アンデルセンは笑っている   作:小千小掘

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さあ、2章tipsの一人称視点担当はこの人です。今回は当人の物語での立場のおかげもあり、自分がtipsに託したかった役割を忠実にこなしてくれているような気がします。


Hearing Youngsters

 僕は本来、リーダーなんかには向いていない。今だってそう思っている。

 だからあの時、彼の言葉はじんわりと、何故か胸の中に沁みたんだ。

 

 

 

 僕の発案で行われた自己紹介。少しでも早く、たくさんのクラスメイトが仲良くなれたらと思っていたのだけど、なかなかどうして上手くいかない。何人かの生徒はくだらないと言って出て行ってしまった。難しいな……逸り過ぎた僕の浅慮だと反省する。

 そんな中、終盤に差し掛かったところで、彼は立ち上がった。

 

「浅川恭介です。あまり自信を持てるものがなくて少し人見知りなのですが、話すことは嫌いじゃないというか、むしろ好きな方なので気軽に話しかけてくれると嬉しいです。三年間よろしくお願いします」

 

 この時は正直、特にこれといった印象は持たなかった。確かに外見だけで言うと長い髪や小綺麗に整った顔は女子かと疑うものではあったけど、制服でおよそ男子だとわかるし、染髪している他の生徒に対して藍色の髪は大きく目立ちはしない。

 個性派だと薄々感じていたDクラスにおいて、良く言えば温厚で誠実そうで、悪く言えば地味な――ちょうど直後に自己紹介をした綾小路君も、無難な言葉選びを心掛けているようだった。

 少なくとも、「良識はある人たちなんだろうな」というのが、第一印象だったのかもしれない。

 

 それから最初の一週間は、色々あった。授業態度や生活態度の劣悪さに驚いたり、訳あって軽井沢さんとの交際が始まったりなど、とても中学時代とは似ても似つかない日々。単純に進学による変化というだけではなく、僕自身が変わろうとした結果に違いなかった。

 それによる弊害もあった。何人かの男子――主に自己紹介を渋った人たちだ――が、僕に対して軽い悪意を抱き始めたのだ。彼らがあまり良くない言動が目立つのもあって、僕が女子から一定の人気を集めてしまったことによる妬みが原因らしい。

 当然、そんなつもりはなかったのに……。

 ただ、それでも前よりはマシだ。精々僕が我慢すれば終わるだけの話。暴力で物を言わせるわけでもなく、根深いイジメも起こらない。多少グループ間の牽制があったとしても、完全に一同が平等に受け入れられる輪を作ることは不可能に近いことくらいは感受している。そういう意味では今のところ、それほど悪い状況とは感じなかった。

 ……まあ、態度は本当に直して欲しいけど。

 そして、僕がその傍ら気にしていたのは、東南の角に座る三人だった。

 堀北鈴音さん。自己紹介に参加しなかったのは勿論、それ以来誰とも関わる姿勢を見せない少女だ。同性にさえ心を開かず、あまつさえ突っぱねるような態度は、難しい問題に感じていた。現に早くも学年随一の人気を誇ろうとしている櫛田さんからの対話にも、一切取り合おうとしない。

 ただ、そんな彼女にも、徐々に会話が増えてきた相手がいた。それが浅川君と綾小路君の二人だ。

 遠目からの意見で正確性はないけれど、三人の関わりに一番積極的なのが浅川君だ。彼の中性的な容姿と声音、穏やかな態度は、相手に親しみを持たせやすい。それでいて他人との交流を大事にする彼は、きっと仲の深い友人関係が多くなるのだろう。

 綾小路君は、正直最初は人との関わりが得意ではないと思っていた。……少し違うな、消極的だと思っていた。本当の初めの時は他人に対してしどろもどろな部分もあるように見えたけど、浅川君と堀北さんとの交流をきっかけに友達作りに果敢に励み始めた。

 席が近いから、というだけでは説明の付かないような雰囲気が、三人にはあった。きっとあの二人じゃなかったら、堀北さんは孤独を貫き通していたように思う。

 話術に長けているのだろうか。でもそしたら、もっと多くの生徒と交流していてもおかしくないはず――。

 一体何が、三人を良好な関係たらしめているのか。いずれにせよ、浅川君と綾小路君には感謝しなければならない。堀北さんの孤立具合には、他の女子も悩ましげに思っていたり、悪い印象を持ったりする人がいたから。最近話に出た時なんかは、恋話に強い関心を抱いている子が「どっちを選ぶんだろう」と嬉々として口にしていた。

