でも、コミュニケーションが苦手で消極的な者が多々いる。神崎もその一人だった。
ただ、そうなると解せないことが一つ――いや、二つある。
神崎は、バレない程度に一之瀬の方を盗み見る。
彼女は彼と違いコミュニケーション能力は抜群で、学力も申し分ない。運動の程はわからないがAクラスに抜擢されてもおかしくない人材だ。
更には、Dクラスの聖人として学年でも知られている平田や櫛田についても評価が不相応に思える。
疑問が過った神崎だが、すぐにある答えを見出す。
クラス対抗戦ということは、BからDの全てのクラスにも「平等」にAクラスへ上がる可能性があって然るべきだ。
ならば、最低限のつり合いが取れるように一つ下位に配属されている優等生も、一定数存在しているのかもしれない。
彼の思考はそこで止まることとなったが、それでは『下位に配属された生徒が不憫である」という矛盾に気付けなかったのは、一之瀬を信頼するあまりの隙だろうか。
彼は、
そして当然――
しかし、その答えを垣間見る機会は今後あり得る。なぜなら彼には保留となっている事項があるからだ。
「うーん、私は櫛田さん以外に他クラスで頻繁に話す人はあまりいないから、何とも言えないかな。もしかして、神崎君は何か心当たりがあるの?」
「……それについてなんだが、少し確認を取りたいことがあるんだ」
神崎は、浅川に提案されていたことをそのまま一之瀬に伝える。
クラスが異なるという事実が想定以上の壁を孕んでいることが発覚したばかりで、大なり小なりピリピリしている生徒は多い。そんな中で別の二クラス――まして片割れはあのCクラスだ――と交流を重ねるともなれば、念のためリーダーを張っている一之瀬に理解してもらっておいた方が好ましいだろう。
暫し思案顔をしていた彼女であったが、やがて柔和な表情で口を開いた。
「――神崎君はどう思ってるの?」
「俺がか?」
「うん。神崎君から見て、二人はどんな風に見えた?」
唐突な問いかけだった。
自分が例の二人と出会ってからはまだ一時間すら経過していない。それを察していないわけでもないはずだが、どういう意図があるのだろう。
訝し気に思いながらも、どうにか答える。
「……悪いやつには、見えなかったな」
「なら良し! 全然行っていいよ」
あまりな即答ぶりに動揺する。
それは差し詰め、訳のわからない文字列の翻訳を頼まれ「わかりません」と答えたらそれが正解だった時のような感覚。
神崎は肩透かしを食らい、帰って来たはずの答えをもう一度尋ねる。
「えっと、本当にいいんだな?」
「勿論。君が信じられる相手なら、きっと大丈夫だと思うから」
過剰な信頼にも聞こえるが、それも仕方のないことだ。
神崎は心境に関わらず、あまり他人への評価を口にしない。故にそんな彼が初対面の相手を「悪いやつではない」と見るのなら、少なくとも早々に悪巧みを実行する人間ではないのだろう。一之瀬はそう判断したのだ。
更に、理由はもう一つあった。
「それにね、ちょっと心配だったんだ」
「心配?」
「神崎君、あんまりBクラス以外の人と話しているところを見なかったからさ。少しでも交流を広げられるなら、その機会は逃さないで欲しいなって」
どうやら純粋な気遣い込みらしい。神崎は彼女のお人好しな一面に眉をㇵの字にして笑った。
確かに自分は他クラスとの関わりが極端に少ない。それは決してクラス抗争の性質が表面化したからではなく、彼の社交性の欠如が招いた必然だった。
周りのことがよく見えている一之瀬にとって、彼の粗末な状況は一目瞭然だったようだ。
「わかった。気ままに行かせてもらおう」
「にしても、その浅川君って人はなかなかに変わり者だね。今の時期に進んで他のクラスの子と関係を持とうとするなんて」
小首を傾げる一之瀬だが、神崎も同じ気持ちだった。
Cクラスのように策略として接触を試みた可能性も無論考えたが、椎名の存在がある時点で単に神崎もといBクラスを陥れる意図によるものとは判断し難い。となると、本当にただ「己の幸福」のためだけに自分を求めてきたのだろう。
部活動などでは比較的クラスの壁は薄いと聞くが、浅川が無所属であることは椎名が合流するまでの雑談の中で確認済みだ。
Sシステムによる重い隔たりをものともせず、ひたむきに平凡な高校生活を全うせんとする彼の姿勢には、僅かながら感心というか、どことなく羨ましく感じた。
「……アイツはきっと、根っからそういうやつなんだろうな」
「ほうほう。どうしてそうわかるの?」
そんな彼と自分がこれからどんな付き合いをしていくことになるか、期待半分、不安半分といったところが、成るようになるだろう。
「俺はアイツの、『他愛もない時間の共有者』だからだ」
彼がどういう人間なのか――信頼に値する人間なのか、それは自ずと見えてくるはずだ。
浅川と椎名を繋いだのが『本』なのだとしたら、彼と神崎の仲立ちとなったのは『悪意』と『悲劇』。まさしく哀しみの種から芽生えた
しかし、今はまだ奇天烈な味わいの実を宿す前座。
その開花の時を露にも予感していない神崎は、自分の交友関係が開拓された事実を、ただ小さく喜ぶのみだった。
どこまでやる?
-
船上試験&原作4.5巻分
-
体育祭(ここまでの構想は概ねできてる)
-
ペーパーシャッフル
-
クリスマス(原作7.5巻分)
-
混合合宿or一之瀬潰し
-
クラス内投票
-
選抜種目試験~一年生編完結