 堀北さん自身はどう思うかわからないけど……僕にはとてもできなかったであろうことをやってくれた二人には、密かに感心した。今日も仲良く、堀北さんのコンパスに翻弄される少年二人という戯れが、微笑ましい。

 それぞれ、等身大の姿で波長が合っているような――『理想』の関係に見える。周りの生徒以上に三人の様子が記憶の縁に引っ掛かったのは、そういう理由なのかもしれない。

 ……最初は僕にもあったのに、失ってしまったものだから。

 

 

 

 今日は初めて水泳の授業があった。あまりに多くの女子生徒が見学するものだから、さすがに何かあったのだとすぐに察した。

 

「男子が女子の胸の大きさで賭けをしてたんだって。ホントキモいよね」

 

 軽井沢さんに聞いたところ、サラッととんでもない情報が飛び出した。

 僕と軽井沢さんはその時席を外していたため遭遇していなかったのだが、池君と山内君、それから外村君が主導でオッズ表まで用意されていたのだとか。

 ……僕はもしかして、気安く教室を出る油断も許されないのだろうか。

 

「止めてあげられたら良かったんだけど……」

「ううん、一応ほとんど解散してたらしいよ」

「え、どうして?」

「やめたい人はやめた方がいいって誰かが言ったんだって。確か……浅川、君と綾小路君……? だったっけ。日和見な目立たないやつだと思ってたから、ちょっと見直しちゃった」

 

 僕も意外に感じた。これまでクラスに馴染めず堀北さんとのやり取りばかりだったはずの二人が、そのような勇断に走るだなんて。何だか、少し嬉しかった。

 同時に、二人がどんな人となりで、どんなことを考えているのか少し知りたくなった。誰かに手を差し伸べるという行為には、善悪問わず事情ある。人の役に立ちたいとか、見過ごすことに抵抗があるとか、ただモテたいだけとか――二人には、一体どんな心境の変化があったのだろう。将又、僕が全く理解できていない意志が元々あって、それが今回顕現しただけなのだろうか。

 この時初めて、僕は二人に対して明確な興味を持った。

 

 しかし、五月に入りその身勝手な好感に翳りが生じることになる。

 突如突きつけられたSシステムの実態。茶柱先生には相当な辛口評価を賜ったけど、彼女の正論には為す術もなかった。そして、ダメ押しとして掲示された抜き打ち小テストの点数表には、

 

『浅川恭介:0点』

 

 一番下の名前を見て目を剥いた。い、いや、確かに人は見かけによらないけども……さすがに想定外が過ぎる。

 ただ、すぐに別の考えが及んだ。曲がりなりにも――クラスの雰囲気を見ると忘れそうになるが――ここは進学校だ。担任に底辺と貶されるクラスとはいえ、あのテストに正々堂々取り組んで一問も正解できない人がいるとはとても思えなかった。

 何か、学力不足以外の理由があるのではないか?

 クラス会議の出席催促のついでにそれを確かめようとしたのだが、時機悪く浅川君は綾小路君を連れて用を足しに行っているらしい。堀北さんが無愛想に教えてくれた。

 

「堀北さんも、放課後の話し合いに参加してもらえないかな? 綾小路君と浅川君も」

「……嫌」

「え?」

「嫌、と言ったのよ。意味を感じないわ」

 

 予想していなかったわけではない。自己紹介も渋ってしまう人だ。ある種賑やかになりそうな場に、彼女が乗り気とは思えなかった。

 しかし、それだけではないらしい。

 

「周りを見てみなさい。今の状態で、本当にこの後マトモな会議ができるとでも思っているの?」

「それは……」

「一日でいい、頭を冷やす時間を与えるべきだわ。最も、それで足りない頭が絞れるようになるとは思えないけどね」

 

 酷くぶっきらぼうで刺々しい言い方だけど、的は射ている。ちゃんと周囲に目を配っている人の発言だった。単に周囲と隔絶しているだけというわけではないのかもしれない。

 

「確かに、堀北さんの言う通りだ。話し合いは明日に回すことにするよ。アドバイスありがとう」

「率直な意見を述べただけよ」

「だからこそさ。じゃあ明日――」

「お断りよ」

「え?」

「さっきも言ったわ、そもそも意味を感じていないの。既に理解していることをあたかも珠玉の言葉のように再三語られたら、あなただってうんざりするでしょう?」

 

 どうやらかなり期待されていないらしい。他のクラスメイト以上のことが現時点で推測できていると仄めかしているようにも聞こえる。

 無理に連れ出すわけにはいかない。残念だけど、引き下がるのが吉か。

 

「……わかった。ごめんね」

「……代わりと言っては何だけど、情報共有くらいはしてあげるわ」

 

 気分を落としたことを察されてしまったのだろうか。バツを悪そうにしながら、堀北さんは言う。普段は他人を突き放す傾向がある彼女にしては、意外な姿だ。

 それから教えてもらったのは、堀北さんと綾小路君は五月以前はおろか入学後すぐにSシステムの実態のほとんどを看破していたこと、クラス一人ひとりが自分の行動の責任を重く受け止められるよう敢えて伝達しなかったこと、そしてこれから何が起こり得るのかということだった。

 僕もこの学校に来て早々の待遇には驚き以上の猜疑心を抱いていたけれど、その先まで考えることはできなかった。問題を問題のまま放置してしまっていたのだ。

 極め付きには今後の展望まで推察が回っていた。諸恩恵がAクラスのみというのなら、その玉座に座る権利は全クラス平等になければならない。つまりDクラスにもAクラスへ上がるチャンスが与えられるよう何らかの催しが予定されているはずだと。その直近がこれから始まる中間テストと見て間違いないということまで、丁寧に説明してくれた。

 もはや疑いようがない。浅川君については不明なものの、二人はDクラスで最上位の頭の回転率を誇る。もし僕の手に負えないような案件があれば、頼ることを惜しむ意味がないほどだろう。堀北さんは渋ることも多いかもしれないが、綾小路君にはある程度期待したい。

 

「私は、Aクラスを目指すつもりよ」

「Aクラス……堀北さんには何か、叶えたいことがあるのかい?」

「あなたには関係ないことよ。浅川君は少し事情があって積極的にはなれないけど、綾小路君は協力してくれる。――あなたはどうするつもりなの?」

「僕は……そうだね。上に行ける可能性があるのなら、昇ってみたいかな」

 

 堀北さんと全く同じ理屈ではないかもしらない。しかし、クラスの昇格はクラスポイントが上がることで実現することだ。各々の生活水準が上がるという意味で、他のクラスメイト共々価値を見出だせることだと思う。

 それよりも、

 

「堀北さんは本当に、二人のことを信頼しているんだね」

「はあ?」

 

 物凄く嫌な顔をされた。

 

「馬鹿なことを言わないでちょうだい」

「だって僕は、一度も二人の名前は出していないよ」

「聞かれたら面倒だから先に答えただけよ」

「聞かれるかもって思うくらい交流をしているってことだね」

「……あなた、案外意地悪ね」

 

 思わず笑ってしまった。視線の鋭利さが増す。

 

「別に、二人を友人だのとは思っていないわ」

「だとしても、二人は君のことを友達だと思っているはずだよ。心做しか、楽しそうだ」

「あくまで利用価値があると思っただけ。でなければ応じてやるものですか」

 

 拗ねたように目を閉じる堀北さん。しかし思い直したように再び口を開く。

 

「でも、そうね……強いて言うなら、関わらない方が面倒だったのよ」

「……?」

「……わからないならいいわ。話は終わりよ」

 

 イマイチ要領を得ないでいると、手で払われてしまった。

 うーん……折角なら。

 

「堀北さん、明日の話し合いには参加しなくていい。だけど今度、クラスのこれからの動きについて僕と話をして欲しい」

「……なるほど、そう来るのね」

 

 堀北さんは意味のない話し合いには応じないと言った。けど自分の野心たるクラス対抗戦のことを、僕個人と議論するのであれば、最低限意味を見出だせるはずだ。

 

「特に、喫緊の中間テストのことについてだね。堀北さんは小テストの点数も高かったから、尚更意見を聞かせて欲しいんだ」

 

 短い思案の後、返事が来た。

 

「……わかったわ、乗りましょう」

「良かった――」

「スケジュールの調整はあなたに合わせる」

「じゃあ3日の午後にしよう。場所はどうする?」

「煩わしい場所は御免蒙るわ。かと言って私の部屋は当然却下だし、あなたの部屋もよくないわね」

「え、別に打ち合わせ程度だからそれくらいは、」

「悩ましいわ……」

 

 恐らく僕と軽井沢さんの関係を察してのことだろうけど、雑談や娯楽を共有するわけでもない。しかも本当のところ、僕らはその程度のやり取りを気に留める必要がない間柄だ。堀北さんの部屋を避けるのは十分理解できるが、他に選択肢がないなら僕の部屋でも問題ない。

 すると、さも妙案が思いついたように彼女は言う。

 

「綾小路君の部屋にしましょう」

「あ、綾小路君――?」

「どうせ彼も暇でしょうし、私の手足となって動くのだから打ち合わせに来てもらえば万事解決よ」

 

 ちょっと待ってくれと口を挟みたくなる展開ぶりだ。どうせ暇だとか手足となるだとか、存外綾小路君も振り回されているのかもしれない。日頃は逆な印象だったのだけど。

 ただ、これは僕にとって美味しい名案だ。綾小路君と話すきっかけになる。周りの目がない空間なら尚更自然体で会話ができそうだ。

 

「堀北さんがそう言うなら、構わないよ」

 

 簡単に盲信するわけにもいかない。基本みんなのことは信じるつもりだけど、僕自身が個人的な依頼をするに至っては慎重でなくてはならない。

 自分のように、友人を見捨ててしまうようなやつがいるくらいだ。綾小路君も同じ人種なのか、それとは異なる人格なのか、少しでも知っておきたかった。

 

 そうして無事綾小路君との邂逅を果たしたわけだけど、簡潔な結果は、『予想通り見かけに寄らなかった』。

 初めて堀北さんとのやり取りを間近で見たが、互いに打ち解けあっているからこその揶揄の応酬は確かに微笑ましいもので、穏やかだった。

 思わず笑いが漏れてしまい、綾小路君に指摘される。僕は素直に思っていることを口にした。案の定堀北さんはムキになって反論し、綾小路君はどことなく嬉しそうな顔をする。表情に乏しい印象のある彼だから、寧ろわかりやすかった。

 ただ、クラスでぼちぼち話題にされていることは二人も――恐らく浅川君も――全く知らなかったようで、揃って呆気にとられていた。その様子も何だか面白可笑しい。

 関心を唆られたらしい綾小路君が、仔細を問う。

 

「差し支えなければ、どんな風に話題にされているのか教えてくれないか?」

「えっと、幼馴染なんじゃないかとか、腹違いの兄妹なんじゃないかとか、三角関係じゃないかとかまで言われているね」

「……飛躍しすぎじゃないか?」

「あはは、僕も全部鵜呑みにしてはいないよ。ただ、もしかしたら幼馴染くらいの仲ではあるんじゃないかとは思ってたんだ。君たちの反応を見るに、どうやらそれも違ってたみたいだけどね」

 

 苗字が違うのだ。最初のよそよそしい感じからして、さすがに入学前から関係を持っていたとは思っていない。

 しかし大事なのは、傍からはそう見られるほどの仲であるということだ。 

 

「はっきり言うと、友達の範囲に収まる関係に過ぎないぞ。対して目立っていたつもりもなかったが、どうしてそんな噂されることに……」

「ほら、うちのクラスは男女間の付き合いがあまり多くないだろう? だから、その中で君たち三人の様子は結構珍しく映ったんじゃないかな」

 

 本当のことだ。半ば僕にも一因はあるのかもしれないけれど……男女混合で明確に良好な関係を形成しているグループは0に近い。男子からの注目が熱い櫛田さんも、立場上の問題もあるのか特別親しげな異性はいないように見える。

 比較的クラスを見渡している僕からも、三人の関係は希少に感じていた。

 

「まあ、悪い風に見られていなかったなら良かったよ」

「僕らの年頃だと、女子はめっぽうそういう話を広げたがるからね。特に、堀北さんの周りを避けてしまう部分は最初気味悪がられていたようで心配だったんだけど、最近だと年相応の乙女心があるんだって親近感が湧いてきている子が多いみたいだ」

「…………それは……都合のいい勘違いだな」

 

 感情の起伏の見せない綾小路君が、俯きがちに肩を震わせる。堀北さんのこと、そんなに面白かったのかな。

 

「……与太話はもうたくさんよ。とっとと本題に入りましょう」

 

 わざとらしい咳払いの後、堀北さんは表情を引き締める。

 確かに本題を忘れてはならない。目下に迫る中間テストを乗り越えるのは必須条件だ。

 誰一人、退学者を出してはならない。仲間外れにしてはならない。

 僕がこの高校に来るのに、新たに誓った意志なのだから。

 そして、それを最後まで実現するために、きっと綾小路君たちの力は大きなものとなるはずだ。

 この短い会話でよりその確信が強まった。他愛もない話にほど、その人の性質が出る。

 強いて言えば、それが元来固有のものなのか、そうあろうと志しているからなのかはまだわからない。でも、それは些細な問題だ。

 少なくとも今の彼なら、依頼を望まれた形で解決することができる。その素質がある。

 何より、

 

「――どうしてオレたちと直接会って話す必要があったんだ?」

 

 賢い。あくまで勘だが、聡明とか狡智とか、あらゆる意味で賢いのだ。

 時が止まったような視線の交錯を経て、改めてそう判断する。

 

「それは――君と話すためだよ」

「オレと、話す……?」

「うん。折角協力関係になるんだ、少しでも君の人となりを知っておきたくてね」

 

 再び彼は、僕の意図を察してくれたようだ。

 

「……案外、人を信じない質なんだな」

「そんなことはないよ。疑っているから話すんじゃない。信じるために話すんだ」

「それは、同じなんじゃないのか?」

「ううん、違う。全然違うよ。僕は仲間を初めから疑って掛かるようなことはしない」

 

 そこを間違えてもらうわけにはいかない。僕らは仲間だ。信じてもらうにはまず信じることから始めるべきだ。こうして綾小路君に仄めかす言動を取っているのも、ある程度関心を持ってもらうため。こちらの本心に、善き応答をしてくれることを待つのみだ。

 

「マイナスを払拭したいのではなく、ゼロをプラスにしたい、ということか?」

「まあ、そんな感じかな。――そして、それだけの収穫はあった。君はきっと頼もしい仲間になってくれる」

「序盤の雑談くらいしかしなかったんだが……」

「それだけで十分だったってことさ。浅川君と堀北さんのことを話す君の表情を見ていれば、君が善い人だってことはよくわかった。堀北さんから予め聞いていた通りね」

 

 おっと、少し口が緩んじゃっかな。反射的に堀北さんの顔を見る綾小路君と動揺する堀北さんを見てそう思う。

 

「平田君、おかしな話を捏造しないで」

「おかしなことなんてないよ。人付き合いに奥手な堀北さんが日頃からあんなにも仲良く接している時点で、君が二人のことをよく思っているのは十分わかるから」

 

 ――口止めはされなかったんだから、許してね。

 弱ったように額を押さえる堀北さん。なるほど、綾小路君たちが何度コンパスと暴言に苛まれても揶揄うことをやめない理由が、ちょっとだけわかったような気がする。最も、二人が彼女をここまで丸く変えたのかもしれないけど。

 

「お互い頑張ろう。絶対にうちのクラスから退学者なんて出させないようにね。二人共、頼りにしているよ」

 

 定型文かもしれないけど、心底の感想を乗せて言葉を残した。

 ガチャリ、と扉の締まる音が響く。

 満足の行く結果に、弛緩と高揚が同時に渦巻く。

 堀北さんはすぐに腕の見せ所が訪れる。須藤君、池君、山内君を救うのは、悔しいけど今の僕には難しい。任せるしかないのが心苦しいけど、信じることにしよう。

 そして綾小路君は――これからが楽しみだ。もっと関わる機会があれば、是非逃さないようにしたい。

 ……さて、あとは一人か。

 二人と関わって、彼とは関わらないという選択肢はとっくになかった。そうでなくとも、万が一のことを考えると声を掛けるべきだろう。

 小テスト最下位の少年――浅川君にいつコンタクトを図るか。僕は既に、次の問題に意識を向けていた。

 




平田視点その1です。本当は候補がもう一人あって、どちらを2章、3章に割り振ろうか悩んだんですけど、この形に落ち着きました。

序章tipsでは原作主人公が担当したこともあり、物語のテーマに踏み込み過ぎていた気もしましたが、今回は物語の『補完』というポジションに収められたのかなと思っています。ただ、3章tipsではまた負担が肥大化してしまうかもしれません……本編に収められない情報が多くなりそうなので。

どこまでやる?

  • 船上試験&原作4.5巻分
  • 体育祭(ここまでの構想は概ねできてる)
  • ペーパーシャッフル
  • クリスマス(原作7.5巻分)
  • 混合合宿or一之瀬潰し
  • クラス内投票
  • 選抜種目試験~一年生編完結
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